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『赤屍さん』


梅雨のせいか、やけに蒸し暑い夜、とある場所で爆発事故が起きた。

半径10mほどを壊滅的なまでに吹き飛ばす爆発だったが、幸いにも現場は長い間使われていない廃ビルで、被害はないに等しかった。

せいぜい、通り掛かりの者や付近の住民が、爆音に驚いたくらいだろう。

警察や野次馬が群がる現場から、影のように立ち去る人物がいた。

「やれやれ、人騒がせな『お中元』ですねぇ」

今そこで爆発した物体は、数十分前まで赤屍の滞在するホテルの部屋にあったものだ。

何も知らない善良な運送業者がそれをホテルまで運び、何も知らない善良なホテルマンが部屋まで届けた。

贈り主は、運ばれた先のホテルの部屋とその住人が、木っ端微塵に吹き飛ぶ様を夢見たのであろう。

しかし、贈り主の夢は儚く消えた。

物騒なお中元は目的を達することなく、黒き運び屋の手によって再び運び出され、誰を巻き添えにすることなく空しい最期を遂げるに至ったのである。

歩み去る死神がふと足を止めた。

口元に穏やかな笑みが浮かぶ。

「そうそう。御礼状を送らなくてはいけません…ね」



数日後、裏社会ではそれなりに名の知れた組織のボスが、突然他界した。

血の海と化した自室で、無残にも細切れになっていた男の手には、お中元の礼状らしきハガキが握られていたという。

犯人はまだ捕まっていない。

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