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『不動』


灰色に濁った空からは、その不気味な色に似つかわしくない、白い綿毛のような雪が降っている。

しかし、自然の情緒を欠片も感じない者にとっては鬱陶しいものでしかなく、不動琢磨という男はまさしくその部類に入る人間だった。

踊るように落ちてくる可憐な雪を、邪魔だと思いつつ通りを歩む。



雪の乱舞が激しさを増した頃、ふと左肩に僅かな重みを感じて、足を止めた。

肩に何かが乗っているというわけではない。

視線を自分の肩から徐々に下方へ向けると、重さの原因はすぐに分かった。

黒いコートを侵食するかのように、白い染みが広がっている。

左腕だけに。

「ちっ…」

軽く左腕を振ると、こびりついた雪はあっけなく落ちた。

いくら無限城の技術といえど、金属製の義手はいとも容易く冷えて、雪が融けずにそこへ留まってしまったのだ。

こうしている間にも、雪は後から後から落ちてくる。

右手に落ちかかる雪はすぐに融けてしまうのに、左手に受けたそれは形を変えることはない。

「所詮は機械か」

自分の意のままに操ることのできる義手でも、それはやはり完全に肉体の一部となることはないのだ。

戦闘機能さえ十分に備えていれば、それ以外のことはどうでもいいと思っていたが、生身の身体との相違に気付かされるとやはり不快なものを感じる。

形は左腕そのままでも、体温も感覚もなく、引きちぎられても腐ることはない。

「そういや、俺が死んでもこいつは残るわけだな」



そう呟いた瞬間の、義手を毟り取りたくなるほどの嫌悪感を今でも鮮明に覚えている。



「お前が死んでも左腕のギミックは蛆に食われずに残るんだろーな?」

MAKUBEXがお膳立てした空間で、目の前に立つ男が、青い瞳に残忍な色を浮かべながら憎まれ口を叩いた。

その一言で、それまでの戦いを目前とした昂揚感が一瞬で冷え、かつて感じたことのあるどうしようもない嫌悪感が蘇ってくる。

そして、嫌悪感は殺意と狂気へと変わった。



殺してやる――。

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