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『俊樹&筧姉弟』


3月3日は雛祭り、女の子の日だ。

そんな日に誕生日を迎えてしまう男は、少々微妙な気分を味わうことになるのである。

そして俊樹の誕生日はまさに3月3日であった。

子供の頃、誕生日のことで悪童どもに笑われたことがある。

すぐに鉄拳制裁をしたおかげで、それ以後は俊樹をからかう者などいなくなったが、その記憶は小さな棘のように心の奥に残り消えることがない。

その時から、俊樹は聞かれない限り自分の誕生日を人に教えないようになっていた。



新生VOLTSのメンバーとなって、初めての誕生日が巡ってきた。

無限城では雛祭りなど無縁だと思っていたが、VOLTS幹部の計らいで、甘酒が配られている。

VOLTS内では数少ない女の子に、雛あられを渡すというサービスまでしているらしい。

発案は朔羅で、MAKUBEXがすぐに許可を出した。

キッズグループとしては異例なくらい規律の厳しいVOLTSだが、こうした時は和気藹々としている。

それが結束の固さを生み出しているのだろう。

大きな鍋いっぱいに甘酒が作られ、それらを一人一人に配る朔羅の元には、男女問わずたくさんのメンバーが詰め掛けていた。

「一人では大変だ、手伝おう」

そう言って傍に立つと、オタマを片手に朔羅が微笑む。

「ありがとう、助かるわ」

「結構な量だな」

「VOLTSのメンバー以外の人にもあげたいわ。こんな時くらい殺伐とした思いは忘れて…」

少しだけ哀しい翳りを見せながらも、穏やかに笑う朔羅には、まるで母親のような暖かさが感じられた。



甘酒もあらかた配り終わって、鍋の底が見えてきた。

「そろそろ終わりね」

「片付けに入るか」

「待って、その前に渡す物があるの…はい」

朔羅がこっそりと手渡した物は、淡いブルーのリボンがついた小さな紙袋だった。

周囲からは見えないよう、鍋の影に隠すようにして差し出している。

囁くような声でこう言った。

「誕生日でしょう?」

「覚えていたのか」

誕生日の日付だけでなく、俊樹がそれを周囲に知られるのを嫌っているということまで、しっかりと覚えていてくれたようだ。

細やかな気遣いに、胸の奥が熱くなるような気がした。

「大したものではないのだけれど」

「いや、ありがたくいただく。…ありがとう」

朔羅からプレゼントを受け取りながら、無限城に戻ってきて本当に良かったと、しみじみ思う俊樹だった。

そこへ見回り組が帰ってきたらしく、周囲が急に騒がしくなった。

MAKUBEXへの報告を笑師に任せた十兵衛が、何かが入った紙袋を手に、つかつかと歩み寄ってくる。

十兵衛は唐突に紙袋を俊樹に押し付けると、大声でこう言った。

「雨流、誕生日だなっ!! めでたい!!」

「……」

紙袋の中身はタイヤキだった。



十兵衛の気配りのなさと、下らないギャグのせいで、誕生日がまた少しだけ嫌いになりそうな俊樹だった。

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