―――その日、一人の『少年』が『親友』との別れに涙した。
―――『親友』は『少年』の力では行くこの事の出来ない、遠い『場所』へと帰る。
―――それは『再会』を望むことが出来ない別れ・・・
序章第一節「発端」
『親友』―――ドラえもんは『少年』―――野比のび太に言った。
「のび太君・・・ボクは未来に帰る。また君に会う事は無いと思う。
だから、最後に一つだけ贈り物をしたいんだ・・・何が欲しい?」
ドラえもんはたとえ『四次元ポケットが欲しい』と言われても渡す気でいた。
だが、のび太の答えは違った。
「・・・ドラえもん・・・その首輪についている鈴をくれないかな?ドラえもんがいつも肌身離さずつけていたものをお守りとして持っていたいんだ。」
のび太はドラえもんの『ひみつ道具』ではなく、『所持品』が欲しいと言った。
『ひみつ道具』の便利さよりもドラえもんが一緒にいた『証』が欲しいと言った。
「の・・・のび太く〜〜ん!!!!」
ドラえもんは泣いた。自分が傍らに立って成長を見てきた人物が一人の人間として成長している。
それを確認することが出来たために・・・
そして、ドラえもんは自分がつけていた鈴をのび太に渡すと、「これ以上顔をあわせていたらいつまでたっても帰れない。」とばかりに後ろを向き
「のび太君・・・元気でね!」と言うと
後ろを振り向かずに引き出しの中のタイムマシンに乗り込み引き出しを閉めた。
「・・・・・・・・・ドラえもん・・・・・・」
少し時間がたってからのび太は引き出しを開けた。そこには何の変哲も無い空の引き出しがあった。
「ドラえもん・・・・・・僕は強くなるよ・・・・・・君にもらったこの鈴に誓って・・・」
のび太は手の中にある金色の鈴を軽く握るとそう呟いた。
―――それからのび太は変わっていった。だが人前で全力は出さなくなった。
―――勉強は人並みより上だが秀才と言われる程ではない程度に、
―――運動は今までの運動オンチから常人よりちょっと上とされる程度に。
―――急激に特出した人間が疎まれることを知っていたから・・・
―――特技の一つであった『射撃』は相変わらずで家族で初の海外旅行で行ったハワイでは
―――射撃場の教官を驚かせ、たまたま見ていた軍の少将がスカウトを考えるほどであった。
―――『あやとり』では長い糸を指に付け操ることで様々な形を空に描くまでに昇華させていた。
―――そんなのび太の首にはいつも、先に金色の鈴が付いたネックレスがかけてあった。
―――のび太はこのまま普通の幸せの中で生きるはずであった・・・
―――だが『巨大な無垢なる意思』が気まぐれを起こした。
「ふ〜・・・今日で中学二年生も終わり・・・四月から三年生か・・・」
三学期の終業式やHRが終わり、小学生のころに比べると背が格段に高くなったのび太がゆっくりと歩いていた。制服の中にある金色の鈴に手を当てながら呟きだす。
「ドラえもん・・・あれからもう何十年もたったように感じるよ・・・でも、あの頃の思い出は色褪せる事が無い・・・それだけ、僕自身にとってあの頃は大切なものなのかも知れないね・・・」
のび太はドラえもんが未来に帰ってから、季節の節目にこうやってドラえもんに話しかけるように
思いを漏らすようになった。だが、それは弱音ではなく自分ががんばる理由を確認する
儀式のようなものであった。
のび太はそれから「今回の成績は中の上ぐらいだった」とか「ジャイアンがようやく自分の歌の
正当な評価に気づいて、合唱部での特訓のすえ自他共に認める『美声』になったこと」などを
ポツリポツリと呟いた。
そのまま、普段どおりに家路を歩いているといきなり強い向かい風がのび太を襲った。
前に進むことも困難になりほとんど何も入っていないバックを担いだまま
のび太はうつぶせになり何が起きたのかと周りを見渡す。
のび太のすぐ後ろに黒い穴が存在していた。不思議なことに、
その穴がのび太だけを吸い込もうとしていた。
「こ、これはもしかして!!」
のび太は過去にこれと同じものを見たことがあった。
「じ、時空間乱気流!!」
小学生の頃の大冒険で7千万年前の日本に行った時、タイムマシンによる移動中に遭遇し、
またヒカリ族の少年ククルを飲み込んだそれが、今のび太を飲み込もうと口を開いていた。
のび太は何とか踏ん張ろうとしたがついには穴に吸い込まれてしまう。
時空間乱気流の穴はのび太を吸い込むと何事も無かったように消えていき、平穏が戻る。
その日からのび太は行方不明者の一人となり、懸命の捜索が行われた。
だが、一週間後何食わぬ顔で戻ってきたため、あまり大事にはならなかった。
ただ、その一週間ののび太の記憶が無かったことが永遠の謎として処理されただけだった。
―――未来 ある一室
「ふふふ・・・これで我々の復讐が完了した!」
「ああ、出来ればあの少年ではなくロボットの方に報復したかったが・・・」
「あの『ドラえもん』とか言うのはタイムパトロール(TP)に公的に守られているから無理だろう」
「そうだな。あの時代はTPが発足される前・・・ゆえに影ながらの保護しか出来ない。だからこそ隙を突いてあの少年をこの装置の餌食にすることが出来たのだ。多くを望む事は出来ない。」
「・・・なにやら外が騒がしくないか?」
「ちょっと待て・・・!!た、TPめ!ここに感づきおった!!」
「くそ!!逃げ、うわあぁぁぁ〜〜〜」
タイムテレビの前には三人の人影があった。のび太たちの過去の冒険で倒された「ギガゾンビ」、「キャッシュ」「ストーム」の三人。TP刑務所から脱走し、自分たちを逮捕に持っていった最大の原因をのび太と考え、その復讐をするためだけに今日まで逃げ切り、ついにその目的を達成した。
三人のいる部屋にたくさんのTP隊員が押し入り、
大人しく捕まる三人・・・その顔は暗い喜びに満ちていた。
―――未来 幻想動物園
ファンタジーモンスター達が暮らす動物園。のび太が時空間乱気流に飲まれる少し前に今までゆったりと戯れていた四匹(?)が一斉に空を見上げた。その四匹とはペガ、グリ、ドラコ、そして消滅してしまったとのび太が思っているフウコであった。全員の目に共通するのは自分が一番大切にしたい存在を失ってしまうことを予感する『恐怖』そして『悲哀』・・・
四匹の脳裏にのび太の顔が浮かぶと、音も無く『穴』が現れ一瞬のうちに四匹を飲み込んでまた消えてしまう。職員も気づかない一瞬の出来事だった・・・
―――???????
『・・・・・・・きよ・・・・・・』
『・・・・・起きよ・・・・』
『・・・起きよ、野比のび太・・・』
「ん・・・・あ、あれ?ここは・・・」
のび太が目を覚ますと周りは闇に閉ざされていた。自分がどうなったのかを思い出そうとすると声―――『意思』のようなものがのび太のいる空間に響いた。
『・・・目が覚めたか?・・・野比のび太よ・・・』
「!!だ、誰だ!?」
のび太はまた周りを見渡すが闇が広がるだけ・・・その闇が突然光に満たされる。
「うわぁ!!」
のび太はあまりのまぶしさに顔を腕で覆う。しばらくして周りの眩しさに目が慣れたのか、のび太は恐る恐る目を開ける。目の前には見覚えのある人物が立っている。のび太はそれを認めると目を見開いて驚く。
『・・・久しぶり・・・と、君たちの間では言うのかな・・・』
「き!君は!!『僕』!?」
のび太の目の前に立っていたのは小学生の頃の『野比のび太』だった。
『ああ・・・この姿に驚いているのか・・・以前も君と話したときにはこの姿だったからな・・・ また使わせてもらった・・・』
「い、以前って?それに、僕と話したって・・・いったい誰?」
しゃべりながらのび太は落ち着いてきた。突発的な事態に遭遇しても小学生のときの大冒険でなれているためか冷静になるまで短時間ですむようになっていた。
『君たちの感覚で言う数年前に君たちは私が作った星に人造の生命体を繁殖させたことがあったろう?』
「え?」
のび太は記憶を掘り下げていき、ドラえもんたちと行った冒険の中で緑豊かな星に生命を宿したヌイグルミたちの楽園を作ったのを思い出す。
そして、その時にあった『存在』・・・『地球生命の創り主』の事を思い出す。
「もしかして、あの時の・・・」
『そうだ、あの時の『黄金の存在』だ・・・思い出したかな?』
のび太はコクコクとうなずく。
『あの星を離れた後も、私は様々な星に行き、数多の生命を誕生させてきた・・・そしてまたこれからも新しい星に生命を誕生させようと思うのだが・・・』
ここで、『黄金の存在』は言いよどむ。
『少し今までの事を振り返ってみようと考え、『生命の記憶』に触れていたのだ。』
「『生命の記憶』・・・ですか?」
地球の生命の神とも言える事に気づいてか、のび太は目上の者に対する口調を使うことにした。
『君たちは『アカシック・レコード』と呼んでいるものだ。そして、君たちが今までに様々な種の滅亡を直接、または間接的に防いできたことを知った。それと同時に、私が創り出して来た数多の生命には理不尽な滅亡という未来があることに気づいた。』
ここでいったん言葉を止め、のび太を見る『黄金の存在』・・・のび太は小学生のときの
冒険の数々を思い出していた。
『野比のび太・・・今回、君は「時空間乱気流に飲まれた」と思っているだろう・・・』
「え・・・あの「黒い穴」は『時空間乱気流』だと思っていますが・・・」
『残念ながらあの「穴」は「時空間乱気流」ではなく君たち「三次元空間生命体」が存在することの出来ない超高次元へと送るためのモノなのだ』
それを聞いてのび太は一瞬理解できずに呆けた。だが徐々に意味を理解するにつれあわてだし、
『黄金の存在』に詰め寄った。
「じ、じゃあ、僕はもう死んでいるということなんですか!?」
『いや、ここは「亜空間」だ。野比のび太・・・君はまだ死んではいない。私があの現象に干渉してここに来るようにしたのだ。』
のび太はそれを聞くと座り込んで安堵のため息をつき、助けられたことに対する感謝を素直に表しす。
「そうですか・・・では「あなたに助けられた。」という事なのですね。ありがとうございます。」
『いや・・・君たちの冒険の数々を見て、このまま「死」を迎えさせるのは惜しいと思ったからだ・・・それに、君には頼みたいことがあるのだ・・・』
「?・・・僕に、いわば『神』とも言えるあなたが頼みですか?」
『神』を正面から見つめながら、のび太は首を軽くひねる。
『そうだ・・・先程も言ったとおり、私が創った生命は「理不尽な死」にさらされている事がある・・・野比のび太・・・君には悠久の時間の中でそのような「理不尽な死」から生命を助けるモノ―――「管理者」になってもらいたいのだ』
その頼みを聞いたのび太ははじかれたように立ち上がり、慌てだす。
「ぼ、僕はただの「地球人」ですよ!?そんな大役をこなせるとは思えません。それに・・・」
顔に翳りを浮かべて更に話す。
「僕はまだ親の保護を受ける年齢です。元の次元、元の時間に戻り帰らなければ様々な人に心配をかけ『そちらの方は私のほうで良い案がある。』え?」
のび太の反論を『神』がさえぎる。
『君が普段、周りに見せている「野比のび太」よりも少しだけ優秀なぐらいのコピーを創り、君と同じ考え方をもち、同じ思い出を持つ者を送れば問題は無くなる。それに・・・』
『神』はのび太にちょっと維持の悪い笑みを浮かべながら言う。
『君は今の生活に「満足はしている」が「最高である」とは思っていないだろう?かつての冒険の日々を懐かしむが、まだ冒険を目指す気持ちは消えていない。そして、その気持ちを持て余している・・・そうだろう?』
「うっ・・・」
確かにのび太は小学生のときの数々の冒険を思い出すと冒険に向かいたくなる心を持っていた。
だが、ドラえもんが未来に帰ってからは、その心を勉強や運動にぶつける事で発散させていた。
しかし、ぶつける心があまりにも大きかったために勉強や運動に熱を入れすぎ、実力を隠さなければ
ならないほどに上達してしまったのだ。
『もし独りでの生活が嫌なために拒否するのであれば、君と共に生活する者たちも用意してある。それに、難しく管理しろとは言わないから安心して欲しい。今までの君たち、とりわけ君の功績に対する私からの感謝の品だと思ってくれればいい。
君ならば理不尽な支配など頼まれてもしないだろうしね。』
『神』がそこまで言うと、のび太は半分呆れたような顔で『神』に言う。
「それって『既に逃げ道を塞いでいる』って言いませんか?」
『ふむ・・・確かに、そうとも言うな。だが、私としてもこの頼みを君に聞き入れて貰いたいのだ。』
『神』がしれっっと言うと、のび太は吹っ切れた顔で答える。
「・・・わかりました。お受けいたします。あと、この鈴をコピーに渡して貰えませんか?」
そういうと、金色の鈴がついたネックレスを取り出す。
『・・・良いのかね?それは君と親友との思い出の品なのだろう?』
「これは、『未来に向かい努力する僕』が持つべき物ですから・・・」
そう言って、また翳りのある笑顔を一瞬だけ浮かべ、苦笑するのび太。
『そうか・・・わかった。私が責任を持って受け継がせよう。』
『神』はそう言ってのび太からネックレスを受け取る。そして、のび太の目の前でコピーを作るとその首にネックレスをかけ、地球へと飛ばした。
「・・・そういえば、彼は僕があの穴に吸い込まれた直後に戻るのですか?」
『・・・いや、残念だが少し時間がずれてしまったようだ・・・君たちの標準的な時間で言うところの・・・一週間後だな・・・』
のび太はそれくらいなら、あまり大騒ぎにはならなくてすむかな?そう思って自分を納得させる事にした。
―――こうしてドラえもんたちと直接冒険の旅に出ていた少年は
―――『のび太』から『人とは異なる時間を歩む存在』になった。
―――彼の冒険はまだ始まらない・・・
後書きという名の反省文
「はじめまして」もしくは「また会いましたね」と言わせて頂きます。
私は放浪の道化師という『一読者』だったモノです・・・
何の因果かSSを書く事になりその状態を引き摺って
この作品を書くに至りました。
どなたか一人でもこのSSを「面白い」と思ってくれる方がいることを
願いつつ・・・・・・退避!!===(;¬_¬)
追伸:このような駄文を載せて頂いたHP主【ラグナロック】さんに感謝
追伸の追伸:感想はありがたく頂きますが、返信は期待しないでくださいm(_ _)m
先ずは一言、逃がさないよ?ウン、其れだけ。
漢なのび太君です、でも確かに彼はあちらこちらで悪を滅ぼす度に敵を作ってますからね、こういう展開もアリだと思います。
此れからの彼の成長に期待、しかしそうなるとコピーがしずかちゃんと結婚を?…まあ良いのかな、深く考えるの止そう。
感想は以下のアドレスまでお願いします、感想の有無は矢張り大きいですので簡単で良いので感想を是非!!
mubounojyaou@hotmail.com
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます