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『ホンキー・トンク』


そろそろ閉店という時間帯になると、やってくるお客はほとんどいない。

入り浸っている奪還屋二人組のことは、客として換算していないので、今現在のお客はゼロである。

後片付けも済ませてしまい、やることといったらテレビで野球中継を見ることぐらいだ。

そこで、心優しい店長は、バイトの少女二人に穏やかな口調で語りかける。

「ここはもういいから、終業まで夏休みの宿題でもやるといいよ」

「はい、マスター」

「ありがとうございます」

素直に感謝の言葉を述べて、夏実とレナはカウンターの隅っこに移動し、教科書やノートを広げ始める。

始めのうちはお喋りをしていた二人だったが、数分後には真剣な顔をして勉強し始めた。

その様を見ながら、学生生活の経験のない二人が気楽なお喋りを始める。

「うわー。学生って感じだね。俺、学校って行ったことないからさ」

「学歴が全てってわけじゃなし、学校じゃなくても学ぶことはできるんだぜ」

「蛮ちゃんは頭いいからそれでいーんだろうけどさ」

「おう、俺様は天才だからな」

その一言を聞いた瞬間、レナと夏実が目を輝かせ、波児がやれやれといった顔をした。

「蛮さんっ!!」

ペンを放り投げて、学生二人が蛮に詰め寄る。

「分からない問題があるので教えて下さい」

「お願いします、天才の美堂先生っ。とりあえず、これっ!!」

ものすごい勢いで、蛮の前に二冊の問題集が突きつけられた。

片方は数学、もう片方は英語だ。

「ふっ」

ちらりと問題集に目を走らせ、蛮が不敵に笑う。

「俺様にかかればこんなもん10秒で解けるぜ。見てな!!」

不言実行ならぬ有言実行。

夏実とレナが見つめる先で、蛮はいとも簡単にそれらの問題を解いてみせた。

「すごいっ、さすが美堂先生」

「じゃあじゃあ、もっと難しい問題でも簡単に解けますか?」

「任せな。中学や高校の問題集など、俺様の敵ではないっ!!」

「さすが蛮ちゃん!!」

誉められおだてられて、蛮はどんどん問題集の解答欄を埋めていく。

少し離れたところで、波児が苦笑しつつ呟いた。

「あーあ。蛮の奴、上手い具合に乗せられやがって…。宿題なんか本人たちにやらせなきゃ意味ねーだろ」

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