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『チビ時代の花月&夜半』


その日、夜半は久し振りに風鳥院宗家の元を訪れた。

裏風鳥院の代表として宗家に挨拶に来たのである。

幼いながらも、既に裏風鳥院の宗主の座にある夜半には、こうした儀礼的な行事が少なくない。

今現在の風鳥院宗主は、夜半の存在を快くは思っておらず、こうして訪ねてきても会えるかどうかは疑問だ。

それでも行かないわけにはゆかない。

熨斗つきの贈り物を手に、夜半は宗家の広大な敷地を抜け、瀟洒な玄関に立った。

出迎えた奉公人に訪問の目的を告げて、暫し待つ。

数分後、玄関に現れたのはやはり宗主ではなかった。

「こんにちは」

紫陽花の模様を織り出した振袖を着て、次期宗主を約束された少年が顔を出す。

少女のように可憐な容姿と穏やかな微笑みは、周囲から惜しみない愛情を注がれているということを如実に表していた。

生まれたときから影を背負うかのような夜半とは、まさに正反対の存在と言っていい。

「父は今、手が離せないというので、僕が用件を承ります」

「ではこちらをお渡し願いたい。つまらないものですが…」

夜半が差し出した物を見て、花月がにっこりと笑った。

「つまらないものならいらない」

「……」

「つまるもの持ってきてv」

ちなみに、去年も同じことを言って、より高級なものに代えさせた。

本人には悪気がないかもしれないが、殺意を覚える一瞬だ。

言葉をそのまま受け取るとは、高級品を手にわざわざへりくだる日本人の美意識を理解していないのか。

「じゃあね」

悪戯っぽく笑って、花月は奥へ戻っていった。

誕生の時から数々の恐ろしい経歴で彩られた夜半に、こんな態度を取る者など他にはいない。

一人取り残されて、夜半が低い呟きを発する。

しかし、それは怒りの言葉でも恨み言でも愚痴でもなかった。



「そんな横暴なお前に、私は恋焦がれるんだ…」

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