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『マリーアさん&チビ蛮ちゃん』


真夏の厳しい日差しが窓から差し込み、照明を抑えた店内を明るく浮かび上がらせている。

占いを生業としているだけに、内装には気を使って神秘的な雰囲気を出しているのだが、こう太陽の光が強くては全て払拭されてしまいそうだ。

窓の外には眩しいくらいの白い世界が広がり、時折、元気の良い小さな影がいくつも通り過ぎた。

影には大概、子供の笑い声がついてくる。

「夏休みなのね…」

本棚の整理をしていた手を止め、マリーアは窓の外へ目をやった。

プールにでも行ってきた帰りだろうか、片手に荷物を下げ、もう片手にアイスキャンディーを持った少年達が、はしゃぎながら走り去っていく。

暗い世界のことなど何も知らない、無垢で真っ白な、太陽に愛されているかのような子供達だ。

「蛮にもあんな時期が…いえ、あんな時期はほとんどなかったわね」



その日、ウィッチ・クィーンからの預かり物である黒髪碧眼の少年は、突然マリーアに向かってとある要望を口にした。

「夏休みを要求するぜ!!」

蛮の台詞に、マリーアは小首を傾げた。

そういえば先程、窓の外から夏休みがどうしたこうしたと、大騒ぎしている子供達の声が聞こえたような気がする。

蛮はそれを聞いて、こんなことを思いついたのだろう。

しかし、夏休みといっても蛮は学校には通っていない。

この場合、何をもって夏休みとしたらいいのだろう。

「うーん。じゃあ、一日だけね」

適当にそう答えると、蛮から手厳しい指摘が飛んできた。

「一日じゃ意味ねぇじゃん。日曜日とか祝日と同じだろ、クゾババア!!」

そう言われても、ではどうしろというのだろう。

夏休みというからには、何かを休むことになるのだろうが、学校はそもそも行っていないし、魔術関係の勉強もマリーアが教材だけ与えてあとは蛮本人に任せきりである。

「夏休みってことで、特別何かしたいことがあるのかしら?」

「……」

返事はすぐに返ってこなかった。

おそらく、蛮本人も何をしたいのか明確な考えはなく、ただ『夏休み』という楽しげな単語に漠然とした夢を持っているだけなのだろう。

「いいわ。普通の子供の夏休みらしい一日を過ごさせてあげる。まずは6時に起きてラジオ体操。いつものような寝坊は許さないわよ。午前中は夏休みの宿題をやって、午後はマンドラゴラとアルラウネの観察日記を書いて、プールの代わりにお風呂で潜水して窒息による臨死体験学習。夜は花火をやりながら火薬の使い方を勉強して、怪談をしながら降霊術をしましょうね。…あら、どこへ行ったの、蛮?」

マリーアが具体的な『夏休みの計画案』を述べ終わる前に、蛮の姿はどこかへ消えていた。

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