『卑弥呼』
| 依頼人との打ち合わせに向かう途中、卑弥呼はふとデパートのショーウィンドウの前で立ち止まった。 水着姿のマネキンがすましたポーズで立っている。 てっきり水着の宣伝かと思ったが、マネキンの傍らには大量に積まれた化粧品の小箱があり、どうやらそれを売り込むのが目的のようだった。 光沢のある白い箱には、その表面に銀色の文字で商品名やメーカー名が書かれている。 商品の説明を読まなくても分かる、紫外線対策を売り物にした化粧品だ。 小麦色の肌がもてはやされた時代もあったようだが、今は美白がブームらしい。 「ふーん…」 マネキンを見上げて、卑弥呼はつまらなさそうに呟いた。 展示されているマネキンは、美白の良さを訴えるかのように、白い肌である。 金髪のカツラに長い手足、男を誘うかのように豊かな胸。 それはどこか知り合いの仲介者の女を思い出させた。 一方、自分の肌は浅黒くてお世辞にも美白とは言い難い。 容姿に自信がないわけではないが、世間が美白を崇拝しているとなれば気にならないはずもなかった。 「…悔しいけど、ちょっとだけ羨ましいわね」 そんなこと本人には絶対に言ってやらないけれど――。 苦笑交じりの笑みを零して、卑弥呼はその場を後にした。 |