『赤屍さん』
| 運び屋としての仕事を終えて、赤屍は真っ直ぐホテルへと帰った。 程よく人を斬り刻めたことだし、それなりに満足のいく仕事だったといえるかもしれない。 戻ったホテルの部屋で、返り血の処理もしないまま窓辺に立つ。 眼下には浮かれた街の風景が広がっていた。 この寒空の下、通りを行く人々はどこか嬉しそうな顔をしながら先を急いでいる。 腕に大きな包みを抱えている者も少なくはない。 「クリスマス・イブ……なのでしたね」 運び屋紛いの者が増える日だ。 手にはクリスマスプレゼントやケーキを携え、家族や恋人を喜ばせるための言葉を考えながら、『一日限りの運び屋たち』は目的地へ向かう。 大切な誰かに想いを運ぶために。 暫く窓から街を見下ろし、赤屍はそこから離れた。 赤屍にとっては、縁のない世界だ。 故に、赤屍がその時思いついた事柄は、単なる気紛れでしかなかったに違いない。 携帯電話を手に取って、見慣れたナンバーに電話をかける。 すぐ出た相手に、赤屍はこう依頼した。 「仕事を依頼します。今から言う店に寄って、ワインを私のところまで運んでいただきたい。期限は本日中。銘柄はどれでも構いませんが、それなりに高いものを…ああ、店が薦めたものでいいですよ」 その後、適当に思いついた店の名前を指定し、赤屍は電話を切った。 いきなりの依頼だったにしては、ごねることもなく随分あっさりと承諾したものである。 もしかすると、相手はこれを予想していたのかもしれない。 赤屍は緩く笑うと、椅子に腰掛け運び屋がやってくるのを待つことにした。 1時間後、赤屍の指定したワインを片手に、ついでに何やら大き目の箱を所持して、ミスターノーブレーキが部屋を訪れた。 |