『不動』
| このところ、見知らぬ顔をよく見かける。 とはいえ無限城には多数の人間が生活しているのだし、その人間全てを知っているわけではない。 だが、ここの住人には共通する気配があって、『見知らぬ顔』の連中は明らかに異質な人間だった。 そんな奴らを見かけるようになったのは、先月の半ば頃からだ。 だいたいが3〜5人くらいの男のグループで、だいたいが十代後半と若い。 華美な服装はせず、無限城の住人に見せかけようとしているが、清潔な匂いがその努力を裏切っている。 汚い言葉を使って会話し、悪ぶっているフリをしても、住人から見ればバレバレだ。 「夏休みでハメを外したガキどもかよ」 今しがた擦れ違った5人組を振り返って、不動は吐き捨てた。 5人組は、道端に座り込んでいる浮浪者らしき老人を取り囲んで、何事か脅しつけては笑っている。 世界有数の無法地帯と有名な無限城へ、好奇心に負けて足を運ぶ若者は意外と多い。 特に長期の休みがある夏は、そういった奴らが増える時期だった。 夏の暑さはバカの脳味噌を、より救いようのないものにしてしまうらしい。 ちょっとだけ怖い思いをして、学校が始まってから自慢話でもするつもりなのだろう。 見栄を張りたい若者にはありがちな行動だが、無限城を肝試しと同レベルで考えているらしい。 自分達だけは大丈夫だと、何の根拠もなく信じているからこそこんな大胆なことができる。 だが、親の脛を齧りながら適当に悪ぶっているような半端な連中に、危険を察知する能力などあるはずがない。 口々に囁き合う声が、不動の耳に届いた。 「無限城っつっても、大したことねーよな」 「意外と平和じゃん」 「ちょっと脅せばすぐ黙る奴ばっかりだしさぁ」 「怖そうなのは見かけだけだよな」 「つまんねー」 さっき、不動と擦れ違った時には、ビビリまくりながら道の隅っこを歩いていたくせに、相手が変わった途端この態度とは、情けない奴らだ。 無限城といっても、ここは中核からはかなり外れており、比較的安全な地域である。 こんな場所で、しかも弱者を選んで粋がってみせるなどお笑い種なのだが、本人たちは気づいてなどいない。 不動は左腕を軽く持ち上げ、にやりと笑った。 「物足りないようなら、住人として少しはサービスしてやらねぇとな」 夏の容赦ない日差しを切り裂くように、鋭い刃が踊った。 「夏休みの作文に丁度いい体験ができたじゃねぇか。せいぜい立派な作文書けよ。生きて帰れたならな」 少年達を見下ろして、不動が笑いながらそう言い放つ。 地面には、腕と足を切り飛ばされ、呻き声を上げながらのたうち回る少年達の姿があった。 苦痛に叫び声を上げる彼らの間を縫って、さっきまで力なく道端に蹲っていたはずの老人が、素早く金目のものを奪っていく。 ゲラゲラと不快な笑い声を上げて、老人は少年たちを嘲った。 「高い授業料だったのう、若いの」 |