『サリエル 11月14日』
| テーブルの上に並べられた御馳走は、カケルの好物ばかりだった。 それらの真ん中に、生クリームたっぷりのケーキがある。 ケーキの上に乗った蝋燭はカケルの年の数で、それらには既に火が灯り、祝いの宴の準備は万端となっていた。 一つのテーブルに椅子は4つ。 カケルの席と、養父と養母の席。 そしてもう1つ、そこには亡くなったオサムの写真が置かれていた。 嬉しいけれど少しだけ淋しい誕生日パーティーだ。 「誕生日おめでとうカケル」 「おめでとう」 養父母が笑顔で祝ってくれる。 実の親の元にいた時は、バースデーパーティーそのものがなかった。 この家に引き取られてからは、毎回ちゃんと祝ってもらっていたが、何故かいつも複雑な気持ちを抱えていた。 こうしたイベントに馴染めなかったというより、この家庭において自分だけが異邦人だという感覚が、どうしても拭えなかったからだろう。 そして今年、また誕生日を迎えている。 穏やかで暖かな雰囲気は、これまでのバースデーパーティーでは感じたことのない心地良さだった。 この数ヶ月の内に、家出したり『神の記述』に出会ったりと様々なことがあって、そのおかげで自分も養父母も何かが変わったのかもしれない。 「ありがとう」 養父母の笑顔が一層深くなる。 ふと気が付いた。 何も変わってなどいないのだと。 去年もその前の年も、それどころか自分が引き取られてからずっと、養父母はカケルの誕生日を同じように祝ってくれていたのだ。 あの事件をきっかけに変わったのは自分だけ。 変わることができて、それでようやく気が付いた。 いつだって、愛情に包まれていたというのに、どうしてその思いに気付けなかったのだろう。 「ありがとう。…母さん、父さん」 今はもう、あの奇妙な寂寥感は感じない。 |