『ヘヴン』
| デパートのショーウィンドウの前で、ふとヘヴンは足を止めた。 水着姿のマネキンがすましたポーズで立っている。 夏へ向けての水着の宣伝だ。 小麦色に焼けた肌は躍動感に溢れ、まさに夏の女神といった風情である。 「ふーん…」 マネキンを見上げて、ヘヴンはつまらなさそうに呟いた。 展示されているマネキンは、夏の生命力を訴えるかのように褐色である。 黒髪のカツラにしなやかな手足、優美な獣を思わせるスレンダーな肢体。 それはどこか知り合いの運び屋の少女を思い出させた。 一方、自分は白い肌である。 夏になったら海に遊びに行く予定だが、仮にあの少女と並んでみたら、やはり少々見劣りしてしまうだろうか。 「ちょっとだけ羨ましいわね」 自分の容姿に自信がないわけではない。 持って生まれた容貌には満足しているし、常に磨きをかけている。 だが、あの少女の持つ魅力は自分にはないものだ。 苦笑交じりの笑みを零して、ヘヴンはその場を後にした。 |