『赤屍さん&馬車さん』
| 赤屍から手渡された書類を見て、馬車は眩暈を覚えた。 きっちりとビジネス文書の形式にのっとったそれは、作成した人物の人柄をよく表しているようで一分の隙もない。 しかし、一見問題のないようなそれは、よく読めば問題だらけであった。 「依頼人への断りの文書ですが、何か問題でも?」 「大ありじゃ」 「参考までにどこがいけないのか、指摘していただけますか?」 涼しい顔をして聞いてくる赤屍に、どこから説明したものかと、馬車はますます頭を痛めた。 文書にはこうある。 『拝啓 薫風の候、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。 平素は格別のお引き立てを賜りまことにありがとうございます。 さて、まことに残念ではございますが、このたびの依頼はお引き受けいたしかねます』 とりあえず、ここまでは問題がない。 今は5月、時候の挨拶も完璧だ。 問題はその後に続く文章である。 『そもそも仕事の価値とはいかにその過程を楽しめるか、その一点に尽きるものです。 人を斬り刻んではならないなどという条件を附されては、話になりません。 せめて雑魚レベルでも10人ほどは欲しいところです。 それが依頼受諾の最低ラインといったところでしょうか。 もう少し勉強して出直してください』 途中からはビジネスと関係のない話に突入している。 内容的には非常に赤屍らしいのだが、紙面から血臭が漂ってきそうな文章はさすがにまずいだろう。 馬車は無言で赤ペンを取り出し、問題の部分をさっくりと削除した。 傍らから赤屍の溜息が聞こえる。 「私が一番主張したいのは、まさにその部分なのですが…ね」 「やかましい」 |