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『赤屍さん』


何故か夏と怪談とは切っても切れない関係にある。

テレビでは怪奇特集番組が放映され、ネットでは心霊スポットを紹介するサイトが大人気だ。

そうしたものを見て涼を取っていればいいものを、それだけでは満足できず実際に現場に足を運んでしまう者は必ず出る。

とある都内の廃病院も、ごくたまにそうした連中が出入りしているようだった。

何せ病院といえば心霊スポットの定番である。

閉院してからそれほど経っていないはずだが、もうすでに埃も溜まり、窓のガラスも適度に割れ、昼下がりだというのに雰囲気を醸し出していた。



「日中だというのに、何故こんなところに若い人達が…と思ったら夏休みなのでしたね」

ガヤガヤと騒がしく入ってきた連中を、吹き抜けの上階から見下ろし、赤屍が楽しそうに笑った。

階下に見える若者は男女4人、高校生かせいぜい大学生といったところか。

女性2人は事あるごとに黄色い声を上げ、男2人はそんな彼女たちの体を抱きつつ威勢の良いことを言っている。

肝試しが本来の目的ではなく、それぞれに下心があってここに来たのだということは、その態度から明白だった。

「こんなところに無断で入り込むとは、行儀の悪い子達ですねぇ」

小さく呟いて、赤屍が背後を振り返った。

「しかし…貴方たちにとっては良いタイミングだったのかもしれませんね。彼らが来てくれなかったら、相当長い間、誰の目にも触れなかったでしょうから」

そう語りかける赤屍の視線の先には誰もいない。

日の光さえ届かぬ廊下は、ただ沈黙を守っているだけだった。

しかし、赤屍の独り言というには何かがおかしい。

まるでそこに誰かがいるような、人間の肉体の温もりが、どこからか感じられるのだ。

姿も見えず、生き物が発するささやかな物音、例えば呼吸音すら聞こえてこないというのにこの違和感はなんだろう。

「あの子達には、一生記憶に残る『夏休みの思い出』となるでしょうね」

黒いコートが翻り、裏社会で死神と囁かれる男は音もなく立ち去った。



数十分後、廃病院から絶叫が響き渡った。

建物の奥への侵入を試みた4人は、2階まで到達した時、朱に染まった廊下と原型を留めていない無数の肉塊を目撃したのである。

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