『不動&赤屍さん』
| 本日はあまり良い日ではない…に違いない。 酒が切れて、仕方なく出かけようと思って扉を開けたら、立ち塞がるように黒い影がそこにはあった。 不動に比べれば大分容積が少ないが、夜の闇に溶け込みそうなその影は、足を止めさせるに十分だ。 「本日は運び屋としてお伺いしました」 いつもの薄笑いだが、漂う空気はいくらか寒いものがある。 気紛れで有名な赤屍でも、『仕事』となればやはり向き合う姿勢が違うのだろうか。 無言で見下ろすと、目の前に四角い物体が差し出される。 「今日は父の日なのですよ」 「ああ?」 「小さなお嬢さんから、『パパへv』だそうですよ」 「エイプリルフールなら大分前に終わったぜ」 「…動じませんね」 つまらないと呟きつつ、赤屍は手にした箱をそのまま不動に押し付けた。 ケーキでも詰まっていそうな箱は、見た目よりも随分重い。 しかも、手にかかる重さは均一でなく、微妙に一箇所に偏っている。 何も知らない一般人ならともかく、こんな胡散臭いプレゼントをまともに受け取る人間など、裏社会にはいない。 「妙齢の女性数人による贈り物ですよ」 「開けるとここら一帯が吹き飛ぶわけか」 お粗末なプレゼントだ、これでは箱を開ける前に察知されてしまう。 裏社会の事情を知らぬ、女の浅知恵といったところか。 「心当たりがありすぎて、どうでもいいといった感じですね」 「食った女のことなんざ、いちいち覚えてねぇからな」 傲岸不遜な台詞を吐く不動に、赤屍が意味深な微笑を向ける。 「仮に貴方の血を引く子供がいたなら、面白いことになりそうですね。貴方がかのクロノスのようにならないことを祈っていますよ」 ギリシャ神話の神・クロノスは、父を殺し、また自らも息子殺されるという末路を辿った―-。 |