警告!!
この物語には 読者に不快感を与える要素が含まれています!
読んで気分を害された方は、直ちに撤退してください!
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・宗教・学問等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退してください。
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・微弱電波・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます。
以上の属性に拒絶反応が出る方は、お読みにならないことをお勧めします。
作品中に 所々寒いギャグが含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご勘弁ください。
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様 きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その8』
俺の名は与渡大輔。17歳。
つい昨夜ハーレムを手に入れたばかりの高校二年生だ。
ハーレムの面子は、今のところ二名。
素直で健気で可愛らしい、ロリータな女子中学生 と 美人で色気も母性もたっぷりな、若い後家さんの二人だ。
こんな美少女と美女を奴隷妻にできるとは‥俺は果報者じゃよ。
まぁ その二人は俺と血の繋がった実の妹と母なわけだがな。
俺は家庭内で後宮(ハーレム)を築いてしまったのだ。
しかし、これは特におかしな事ではない。
そもそも人類が近親婚を禁じるようになってから、まだ一万年も経っていない。
ほんの数千年前‥部族社会が形成されるまでは、人類は家族単位で生活していて、同じ親から生まれた者同士かあるいは親子で子作りしていたんだ。
ときどき他所の子供を攫ってきて嫁さんや婿にすることはあったけど、人類は発生してから20万年近くの間、基本的に近親婚で増えてきたんだ。
近親婚がタブーとなったのは、人類の数が増えて部族社会が形成されたからだ。
古代人たちは 部族同士の血盟関係を維持するために、嫁と婿を部族同士で交換しあう為に近親婚を禁止したのじゃよ。
共に育った兄妹や姉弟が愛し合うのは当然じゃからなー
厳しく禁じておかないと同じ家族、同じ部族のなかでくっついてしまうから、他所に送り出す婿や嫁が不足してしまうのじゃよ。
嫁や婿の行き来が減ると他部族との同盟関係が弱まってしまい、部族の将来に暗雲立ち込めてしまうからな。
と、まあ こうゆう訳で契約や信用制度が発達した現代においては、血縁による同盟維持はさほどの重要事ではないから、近親愛は忌避されるべきものではないのじゃよ。
なに? その理屈はおかしい とな?
良いじゃねーか、当事者は幸せなんだから。
日本の法律には「直系及び三親等以内の傍系血縁者は結婚してはならない」とゆう条文はあっても「親子や兄妹で愛し合うな」とゆうような条文は無いしのー。
で、まぁ その なんだ、今の俺は目覚めたばかりなのだが‥ 母さんの乳を咥えたまま寝ていたのかよ、俺。
反対側の乳房には由香が吸い付いて、眠っている。
母さんはと言えば 俺達の頭を抱きかかえたまま、幸せそうな寝顔を見せている。
まあ、母さんにとっては四年ぶりの満たされた一夜だったからな。
いや違う。
母さん‥美香は昨夜初めて、母として女として『最高の幸せ』を味わったんだ。
半ば以上魔界アイテムの力による無理矢理な『幸せ』だが‥ なに、直ぐに本当の幸せになるさ。
「‥ぅん おにいちゃん」
ん? なんだ寝言か。
由香が微かに身動ぎして、俺の分身を握り締めてきた。
どうやら妹は俺のものに触ったまま寝ていたらしい。
おおっ 由香のやつ、眠りながら俺のものを擦りはじめましたよ。
にへらっ とした笑顔からして、夢の中で俺といちゃいちゃしているらしい。
むう。何やら理不尽な怒りがこみ上げてきたぞ。
夢の中の俺に対して嫉妬してしまった俺は全裸の妹を抱きすくめ、目覚めのキスを敢行するのだった。
起きろ由香。起きないと、このまま犯しちゃうぞ。
お前の許可もないまま、お前の中に勝手に入ってしまうぞ、妹よ。それでも良いのか?
「‥ぅん」
寝ぼけたままキスを返してくる妹の耳元で、鬼畜な言葉を囁く。
キスでは起きないのか。寝ぼすけなお姫様だ。
良し。では反対の声もないようなので犯してしまうことにしよう。
俺は由香の小さくて細い腰を抱えて、淡いピンクの肉をかき分けて侵入する。
前戯なしだが、妹の中に残っていた つい四時間ほど前に注いだ俺の精液とその時の愛液が潤滑液になっているので、割と楽に入った。
「あぁんっ」
おお、流石に目が覚めたか。おはよう、由香。
「おにい‥ちゃん?」
いや、まだ完全には覚めてないようだな。
夢の中で俺とえっちしていて、目が覚めたらえっちの続きなのだから混乱するのも当然だが。
ふふふ。直ぐに夢心地にしてあげるからね。
たった一晩とはいえ、実戦を経験した俺はもう童貞ではない。
若葉マークは取れていないかもしれんが、代わりに由香の体のことなら隅々まで知って‥いや、解っている。
俺と由香は相性抜群のパートナーなのだ。お互い、何処が気持ち良いのか手に取るように解ってしまうのじゃよ。
だから俺の腰つかいも昨日の夕方とは段違いだ。
ひとこすりごとに、確実に由香の官能を引き起こせるのだ。
「お、おにいちゃん‥ ひょんなにうごかないで」
ん? 激しすぎたかい、妹よ?
「そんなに う、うごいたら逝っちゃうよ‥ お、お願い 由香にお兄ちゃんをゆっくり味あわせて欲しいの」
動きを緩めた俺に、妹は息も絶え絶えに訴える。
解ったよ。今日一番のえっちは、ゆっくりじっくり上り詰めていくことにしよう。
そして俺は忍耐心の限界まで耐え抜いて、じっくりと妹を可愛がった。
途中から起きた母さんも加えて一緒に可愛がると、敏感な妹は何度も何度も逝って俺を楽しませてくれた。
2
さて、親子仲良く同じベッドで一晩を過ごし、なおかつ朝一番のえっちまでこなしてしまった俺達ですが‥
日曜だとゆうのに、それからは一切えっちをしておりません。
朝えっちの後は 風呂に入ったり飯を食べたり掃除や洗濯や寝室の模様替えとかで忙しかったからな。
由香には掃除洗濯が一段落ついたら仮眠を取らせた。睡眠不足が堪える年頃だしな。
何故また模様変えするのかと言えば 母さんは父さんと離婚して、俺のものになっちゃったからだ。
離縁した以上、もう『夫婦の寝室』に父さんの遺物を置いておくわけにはいかないのじゃよ。
父さんの服やら家具やら何やらは物置にしまって、この際ついでに雰囲気を変える為に家具の一部も買い換えることにしたのだ。
そんなわけで、俺達親子は駅前のデパートまで来ております。
親子三人で駅前のデパートで色々と買い物をする。
要る物を全部買っていたら日が暮れてしまうので、とりあえず必要最低限のものだけだ。
残りは追々買い揃えていけば良いしな。
買い換えると言えば、母さんの服や下着はかなりの割合で買い換えなくてはならんのじゃよ。
母さんは体型が変わってしまったから、一晩で服の半分と下着の八割以上が合わなくなってしまったのじゃよ。
なにせ、一気に10年近く若返ってしまったからのう。
服以外の買い物をあらかた済ませた後、駅に近い中華料理屋『金龍館』で昼食にする。
ここは街で一〜二を争う程の良い中華を出す店なのだ。
母さんが注文した料理は
前菜に スッポンの煮凝りの冷菜
湯に 山椒魚の燻製や田七人参をふんだんに使ったスープ
点心に 干しナマコや干しアワビの海鮮餡入り蒸し饅頭
主菜に 上海蟹の蟹玉炒めと殻詰め焼き 八つ目鰻の八宝菜
デザート代わりに ツバメの巣のココナッツミルク仕立て
果物に 竜眼始め南国系果物盛り合わせ
食後茶に 金龍館特製の薬草茶
とゆう組み立てだ。
‥‥なんか、えらく元気になりそうな献立(メニュー)ですね、母さん。
無言のプレッシャーを感じるのは気のせいですか?
ええい かくなる上は食い倒すのみ! 今夜に備えて、たっぷり食って体力付けておこう。
て、おい由香。なまこ饅頭ばかり食べるんじゃありません。にいちゃんにも残しなさい。
美味い料理をたらふく食べた後、のんびりと食休みしてから買い物に戻る。
と 言っても女の買い物に付き合う根性は持ち合わせていないので、服は二人に任せることにした。
「えー? それはないよー お兄ちゃんに選んで貰おうと思ったのに」
んー いや、お前の服はお前のセンスに任せるよ。
妹よ。うんと可愛い服を選んで、俺を驚かせておくれ。
不満げな妹をなんとかなだめて、俺は単独行動に移ることにした。
3
さて、妹の機嫌を損ねてまで単独行動に拘る理由はと言うと‥ まあ、男の意地かのう。
俺は17歳の高校生、選挙権も無いし馬券を買うことも出来ない身分だ。
つまり法律上は半人前扱いな訳だな。
で、俺の衣食住は保護者‥つまり母さんの懐から出ている。
親子だから当然と言えば当然だが、仮にもハーレムの主が女に養って貰っているとゆうのは問題あるじゃろ?
ヒモとゆーかジゴロとゆーか、そうゆう人生は間違っていると思うんじゃよ。俺的には。
少なくとも将来の『王』を目指すからには、小遣い銭ぐらいは自分で稼がんとな。
それに、もうすぐ沙希ねぇの誕生日じゃしのー。
金をかければ良いとゆうものでもないが、粗末なプレゼントを贈る訳にはいかん。
そんな訳で 俺は今から小遣い稼ぎに行くのだ。
稼ぐアテはある。なんせ俺には悪魔がついているからな。
「腹減った‥」
まあ、頼りにならないこと夥しい悪魔だがな。
ええい景気の悪い面するんじゃない。さっきフカヒレ饅頭を分けてやっただろうが。
「そうは言うがな支配者よ。三十年ぶりの飯屋で食ったものが饅頭一個と蟹三匹と果物だけでは、かえって腹が減るぞ」
分かった分かった、金が入ったら美味いもの食わせてやるから それまで我慢しろ。
それに、悪魔は一ヶ月ぐらい飯抜きでも平気なんだろ?
「この前飯食ったのが丁度一ヶ月前でなぁ」
嘘つけ! 魔界の実家でお袋さんの手料理を食い溜めしてきた って朝がた言ってたじゃねえか。
‥て あれ? お前は俺に一切嘘が言えない筈だったよな?
「今のは嘘ではなく、『軽口』と呼ぶべきだな。支配者よ。俺と貴様は冗談が言えるぐらいには親しくなった とゆうことだ」
そう言って肩をゆすり、ごっつい顔面以外の全身を黒タイツで被った悪魔は、実に嫌な笑みを浮かべてみせるのだった。
お前は笑うな、頼むから。精神衛生に悪い。
俺の隣にいる黒タイツの大男はサタえもん。魔界からやってきた悪魔だ。
悪魔といっても魂取り扱いの免許すら持っていない、へっぽこな奴なのだが‥こんなのでも俺の相棒なのだ。
いや、最下級のへっぽこ悪魔だからこそ、コンビが組めるんだがな。
賢く聡い切れ者悪魔が相手なら、俺はあっとゆうまに騙されて何もかも巻き上げられてしまうだろう。
何の自慢にもならないが、俺は頭が悪いのだ。それもかなり。
さてと、サタえもんと駄弁りながら街を歩いているわけだが‥ おっと、俺とサタえもんは言葉に出さなくてもテレパシーみたいなもので会話できるから、街の人から見てもそれ程変ではない。
変には見えない筈だ、多分。
サタえもんは30年以上前に『魂取り扱い免許』を剥奪されて以来、地上へは来ていないのだそうだ。
30年か‥ 俺はまだ生まれてないな。それどころか、母さんが幼稚園に入る前じゃねえか。
とゆうことは、コイツはラーメンの爆発的進化も激辛ブームもナタデココデビューも讃岐うどんの驚異も知らないんだろうな。
自動販売機の缶ジュースが、350ミリになってるのに感心してたぐらいだし。
ちょっとした浦島太郎か。
『金龍館』の飯に拘っていたのはそのせいかもしれん。
だからサタえもんは目的地の存在は知っていても、そこまで行く道は知らない。
昔とは街の様子がすっかり変わっているので、悪魔のくせに一人で歩かせると迷子になりかねないのじゃよ。
良し、着いたぞ。この質屋が目的地だ。
4
カランコロン と硝子のベルを鳴らして扉を開け、薄暗い店の中に入る。
空調なんぞ無い筈なのにひんやりと涼しく、静かな店内は独特の漢方薬の匂いで満たされている。
棚やガラスケースには漢方薬や乾物だけではなく、小奇麗な置物や衣服やその他良く分からないものが所狭しと並べられ、飾り立てられている。
勿論、床には塵一つ落ちていない。
入ってきた俺に、店の奥に座った恰幅の良い‥とゆうか肥満体な爺さんが
「おー 坊主、また来たネ」
と怪しげな訛りの日本語で、ナマズ髭を撫でながら愛想よく声を掛けてきた。
やあ、陳さん久しぶり。
この体脂肪率高めな爺さんは陳定民といって、この質屋兼雑貨屋の主人だ。
俺の祖父である源一郎爺さんとは、戦争中からの付き合いなのだそうだ。
国籍は日本なんだけどな。戦後直ぐに帰化したから。
上海生まれの上海育ちだとゆう話だが、俺は元から日本人のなんちゃって華僑なんじゃないかと疑っている。
陳さんは 中華街の本物の華僑とは付き合いが無いしな。
まあ本人に言わせると、あっちは福建あたりからの移民で上海人の陳さんとは殆ど別国人なのだそうだが。
「さて。今日は何持って来たネ」
長年の勘なのか、陳さんは俺が買いに来たのか売りに来たのか一目で当ててしまう。
俺の表情はそんなに解り易いのだろうか?
まあいい、早速商談に入ろう。陳さん、これ幾らで買って貰えるかな?
俺はバッグから金塊を出して、無造作にカウンターに置いた。
陳さんは無言で重量1キロの純金プレートを手にとり、噛んだり重さを量ったり縦・横・奥ゆきを定規で測って体積を計算したりして、俺の持ち込んだものが純度100%近い黄金だとゆうことを確認した。
「‥坊主、どこでこんなもの手に入れたネ」
爺さんの遺産だよ。他にどんな可能性があるんだい?
この金塊は サタえもんがまだ免許を持っていた頃に作ったものだ。
さて、サタえもんは魔界からやってきたのだが‥魔界とゆうところは地上とは資源の分布が異なるのだそうだ。
早い話、サタえもんの故郷では金はそれほど希少価値のあるものじゃない。むしろ銅や鉄の方が価値がある。
なんせ、サタえもんの実家の近くにある川では、石ころに混じって砂金ならぬ粒金が取れるそうじゃからのう。
そんなわけで、魔界では黄金は石ころ並とまではいかないが、精々高級粘土ぐらいの価値しかないのだ。
勿論、いくら安いからといって魔界から金を地上に際限なく運ばれたら、地上の経済は大変なことになる。金本位制が崩れたとはいえ、まだまだ金は信頼性高いからな。
実際の話 その昔、アフリカの何とかとゆう王様が大量の金を地中海文明圏にばらまいて金相場が何十年もガタガタになったこともあるそうだ。
そんな訳で、魔界の上層部も金の放出には気を使っている。
正式な契約すらしていないサタえもんは、魔界の黄金を持ち出せない。
実はこの金塊、40年ぐらい前に魔界から持ち出して緊急時の隠し資金として山の中に埋めておいたものを、今朝がたサタえもんが掘り出して来たのじゃよ。
文字通り、爺さんの隠し財産な訳だ。
サタえもんの話だと元々俺の‥とゆうか孫や曾孫の為に埋めておいた物だそうなので、俺のハーレム建設の為に使っても構わないだろう。うん。
金塊といっても、何処かの国が作ったものではないから、表のルートでは売り捌けない。
俺が道端で「刺身」と称して「生魚の切り身」を売ろうとしても売れないのと一緒じゃよ。信頼性がない商品は売りようがない。
表で売れないのなら、裏で売るしかない。
そして俺のコネで裏と繋がっているのは、陳さんの店ぐらいなのだ。
いや、婆さんや豊三郎伯父さんに頼めば換金して貰えるだろうが‥
出生の秘密を知ったのが昨日の夕方だ。親族の前で冷静に振る舞えるかどうか、ちと自信がない。
今は‥あと数日間は直接会わない方が良いだろう。嫌みの一つも言ってしまうかもしれんからな。
で、幾らで買ってくれるかな? 陳さんはその昔これと同じ物を売り捌いていたんだろ? まだツテは残っている筈だよね。
「‥10万円でどうネ?」
陳さん、そりゃあんまりだ! いくら金が安くなったとはいえ、グラムあたり千円は出して貰わないと。
「そうは言うがネ、裏に回したら買い叩かれるのヨ。坊主が思っているほど、ワタシ儲からないネ」
しばらくやいのやいのと交渉したが、結局グラムあたり521円にまで値切られてしまった。
畜生。ここまで値切られるとは。
流石は上海生まれの上海育ち、俺なんかじゃ敵わんのう‥
まあいい。50万あれば当座の活動資金にはなる。金策の取っ掛かりには充分だ。
早速換金して貰う。ひいふうみい‥ うむ、52万と1千円。確かに。
ついでに何か買っていくかな。可愛い小物とか、由香が喜びそうなものが有ると良いんだが。
「おい支配者よ、コレとコレとコレとコレを買え。近所の店より安い」
サタえもんが漢方薬を買えと言い出した。
おいおい、そんなに買ってどうするんだよ。店でも開くのか?
「薬の調合に使う。無くても作れるが、元の素材が良いにこしたことはないからな」
へえ、お前薬の調合できるんだ。
「おうよ。『魂取り扱い免許』を剥奪されてからは、薬の行商で一家17人食わせてきたんだ」
サタえもん家は三世代18人の大家族なんだそうだ。もっとも魔界では数百人規模の家族も珍しくはないそうだが。
そこまで言うなら買ってやるか。
四つ合計で‥俺の分を合わせてもたいした金額にはならんな。
かららころん
俺の支払った何枚かの紙幣が陳さんのレジに入るのとほぼ同時に、新たな客が店に入ってきた。
「まいど。儲かりまっか〜」
「ぼちぼちネ」
入ってきたのは俺の顔見知り‥隣のクラスの女子生徒にして演劇部の二年生の一人、名城綾子(なしろあやこ)だった。
名城とは中学生の頃からの付き合いだ。付き合いがあるからといって親密な訳ではないがな。
名城は演劇部員だから、無論外見は可愛い。
小柄で痩せ気味、骨格は普通。スタイルは悪くない。ショートヘア。黒っぽい大きめな瞳がチャームポイントかのう。
顔は整っている‥とゆうよりは整い過ぎてる系だが、頬に残るソバカスが良い具合にバランスを取っている。
演技力には定評があり、次期部長候補の筆頭だ。まあ、誰が部長になるかは、三年生の先輩がたが引退するまで分からんがな。
いよう名城、奇遇だな。
「質屋で金欠病患者がかち合うて、なにが奇遇や」
おや、今日は特に機嫌悪いな。
誤解しないで欲しいが、名城は本来は明るい性格で人当たりも良く、男女を問わず人気があるやつなのだ。
ただし、俺以外には だが。
「そこ、退いてくれへん? うちは忙しいんや」
へいへい。じゃ陳さん、またそのうち来るから。
俺は早々に陳さんの店を出ることにした。名城は売り込みに来た商品を、俺に見られたくないだろうからな。
名城が俺に突っかかるのも、訳あってのことなのじゃよ。
さて、次の金策に行くか。
「支配者よ」
ん? どうしたサタえもん。
「あの娘は、貴様にとってそれなりに価値があるのだな?」
まあな。虎美と違って友達ではないが、力になってやりたいとは思ってるよ。
もっとも、名城は俺の手助けなど欲しくもないだろうがな。
俺の知る限り、名城綾子はごく普通の女の子だった。三年前、中学二年の冬までは。
当時から可愛かったし、怪しげな関西弁を操る面白キャラとして人気を集めていたりはしたが、屈託の無い明るい同級生だった。
全てが 一夜で変わってしまった。
いや、変化自体はそれ程早くは無かった。気付くのが遅すぎたんだ。
俺はアメコミのヒーローじゃない。
人並みのことをやり遂げることさえ苦労する、ただの愚物だ。
自分がたまたま富豪の孫に生まれた凡人だってことは自覚している。
だが、あのときに気付いてやれなかったことは、紛れも無く失態だった。
三年‥いや正確には二年半前、名城の親父さんは無免許で盗難車を乗りまわしていた珍走団に跳ねられ、しかもひき逃げされて死んだ。
ひき逃げ犯のシンナー中毒で高校退学17歳の腐れ馬鹿は、逃走中に冬の海へ落ちて溺死したがな。
悪いことに加害者側は一切保険の類を掛けてない上に、家族親族は支払能力なし。
被害者の名城氏には保険が降りたものの、自宅のローンを払うには到底足りない。
一家の大黒柱を失った名城たちは手放せるものを手放して、安アパートに移り住んだが‥心労が祟ったのか名城夫人は病に倒れ、生活能力すら失った親子三人は生活保護を受けることになった。
これだけなら、俺は特に関係はない。
俺は同じクラスではあったが、別段親しくはなかった。
名城の苦労は知っていたが、友達でもない者が偶々裕福な家に生まれたとゆう理由だけで、請われもしないのに手を差し伸べることは傲慢だとすら思っていた。
勿論、俺は間違っていた。大抵の場合と同じように。
俺と名城は、無関係ではなかったんだ。
枝葉末節を省いて言うと、名城綾子は 俺の祖父である与渡源一郎の商売敵の曾孫だったのだ。
与渡家は、昔から大きかった訳ではない。所詮は成金だからな。
昭和の‥いや西暦で言うと55年ぐらいに倒産した名城商会とゆう会社の社長が、名城の曽祖父だったのだ。
まあ、源一郎爺さんは敵には厳しい人だが、ライバルには礼を尽くす人だったからな。
倒産した名城商会の資産を良い値段で買取って従業員が路頭に迷わないようにしたりとか、色々と配慮していた。
爺さんに聞いた話だと、社長本人もスカウトしたそうだが断られたそうだ。「敗軍の将は語らず」とな。
そして元社長‥名城の曽祖父はこの街に残り、手元に残った資金で駄菓子屋を始めた。
さあ、これからが身内の恥だ。
それから半世紀近くも経ったある雪の日に、とっくの昔に他界済みの名城元社長の孫が死んで、その妻と娘二人は暫くして生活保護を受けることになった。
犬塚さん所もそうだが 与渡家には付き合いのある家や個人が、かなりの数で居る。
時代劇で喩えるなら郎党とゆうヤツだ。
そして 数が多けりゃ当然ながら質の悪い奴も居る。麗子さんや町村先生のような逸材はそうそう居ない。
名城の‥綾子たちを担当した役人が、まさに外れの人材だった。
何を考えたのか‥教育の歪みだろうか、その木っ端役人は『かつてのライバルの孫や曾孫をいたぶることが与渡家に忠誠を示す手段になる』と思い込んでいたのだ。
後は言わずとも解ると思う。
件の木っ端役人は、法律に触れないありとあらゆる手段を使って名城親子を虐げていたのだ。
気付いたときには、名城の心には取り返しの付かない傷が付いていた。
俺はあまりにも愚かすぎた。
俺は爺さんに密告して 木っ端役人を表向きは栄転、実際は『この世の地獄』と地続きの場所に飛ばした上で名城家の借金肩代わりして、名城のお袋さんが良い医者に掛かれるように手配した。
まあ、殆ど全部爺さんと沙希ねぇの力だがな。
名城は、俺に対して感謝と反感の入り混じった感情を抱いている。
助けられたことに恩義を感じているが、同時に反発心とゆうか隔意があるのだ。
名城の名誉の為に言っておくが、妬みや僻みではない。ましてや助けられたことが屈辱だとかゆう斜め上の恨みでもない。
名城は、俺を‥俺の行動原理を理解していない。
理解できないから、俺を怖れている。いや、怖いとゆうよりは不気味なのだろう。
赤の他人が借金や医療費をそっくり肩代わりして、実質無利子で稼げるようになるまで何年でも返済を待っているのだからな。
借金と引き換えに体でも要求されていたならば、まだ納得いくだろうが。
名城は 木っ端役人が俺の一族への点数稼ぎの為に、名城とお袋さんと妹を虐げていたことを知らないのだ。
知られないように、手を尽くしたからな。
俺は名城に憎まれたくなかった。いや、俺が属する一族が名城とその家族が受けた苦痛と悲しみの元凶だと、知られたくなかったのだ。
誰も幸せにしない真実なんぞより、俺の心の平穏の方が大事だ。大事なんだ。畜生。
俺は愚鈍の無能で、しかも恥知らずの卑怯者だ。
卑怯者で結構だ。
自分の罪と向き合えだと? そんな寝言はあのときの名城に、ボロボロになるまで追い詰められた女子中学生に睨まれてから言ってくれ。
母の治療費を稼ぐために体を売った中学生と、娘の重荷になるぐらいなら と思い詰めた母が、酸素マスク掴んで病院のベッドで格闘していたんだぞ。
誰にも気付かれないように無言で、息を殺してな。
俺はもう二度と あんな悲しいものを見たくない。
事情を知らない名城がある程度納得できる理屈は、俺が金持ちの道楽として「可哀想な人」を助けた とゆうあたりか。
人の運命を容易く押し流す金の力とゆうものに無自覚なボンボンに、金で苦労している名城としては反感を抱かずにはおれないのだろう。
まあ、言ってしまえば 金の価値がわからない奴に助けられている現状が悔しいのだな。きっと。名城はプライド高いからなあ。
なんせ俺は、俺が相続する予定の財産を抵当にして本家から金を借りて、名城の借金を肩代わりしているわけだからな。
利子の支払いは、俺の貯金を沙希ねぇに投資して稼いで貰い、その配当金を当てている。
中学生三年の春までは『金の使い方を憶える為』と称して、爺さんは俺に小遣いを多めにくれていたからな。当然ながら結構な金額が貯金してあったのだ。
しかし沙希ねぇが増やしてくれた配当金も、肩代わりした借金とは元々の金額が桁違いだから、毎月の利子を払うには足りていない。
俺が肩代わりしている借金は少しづつ増え続けている。
もっとも毎月の小遣い銭と、偶にある臨時収入を沙希ねぇの投資につぎ込んでいるので、沙希ねぇからの配当金は少しずつ増え続けている。つまり借金の増え幅も減っているのだ。
それに 名城もお袋さんとの約束で無茶な事はしないが、色々と稼いで借金の返済に努めているしな。元の借金が減れば、利子も少しづつだが減っていく。
ちなみに名城が返すのは元金だけ、利子は俺が全て払うことにしている。せめてもの罪滅ぼしだ。名城的には不満らしいがな。
このまま投資額を増やしていけば、そのうち逆転する筈だ。今は利息>配当金だが、借金の利息よりも配当金のほうが多くなる日が必ず来る。
沙希ねぇに預けておけば確実だからな。『絶対安全』を声高に保証する投資ほど胡散臭いものはないが、沙希ねぇの言葉なら疑う余地が無い。
沙希ねぇは商売とゆうか事業や経営においても完璧なのじゃよ。
やり手の筈の豊三郎伯父さんだって、沙希ねぇの足元にも及ばない。与渡本家は俺なんかじゃなくて、このまま沙希ねぇが継ぐべきだよなー。
まあそんな訳で、俺は慢性的な金欠病なのだ。
もっとも財布はやせ細っていても、それほど困りはしない。
富豪の孫やってると何故か貰い物に不自由しないから、それらの品物を売り捌けば小遣いにはなる。
質屋通いも、そう悪いものではないのじゃよ。
繰り返すうちに、この街の物好きたちともコネが出来たしな。
5
「ふむ。だいたいの事情は掴めた。やはり回想して貰うと読み取りやすいな」
と、生クリーム入り小倉あんパンを齧りながら呟く黒タイツ悪魔。
サタえもんは俺の心が読めるが俺の全記憶を見通すことは出来ないので、過去の事件を説明するには俺が回想する必要があるのだ。
食ってる菓子パンと牛乳は、長い話になりそうなので手近のコンビニで色々買ってやった食い物のうち最後の一つ。
俺は金龍館でたっぷり食ったから、ノーカロリー炭酸水だけだ。
で、名城について何が言いたいんだ?
「うむ。これは悪魔としての第六感だが‥あの娘は運気が下がっている」
運気ねえ‥ ゲーム的に言えばラックが下がってる訳か。
わざわざ言うからには、相当危険な状態なんだな。
「このまま放置しておけば、まず間違いなく半月以内に破滅するな」
それって目茶目茶ヤバいじゃねえか!
「落ち着け。逆に言えば一時間や二時間ではどうとゆうことはない。まあ、処置は早いに越したことはないがな」
お、おう。で、名城のラックを上げるアイテムは何だ? 新しいやつか?
「道具なんぞいらん。貴様が金を貸してやれば良い」
はい? それだけで良いのか?
「運気とゆうものは些細なことで流れが変わるんだ。金策に困っているところに低金利で金を貸して貰えるとゆうことは、運気の流れを変えるには充分なイベントだ」
本当かよ?
「一番手っ取り早い解決策が『金を貸す』とゆう方法なだけだ。駄目なら駄目で別の手を考えるさ」
なるほど。段階的にやる訳だな。
しかし‥名城が俺の金をすんなり受け取ってくれるだろうか?
借金だって、何年かけてでも必ず返すって言ってるぐらいだしなあ。
「難しいだろうな」
流石に解っているじゃねーか。
さて、どうしたもんかいのう。
「そこでだ支配者よ。俺に一石二鳥の案があるんだが‥」
サタえもんの考えた手は、名城をサタえもん手作りの魔界薬の販売員にしてしまえ とゆうものだった。
今、俺の手元にはサタえもんが魔界から持ち込んだ薬剤類がある。この怪しげな品々を健康ドリンクやダイエット剤や化粧品として名城に売り捌かせるのだ。
「俺らが持っていないのは販売ルートだ。客との接点さえ掴めば飛ぶように売れるぞ。効果は絶対確実だからな」
実は、母さんの外見を10歳近く若返らせた薬も、サタえもんの手作りなんだそうだ。
名城に売り捌かせる予定の薬は、あれに比べれば手軽に作れてその分効果も薄い代物だが、そこは腐っても魔界アイテム。地上の薬とは比べ物にならない、桁外れの効能がある。
確かに、名城には俺にはない販売網がある。
とゆうか俺が薬を売っても、買ってくれそうなのは物好きな知り合いの野郎供だけだ。
それも一部だけだな。
先輩方はともかく後輩連中‥例えばジョーやヤスには購買力(平たく言えば金)が無い。
労働力にはなるんじゃがのー。
サタえもんは地上の人間用に調製したとゆう特製の睡眠薬や不眠剤、強壮剤や痩せ薬の瓶を出して並べ出した。
「この程度の薬なら土手の草からでも調合できるから原価は知れてる。お前は売上げの半額を懐に入れれば良い‥ どうだ? 顧客・販売員・製造元の三者全員が儲かる画期的なプランだろう」
うん。確かに良さそうな案だがな‥ お前の提案は正直信用しきれん。どうせ何か問題あるんだろ? 客が中毒になるとかさ。
何の問題も無いのなら、昨夜の時点で俺に飲ませている筈だ。
「中毒性が無いとは言わんが、それを言い出したらハッピー○ーンやカ○ノタネやカッパエビ○ンはどうなる」
む。確かに良い歌や美味い菓子や面白いソフトには中毒性があるが‥ その程度のものなのか?
「うむ。中毒性を云々するなら、昨夜貴様に注射した催淫毒の方が余程問題だ」
ふーん‥ て、待てやコラ、中毒性が有るものをぷすぷすぷすぷす注射してくれやがりましたですか手前ぇは?!
「ちゃんと中毒に成らないよう加減しているから大丈夫だ。苦痛と快楽が関与する薬物には大概中毒性や習慣性がある。一々気にするとキリがないぞ」
ううむ。確かにモルヒネは21世紀の今でも現役の麻酔薬じゃしのう‥
しかしさっきからサタえもんは妙に勢いが良いな。態度にも自信が溢れている。
「まあな。元々俺はこっちが専門なんだ」
サタえもんは魔界軍では後方支援勤務の技能兵で、前線や基地からの注文に応じて薬を調合して届けるのが仕事だったのだそうだ。
故郷での紛争が一段落ついて動員が解除されたので、サタえもんは兵隊やめて魂取引のセールスマンになったのだが‥どう考えても向いてないよなあ。
特技兵は除隊しなくて良かったんだろ? そのまま兵隊やってりゃ良かったんじゃねえか?
「軍隊は食いっぱぐれは無いが、余程上手くやらんと大儲けできんからなあ」
なるほど。要領悪そうだもんな、お前。‥で、魂の行商で大儲けできたのか?
「いや、かえって収入減ったな。日本に来るまでは」
サタえもんが日本に来た理由はとゆうと‥
なんでも魔界のお偉いさんが「敗戦直後の日本は混乱と絶望に満ちた暗黒の世相に違いなし! これぞ魔界の勢力を伸ばす好機なり!」とかなんとか言い出して魔界から大量の悪魔を送り込んだらしい。
天界側も対抗して天使や信徒を送り込み、お陰で日本は天界と魔界の代理戦争の舞台にされちまった。
とことん迷惑だな。悪魔ってのは。
「言っておくが天使供もやってることは大して変わらんぞ。いや、基本的にやらずぶったくりの奴らより、俺ら悪魔の方が良心的だ」
そうか。まあ今度天使と会ったら向こうの言い分も聞いとくよ。
そんなこんなでサタえもんは顧客を探してうろうろした挙句、戦災孤児だった俺の爺さんと組むことになって‥
それなりに儲けはしたものの、結局は免許剥奪されちまった訳だな。
と、名城が陳さんの店から出てきた。良し、早速交渉に行くか。
おーい、名城ー。
ちょっと話があるんだが、良いか?
6
「与渡君、あんたアホやろ」
これが 良い儲け話があるんだ と近くにある喫茶店に誘って、奢りのケーキとコーヒーをぱくつきながら俺の話を黙って聞いていた名城の、開口一番のセリフだった。
なんですと? いや確かに俺は頭が悪いが、アホ呼ばわりはないだろう。
「ええか、日本には『薬事法』っちゅう法律があるんや。きちんと認可を受けた薬だけが、資格を持った薬剤師が調合した薬物だけが『薬』として販売できるんや。アンタ、うちに犯罪の片棒担げ言うんかい」
ぐはぁっ そういやそんな法律もありましたね。
「ありましたね、やないで。‥本気で忘れとったんかい。正味の話、どこの誰が作ったかも分からん、組成も不明な薬なんか売ったら捕まるで」
くくっ‥なんてこった、厚生省の認可なんぞ待てるかよ。畜生。
いや、魔界アイテムが認可される訳ないけど。とゆうか認可されたら怖い。
ああ、折角の儲け話なのに、このつまづきは想定外だ。
ちなみに名城に売り捌かせる予定だった薬は、与渡一族の関係者である、とある薬剤師が独自に調合した秘薬で効果は抜群、安全性も俺や母さんで人体実験済みな代物だと説明してある。
うん、嘘は言ってない。嘘は。
「ま、抜け道が無いことも無いけど‥」
なんだって? そりゃ本当か?
「ホンマや。教えてあげてもええけど、アイデア料は取るで」
良し分かった。お前の取り分は売上げの四割のつもりだったが、五割にしようじゃないか。
「たったの一割かい! そんな安値で教えること出来んわ」
うむむむ‥良し、更に肩代わりしているお前の借金、100万分さっ引こう。
「もう一声!」
今日渡す商品だけは売上げの四分の三持っていけ。ついでに当座の活動資金に50万、一ヶ月無利子で貸してやる! これが限界だ、これ以上は出せん!!
「よっしゃ、商談成立や! まいど、おーきに」
にっかりと笑う名城に、俺は「さあ早く教えてくれ」と詰め寄る。そしてお代わりのコーヒーを飲みつつ説明してくれた起死回生のアイデアは‥
「要は薬を『薬』として売ろうとするからアカンのや。『健康食品』として売ればエエんや。『痩せます』やのうて『痩せるかも』と宣伝するんや」
そ、それだけで良いのか?
「うちが学園祭の屋台か何かで、アロエの絞り汁を薬として売ったら捕まるやろ? そやけど同じ物をジュースに混ぜて健康ドリンクとして売った場合は犯罪にはならへんのや。客が食中毒でも起こせば別やけどな」
と、ゆうことは‥ 例えばこのダイエット薬はどうゆう風に売り込むんだ?
「それは食欲中枢を満足させて空腹を紛らわす薬やろ? 手作りキャラメルかクッキーにでも混ぜて『カロリー控えめ、痩身効果成分が含まれております。ダイエット中に甘いものが欲しくなった時に、一個だけお召し上がりください』とかゆうて売り出せばええねん」
な、なるほど。流石に詳しいな。
「本当に効く痩せ薬なら幾らでも出す。 ‥そんな女子を掃いて捨てたらエエ程見てきたさかいな」
くすくす笑わないで下さい 怖いから。
なんで俺の周りは怖い女しかおらんのじゃあ‥ ああ、虎美のほんわかした笑顔が恋しいよう。
「それにしても、ウチを販売員に雇うあたり与渡君も商売っちゅうもんが分かってきたやないの」
ははは‥ まあ、そうゆうことにしといてくれ。
「ほな、ウチはこれから行商に行くさかい。ケーキご馳走様。明日の報告楽しみにしたってや〜」
そう言って名城は元気溌剌に出かけて行った。とりあえず売りやすい薬を商品に仕立てて売り歩きに行くのだろう。
どうだサタえもん、名城の様子は。運気とやらは回復したか?
「ああ。劇的に回復している。少なくとも向こう一週間は無病息災商売繁盛が続くだろう」
そりゃ何よりだ。しっかり稼いでくれることを祈ろう。俺たちの為にも。
しかしお前、意外に有能だね。ちょいと見直したよ。
「ふむ。見直してくれたところを早速失望させて心苦しいのだが‥」
な、なんだよ。今度は何が問題なんだ?
「支配者よ。貴様の財布に現金は残っているのか? 俺の計算では20円程足りない筈なのだが」
え? さっき名城に当座の資金50万貸して‥コンビニで色々買ってお前に食わせて‥陳さんの店で買い物して‥この喫茶店でコーヒー五杯とケーキ二個‥ おや? び、微妙に足りない気がしてきたぞ?
財布の中身を確かめてみると‥ あ、やっぱり駄目だ。15円足りん。
「すまん支配者よ。俺のミスだ。貴様のコーヒー二杯目を止めるべきだった」
くくく‥ どーしてここまで頭悪いのかのう、俺。
こんなことで俺は本当に『自分の王国』を造れるのだろーか。先行き不安になってきたわい。
7
一時は生徒手帳預けて付けにして貰おうかとも思ったが、財布の中に眠っていた縁起物の五円玉(正月に買い物すると貰えるアレ)が丁度三枚有ったので、なんとかなった。
うむ。一円を笑う者は一円に泣く。小銭とはいえ馬鹿にはできんのう。
さあ、無事に喫茶店から出れたが‥一文無しですよ。畜生。
こうなれば、なんとしても次の金策を成功させねば。
それから後の金策は細かい取引の連続なので、端折らせて貰う。
簡単に纏めると‥
俺は骨董屋に 古札や古銭(江戸末期〜昭和中期ぐらいまでの通貨)を売り
手塚○虫信者の漫画収集家に 初版しかも美品の『来るべき世界』を売り
切手マニアに 戦前のヨーロッパ切手(使用済み)を一山いくらで売り
古本屋に 年代物のヌード写真集を10冊ほど叩き売り
レコード収集家に 戦前のSP版歌謡曲のレコードを三枚売った。
あー疲れた。
これでこの街の趣味人とゆうか物好きはだいたい当たったな。少なくとも、俺が知っている限りは。
売上げは63万とんで70円。サタえもんに三回確かめ算させたから間違いないだろう。
今回の行商は、あくまでも最初の資金を稼ぐ為だ。
俺の家の地下室には、サタえもんが魔界から持ち込んだ売れそうなものが山を成している。
非実体状態で、だけどな。
俺とサタえもん以外は見ることも触れることもできない。
これらの古物は サタえもんの家やその近所からかき集めたものなのだ。
地上のアイテムとゆうか文物は、魔界でもそれなりの価値がある。古新聞や雑誌でも、生きた日本語の教科書として売りものになるのだそうだ。
サタえもんが爺さんと取引していた頃に、せっせと魔界に持ち込んだ膨大な物資。
その一部が、今になって地上に戻ってきたわけだな。
ちなみに本や玩具などの痛み易い代物が美品状態なのは、保存魔法を掛けてあったからだ。
魔界では、痛み易いものには痛みにくくなる魔法を掛けておくのが普通らしい。
部屋一つ分の骨董品や古物を換金すればそれなりの金額にはなるだろうが、生憎と俺には売るツテがない。
陳さんの所は値切られるし、なんといっても個人経営だからな。一度に動かせる金額は精々2〜300万といったところだ。
本格的に売るとしたら、やはり信用できる大人の手助けが要る。
母さんのツテで売れる物は、どうしても種類が限られるからな。
RPGの道具屋みたいに、どんな物でも買い取ってくれる店は現実には無いんだよなあ‥
それに、サタえもんが持ち込むものを売るだけじゃ駄目だ。
なんとか恒常的に利益が出る、言わば財源を作らないことには建国など夢のまた夢だからな。
ふう、一休みして汗も引っ込んだ。そろそろ帰るか。
だいぶ陽が傾いてきたしな。
売る予定だった物がまだ残っているが‥ まあいい、残りの商品はインターネットで競売に掛けて、何日かに分けて売り捌くことにしよう。
パソコン部のOBにネットで稼いでいる人物がいた筈だ。手数料三割か四割で委託販売して貰おう。
分け前が少ないと言うなら、他に持っていくだけだ。
俺個人ではネット上の取引がし辛いのじゃよ。未成年だと出品者になれんしな。
まあ年齢とかは誤魔化せないこともないが、今から銀行口座開いて会員登録して‥と悠長にやっている時間はない。
沙希ねぇの誕生日は六月の終わり。あと半月もないのだ。
それにしても暑いなあ‥ 今年は梅雨が来ない年なのだろうか?
この炎天下を家まで歩くのは流石に辛い。久しぶりにバスにでも乗るか‥とバス停に向かう途中で、携帯が鳴った。
う‥ 由香からだ。
「もしもし、お兄ちゃん?」
うん。俺だよ。
「お兄ちゃんの用事、終わった?」
ああ、もう済んだ。帰る途中だ。
なに? 待ってるから早く帰ってこい、とな?
分かった分かった、直ぐに帰るよ。
さて、急いで帰ることにしますか。
妹と母さんが‥俺の愛しい女達が待ってくれている我が家へ。
幸せとは 待つこと、待って貰えることだ。待つ事がないことが、無い事を待つことが不幸なんだ。
うん、そうに違いない。
早く帰ろう。愛しの我が家へ。
家では俺の青い小鳥とその親鳥が、俺を待ってくれている。