『銀ちゃん&蛮ちゃん』
| 「…歯が痛ぇ」 ある日、蛮がそう呟いた。 「えっ、蛮ちゃん虫歯っ?」 助手席でコンビニの安物ケーキにかぶりついていた銀次が、驚いて大きな目を見開いた。 「まさか、この俺様に限って…」 「ちゃんと歯磨きしなかったんでしょ〜?」 そう言いながら、銀次は生クリームばっちりのケーキをぱくついている。 そんな銀次に腹が立った。 蛮が苦しんでいるというのに、美味そうに甘い物を食うとは何事だ。 奪い取って食ってやりたい気分だが、今、甘い物などを口に入れたなら、歯の痛みが脳天を直撃するだろう。 悔しいことに、幸せそうな銀次の顔を睨み付けることしかできない。 「食べられないんだったら、蛮ちゃんの分ちょうだい」 銀次が無邪気に手を差し出す。 どこまでムカつく野郎だ。 悪気がまったくないのがタチが悪い。 「いいぜ、食えよ」 「ラッキー。ありがとう蛮ちゃんv」 タバスコでも仕込んでやりたいところだが、残念なことに嫌がらせをしようにも道具となるものが何もない。 蛮の複雑な心境など全く無視して、銀次は幸せそうにケーキを食べている。 それにしてもおかしい。 蛮と銀次は同じ生活をして、食生活もほぼ同じなはずだ。 それなのに何故、蛮だけが虫歯に悩まされることになるのか。 自慢じゃないが、歯磨きは欠かしたことがないというのに。 「何でオメーは虫歯にならねぇんだ。そんだけ甘いモン食ってんのによ」 「俺、雷帝化する度に治っちゃうからさ〜。食べ放題v」 「スネークバイトォォォ!!」 何も悪いことをしていないのに、理不尽にもケーキごと車から叩き出された銀次だった。 |