警告!
 
              この物語には読者を不快にさせる要素が含まれています!
 
 
 
 
     現実と虚構の区別がつかない方
     パロディを許容できない方
     オリキャラの存在及び活躍に耐えられない方
     LAS展開を受け入れられない方
     猫と猫耳が嫌いな方
     真面目な物語が読みたい方 
     電波に耐性の無い方
 
     以上に当てはまる方は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい
 
 
     この物語は きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 
     戦艦大和様 JD‐NOVA様 のご支援ご協力を受けて完成致しました
 
 

 
 
 
 
 海
 
 それは生命の故郷
 
 地球上の全ての生命は この優しき子宮で育まれたのだ
 
 
 
 
 だが、故郷の記憶が、必ずしも良き思い出のみではないように‥
 
 陽光届くことなき深海には 人間が忘れているものが‥
 
 忘れたいと願う余り、人々が記憶の底に沈めている存在が‥
 
 今もなお 眠っている。
 
 
 
 否! 眠ってなどいない。
 忘れているのは 人間だけだ。
 海の底の 復仇戦を望むものたちは
 爪を研ぎ 牙を磨き 立ちあがる時を待っている
 
 
 
 
 
                  新世紀エヴァンゲリオン
           返品不可!! 〜猫印郵便小包〜
 
              第伍話 『怪獣大戦争/新たなる希望』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 お気楽猫耳ロボットと不幸の星を背負った少年の視界に、第三新東京市の街並が入った頃。
 南関東の荒野では、自重二万トンの黒い巨獣とつや消しメタルの重装甲戦闘機が対峙していた。
 
 「陽電子砲、発射開始」
 
 戦闘機とゆうよりは空中要塞な飛行物体の底部から、新しい砲身がせり出す。
 
 「出力全開!」
 
 「ベクター炉、臨界点まで761秒」
 
 「陽電子チャンバー開け」
 
 「陽電子注入」
 
 
 つや消しメタルの洗面器じみた重装甲戦闘機は、30メートル近い巨体を大出力ローターで浮かばせながら、必殺の一弾を装填する。
 
 「注入完了」
 「陽電子チャンバー、閉鎖」
 「機体高度良し」
 「塵密度許容範囲‥弾道に障害物無し」
 「磁場安定‥発射まで12秒」
 「相互座標安定、問題なし」 
 「照準良し!」
 「4‥3‥2‥1‥」
 「発射っ」
 
 陽電子‥磁場で固められた反物質の砲弾が、スーパーXの機体下部から放たれた。
 
 
 
 二万トンに及ぶ質量を持ち、その身をATフィールドに包む超生物といえど、音速の十倍以上の速度で迫る陽電子ビームを避けることは出来ない。
 
 束ねられた陽電子は『ゴジラ』の胴体中心に命中して、爆発する。
 数キロ以内の全生物を殺戮する熱波と衝撃波が、爆心地となった『ゴジラ』から周囲へと撒き散らされた。
 
 爆風により一時的に押しやられた空気が周囲の気圧に押し戻され、鉄筋コンクリート製でない全ての建造物を破壊する突風が、二度に渡り爆発範囲内を蹂躙する。
 
 天に向かい立ち昇る 赤く黒い、毒茸のような爆発雲。
 陽電子砲の一撃は、核はおろかN2兵器すら遥かに超える威力を持っているのだ。
 
 
 瞬間的に一億度を越えた筈の爆心地に、蠢く巨体。
 火薬にして一万トン分以上の爆圧を受けた筈の目標‥黒い巨獣は吹き上げる突風をものともせず、立ち昇る禍々しい雲の下を悠然と歩いていた。
 
 ぐるぐると、猫のように喉を鳴らしながら。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 第三新東京に向かい、芦ノ湖沿いの街道をローラーブレードで走り抜ける、少年と猫耳さん。
 物騒な見た目に抵抗感があったが、使ってみると補助動力と転倒防止装置付きのローラーブレードは簡単で爽快な乗り物だった。
 
 「さっきのあれがエヴァンゲリオンなんだね」
 
 「そうだよ〜あれがエヴァ弐号機。筑波で怪獣が暴れているから、退治に行ったんだ」
 
 走りながら、猫耳少女型ロボットは先ほど上空を飛んでいった巨大輸送機と赤い巨体人型兵器について、少年に説明していた。
 
 
 「うーん‥ 確かに怪獣退治は『人類を守る大切な仕事』だよね」
 
 父が務めているネルフなる組織は身分証明鉦にスリーサイズが明記されている変な所だが、一応看板に合った仕事はしているらしい ‥と少年は安堵する。
 
 「ATフィールド持ちの敵には、エヴァでもないと対抗できないからね〜」
 
 「でも、N2爆弾は効いたんじゃなかったっけ?」
 
 駅で聞いた爆発音‥伊豆大島沖で炸裂した計200キロトンのN2機雷は使徒サキエルに対しそれなりの効果を発揮している。
 
 「N2は効くことは効くけど、それだけじゃ使徒は倒せないよ。丁度実況中継やってるから見てみるニャ〜」
 
 シンジは一旦足を止め、湖畔の木蔭に入って休むことにした。
 少年と猫耳さんは猫スーツのおなかから出てきたスポーツドリンクを飲みつつ、同じく猫腹ポケットから引っ張り出された液晶モニタを眺める。 
 実況番組では、丁度現場からスタジオへとカメラが切り替わるところだった。
 
 
 
 
 南海の孤島、猫ヶ島。
 シンジとトラミの隠れ家『猫ハウス』が完成したばかりであるこの島は、常時数十匹の猫耳さんが居住する猫耳さんの楽園である。
 
 何十体もいるわけだから、色々な猫耳さんがいる。
 服装はもちろんのこと姿形にも実は微妙に差があるのだ。
 
 今現在の行動も様々だ。
 ある猫耳さんは屋上で洗濯物を干し、またある猫耳さんは裏庭で畑を耕している。
 麦藁帽子を被り波止場で釣り糸を垂れる猫耳さんもいれば、砂浜でスイカ割りをしている猫耳さんの一団もいる。
 
 どんな夢を見ているのか不明だが
「‥う〜ん うぅ〜ん たらこが‥たらこが増えすぎてるよぅ‥」
 などと魘されつつ、ハンモックで昼寝している猫耳さんもいれば
 
 「シンジ君の‥ シンジ君の馬鹿ぁ〜」
 夢にまで見た、美少年とのトロピカルな生活とゆう未来が泡沫のように空しく消えてしまい、悲しみのあまり厨房でヤケ酒をあおっている猫耳さんもいる。
 
 
 
 無論、全ての猫耳さんが職務放棄とゆうか、使命を投げ出しているわけではない。
 対『ゴジラ』戦、対『使徒』戦を陰から支援するために、ある猫耳さんは南西太平洋の海中4000メートルに潜り‥ またある猫耳さんは透明モードで筑波上空に待機している。
 さらに猫ハウスのホールでは、それら外部に出ている猫耳さんたちを猫耳さんの司令部が統括している。
 
 
 そして、一部のより暇な猫耳さんたちは猫ハウス内に撮影スタジオを作り、『緊急特番!三大怪獣世紀の激突!!』などとゆう報道番組を生放送していたりするのだった。
 
 
 キャスター役のトラミ35号が、解説者役のトラミ13号に質問する。
 
 「えー13号さん。世紀の激突の前哨戦とも言える、スーパーX対『ゴジラ』の対戦ですが、これはもう実質的な勝負は付いたものと考えて良いのでしょうか?」
 
 「そうですねー ポジトロン砲以外の切り札がない限り、付いたものと見て良いんじゃありませんかねー」
 
 「ところで13号さん。何故スーパーXのポジトロン砲は通用しなかったのでしょうか?」
 
 「一言で言ってしまえば、ATフィールドに対する無知ですねー。戦略自衛隊はATフィールドを他の防壁と同じように捉えているようですねー」
 
 「と言いますと?」
 
 「何故にN2兵器がATフィールドに対してある程度まで通じるかと言いますと‥ そもそもATフィールドとは外部から受けたエネルギーを次元断層を通じて別の世界へと逃がすものなのですねー」
 
 
 トラミ35号と13号の背後に、アニメーション付きの図解が表示される。
エヴァンゲリオンらしき人型にビームらしい透過光の線が伸びていくが、人型の前に発生した薄い半透明な壁のようなものに触れると、透過光は消えてしまう。
 
 
 「しかしながら、N2兵器のような大規模な爆発が起きますとー、爆心地付近に不規則な時空の歪みが発生するのですねー」
 
 「時空の歪みですか。確かに大きな質量の近くでは時空に歪みが起こりますが‥すると、その時空の歪みがATフィールドの効果を弱めてしまうのですね?」
 
 
 質量と時空には密接な関係がある。それを最も分かりやすく表す現象が、巨大過ぎる質量によって空間に穿たれた穴‥即ちブラックホールだ。
 そしてエネルギーとは根本的に言えば質量と同じものである。強大なエネルギーの発現は周囲の空間を歪めるのだ。
 
 
 「そうゆうことです。ATフィールドは時空をランダムに振動させる兵器に対しては完全な防壁とはならないわけですねー」
 
 「しかし、それならポジトロン砲も大規模爆発兵器ですから、効きそうに思えるのですが?」
 
 「対消滅による爆発自体はATフィールドにも有効なのですが、問題はポジトロン砲はビームである、とゆうことですねー。ポジトロンビームとは即ち陽電子の束ですねー。粒子が纏められているのです」
 
 「まあ、ビームとして束ねられていない陽電子を発射したら、その場で大気と反応して自爆してしまう可能性が有りますからね」
 
 
 通常の物質は、原子規模で見れば隙間だらけである。
 原子間の密度に比べれば、太陽系周辺の恒星密度は通勤時間帯の電車内にも等しい。
 ある試算によれば、同規模の銀河系同士が衝突しても実際にぶつかる(影響を受ける)恒星は数個程度であるとゆう。
 
 だが、原子間の密度が天文学的薄さであっても、発射された陽電子の進む距離が長ければ、途中で接触し対消滅を起こす原子が一定数出ることになる。
 対消滅は莫大なエネルギーを生み出し、生み出されたエネルギーは陽電子とその進路上の物質を激しく攪拌して双方の接触する可能性をさらに高める。
 この連鎖反応が短い時間に加速度的拡大を遂げると、それは爆発と呼ばれるものになる。
 
 つまり陽電子弾は大気圏内で使用した場合、発射直後に砲口付近で爆発する宿命にある。
 発射する陽電子の密度を極端に抑えれば爆発しないかもしれないが、その場合は目標に到達する前に陽電子が蒸発してしまうだろう。
 
 スーパーXが搭載しているポジトロン砲は、この欠点を改良して実戦で使えるように仕上げたものである。
 陽電子の向き‥運動する方向を揃え、ビームとして束ねられた形で打ち出すからこそ、発射された陽電子が大気中の原子と原子の隙間をすり抜けて目標まで届くのだ。
 スプリング(バネ)は金網を通らないが、スプリングになる前の針金なら金網を通る。そうゆうことだ。
 
 
 「つまり、ポジトロン砲によって撃ち出された陽電子は、極めて秩序立った状態でATフィールドに衝突し、反射され大気と反応して爆発するわけです。
 元々きれいに並べられているので、爆発による時空振動のランダム性が低くなるわけですねー。
 更にその上ATフィールドに触れてから爆発するわけですから、ATフィールドを張っている側としては時空振動の幅を予測し易いのですねー」
 
 「なるほど、時空振動がランダムで読みにくいN2兵器の方が、受けたダメージを異空間へ逃がし難い訳ですね」
 
 「そうゆうことです。これがポジトロンビームではなくポジトロン爆雷とか地雷とかならそれなりに効いたでしょうねー。ま、N2の方がコストパフォーマンスは良いかもしれませんが」
 
 「総体的に見て、ATフィールドに対してはN2兵器の方が有効なわけですね」
 
 「ATフィールドを中和しない限り、そうゆうことになりますねー。誤解のないよう申しますが、ポジトロン砲は極めて強力な兵器ですよ。ATフィールドに対しては相性が悪いだけです」
 
 「‥えー、ここで一旦CMに入ります。CMの後は『徹底分析、エヴァ弐号機の全て!』お楽しみください」
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 南海の孤島から生放送中の実況番組がCMに入った頃
 
 第三新東京の市街から二百キロは軽く離れた旧南関東地区の荒野では‥
 ATフィールドをどうにかできない者達が、ATフィールドを持つ存在をどうにかしようと、空しい努力を重ねていた。
 
 
 「ベクター炉、限界点まで250秒!」
 
 「陽電子チャンバー閉鎖」
 「陽電子タンク残量0、これで最後です」
 「リニアカノン、残弾7」
 「ロケットランチャー、残弾2」
 「収束レーザー砲、冷却完了まで45秒」
 
 
 「糞っ 奴は不死身か!?」
 
 ポジトロンビーム砲は、一定方向への貫通力だけなら戦略核すら凌ぐ。
 黒い巨獣はそれを四発くらって ほぼ無傷。呆れるほどの頑丈さだ。
 
 「‥なんとゆうことだ」
 
 これまで無言を貫いてきた石田元長官が、誰にも聞き取れぬほどの小声で呟く。
 15年の時をかけ、予算問題で職を辞してまで推し進めた超兵器計画が‥
 人類の英知が、まるで通じない。
 
 
 
 「放射、来ます」
 「回避!」
 
 重装甲戦闘機は、怪物の吐く高温高圧の息を辛うじて避ける。
 辛うじて、だ。機動性は大幅に落ちていた。わざと受けてみる余裕など、とうの昔に消え果てている。
 
 「機長、ここは退きましょう」
 「退却はできない」
 「しかし、もう弾が」
 「筑波には稼動中の原発と三千人が避難中のシェルターがある。退くことはできん。何としてでもネルフの機体が来るまで持ちこたえるのだ!」
 
 
 重装甲戦闘機は残り少ない弾を散発的に撃ちかけつつ、黒い巨獣の攻撃を必死に避け続ける。
 だが、いつまでも避けられるわけがない。数度の直撃を浴びた機体装甲は劣化し、表面の輝きと防御力を共に失ってゆく。
 
 「ベクター炉、限界点まであと65秒!」
 「リニアカノン、残弾0」
 「マグネコーティング、剥離!」
 
 機長は振り返り、最後尾の席に座る老人に詫びた。
 
 「申し訳ありません、長官。三沢には帰れそうもありません」
 
 「気にしないでくれ。好きで乗った船だ、文句はないよ」
 
 石田は額に一筋の汗を浮かべながらも、精一杯の平静さを装って機長‥神宮寺三佐に応える。
 元高官だろうが現高官だろうが、所詮戦場では死過重(デッドウェイト)に過ぎない。元長官は、自分には何も言う権利はないことを弁えていた。
 
 
 しぶとい敵がようやく弱ってきたことを察知した巨獣は、勝利を確信し雄叫びを上げる。
 
 
 
 
 吼える巨獣めがけて、一発の大型ミサイルが地面を這うようにして飛んできた。
 
 巨獣は巡航ミサイルを尻尾の先で無造作に叩き落とす。その隙に、爆発と沸き起こる土煙に隠れてスーパーXはなんとか後退する。
 
 
 派手な色彩の巨大な戦闘機械が、地平線の彼方からやって来る。
 二本の無限軌道で荒野を踏み拉き、土煙を巻き上げながら。
 
 総重量2000トンを遥かに越えるであろう車体の上に、蛇腹腕と厳つい顔を持つ分厚い人型の胴体が乗っている。
 肩・腕・背中と至る所に武器を搭載したその姿は、洗練された生物的なフォルムを持つエヴァンゲリオンや、簡素な合理主義を感じさせるスーパーXとは明らかに違う印象を見るものに与える。
 なんとも異様な機械だ。
 
 
 第三の闘士、ジェットアローン 推参。
 南関東の闘いは、これからが本番なのだ。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 「ベクター炉、停止。通常動力に切り替えます」
 
 使用時間に制限がある特殊動力炉を休ませる為に、超重装甲戦闘機は地表効果によって浮力を稼げる低空飛行に切り替えていた。
 『ゴジラ』から距離を取りつつはあるものの、まだ戦闘を止めるつもりはない。
 
 スーパーXは、武装の殆どは弾切れもしくは要修理状態で使用不可能、装甲も殆ど意味を成さないほどに弱まってしまったが、索敵・偵察及び情報処理能力はまだまだ健在だ。
 ネルフの機体を情報面で支援することも不可能ではないし、支援は無理でもせめて情報の収集ぐらいはしておきたい。
 指揮権を持っているのはネルフ側なので、「時間稼ぎご苦労様。とっととお家に帰ってね」と言われれば大人しく帰るしかないのだが、帰れと言われるまでは残って情報収集に努めるつもりである。
 
 効率的な国防には、情報が欠かせない。
 遅くとも数分後には 彼らのスーパーXを撃墜寸前まで追い込んだ黒い魔獣と、ネルフ自慢の超兵器が激突するのだ。これを見逃す手はないではないか。
 
 
 「あれが日重の機械か。‥人型だと聞いていたんだがな」
 
 盛大に土煙を上げながらキャタピラを唸らせて走るジェットアローンの姿を見て、機長が呟くと、それを聞きとめた元長官が応じる。
 
 「妥当な選択ではないかね? 生体を培養したと聞くエヴァンゲリオンならともかく、機械に二足歩行させる意味は少ないだろう」
 
 「それを言い出したら、ロボットの上半身も要らないでしょう。砲塔と火器で充分です」
 
 苦笑混じりに返した機長の言葉に、『違いない』と操縦席の自衛官達+同乗者一名は控えめに笑いつつ同意する。
 
 さて、ついでだ。ネルフ自慢の機体が来るまで日重の戦闘機械がどこまで粘れるかも観察しておこう。
 無人操縦とゆう話なので、日重の機械が『ゴジラ』に齧られようが熔かされようが自衛官としての良心は大して痛まない。
 退避するチャンスを作ってくれたことには感謝しているが、戦場に素人が手作り兵器で乱入するのはいただけない。
 高価な機材を壊されたくなければ、逃げるべきなのだ。
 逃げ回っていても、ネルフの機体が来るまでならなんとか持つだろう。
 
 と、まあ‥ 敗者である彼らは、直ぐに同じ境遇となるであろう新たな挑戦者を半ば同情の目でみていたのだが‥
 
 
 「うーむ、少々早すぎたか‥ まあ良い。 行け! ジェットアローン、お前が最強の被造物であることを証明するのだ!」
 
 突然に超重戦闘機のコクピット内に響き渡った中年男の大声に、彼らのそんな気分は吹き飛ばされる。
 
 「な、なんだ今の声は!?」
 
 確認を求める機長‥神宮寺三佐に、情報担当の毛利二尉が報告する。
 
 「外部からの強制出力です!」
 
 「‥‥外部から、だと?」
 
 「馬鹿な! 作戦行動中のスーパーXの制御系に割り込むことなど出来る筈がない! たとえMAGIシステムであっても不可能だ!」
 
 だが、確かに聞こえる。異形の怪物と異形の戦闘機械の対決を実況中継する、謎の声が。
 
 
 
 
 大型ミサイルを撃ち尽くしたジェットアローンは空になったランチャーを捨てた。
 車体前部に載せてある六連発ロケットランチャー(所謂バズーカタイプの兵器)と、四連装砲身のレーザーライフルを左右の蛇腹腕の先に付いているマニピレーターで掴み、構える。
 
 対する『ゴジラ』は新たな敵の武装変更に全く頓着せず、黒い巨体を揺らしながら前進する。
 当然ではある。
 いかに大型火器とはいえ、彼(彼女?)にとって紙つぶてにも等しい通常兵器の攻撃に何の警戒が要るとゆうのだろうか。
 
 
 「くくくく‥掛かったな、阿呆が」
 
 スーパーXのコクピットに、またもや怪しい中年男の声が大音量で流れる。
 
 
 「今だ! ATフィールド中和光線、照射!!」
 
 ジェットアローンの左肩に取り付けられた投光器のような機械から、赤紫色の指向性を帯びた光が『ゴジラ』に降り注ぐ。
 謎の声がATフィールド中和光線と呼ぶ、謎の光は『ゴジラ』の周りに奇妙な効果を発揮していた。『ゴジラ』の周りに陽炎でも立ったかのように、黒い巨体が歪んで見えるのだ。
 
 歪んだ鏡に映る姿のように見える、黒い魔獣の顔面にJAの放ったロケット弾が命中して‥ そして、爆炎と共に血飛沫が飛び散った。
 
 不可侵のはずの黒い表皮が破れ、左顎辺りの筋肉が剥き出しになっている。
 おそらくは生まれて初めて味わう激痛に絶叫を上げる魔獣の口中に、極太のレーザーが叩き込まれた。
 光子の塊が舌を貫通して喉の奥を焼く感触に、のけぞった黒い怪物はバランスを崩し、走りながら転倒する。
 自重二万トンの巨体が崩れ落ち、地に転がる大衝撃。
 
 不可侵の筈のATフィールドは 破られた。
 黒い魔獣は、もはや無敵の存在ではない。
 
 地響きを立てて倒れ、大地に半ばめり込みながら転がる『神の獣』に 人の造りし得物が続けざまに叩き込まれ、その度に黒い表皮が、背びれが、鮮血が飛び散る。
 
 
 神の使者である使徒。
 その使徒に匹敵する人類最強の切り札、EVA弐号機が南関東の戦場に到達するまで、あと二分足らず。
 
 弐号機がこの地に降り立つとき、立っているのは『ゴジラ』なのかジェットアローンなのか‥ それはまだ誰にも分からないことなのだった。
 
 
 
続く
 

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