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『ヘヴン&卑弥呼』


「ああもうっ!! 一人っきりのクリスマス・イヴなんて最低!!」

天下の往来ということも忘れて、ヘヴンは叫んだ。

聖夜の繁華街、通りを見ても店を見ても、カップルかファミリーばかりである。

うら若い女が孤独に歩いているなど、どこを見渡しても自分一人だけだ。

せめて仕事中だったなら良かったのだが、予定が狂ってそれも駄目になってしまった。

わざわざデートのお誘いを蹴ってまで、仲介屋の仕事を優先させたのに、ドタキャンとは失礼な依頼人である。

本来なら、数多のハイレベルな男どもから誘いを受けて、その中から厳選した者と一夜を過ごすのがヘヴンの常だというのに、今回は散々だ。

「もう絶対引き受けてやんないんだから。あのジジイ〜っ!!」

「何を喚いてんのよ、恥ずかしい女ね」

「何ですってっ?」

勢い良く振り向くと、小柄な少女が呆れ顔でこっちを見ている。

「レディ・ポイズン…」

ヘヴンは素早く卑弥呼の周りに視線を走らせ、彼女が一人きりであることを確認した。

何のことはない、卑弥呼も淋しいクリスマス・イヴなのではないか。

少しだけ心に余裕が生まれる。

「あら、こんな日に一人なの? レディ・ポイズン」

「仕事が終わったところなのよ」

さらりと答えが返ってきて、心の中で舌打ちする。

仕事に生きると豪語するだけあって、卑弥呼にとってはクリスマスも平日も関係ないらしい。

「そういうあんたこそ、一人なの?」

「悪かったわね」

「へぇ、あんたを袖にする男がいるの?」

本気で意外そうな顔をして、卑弥呼がまじまじと見つめてきた。

そんなふうにされると、気に入らないような、そうでないような、くすぐったい気持ちになってくる。

ふと、ヘヴンは思いついたことを口にした。

「ねぇ、今日これから何か予定ある?」

「ないわよ。仕事は終わったし」

「じゃあ、あたしに付き合わない? 一人っきりよりマシだわ。奢るわよ。ケーキも食べちゃいましょ」

断られたらどう懐柔しようかと考えていたが、思いの外、相手の心を掴んだようだ。

「別にいいわよ」

「よし、決まりね。お薦めの店があるからそこへ行きましょう。カップルなんかより、すっごく楽しんでやるわ」



結果、二人は好きなだけ食べまくり、好きなだけ呑みまくり、好きなだけ愚痴を言いまくり、徹底的に大騒ぎした。

女だけのクリスマス・イヴというのも、中々悪くないかもしれない。

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