警告!
 
              この物語には読者を不快にさせる要素が含まれています!
 
 
 
 
     現実と虚構の区別がつかない方
     パロディを許容できない方
     オリキャラの存在及び活躍に耐えられない方
     LAS展開を受け入れられない方
     猫と猫耳が嫌いな方
     真面目な物語が読みたい方 
     電波に耐性の無い方
 
     以上に当てはまる方は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい
 
 
     この物語は きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 
     戦艦大和様 JD‐NOVA様 のご支援ご協力を受けて完成致しました
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
オープニングテーマ
       『ボク、トラミだよ』
                        替作詞 きのとはじめ
 
 
     3、爪はニョキニョキ 耳はピクピク
       パワー全開 ボク トラミだよ
       未来の科学の 最強ロボット
       どんなもんだい ボク トラミだよ
       世界とシンジを守るとき ボクの力は無制限
       たとえ恒星(ほし)でも砕いてみせる
       トラミだよ  トラミだよ
       にゃん にゃか にゃん にゃん 
       にゃん にゃか にゃん にゃん
       トラミだよ
 
 
 
 
 
 
 
                   新世紀エヴァンゲリオン
              返品不可!!〜猫印郵便小包〜
 
                 第参話 『101匹猫耳さん大行進』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 時は 過ぎ行くのではない。
 
 過去も未来も 時はただ其処にとどまり 我々だけが移ろいゆくのだ。
 
 実のところを言えば、人間は過去しか記憶できないが為に 時の方が動いている と錯覚しているに過ぎない。
 
 
 記憶
 
 そう、この曖昧なる代物。脳内の微細な化学物質の組み合わせにしか過ぎぬ、記憶とゆうものの上に
 人の意識は成り立っている。
 
 
 人の心は‥ 認識も感情も行動も 記憶によって支配されているのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「目標『乙』、毎時60キロにて新横須賀方面へ侵攻中」
 
 作戦板上の地図に置かれた、目標を表す駒が最新の情報に合わせて移動させられる。
 
 「対巨大目標地雷原、突破されました」
 
 目標と接触した青いマチ針の列‥友軍陣地を表す駒が 効力喪失と判断され、地図上から引き抜かれた。
 
 
 「目標『甲』の損傷は修復中。移動開始までの予測時間、約190分」
 
 「国連軍部隊が強羅駅付近で渋滞を起こしています」
 
 オペレーターの報告に
 
 「うーん なんとか時間稼ぎしないといけないね〜」 
 
 参謀長役の猫耳さんが腕を組んで唸り
 
 「高周波のサンプリングは終了してます、『乙』の誘導は即時可能です」
 
 猫耳参謀達が対応する。
 
 
 
 
 
 
 碇シンジは 暇だった。
 
 彼がつれ込まれたテントの中では、猫耳さんたちが作戦板を囲んで司令部ごっこの真っ最中である。
 
 このテントの中にも、外の工事現場にも、猫耳さんがいっぱい居る。
 しかしトラミは居ない。『ちょっと用事ができた』と言って例の何処にでもドアとやらで出かけてしまったのだ。
 
 猫耳さんたちの弁によれば、彼女たちはトラミの量産型機体でありトラミが本体とするなら端末に相当する存在なのだそうだ。
 
 
 
 トラミは一昨日の夜、この時代に来た筈である。
 その夜シンジが寝たのは11時前後だった。つまりトラミが来てから朝まで せいぜい7時間ぐらいしかない。
 いったい何時の間に六分儀家の銀行口座を調べたり、学校を休校にしたりしたのだろうか? と疑問に思っていたシンジだが 
 その答えが目の前の猫耳さんの海 とゆう訳だ。
 
 
 草木も眠る丑三つ時に、ご町内の道々を猫耳さんの行列が練り歩き、一軒一軒に侵入しては家人に『辻褄合わせ機』を押しつけて記憶を操作していく 
 とゆう、悪夢のような光景を想像してしまったシンジだった。
 
 
 
 
 「お茶ですニャ〜」
 
 胸に7と番号が貼ってある猫耳さん(猫スーツ装備)が、シンジに茶と茶菓子を持ってきた。
 麦茶の入った湯のみとシベリアケーキの乗った皿を卓の上に置き、そのままシンジと差し向いの席に腰掛ける。
 
 「ごめんなさいですニャ、不測の事態が起こったから1号はしばらく帰ってきませんですニャ」
 
 「不測の事態って‥ あの爆発のこと?」
 
 と、シンジは 羊羹をカステラで挟んだケーキをはぐはぐと食べる猫耳さんに尋ねた。
 
 「それも含めて色々ですニャ〜。シンジ君は『風呂屋の下駄理論』って知ってますニャ?」
 
 「‥知らない」
 
 
 
 風呂屋の下駄理論とは 
 
 ある人が裸足で銭湯に行き、帰りに別の客が履いてきた下駄を履いて帰ってしまう
 ↓
 下駄を持っていかれた客は 隣りの下駄箱の下駄を履いて帰る
 ↓
 隣の客は さらに隣りの客の下駄を履いて帰る
 ↓
 隣の隣の客は さらに隣の‥
 
 とゆう 落語の小話をモトネタにした多次元世界解釈である。
 
 とある世界から何らかの事情により、その世界に存在する要素が失われた場合 有るべきものが無い訳だから、当然不都合が生じる。
 しかし、取りあえず別の世界から失われた要素の代役を充填すると、存在を失った影響を緩和できる とゆう理論である。
 
 トラミ達の場合は下駄理論の逆法則 つまり
 別の世界(パラレルワールド)から異物が入り込んだ世界は、その世界に存在する『何か』を別世界へ送ることで、侵入した異物によって引き起こされる異変を最小限に留めることができる。
 とゆう解釈になる。
 
 
 「え〜と、それだと最後のお客さんは裸足で帰ることになっちゃうけど?」
 
 「24時間営業の風呂屋だから大丈夫ですニャ」
 
 冗談はさて置き、7号の説明によるとトラミたちの計画では 使徒迎撃戦やら人類補完計画やらを無事片付いてから、トラミたちの複製を造り別の世界の過去に送りこむこと で帳尻を合わせるつもりだったそうだ。
 
 「別の世界‥? トラミちゃんたちは未来から来たんじゃないのかい?」
 
 「この世界の、シンジ君の直接の未来から来たのではないですニャ。もしそんな事をしたらタイムパラドックスが起きて大変な事になりますニャ」
 
 タイムパラドックスとは 時間旅行ものと呼ばれるジャンルには付き物の概念だ。
 例えば 親殺しのパラドックス と呼ばれる事例を挙げてみよう。
 
 
 仮に シンジがタイムマシンなり何なりの効果で、シンジが生まれる前の時代‥ 1995年あたりに渡ったとしよう。
 
 そして紆余曲折を経て、ゲンドウはシンジの手によって死んだとする。
 すると六分儀ゲンドウは碇ユイと出会わなくなるわけで、当然ながら碇シンジも生まれてこない。生まれていない人間が存在する訳もないので、2015年にシンジは存在しないことになる。
 
 さて、そうなると1995年のゲンドウは 存在しない人間に殺されたことになってしまう。
 存在しない人間に殺される訳がないから、ゲンドウは生きているわけで‥ と、事態は収拾がつかなくなってしまう。
 
 時間遡行者の行為による因果律の乱れ。それがタイムパラドックスである。
 
 
 
 事態は芳しくない。
 次元間の異物排斥反応は、トラミたちが想定していたよりも相当に厳しいようだ。
 
 
 
 「予定調和が働かないってことは この世界の未来でボクらの複製を別の世界に送ることが出来ない可能性が有る ってコトですニャ〜」
 
 「‥つまり?」
 
 「ボクらは負けるかもしれない ってコトだよ」
 
 作業服姿のトラミ12号は パイプ椅子に腰掛けたシンジの後を通りすぎながら 素っ気無く言った。
 
 
 
 
 
 シンジがテントに入ってから1時間が過ぎた頃。
 
 「「「出来たニャー!!!」」」
 
 猫耳さんたちの歓声が、テントの布地を通して少年の鼓膜を揺すぶった。
 
 
 「では、完成を祝いまして 万歳三唱!」
 
 「「「「ばんざーい ばんざーい ばんざーい」」」」
 
 
 テントの外から聞こえてきた 数十人の猫耳さんによる万歳三唱 に興味を惹かれ外に出たシンジが見たものは‥
 丸まって日向ぼっこをしている巨大な虎猫‥にしか見えない 奇怪な物体だった。
 
 おそらくは速乾性のコンクリート造りと思われる、あえて言うならば 資金には恵まれているが経営者の趣味に問題のある幼稚園の園舎 のような建築物。
 
 トラ縞模様に塗りたくられた巨大な猫の像に、建物が埋めこまれているのだ。
 
 
 
 「‥何 これ?」
 
 シンジは呆然と、まだペンキも乾ききってない奇怪な建築物を見上げた。
 付いて出てきたトラミ7号を含め数人の猫耳さんが、彼の周りに群れ集い口々に説明を始める。
 
 「どう? 格好よいでしょ〜」
 
 「ボクらとシンジ君のおうちですニャ〜」
 
 「名付けて『猫ハウス』!」
 
 早速シンジは猫耳さんたちに連れられて 猫ハウスを案内されることになった。
 
 
 
 「あっちが寝室ですニャー」
 
 トラミ7号が指し示したドアには、妙に丸っこい手書きの文字で 『シンジくんの お・へ・や』(ハートマーク付き) などと書かれたプレートが掛けられている。
 はたしてどんな内装が施されているのか、確かめる気も起きない。
 
 
 
 一度に10人くらい入れそうな風呂場。
 
 「このお風呂は温泉なんだよー」
 
 「どこにでもドア と同じ原理で各地の名湯からお湯を引いてますニャー」
 
 「‥‥それって盗泉じゃないの?」
 
 浴槽の端に有る猫の彫像の口からお湯が出ているが、その猫の首のところにはそれぞれ『登別』『草津』『道後』などの泉源の名前が入った 数本のレバーが付いている。どうやらお湯の切り替えもブレンドもできるようだ。 
 
 何の意味があるのかは不明だが。
 
 
 
 なぜか風呂場の隣にはゲームコーナーが有る。
 その更に隣は運動ジムだ。
 
 
 「トレーニングルームは気圧を0から一万まで、重力は0.1Gから1000Gまで変えれるんだよ〜」
 
 「あのさ‥ 僕は地球人なんだけど?」
 
 猫ハウスの地下には温水プールもあるらしい。氷を張ればスケートリンクにもなる とのこと。
 
 
 
 
 その次は 台所に案内される。
 
 大火力のコンロを始め、台所の機材は下手な料理店の厨房よりも充実している。
 壁一つをそのまま使ってるような巨大冷蔵庫が設置され、その中には古今東西の食材が山と詰め込められている
 
 
 
 地下にはワイン倉まで有る。
 
 「僕にどうしろって言うのさ‥」
 
 「とりあえずラムネを入れてますニャー」
 
 「別に腐るものでもないから放っとくニャ」
 
 
 
 冷房が効きすぎなまでに効いている純和風の居間には 金襴緞子の布団カバーのついた掘り炬燵が据えつけられている。
 
 「‥‥何故カゴにメロンが入ってるの?」
 
 「ボクらはミカン嫌いだから」
 
 
 
 古今東西の名曲が揃えられたカラオケルーム。
 学術書からアイドル水着写真集まで、図書館並の書籍が詰めこまれた書庫。
 全ての映像ソフトを上映するのに100年はかかる視聴覚室。
 その他にも 屋内には様々な娯楽施設がある。
 
 
 
 猫ハウスの背中‥屋根の上に出られる造りになっている。
 屋根から見渡すと、この島は直径にして1キロ足らずの孤島であるらしい。
 風景はなかなかに良い。
 
 「布団干しは屋根に限りますね〜」
 
 「夜になったら、ちゃぶ台出してお茶にするニャー」
 
 
 
 
 猫ハウスを出た裏庭の中央には 1メートルごとに区切られた 9×9メートルの方形の台座が置かれている。
 台座の一方の端に大理石を彫り上げた馬の頭や砦の形をした人間サイズの石像が並べられている。その反対側には黒曜石の彫像が同じように並んでいるところをみると、チェス盤であるらしい。
 よく見ると、石像の一つ一つに台車が付いて動かせるようになっている。
 
 
 
 
 「こっちは畑だよ〜」
 
 まだ作物は植わってないが、よく掘り返された畑が連なる菜園。
 その一部はビニールハウスだ。菜園の隅には鶏小屋が建てられている。
 
 「やっぱ最初はニワトリからだよね〜 飼うの簡単でタマゴも取れるから」
 
 「後で菜園の周りに食べられる木を植えるニャー」
 
 
 
 
 「こっちが砂場だよ」
 
 「砂場?」
 
 「気持ちいいんだよ〜 後でシンジ君も一緒に砂浴びするニャ〜」
 
 「‥だから僕は人間なんだってば」
 
 
 
 「で、こっちが船着場だよ〜」
 
 「隣は塩田と養殖池だニャ」
 
 猫耳さんたちに連れられてやってきた海岸の入り江では 第一うみねこ丸 と横腹に記された小型漁船が波止場に繋がれていた。
 
 
 
 
 
 猫ハウスとその周辺を一通り見て廻った頃には、少年の気力はかなり削られていた。
 
 「で、いったいコノ家は何なのさ」
 
 「それはですね‥」
 
 「この家は、シンジ君の避難所なんです」
 
 「第三新東京の生活は、色々と辛い事が有ると思うニャー」
 
 「向こうでの生活に耐えられなくなったら、ここに逃げてきて 好きなだけ引き篭もるといいですニャー」
 
 「‥‥嫌な気の遣い方してくれるね、君ら」
 
 これはトラミなりの気遣いなのか、それとも安易に逃げださないようにプレッシャーを掛けているのだろうか。 
 シンジには判別付けづらいものがあった。
 
 
 
 
 からんからん と猫ハウスのドアベルが鳴る。
 
 「たっだいまー だニャ」
 
 トラミ(本物)が猫ハウスの玄関からリビングへと入ってきた。背中に大きな風呂敷包みを背負っている。
 
 「皆にお土産だニャ〜」 
 
 トラミは背中の風呂敷包みを降ろして、中身を次々と取り出した。
 
 「じゃが芋に〜バイエルンソーセージ〜ザゥアークラウト〜モーゼルワイン〜木苺のジャム〜」
 
 土産に群がる猫耳さんたちを横目にシンジは席を立ち、トラミに近寄った。
 
 「それで、もう用事は済んだの?」
 
 「うん。大まかな用はね」
 
 「じゃ 行こうか」
 
 身振りで出立を促す少年に、猫耳さんは躊躇いながら問いかける。
 
 「‥‥その、えっと‥いいのシンジ君? なんならこの島でずっと暮しても良いんだけど」
 
 少年は猫耳さんの手を取った。
 
 「良いことなのか悪いことなのか、分からないけどさ‥ 第三新東京には僕を待ってる人たちが居るんでしょ? だったら行ってみるよ」
 
 「それで‥良いの?」
 
 「どうしても駄目になったら ここに逃げてくるよ。もしそうなったら、トラミちゃんは僕と一緒に居てくれる‥ かな?」
 
 「うん!」
 
 喜色満面。猫耳少女型ロボットは勢いよく頷く。
 
 
 
 「では‥『何処にでもドア〜♪』」
 
 猫耳さんは 効果音と共にお腹のポケットから枠付きドアを引っ張り出した。
 
 
 
 
 
 
 そうして 薄幸の少年と猫耳さんは駅のトイレに帰還した。
 
 『清掃中』の看板をどけて、トイレから出ようとしたシンジとトイレの前で構内を見張っていた黒服の男の視線が合った。
 
 シンジは天敵にでくわした海老のような勢いで後退し、『どこにでもドア』をお腹のポケットにしまっていたトラミを抱えて個室に入りドアに鍵を掛ける。
 
 「シンジ君‥積極的なのは嬉しいけど、今はそんなことしてる「違うって」」
 
 少年の腕の中で 猫耳さんは俯き頬を赤らめて猫尻尾をふらふらと動かすが、当のシンジはそれどころではない。冷汗まみれである。
 
 
 黒服はトイレのドアを叩く。
 
 「開けたまえ碇シンジ君、我々はネルフ保安部の者だ。君を迎えに来たんだ」
 
 「‥あの、疑うわけじゃありませんが本当にネルフの人なんですか? 僕を迎えにくるのは違う人だと思ったんですけど」
 
 おもいっきり疑っている。
 
 「葛城一尉は急用が入って来れなくなった。我々が代理だ」
 
 
 「本物のお母さん山羊なら手を見せてみるニャー 手が白ければ本物だニャー」
 
 トラミの「オオカミと七匹の子山羊」ネタ振りを『身分証明証を見せろ』とゆう意味だと解釈した黒服は、懐からネルフカードを取り出してシンジから見えるように、個室上の空間にかざしてみせた。
 
 「これで良いかね?」
 
 
 写真つきのカードを見たシンジは トラミを背後の窓から外へと放り出し、壁を攀じ登った。
 続いて自分も窓に体をねじ込んで抜け出し、飛び降りて着地。
 
 「逃げるよ!」
 
 全力で走り出す。
 
 とててててて と足音を立て、トラミはホームを走るシンジに追いついて並んで走る。
 
 「いったいどうしたニャ?」
 
 「あの人達、偽者だよ! ヤクザかどこかのスパイだよっ!」
 
 「?」
 
 怪訝そうな顔をするトラミにシンジは
 
 「どこの世界に、スリーサイズ明記してる身分証明票を持った国際公務員がいるのさ!」
 
と 喚いた。黒服が少年に見せた身分証には、何故かBWHの数値が記されていたのだ。
 
 
 「‥それ、本物だよ」
 
 「はぁ?」
 
 トラミの呟きに、シンジの逃げ足が遅くなった。
 
 「信じたくないかもしれないけど、NERVの身分証明書にはスリーサイズが明記されてるんだニャー」
 
 役に立たないネルフ豆知識その1 ネルフの身分証明証にはスリーサイズが明記されている。
 
 (ネルフって‥父さんの職場って‥一体どんな所なんだろう‥)
 
 少年は軽い眩暈を覚えた。
 
 
 「‥本物だったのか。逃げなくても良かったのかな」
 
 引き返してさっきの人達にネルフ本部まで案内してもらおうかな などと、疾走から早足程度にまで速度を落としたシンジが考えていると‥
 駅正面の階段を駆け上がって、黒服姿の男たちが近付いてきた。
 
  
 「碇シンジ君だね」
 
 黒服は身分証を示し、本部まで同行を願う と用件を述べる。
 
 「‥どうしようトラミちゃん、せっかくだから送ってもらう?」
 
 「止めといた方が良いニャー。この人達は偽者だよ、中央情報局(CIA)のスパイ」
 
 「ほへ?」
 
 トラミのセリフにシンジが間抜けな声をあげるよりもやや早く、黒服の一人がトラミの首筋に手を伸ばした。
 ワンピースの奥襟を取る。襟を引いてトラミの後頭部をホームの柱(エントランス)に叩きつけるつもりなのだ。
 
 湿った音と渇いた音の混じった なんとも形容し難い音がした。
 
 「AAAAAAAAAA!!」
 
 明らかに日本語ではない絶叫をあげて、黒服は固まった。トラミの襟に伸ばされたその右手に、バネと鉄枠を四角い板につけた洋風ねずみ取りが食らいついている。
 
 「正体を偽るネズミには似合いの罰だニャ〜♪」
 
 トラミの襟に潜んでいたバネ動力トラップの威力は尋常ではなかった。黒服の親指に第三の関節ができて、ありえない角度に曲がっているのだ。
 粉砕骨折は間違いない。悲鳴を上げれるだけでも大したものだ、常人なら泡を吹いて失神している。
 
 シンジ正面の黒服が懐に手を伸ばした。残りの黒服たちはシンジとトラミを包囲しようと横に動く。
 包囲される前に、と突進するトラミ。
 
 ホームに黒服の柱が立った。
 
 
 
 黒服を 当たるを幸い爪で引っ掛け巻き上げ投げ飛ばして、少年の手を引き走る猫耳さんの前に新手の黒服たちが現れる。
 猫耳さんは引いてた手を離して、低い姿勢から転がるように黒服の群を襲う。
 
 「超〜突撃 猫アタック!」
 
 爆弾のごとき体当たりの後、爪や肉球や猫尻尾が続けざまに炸裂する。
 トラミの攻撃をくらった黒服たちは、ある者は十数メートル先まで突き飛ばされ、ある者は傷口から鮮血を噴出させ、ある者は幸せそうな笑みを浮かべつつ倒れ伏し、またある者は脚の骨をへし折られて転倒する。
 
 第二波を蹴散らしたトラミは駅前に出た。駅の周辺を捜索していたのであろう 黒服の群れがわらわらと押し寄せてくる。
 
 「雑魚がいくら来ても同じだニャー!」
 
 「いくらなんでも多すぎ〜! 逃げようよトラミちゃん〜」
 
 少年の泣き言に、猫耳さんは耳を貸さない。彼女の耳には見えない蓋が有るらしい。
 
 
 
 
・・・・・
 
 
 
 
 さてさて その頃箱根地下の穴倉では‥
 
 
 「『ゴジラ』、浦和方面から再上陸しました」
 
 発令所の巨大モニタに 燃料気化爆弾のキノコ雲の下をのし歩く黒い巨体が映し出されている。
 偉大なる現代兵器の殺傷力を嘲笑うかのように、異形の怪物は巨体に似合わぬゆっくりとした速度で歩いていく。
 
 
 「やはり効かないな」
 
 「ATフィールドを破らない限り、使徒に打撃を与えることはできん」
 
 「使徒ではないぞ」
 
 「‥‥ああ、そうだったな」
 
 腹の黒い髭男と爺さんが漫才じみた会話を交わす その下で。
 
 
 「伊豆の弾薬集積所、新横須賀の地下サイロ ときたら‥」
 
 腕組みして唸る、作戦部長 葛城ミサト。
 
 「次は新筑波の原発しかありませんね」
 
 その傍らに控える副官が、眼鏡の縁を光らせながら答える。
 
 
 黒い巨大生物は、既に数カ所の軍事施設を襲撃し完膚なきまでに破壊していた。
 襲われた施設の共通点は、何らかの核物質を貯蔵していたことである。
 どうやら 『ゴジラ』 と呼称される謎の敵性体は、高純度プルトニウムから劣化ウランまでのあらゆる核物質を探知できるらしい。
 
 なお、襲撃された施設にあった核物質はすべて『ゴジラ』に食われてしまっている。
 
 「使い道のない核弾頭はともかく、大口径弾薬が食われたのは痛いわね」
 
 「使用に制限があるとはいえ、威力は大きいですからねえ」
 
 
 
 「避難状況は?」
 
 「概ね完了。ですが‥日重の一部が居残ってます」
 
 「自殺志願者?」
 
 「いえ、自社製作の機動兵器で迎撃してみせると言っています」
 
 「‥‥ヘリは送ったんでしょ」
 
 「はい。乗りこみを拒否されましたが」
 
 「なら放置しときなさい。で、弐号機の状況は?」
 
 「装備変更にあと40分はかかります」
 
 「新筑波の受け入れ態勢は?」
 
 「ほぼ整いました、発電所はフル活動可能です」
 
 ならば良し と頷く作戦部長の背後から
 
 「また無茶な作戦を考えたものね」
 
 白衣姿の金髪な技術部長が呆れたように言う。
 
 
 「失礼ね〜 これでも一番勝率の高い作戦なのよ?」
 
 「勝率12.73%。ロッ○以外の球団なら解雇ものね」
 
 「まー MAGIの出す数字は0を半分にしろってのがここの常識だしぃ〜」
 
 「‥‥喧嘩売ってるのなら買うわよ」
 
 頭の上で始まった険悪なやり取りに、顔色を蒼くして震えていた童顔の女性オペレータはコンソールから戦場の異変を察知した。
 
 
 「アンノウン、接近!」
 
 天の助けとばかりに 北東方向から飛来する正体不明機の情報を大モニタに映し出す。
 
 成層圏に浮かぶ無人偵察機が収めた 不明機の映像がメインモニタに出る。 
 
 
 「見たことの無い機種ね」
 
 引っくり返したステンレス洗面器とフルフェイスのヘルメットを混ぜたような、奇妙な外見の飛行物体である。
 窓の類が存在せず、機体一面は丸みを帯びたつや消しメタルの装甲で覆われている。
機種分類的には ローター推進の重装甲イオノクラフトであるらしい。
 
 「‥まさか、これが噂の新型なのか」
 
 「知っているの?」
 
 長髪のオペレータの呟きを聴きとめた作戦部長が 続きを促す。
 
 
 「通称スーパーX。首都防衛用に試作された重装甲戦闘機です。‥これは噂っすけど、何でも対使徒戦闘を念頭に開発されたとか」
 
 
 「友軍反応有り‥ 三沢で性能試験中の機体です」
 
 「三沢基地? 出撃許可は出してないわよ、どうなってんの?」
 
 童顔のオペレータが三沢基地と連絡を取っている。
 
 「それがその、偉い人が勝手に出てしまったそうです」
 
 「誰よそいつ」
 
 「‥石田元防衛庁長官です」
 
 「ぐっ‥」
 
 ミサトが酢を一気のみしたような顔になる。
 
 (なぁんですってぇ〜〜! どこまで迷惑なオヤジなのよ〜 引退したのなら大人しくしてれば良いのに)
 
 
 日本がセカンドインパクトをなんとかくぐり抜けれたのは、自衛隊の功績が大きい。
 そして自衛隊が活躍できた要因は セカンドインパクト直前まで防衛庁長官であった石田コウセイ氏の手腕によるものだ。
 
 取った予算は キャンプファイアーの炊きつけにしてでも使いきるどこかの省庁と異なり、石田長官配裁下の自衛隊は設備・機材等の充実、武器・弾薬・食料・医薬品等の物資備蓄の確保等 実行能力の底上げに邁進してきたからだ。
 
 人格を含めて『非の打ち所なし』とは到底言えない人物だが、その功績は誰もが認めるところである。
 人脈も有ればシンパもいる、当然ながら敵も多い。迂闊に扱えない、まさに難物が難物に乗って出てきたのだ。
 
 ミサトは司令塔を仰いだ。
 
 
 「試作戦闘機の出撃を許可する」
 
 ゲンドウの鶴の一声で全ては決した。総責任者の現状追認により、以後何事もなかったかのように業務が続けられる。
 
 「‥いいのか、碇」
 
 「構わん。時間稼ぎぐらいは出来るだろう」
 
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 
 「は? だからシンジ君は見つかったの? 見つかってないの? どっち?」
 
 葛城ミサトが駅前に送った保安要員から発令所へと連絡が入る。だが受話器の向こう側の音がうるさくて、良く聞こえない。
 
 
 そのころ、当の駅前では‥
 
 「灰皿投げ! 揚げ鳥おじさん人形投げ! 放置自転車投げ! マンホールの蓋投げ!」
 
 駅前周辺にある様々な物が、猫耳さんの手で力任せに投げつけられていく。
 
 「うわあぁっ」
 
 「退避、退避っ!」
 
 嫌になるくらい澄んだ空を飛びゆく危険物を避けようと、逞しい黒服の男たちが右往左往している。
 
 
 「必殺っ 6tトラック投げ〜!」
 
 「ストップストップ! それはやり過ぎだよトラミちゃん」
 
 運送会社のトラックを振りまわす猫耳さんの裾を線の細い少年が掴み、思いとどまるよう説得しているが、あまり効果はないようだ。
 
 
 「あーそこの少年、危険だからこっちに来なさい」
 
 そんなシンジに向けて バリケードの陰に隠れた黒服の男たちのうち一人が、メガホン越しに呼びかけてきた。
 
 「危険なのはそっちだニャ! ○モのペ○野郎は故郷(くに)へ帰って聖歌隊の美少年といちゃついていればいいニャー!!」
 
 少年に避難を呼びかけていた ネルフでも某国でもない第三の組織の一員であるらしい黒服の男は、トラックを頭上に担ぎ上げている猫耳娘に秘密の性癖を暴露され狼狽した。
 目標の少年に対して、少なからず心惹かれていたその男は 部下にアレコレと無用の弁明を始めたところを
 
 バスッ「ぐはっっ」
 
 何者かに狙撃されて倒れる。
 
 
 
 
 「サードを確認。未確認勢力と交戦中、自力での確保は困難。増援頼む」
 
 大混乱の状況に、物陰に隠れながら増援を呼ぶ 本物のネルフ保安部員。
 
 「ガッデム! 髭魔王の犬どもがっ」
 
 「意外に手強いな‥ 戦自の援護はまだか!?」
 
 タクシー乗り場付近では、偽装がばれた偽黒服と本物の保安要員とが撃ち合いを始めていた。
 始めのうちは慎ましげな吐息だった銃声が消音器をかなぐり捨て剥き出された銃口による喚き合いとなるまで 1分もかからない。
 
 遂には40ミリ榴弾まで飛び交う始末である。
 
 
 
 敵が立て篭もるバリケードめがけて機銃を撃ちこみながら、8輪軽装甲車が駅前に突入する。
 だが、突入した途端に装甲車は横腹に携帯ロケット弾を受けて制御を失い 駅前ロータリー中央の噴水に衝突して横転してしまう。
 
 
 横転した戦略自衛隊の装甲車を盾にして撃ち合う黒服たちの頭上に、イオノクラフト特有の飛行音を轟然と響かせ チタニゥム合金製の暴竜が現われた。
 
 『こちらスカイキッド21、遅れてすまん。目標を指示してくれ』
 
 「良く来てくれた。発煙筒を投げるから南側を均してくれ」
 
 牛の唸り声のような 奇怪な咆哮。
 NERVの要請により駆け付けた戦自の重戦闘機が30ミリ機関砲を乱射して、駅舎を粉砕していく。
 
 
 
 
 結局のところ駅周辺の混乱は、目標である少年が謎の猫耳娘と共に
 ドサクサに紛れて現場から逃走するまで続くのであった。
 
 
 
 
 
 
 続く
 

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