『銀ちゃん&蛮ちゃん』
| 「正月といったら、やっぱり行かないとな」 そういう蛮の提案で、二人は近所の神社へやってきた。 「くそっ。寒いじゃねぇか、畜生」 「人ごみの中なら、少しは暖かかっただろうね」 「いくら暖かくても、もみくちゃになりながらの初詣なんかまっぴらだぜ」 「俺はそれでも良かったかなぁ〜。まさに正月って感じで」 規模の大きな神社は混んでいるからということで、人気のない寂れた神社を選択したわけだが、その分風通しは非常に良かった。 人が全くいないわけではないのだが、人垣ができるほどではない。 客となる人間が少ないのだから、当然屋台などというものは影も形もなく、暖を取れるような場所はどこにもなかった。 石畳の上を、冷たい風が容赦なく通り過ぎていく。 「早くお参りして帰ろうよ、蛮ちゃん」 「そうだな。帰りにコンビニでおでんでも買おうぜ」 こんな状況ではテンションが下がるのも仕方のないことであった。 賽銭箱になけなしの小銭を投げ入れて、二人一緒に手を叩く。 頭を下げるタイミングも、下げた頭を上げて目を開けるまでの一連の行為も、計ったように同じだ。 どこまでも仲の良い二人組みである。 「何をお願いしたの、蛮ちゃん?」 「こういうのは言うと叶わなくなるだろ」 蛮にそう言われて、銀次がなるほどというように頷いた。 「へぇ、そうなんだ。じゃ、俺も言わない」 「どうせ、腹いっぱい焼肉が食いたいとかそんなんだろ」 「違うよ」 「じゃあ、何だよ」 つい詰問口調になった蛮に、銀次が少しだけ困ったような顔を見せた。 別に隠すようなことではないし、むしろ大声で叫んでしまってもいいくらいの願いなのだが、さっき蛮に教えられたばかりのことが頭を掠める。 ここでぺらぺら話してしまったら、願いが叶わなくなってしまうのではないだろうか。 それだけは困る。 あらぬ方を見たり蛮の顔を見つめたりと、少しだけ逡巡する素振りを見せた銀次は、ようやく上手い返事を思いついたのか、ぱっと明るい笑顔を見せた。 「俺の願いごとはね、多分…蛮ちゃんと同じこと」 来年もこうして二人でお参りできますように。 |