『ヘヴン』
| 「うーん、今年はどうしようかしら〜」 自室のソファで寛ぎながら、ヘヴンはギフトカタログと睨めっこを続けていた。 お中元の季節である。 仲介屋という職業は信用第一、つまりどれだけ人との繋がりを持っているかが鍵となる。 奪還屋や運び屋は、仕事だけを完璧にこなせばそれでいいが、仲介屋はそうはいかない。 地味な日々の積み重ねが、依頼件数に直結するのだ。 それ故、たかがお中元といっても気は抜けない。 他の同業者を出し抜くためには、こうしたところでもちゃんと目立って、『仲介屋はすなわちヘヴン』というイメージを植えつけておかなければならないのだ。 だから、毎年この時期は悩みに悩みぬく。 「相手がビックリかつ喜ぶ物じゃなきゃダメよね。定番は食べ物だけど…」 お中元送付リストを眺めながら、溜息をつく。 肉や魚などは人によって好き嫌いがあるし、かといって海苔やサラダオイルでは今ひとつインパクトがない。 「季節のフルーツ盛り合わせかしらね。今年はメロンの出来がいいって話しだし」 とはいえ、それも誰もが考える贈り物に思える。 そんなことを考え出すと、あれもそれもダメに思えて一向に決まらない。 「あ、そうだ。銀ちゃんと蛮くんにも贈らなきゃ」 現実逃避をするかのように、あまり気の張らない相手への贈り物を先に考え始める。 カタログのページをめくるヘヴンの指は、先程とは打って変わって軽いものだった。 「よし、あの二人ならこれがいいわっ!!」 物色し始めて僅か3分、異常に楽しそうな笑顔をして、ヘヴンはカタログの商品コードを紙にメモし電話を手にした。 「よっしゃあ、開けるぞ、銀次!!」 「何かな、何かな〜っ。肉かな鰻かなマグロかなっ、カニかな〜?」 差出人不明のまま送られてきた、熨斗の付いた物体に、奪還屋の二人が期待の眼差しを向ける。 数秒後、戦いに敗れたかのように、地面に這いつくばるGBの姿があった。 箱の中身は、お徳用洗剤の詰め合わせだったのである。 |