水色の画用紙に白い絵の具を転々と垂らしたような鱗雲があって、乾ききらないうちに湿った筆で横一直線に伸ばしたような飛行機雲が何本か浮かんでいる。
 枯色の落ち葉を足で踏むとばりんという音を立てて粉々に崩れた。

「夏の次に、冬が秋飛び越してやってきたって感じよね」

 吐く息が白むまで目に見えた冬が近づいているわけでもないのに、たまにびゅうと吹いてくる風は身体をぶるりと震わせるいとまもなく芯を凍て付かせるように冷たい。

「陽が落ちてからが勝負なのよ」
「勝負?」
「あんたに言ってんの。こういう季節の変わり目って風邪引きやすいんだから」
「ああ、それは…平気、平気」

 流川は思い出したように頭上の飛行機雲を見上げて言う。その視線を追った彩子の表情が一瞬曇ったことには気づきもしないまま。

「冬になる前にはあっちだから。ここより多分暖かいし」

 何でいまそういうことを言うかね、こいつ。彩子は胸中、深いため息を吐いて眉を顰めた。
 比較されてるのが自分じゃないのはわかる。わかるが、しかし。

「…なんか機嫌損ねた?」
「べっつに」

 彩子の口調はあきらかに不貞腐れた者のそれであったのだが、流川は一瞥したきり何も言わない。彩子はそういう流川の『言いたくないならこっちも聞かない的思考』が好きじゃなかったのだが、意外にも意地っ張りな彩子である、それならばこちらも黙すまでよと黙りこくるだけである。

 沈黙の中で秋風とたまに通る車とランニングするおじさんの生き遣いが秋空の下にこだまする。何度も何度も、びゅう、と秋風がふたりを揺らし、そのたびに冷え切っていく身体が彩子は恨めしい。誰につく悪態でもなくただ季節そのものを恨む。もっと厚着してくるべきだった、と。

 そろそろ二人の家路が二手に分かれるころになり、

「言っとくけど」

 流川が進言した。

「あっち行くからって、別れるつもりとかねーすから」
「…どうしたの。いきなり」
「だってそういうことでしょ。さっき、先輩の言いたかったことは」

 唐突に図星を突かれ、彩子は暫く自分が機嫌を悪くしていたことも忘れて呆けていた。こいつってどうしてそう変なカンが鋭いのだろう。いつも彩子は驚かされている。
 ぎゅう、と鞄にかけていた手をいきなりに取られ、握られる。人前でいちゃいちゃするのって見っとも無くて好きじゃないのよ、という何カ月か前の自分のセリフを今だけは忘れることにして、彩子は彼の自分よりひとまわりほど大きい手のひらをゆっくりと握り返した。

「あんたって、手がいつも冷たいわね」
「先輩はあったけえ」
「あんたよりかはね」
「皮下脂肪?」
「叩くわよ」

 どうか二人のあいだにも、冬が訪れませんように。





autumn in their hands































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