『銀ちゃん&蛮ちゃん』
| 常に貧乏なGBはその日もやはり貧乏だった。 カウンターでボーっとしている蛮と、盛大に腹の虫を鳴らしながら突っ伏している銀次に、波児が溜息をつく。 「やれやれ、お前達の貧乏神は強力だな」 「…蛮ちゃん、貧乏神が離れていく魔法とかないのかなぁ」 「そんな都合の良い魔法があったら、とっくに使ってら」 無限城の雷帝という華々しい肩書きを持っていても、当然のことながら貧乏神に通用しない。 そして、ウイッチクィーンと呼ばれた伝説の魔女の血を引いていても、やはり貧乏神を追い払う力はないらしい。 二人がぐったりとカウンターに突っ伏し、その様子に夏実とレナがくすりと微笑んだ時、店の扉が開かれて威勢の良い声が飛び込んできた。 「毎度〜っ、宅配便です。奪還屋さん宛の荷物はこちらでいいッスか?」 「俺達に?」 奪還屋は住所不定の家なしなので、たまにホンキー・トンクに郵送されてくることがある。 家主である波児からは文句を言われているのだが、GBとしては家を構えるまでどうしようもない。 波児の冷たい視線を何とか無視しつつ、蛮がそれを受け取った。 「こっ、これは…」 受け取った物にざっと目を通した蛮の顔が輝く。 送られてきたものは上品な包装紙に包まれ、伝票には大型百貨店のロゴと、『お中元』という文字が含まれていた。 「ふっ、誰だか知らねぇが、粋なことをするじゃねぇか」 「何、何? 誰から?」 蛮のただならぬ雰囲気に、銀次も興味津々で覗き込んでくる。 伝票には、贈り主の名前が書いていなかった。 「きっと以前俺達に世話になった奴が、心を込めて贈ってくれたんだぜ。気が利いてるよな」 「そっかぁ、誰だか分からないけど、いい人だなぁ〜。あの人かな、それともあの人かな」 「この百貨店の今年の目玉はな、厳選岩手県前沢牛、静岡うなぎ蒲焼、信州戸隠そば、本まぐろ冷しゃぶ詰合せ、北海道赤肉メロン、たらばがに・ずわいがに脚肉、伊賀乃國ハム・ソーセージ詰合せ、辛子めんたいこ、青森県小川原湖産やまとしじみ、但馬牛コロッケ…ああもう言い切れねぇっ!!」 蛮の言葉に、銀次の顔が満面の笑みになる。 「すごい、すごいよ蛮ちゃん!!」 「おいおい。誰からかも分からないのに安易に喜ぶな。中身が爆発物だったらどうする?」 波児の現実的な台詞も、期待に満ち満ちた二人の耳には聞こえない。 「よっしゃあ、開けるぞ、銀次!!」 「何かな、何かな〜っ。肉かな鰻かなマグロかなっ、カニかな〜?」 数秒後、戦いに敗れたかのように、地面に這いつくばるGBの姿があった。 箱の中身は、お徳用洗剤の詰め合わせだったのである。 |