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『馬車さん&赤屍さん』


年をまたぐ夜だというのに、勤勉な者はいるものである。

大抵の日本人は、暖かい家の中で年末定番のテレビ番組でも見ながら、ソバなど啜って過ごしたことであろう。

しかし、そんなごく普通の生活など縁のない存在もいる。

とりあえず、この二人の人物はそんな存在に属するようであった。

「年越しの仕事になってしまいましたね」

年が変わる、まさにその瞬間にも人を斬っていた死神が、助手席でそう言った。

「依頼人の指定時刻には十分間に合う。問題ありゃあせん」

赤屍の呟きに対して、運転席から簡素な答えが返る。

馬車のぶっきらぼうな返事に、赤屍の口元が微かに変化した。

この男にしては珍しく、苦笑したらしい。

「たまには気の利いた台詞があっても良いのではありませんか?」

生来の無骨者である馬車に、そうしたことを求めるのは無理というものだ。

まだしも赤屍の方がましな言葉を思いつくだろう。

そう反論しかけたところに、赤屍が先制を打つかのように口を開いた。

「例えば――『この後、予定がないなら付き合え』、というのはどうです」

大して気の利いた台詞でもないだろうが、確かに先ほどの馬車の言葉よりかは愛想があるかもしれない。

暫しの沈黙が流れ、馬車が口を開いた頃には、空の東側が僅かに色を変え始めていた。



「…この仕事が終わったら付き合え。日の出に間に合えばの話だが」

「貴方なら、絶好のポイントをご存知でしょうね」

「過剰な期待は禁物ぜよ」

「喜んでお供させていただきますよ」

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