『不動 11月28日』
| 聞いたところによると、あの悪名高い赤屍蔵人の誕生日は5日ほど前だったという。 別に調べたわけではない、本人がそう言ったのだ。 そのせいで、特に気にもしていなかった自分の誕生日というものを、思い出すはめになってしまった。 毎年必ず巡ってくる日だが、いつも忘れているのが常で、特別何かをしたということはない。 しかし、どうやら今年ばかりは『何もない』では済みそうになかった。 5日前に誕生日を迎えたらしい死神が、目の前に立っている。 「おめでとうございます」 言葉の意味とは裏腹に、まるで臨終の瞬間を告げる医者のような口調でそう言う赤屍は、その手にあまりにも不似合いな物体を持っていた。 ピンクを基調に、可憐にラッピングされたケーキの箱である。 どこから見ても気味の悪い光景だ。 誰の眼にも触れない場所なのがせめてもの救いだろう。 もしこの光景を目にする者が他にいたなら、その異様さに卒倒するかもしれない。 「プレゼントです」 「……」 赤屍の心の篭っていそうにもない贈り物に、不動は無言で応じた。 嬉しいと思えるはずは勿論なく、しかし不思議と怒りが湧いてくるというわけでもない。 不動の無言は、呆れ果てているといった類のものだった。 「受け取ってください」 「…しょうがねぇな」 忌々しげに箱に手を掛け、不動はそれを無造作に放り投げた。 手ぶらになった赤屍の体を難なく抱き上げ、奥の部屋へ向かう。 「望みどおり食い尽くしてやる、感謝しろ」 「ところで、『私』はプレゼントに含まれていないのですが」 「黙れ」 「まぁ、構いませんがね」 寝室の扉は閉じられた。 |