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『卑弥呼』


午後のお茶の時間は、誰にも邪魔されず一人きりでゆったり過ごすのがお気に入りだ。

誰かと向かい合わせで飲むコーヒーもいいが、自分だけの時間を楽しむのも、洒落た感覚だろう。

「あら、雪だわ」

手に持ったコーヒーカップをテーブルに置いて、卑弥呼は窓の外を見つめた。

「いつの間に降ってきたのかしら」

席を立って窓際に寄ってみる。

ここ数日は仕事が入っていないため、天気予報を確認するのを忘れていた。

雪自体はそれほど珍しいと感じない。

運び屋の仕事で全国を巡っているため、たまには豪雪地帯へ足を運ぶこともある。

だが、地球規模の温暖化現象が進んでいるからか、都心部に降る雪というのはあまり目にすることがない。

「雲の感じだと大雪になりそうね。積もるのかしら」

情報を求めて窓際を離れる。

今の時間帯だと、ちょうどテレビで気象情報を流している頃だ。

元の席に戻って、テレビのリモコンを手にする。

画面の中では、気象予報士が背後の天気図を指差していた。

『――発達した前線により、本日から週末にかけて大荒れの模様です。気温も平年を大幅に下回ります』

予報を信じるならば、どうやら東京でも雪が積もるらしい。

『では、北海道からの中継をご覧ください』

画面には、有名なスキー場が映し出された。

乙女の柔肌のように白い雪に覆われた大地に、僅かに霞んだ空。

その二つの間にある空間には、キラキラとした煌きが見えた。

まるで宝石のように輝きながら、空中を華麗に舞う。

「綺麗…」

しばし陶然としかけた卑弥呼の耳に、聞き覚えのある単語が滑り込んだ。

『ダイヤモンド・ダストです。この現象は気温の低下により空気中の水分が凍って――』



そんな名前の技を持つ、気障で軽薄で冷酷でホストみたいな男がいた。



そう気がついた瞬間、卑弥呼の眉間に皺が寄った。

白スーツを完璧に着こなした男の微笑が、頭の中で鮮明に甦る。

「前言撤回。綺麗なんかじゃないわ」

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