警告!
 
              この物語には読者を不快にさせる要素が含まれています!
 
 
 
 
     現実と虚構の区別がつかない方
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     LAS展開を受け入れられない方
     猫と猫耳が嫌いな方
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     以上に当てはまる方は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい
 
 
     この物語は きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 
     戦艦大和様 JD‐NOVA様 のご支援ご協力を受けて完成致しました
 
 

 
 
 
 
 
 「未来を守る‥か。  つまり、僕の未来はすっごく悲惨なんだね」
 
 世界とシンジを守る為に、未来の国からやって来たロボット ‥‥そう自称している茶虎模様の猫耳 猫毛皮 猫尻尾付き‥の少女に シンジは尋ねた。
 質問と言うよりは、確認である。
 シンジの未来が平穏無事ならば、わざわざ守りには来ないだろう。
 
 
 「‥うん。 このままだと死ぬか、死んだほうがマシだった って思うようになるよ‥ 多分」
 
 
 耳を伏せ 沈痛な表情を見せるトラミに シンジは質問を続ける。
 
 「で、具体的には どんな危険が有るの?」
 
 「色々あるけど‥ とどのつまりは、サード・インパクトが起きて 人類は滅亡しちゃうんだ」
 
 
 どて と、胡座をかいたまま シンジは後方へ転倒した。
 そんな少年に 猫耳さんは更なる追撃を放つ。
 
 「シンジ君は サード・インパクトの時に死んでしまうか、或いは 廃墟になった世界でたった一人で死ぬこともできず未来永劫に存在し続けることになるよ」
 
 
 
 「それ‥ 本当?」
 
 「残念ながら」
 
 
 「‥‥‥‥‥い、嫌すぎる」
 
 今更トラミを疑いはしないが‥
 あんまりな未来の予告に シンジは転がったままうめく。
 そんな少年に向けて
 
 「大丈夫だよ。ボクの楽しみと、シンジ君の安全と、ボクらの輝ける未来の為になら、ボクは全性能を発揮できるんだ。なんなら世界征服でもしてみようかニャ?」
 
 頼もしげに猫耳ロボット‥赤木トラミは断言した。
 
 
 少年は彼なりに、トラミが来た理由を納得する。
 
 「‥‥そうか。トラミちゃんは、サードインパクトを防ぐ為に ここに来たんだね」
 
 「違うよ? シンジ君、ボクはねぇ‥ サードインパクトを起こしに来たんだ。
未来を守る為に、全人類が『幸せになる』為に。‥その為に必要な、サード・インパクトを起こすために、ね」
 
 
 
 
 
 
 
 
    オープニングテーマ
       『ボク、トラミだよ♪』
 
                           替作詞:きのと はじめ
 
 
     2、お昼寝スヤスヤ  喉はゴロゴロ
       素敵に無敵さ    ボク、トラミだよ
       未来のネルフの  最高傑作
       どんなもんだい  ボク、トラミだよ
       ボクがシンジを守るのさ  世界とシンジを守るのさ
       みんな任せて  ボクが守る
       トラミだよ  トラミだよ
       にゃん にゃか にゃん にゃん 
       にゃん にゃか にゃん にゃん
       トラミだよ
 
 
 
 
 
 
                          新世紀エヴァンゲリオン
                     返品不可!!〜猫印郵便小包〜
 
                       第弐話 『第三新東京まで何マイル?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 海
 
 それは生命の故郷
 
 地球上の全ての生命は この優しき子宮で育まれたのだ
 
 
 
 
 だが、故郷の記憶が 全て良き思い出のみではないように‥
 
 陽光届くことなき深海には 人間が忘れているものが‥
 
 忘れたいと願う余り 人々が記憶の底に沈めている存在が‥
 
 今もなお 眠っている。
 
 
 
 その存在が この物語に登場するのは、もう暫く後のこと。
 
 今は主人公である少年と、その押かけ相棒である被造物とに 注目しよう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 カタコン カタコン
 
 がらがらに空いた鈍行列車は ローカル路線をのどかに進む。
 少年と猫耳さんを乗せて コトコト進む。
 
 カタコン カタコン
 
 偏頭痛に苦しむ少年と、至極暢気な猫耳さんを乗せて のどかに進む。
 
 
 
 夏季仕様の標準学生服に古びた旅行バック一つ と、いたって軽装の少年 碇シンジ
 
 そして、その差し向かいの席に座る 水色のワンピースに麦わら帽子、足元はサンダル 手荷物なし と更に軽装の猫耳少女(型ロボット)、赤木トラミ
 
 トラミの手足を被うはずの猫毛皮ブーツと肉球付きグローブは、今は外してある。
 麦わら帽子に隠された猫耳と、服の裾に先端が見え隠れする猫尻尾を除けば普通の娘さんに‥‥は見えないが(何しろ鈴付き猫首輪装備だ)その容姿は、充分に余裕をもって美少女と呼べるだろう。
 
 
 一見するとのどかな旅行のように見えるが、シンジの顔色は優れない。
 トラミの話‥これからシンジに振りかかるであろう運命についての説明は、その一部分だけでもシンジに頭痛を起こさせるに充分だった。
 
 頭を抱えるシンジだが なんとか質問を繰り出す。
 
 「‥‥大体解かったけどさ。その‥何だっけ?「人類補完計画」‥そう、その『じんるいほかんけいかく』だけど‥上手くいくものなの?
人類を一つに って理想は解からないでもないけどさあ  だからって
『全人類を溶かして一つに混ぜ合わせればOK!』 って‥‥なんだかもう、聞いただけで駄目駄目なんだけど」
 
 「無理に決まってるニャー」
 
 間髪入れず、答える猫耳さん。
 
 「あ、やっぱり?」
 
 「土台、人類は群体生命として設計されているんだよ。無理やり単一生命にしても何も良いこと無いよ」
 
 「何でまた、そんな馬鹿な事をやろうとしてんのさ‥ その人たち」
 
 「どんな嘘でも 百回言えば一人ぐらいは信じちゃう人が出るもんだニャ。でも、百万回言うと、言い出した本人まで信じてしまうものなんだニャー。
 信じていたい嘘だから何遍でも繰り返すし、繰り返すから信じてしまう。
 結局さあ‥ ゼーレの爺様達は 思考の基本が楽園思想で出来ているんだよ。いつか『救世主』が現われて、『たった一つの冴えたやり方』で苦難溢れるこの世を救ってくれるって 信じてるんだ」
 
 
 はぁ〜〜  と、シンジはため息をついた。
 
 いつまで待っても救世主が現われないから、いっそ自分たちの手で作ってしまえ
 ‥‥解からないでもないが、そんな事に他人を巻き添えにしないで欲しい。
 と言うか シンジの本音としては『そんなにこの世が嫌いならとっとと死ねよ!』と言いたいところだ。
 そして 二度と地獄から出てくるな とも。
 
 
  
 なにはともあれ‥
 
 「‥一応理解したけど、なんか実感わかないなあ」
 
 「そう?」
 
 「僕は平凡な中学生なんだよ。世界の危機とか人類の命運とか言われても、実感できないよ」
 
 「シンジ君はそのままでもVIP(重要人物)なんだけどね‥ なんたって碇財閥の御曹司なんだもの」
 
 「碇財閥って、あの京都の碇財閥の事かい? 確かに名前は同じだけど‥自慢にならないけど、僕は一月あたり二万円の生活費で暮らしているんだよ?」
 
 しかも食費・被服費は無論のこと、電気ガス水道などの料金まで自分持ちである。
はっきり言って貧乏生活だ。
 まだ未成年の義務教育中なので、学費や保険金や直接税の類は払わなくて良いのが唯一の救いだ。
 
 『勉強小屋』の裏にある家庭菜園、野菜屑から再生したニンジン・トマト・ネギ・ジャガイモ・枝豆(大豆)・トウモロコシなどの畑は、完璧に実用である。冗談抜きにシンジの生命線なのだ。
 
 
 「それはシンジ君への仕送りがピンハネされてるからだニャー」
 
 シンジの父親である碇ゲンドウから六分儀家へ、シンジの養育費が毎月振りこまれているのだが‥それを六分儀家の人々が着服しているのだ。
 
 「なんか、そんな気はしていたけど‥。じゃあ、本当は月に10万ぐらい仕送り来ているの?」
 
 いくらなんでも 生活が苦しいと思ってはいたのだ。
 シンジの父、碇ゲンドウ氏は国際公務員しかも上級管理職なのだから、高給取りの筈。仕送りをケチる必要は低いだろう。
 
 「桁が二つ違うニャー。月あたり一千万、一年で一億二千万円だよ」
 
 
 
 しばらく沈黙が続く
 そして、シンジは徐に口を開いた。
 
 「‥‥で、本当は幾らなの?」
 
 「あっ?信じてないね?! だったらコレを見るニャー!」
 
 トラミはワンピースの胸元から手を突っ込み、お腹のポケットからノートパソコンを取り出した。
 銀行のコンピュータへ接続、侵入してシンジと六分儀家の口座を覗く。
 
 「ほ〜ら、シンジ君の口座に入金する端から、叔父さんの口座へ引き落とされてるニャ〜
 だいたい、平教師の給料で別荘二軒と.クルーザー持ってて、ベンツ乗り回してる時点で普通じゃないニャ」
 
 「‥‥別荘って‥ そんなものまで」
 
 車内は空調が効いている筈なのに、シンジの額に一筋の汗が流れる。
 
 
 人間とは 慣れる生物である。
 多額の不労収入にも、人はいつしか慣れてしまうものなのだ。
 毎年、段々に増えていき、遂には異様なまでの金額へ膨らんでしまっても‥
 不自然だとも、不気味だとも、思わなくなるものなのだ。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 がらがらに空いた列車の中で、猫耳さんは新横浜名物サンドイッチ弁当をぱくついている。一方、薄幸少年はもうひとつ食欲がわかないようだ。
 
 
 シンジは、三通の手紙を取り出して眺めていた。
 
 一通は 父親からの、簡潔極まりない手紙だ
 来い としか書かれていない。
 
 
 一通は 知らない人物‥多分年輩の人からの 懇切丁寧な手紙だ。
 しかし、なにやら 誠意に欠ける 印象を受けた。
 
 
 一通は 知らない女性からの 写真付きの手紙だ。
 はっきり言って 風俗の宣伝ビラ にしか見えない。
 
 
 
 
 「‥‥‥NERVって‥‥一体、どんな所なんだろう‥?」
 
 シンジは、頭痛を覚えずにはいられなかった。
 一応、『人類を守る大切な仕事』をしている組織だ と聞いてはいるが‥ 果たして本当なのだろか。
 
 
 「どんなも何も、見たまんまの所だニャ〜」
 
 悩み多き少年に、猫耳さんは断言する。きっぱりとそれはもう、爽やかに。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、この二人と言うべきか、それとも一人と一体と言うべきか。
 シンジとトラミのコンビが何故 列車の旅の最中なのかといえば‥ 結局の所は、箱根付近の穴倉に原因があるのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その穴倉、またの名をネルフ本部 ‥の一室。
 
 
 穴倉に巣くう者共の王。一見腹黒そうで、本当に腹黒な髭面中年男 碇ゲドウ もといゲンドウ と、その宰相役である一見すると腹黒そうではないけれど、正体はやっぱり腹黒な電柱爺さん 冬月コウゾウ が、なにやら悪事を企んでいたりする。
 
 
 
 
 「シンジ君は始発の列車で出たそうだよ」
 
 「ふっ 問題ない」
 
 「里親達は、単なる旅行だと思っているようだね。昨日、ピアノを買い換えたそうだよ」
 
 「希望的観測こそ愚者の特権。破滅への特急切符だ」
 
 
 「しかし‥  ここまでするか?」
 
 長身痩躯の初老の男(電柱じーさん)は ちょっと呆れている。 
 
 「何の話だ? 私は息子の養育費を送り続けただけだ。里子が親元へ帰り 養育費を着服できなくなった馬鹿どもが
 ローン地獄に陥ろうが
 山のような不良債券を抱え込もうが
 実は結婚詐欺師の婚約者に、預金の全てを持ち逃げされようが‥
 私の知ったことではない」
 
 
 まあ、良く有る話ではあるのだ。
 子宝に恵まれぬ夫婦が 孤児院から優秀な子供を養子として迎えたが、どうゆうわけか その後で実の子供が出来てしまうことは。
 
 結局六分義家の養子であるゲンドウが全ての権利を放棄することで、財産上の決着は着いた。
 それだけならば、如何に根性捻じり棒飴なゲンドウと言えど、特に恨みを抱きはしなかっただろう。
 
 しかし、彼が碇ユイと結婚し 碇家の婿養子になった途端に、それまでの経緯を一方的に押し流し、親戚面でユイとゲンドウへ接近、融資を迫ったものの素気無く断られて逆恨み。
 そのあげく、ゲンドウの養育費を碇家に要求して訴訟騒ぎまで起こした義弟を いつか潰してやる と、髭男は心に誓っていたのだ。 
 
 
 「臓器バンクなり土地開拓なりマグロ漁船なり、借金の返済手段は用意してある。真面目に働けば20年程度で返済できるだろう」
 
 「その為に息子をあんな環境に置いたのか‥」
 
 「冬月、いまさら善人ぶるな。所詮貴様も共犯だ」
 
 「‥‥しかしだな、あの手紙はないだろう」
 
 
 シンジの元に送られた「来い」の一言のみ、書かれた手紙の事である。
 流石に不安をになった冬月副司令が懇切丁寧に書いた手紙を添えて送ったので、用件だけは誤解される事無く伝わったのだが。
 
 
 「お前、また嫌われるぞ」
 
 「問題ない」
 
 私は嫌われているほうが良い‥いや、嫌われねばならんのだ とゆう呟きは、髭本人の胸中から漏れることはなかった。
 
 
 
 
               ・・・・・ 
 
 
 
 数時間が経過した。
 
 シンジとトラミは新小田原で乗り換えて、現在は箱根方面行きのモノレールに乗っていたのだが、何の前触れなしにモノレールは通過予定の駅に停車した。
 
 『‥‥只今 東海地域を中心とした関東・中部地方に特別非常警戒宣言が発令されました。 乗客の皆様は速やかに降車して、最寄のシェルターに避難してください』
 
 アナウンスが緊急停車の事情を放送。乗客たちは止まった車輛から、ぞろぞろと降り近場の避難所を目指す。
 
 シンジたちも降りようとしたその時、その音は聞こえた。
 
 ドン
 
 と、大気を震わす音。 
 トラミが何かしたときの、音源不明な効果音とは凄みが違う。恐ろしい程の巨大な力を感じさせる音だ。
 
 
 「なんだろ? 今の音」
 
 「大規模爆発音‥N2兵器だニャ〜」
 爆発音のした方向を睨みつけながら、トラミは答えた。
 
 「えぬつう ‥って それじゃまるで戦争じゃないか」
 
 「そうだよ。何だと思ってたの?」
 
 
 
 トラミは、シンジの手を引いて避難する人の流れとは逆方向へと歩いて行く。
 
 「トラミちゃん、シェルターは反対方向だよ? 行かなくていいの?」
 
 と尋ねるシンジを引っ張って、トラミはシェルターと反対方向の公衆トイレ(男子用)へ入った。
 
 猫耳少女型ロボットは、念の為にトイレへと入る際に『清掃中』の看板を置いておく。
 
 「今はトイレに用事 無いんだけど‥」
 
 「ボクは有るニャ〜」
 
 トラミはシンジに麦わら帽子を預け、ワンピースを一気に脱ぐ。残念ながらワンピースの下は茶虎毛皮の猫スーツなので 映像的には(一部マニアを除いて)色気の欠片もない。
 そして猫耳ロボットは、お腹のポケットから枠付きのドアを取り出した。
 
 「何処にでもドア〜〜!」
 
 ぷっぷくぷっぷー と、何処からともなくお馴染みの効果音が鳴る。
 ただし音量は控えめだ。
 シンジが あんまり五月蝿いと近所迷惑になっちゃうよ とゆう理由で音量を抑えるように、今朝がた猫耳ロボットを説得したのだ。
 
 「さーて、開けてみるニャ〜」
 
 トラミは 建具店の商品見本 にしか見えない扉と枠だけの代物をシンジに開けさせようとする。
 
 「これを開けるのかい?」
 
 「うん♪」
 
 猫耳さんに促され、渋々とドアノブを握る薄幸少年。
 
 
 
 
                ・・・・・
 
 
 
 さて、少しばかり時系列を‥大規模爆発音が聞こえたあたりまで遡ってみよう。
 
 
 箱根の穴倉(ネルフ本部)では  
 第一発令所の巨大モニターに、伊豆大島沖の水柱が映し出されていた。
 
 日本近海に現れた謎の巨大敵性体への攻撃は、国連軍が所持する最大火力であるN2兵器により、最高潮を迎えていた。
 
 
 「わはははは  見たかね!! これが我々の誘導N2機雷の威力だよ」
 
 発令所の中段中心部、本来ならば作戦部長が腰掛けている筈の席に座っている将官が、ふんぞり返る。
 
 「これで君らの玩具の出番はなくなったな!」
 
 自分達(ネルフ)が嫌われているのは承知の上だが、態度で示されるとやはり腹だたしい。
 階級に似合わぬ小役人根性を発揮するセクト主義発言に、周囲の者はうんざりしているのだが‥当の本人は全く気にしていないようだ。
 
 
 「爆発の余波により目標をロスト。確認までしばらくお待ちください」
 
 オペレータの報告を、国連軍から派遣された少将は ふんっ と鼻で笑う。
 
 「あの爆発だ。ケリはついている」
 
 
 50キロトン級爆弾四発の同時爆発。しかも水中での爆発だ。これに耐えきれる存在など有る筈もない。
 機雷・魚雷・対潜ロケット弾など、これまでの通常兵器による攻撃では全く効果が無かったが‥ 
 
 「爆心地点付近に動体反応!」
 
 「なんだとぉ!」
 
 
 
 「映像、拡大します」 
 
 巨大モニターの画面上に 映し出される光景。
 水柱が崩れ落ちる、泡立つ海面を黒い影がよぎる。
 
 「目標、健在。損傷認められません」
 
 
 「そ‥ そんな‥ 我々の最大火力が‥」
 
 
 
 そうこうしているうちに目標は、大島の海岸付近まで到達する
 これまで影として見えていた、その姿が遂に水上へと現れた。
 
 黒い表皮。
 長い尻尾が海面にうねる。
 ギザギサとした多重構造の背ビレ。
 太く逞しい 直立歩行を可能とする両足。
 鉤爪を生やした 人のものに似た五本の手指。
 爬虫類を思わせる 獰猛な牙と顎を備えた頭部。
 
 人と 肉食恐竜と 爬虫類の混合体じみた 異形の怪物が其処にいた。
 
 
 
 「アレを見るのは、十五年ぶりだね」
 
 電柱‥もとい冬月が、ぼそりと呟く。その声が聞こえたのは、隣に立つ髭面の男のみ。
 
 「ああ、間違い無い。ゴジラだ」
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 扉を開けると、そこは無人島だった。
 
 
 無人島とは呼べないかもしれない‥ そこに居る者達を人間に分類してしまうのならば。
 
 
 「はい 退いて退いて」
 
 呆然とするシンジの横を、セメントの袋を10ほども抱えた猫耳さんが通りすぎていく。
 地下足袋に作業服、安全ヘルメットに軍手と完全装備だ。‥‥作業服の尻から尻尾が出ているが。
 
 
 「みんな〜〜 生コン練るよ〜」 「「「おーー」」」
 
 セメントの袋を抱えた猫耳さんが音頭を取り、その声に応じた数人の猫耳さんが集まってコンクリートを練り始めた。
 トレイのような形状の、軟鉄製の浅くて広い容器にセメント粉末と川砂と水を入れて、スコップで混ぜている。
 
 
 辺りを見渡せば‥ 
 
 広場の端で、広場を拡張すべく樹木を伐採している猫耳さんもいれば
 地面から掘り起こした大岩を転がして運ぶ猫耳さんもいる
 スコップを振るって排水用の溝を掘る猫耳さんもいれば
 ハンマーで基礎の鉄骨を地面に打ち込む猫耳さんもいる
 
 かと思えば 
 
 木陰で薬缶に直接口をつけて麦茶をラッパ飲みしている猫耳さんもいるし、資材置き場の隅で丸くなって寝ている猫耳さんもいる。
 
 猫スーツ姿のままの猫耳さんもいれば、作業服姿の猫耳さんもいる。
 スクール水着姿の猫耳さんもいれば、体操服姿の猫耳さんもいる。
 全員 トラミそっくりだ。
 ただ本物?と違い、全員の胸元に大きな数字で番号が付いていた。
 
  
 
 
 何処までも高い 青い空の下  
 シンジの目の前の工事現場では、数十人に及ぶ猫耳さん達が働いていた。
 
 
 
 「トラミちゃん‥ この人達はいったい何なの?」
 
 「ボク自身であり分身でもある予備ボディ。全部で百体あるんだよ。ここには半分くらいしか居ないけどね。‥こっち来るニャ〜」
 
 トラミは シンジの手を引いて工事現場の横に張られたテントへと入った。
 
 
 
               ・・・・・ 
 
 
 
 
 実際のところを言うと、N2爆雷は無力ではなかった。
 いや、むしろ 想定以上の効果を発揮したと言える。
 なにしろ目標‥第三使徒サキエルは少なからぬ損害を受けて、大島沖の海底に沈んでいるのだから。
 
 使徒サキエルは 海中・海底の物質を取り込みながら己の肉体を再構成していた。
 
 これまでに受けた攻撃から得た情報を基に、サキエルは己の有るべき姿を考えていた。
 使徒としての使命を果たすために、必要な姿を。
 
 
 
 
 使徒は生物のように見えるが、生物とは言い難い。
 
 全ての生物は 死ぬために生きている。
 生きたいが故に生き
 生き抜いた後に 後進の者に道を譲り
 消えるために生きている。
 
 だが、使徒は違う。
 使徒は只、使命を果たす為だけに存在する。
 
 
 サキエルは先程の交戦から 敵(リリン)の兵力は決して舐めれたものではない と判断していた。
 修復後の肉体は索敵能力と回避・迎撃能力を上げておく必要が有るだろう。
 
 強敵に遭えたかもしれぬ期待感 とでもゆうべきか
 人間の感情に喩えて言うなら、使徒サキエルは『喜び』に近いものを感じていた。
 それほどまでに、先刻の爆発は強烈だったのだ。
 
 未だサキエルが陸地に上がってもいないにも関わらず、あれほどの威力で攻撃して来たのだ‥
 一体、どれくらいの隠し球が有るのだろうか。
 
 もしも、先程の攻撃がリリンの最大火力であり、乾坤一擲の大博打だったとしたら‥
更に楽しみだ。
 
 最大の戦力を真っ先にぶつける とゆうことはリリンの作戦能力が高い水準にある証拠だからだ。
 
 
 
 先程の爆発では想定外の事態(イレギュラー)も起きたのだが、使徒としての使命を妨げるものではないので、サキエルは放置していた。
 
 
 そう、かつて使徒を造りし文明に 放射性物質の回収を目的として造られた生体機械が十五年の眠りから目覚め、リリンが溜めこんだ核物質を貪り食らう為に泳ぎ始めたことも
 
 その生体機械‥リリンの一部から『ゴジラ』と呼称されるユニットの出現位置が、N2兵器の爆心地付近であったが為に、リリンの指揮系統に混乱が起こったことも
 
 ましてや、リリンの一部(碇ゲンドウとその一味)が、リリン側指揮系統がサキエルと『ゴジラ』を混同したことによる混乱‥を利用して、指揮権を手にしたことなど‥
 
 使徒の使命には関係ない。
 
 
 使徒の使命は リリン(人類)に生き残る資格が有るか否か、確かめること。
 ただ其れだけなのだ。
 
 
 
 
 続く
 
 

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