警告!!
 
       この物語には 読者に不快感を与える要素が含まれています!
         読んで気分を害された方は、直ちに撤退してください!
 
 
 
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・宗教・学問等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退してください。
 
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
 
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
 
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・微弱電波・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます。
以上の属性に拒絶反応が出る方は、お読みにならないことをお勧めします。
 
作品中に 所々寒いギャグが含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご勘弁ください。
 
 
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様 きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
 
 

 
 
 
 
                 『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その12』
 
 
 
 
 
 
俺の名は与渡大輔。17歳。
ついこの間 彼女いない歴=年齢だった悲しい少年時代が終わり、恋人やら婚約者やら奴隷妻やらお妾さんやらを次々と抱え込むことになってしまった高校二年生だ。
 
 
さて、本日の放課後のことですが‥ 
俺は数日ぶりに会ったちょっぴり痛めの幼馴染(とゆうにはもう一つつき合いが短いか?)な女の子、町村朔夜の可愛さに改めて気付いてしまいました。
気付いたからには即行動。朔夜を口説き落しました。
そして朔夜の兄である町村医院の若先生に同棲の承諾を貰い、朔夜をだき抱えて家に帰ったのです。
 
で、朔夜は俺のものになることを‥ 俺の恋人として一緒に住み、何年後かには結婚することを承諾してくれたのじゃが
実をゆうと俺にとって、それは『ハーレムの一員として』なんだよな。
 
うーむ 我ながら外道じゃのう。
いや、騙したつもりはないよ、うん。詳しい説明を後回しにしただけだ。
 
ハーレム入りについて、じっくりと説得しようと思っていた俺だったのだが、何故か今は学校に戻っている。
由香‥俺の妹と朔夜の二人ともが、早く学校に行って演劇部に顔を出せと急き立てたからだ。
美香‥母さんまで二人に賛成したので、一も二もなく自転車とばしてやってきたのだが  
 
はて? 何も異変なんて起きてませんよ? 
体育館の舞台で劇の稽古と準備をしている演劇部の皆さん、計七人の女の子達は全員無事だ。
 
まあ、無問題とはいかないようだが。とゆうか何やら皆さんの視線が冷たいような気が‥
 
 
 
「遅い!」
 
おっと、目付きが熱い奴も居るか。マイベスト眼鏡っ娘にして心の友、九条虎美さんが俺にしか見えない猫耳と猫尻尾を立たせて怒っている。
 
いやその、遅参したのは悪かった。しかしこれは止むに止まれぬ事情があっての事でなぁ。
 
 
「町村を介抱していたから、だろう?」
 
おや、既にご存知でしたかくぬぎさん。‥って、何故に貴女まで俺を咎人のよーに見ておいでなのでしょうか? 
気風の良さが魅力の、爽やか系美少女剣士に恨まれるような事をした憶えはないのじゃが。いや、剣道部への助っ人断ったりはしたけど。
 
 
「病院抜け出して来た町村先輩を与渡先輩が抱えて運んでいった ‥と、先輩たちの荷物を届けてくれた人が教えてくれたんです」
 
あー それで俺の鞄と朔夜の松葉杖が見当たらなかったのか。
 
俺と朔夜を先輩と呼んでいるこの娘さんは当然ながら演劇部の一年生で、嵯峨野舞(さがのまい)とゆう。愛称は舞ちゃん。素直で元気で可愛らしいとゆう、後輩の鑑のよーな女の子だ。
丸顔で童顔、明るい性格と人懐っこい笑顔の持ち主で、背丈はごく普通‥虎美よりは小さいけど百合恵よりは大きい‥すっきりとした、中性的とゆうか少年のような肢体の持ち主。ちなみに髪はショートヘア。
 
女の色気を全く感じさせない体つきだが、これはこれで好きだったりする。最近、自分がロリータ属性の持ち主であることを自覚した所なのだ。
由香が2〜3年育つとこんな体型になるかもしれん。俺は幼児に発情する趣味は持っていないが、いわゆる幼児体型は割と好みなのじゃよ。
といってもロリに目覚めるまで、ほんの数日前までは幼児体型に対してピクリとも反応しなかったのだが‥ 
舞ちゃんの事も可愛いとか綺麗だとか思ってたりしていたが、欲望の対象ではなかったからのー。
 
 
荷物預かっててくれて有難う、舞ちゃん。 ‥て、君まで俺を責めるような目付きで見るですか。
 
えーと皆さん。病院抜け出して、怪我を増やしながら炎天下を松葉杖付いて学校に来たお茶目さんを抱えて病院に送ったことが、そんなに拙かったのでしょうか?
 
とゆう俺の疑問に答えてくれたのは、みどりの黒髪も麗しい優雅おしとやか系茶道部かけもち演劇部員の大山先輩だった。
 
「大輔くん。町村さんが演劇部の様子を見に来たのなら、どうして舞台まで連れて来てくれなかったの?」
 
むむっ? 静香さん、それは朔夜が望んだからなのですが。「皆に迷惑を掛けたくない」と言ってましたし。
 
 
「‥迷惑、じゃない」
 
ぼそぼそっ と呟いたのはちょっと暗めで不思議なまでに印象が薄い女の子。演劇部一年生最後の一人、赤沢鮎(あかざわあゆ)だ。
 
赤沢は俺好みな柔らかい黒髪を肩甲骨が隠れるぐらいまで伸ばしていて、小柄な体格で出るべきところは出ているとゆう、これまた俺好みな体躯の持ち主だ。
舞ちゃんが由香の3年後なら、赤沢は母さんの6〜7年前とゆう感じだな。あ、若返った後の母さんから数えて6〜7年前じゃよ、言うまでもないと思うが。
 
演劇部員なのだから当然だが水準を遥かに上回る美少女だし、成績優秀で運動神経も悪くなく、教師のウケも良い優等生なのだ。大きめな目がチャームポイントかのう。
しかし何故か、スペックに反して目立たない地味な娘さんだったりする。悪目立ち気味な朔夜とは対照的な女の子だ。
 
いわゆる当世流行の『無口系』とゆうやつかのう。赤沢が三語以上連続した言葉を発したことなど、数える程しかない。
朔夜は普段は寡黙だけど 気に入った物事や人物に対しては極端に饒舌になる とゆう一面が有ったりするのだが‥ 
とにかく愛想が無いんだよな、赤沢は。
 
 
あのその、そりゃー皆さんが朔夜のことを迷惑に思うわきゃーありませんが。ええ。
 
 
「なら、なぜ先輩を舞台に連れてこなかったの? 待ってたのに。 ‥ち、ちょっと 待っていたのは町村先輩をよ! 勘違いしないでね?!」
 
今まで黙っていたのが奇跡的な一年生、宮内百合恵が甲高い声で問いつめてきた。
何を言い出すかなコイツは‥ んなことは言われんでも解っとるわい。キャンキャン小五月蝿い奴じゃのう。カルシュウム不足か?
 
だが言っていることに嘘は無いな。確かに普段の‥とゆうか数日前の俺なら百合恵が言うように、朔夜の反対を押し切って舞台まで抱えていっただろう。
 
 
成る程のー 久しぶりに朔夜に会えると思って待っていたのに、ちょいと窓から覗いただけで帰っちゃったから、皆さん機嫌が悪いわけですか。
虎美はそれに加えて手伝い要員が遅れたことにも怒っているようだが。
 
良かったなあ朔夜。演劇部の皆さん‥仲間達に本当に受け入れられてるんだな、お前。
 
 
 
「まあ、大輔には大輔なりの理由があるのだろう。ここは一つ、その理由をじっくりと聞かせて貰おうか」
 
と 思わず目元が熱くなったりしている俺を、我が崇拝の対象であり学園どころか世界一の美少女であると確信している従姉さまが問い詰めてきた。
 
うーむ、内容も口調も柔らかいけど、黙秘は絶対に許されないだろうなぁ‥ 怒ってはないけど機嫌は宜しくなさそうだ。
考えてみれば沙希ねぇと俺は10ヶ月ちょっとしか違わないんだよな。満年齢で言えば同い年なのに、何故にここまで貫禄とゆうか落ち着きとゆうか精神年齢が違うのだろーか。
 
 
 
 
俺が朔夜を舞台に連れて行かなかった理由の一つは、秘密を守るためだ。
数日置きに見舞いに行っているとはいえ、入院中の部員が学校に来れば演劇部の皆さんが放っておく訳がない。
朔夜を取り囲んで、話の華が花瓶に入りきらないぐらい咲くだろう。
 
そうなれば、朔夜の足が殆ど治っていることがバレる。余程鈍くない限り、朔夜の足を覆うギプスが割れていることに気付く筈だ。
となると、朔夜の身体に起きた超常現象が演劇部の皆さんに知られてしまう訳で‥ 人の口に戸は立てられないから、二日もすれば全校生徒が知ってしまうだろう。当然、与渡家やその関係者にも知れ渡る訳だ。
 
だからこそ、俺は朔夜を抱えて舞台の様子を覗くだけにしたのだが‥ そんな理由を説明する訳にもいかんしのー。
 
 
それに、俺が魔力に目覚めたことを隠したいとゆうのは連れて行かなかった理由の一つでしかない。
最大の理由は 行きたくない と朔夜が本気で思っていたからだ。
もし本当に演劇部の皆さんの所へ‥仲間たちの所へ行きたいと思っていたなら、朔夜は治療したばかりの足をへし折ってでも舞台まで行っただろう。
 
嘘や冗談ではない。朔夜ならやる。
常に本音で生きていて、必要とあればどんな痛みにも耐えられる。朔夜はそうゆう女なのだ。
 
そうなった場合でも、俺は朔夜を止めない。折った足はまた治療すれば良いだけだ。
 
たとえそれが無意識が選択した防護策だとしても‥俺が朔夜を傷つけたから、痛い女になってしまったのだとしても、俺は朔夜の意思を優先したい。
今までずっと朔夜の想いを無碍にしてきたからな。これからは出来るだけ望みをかなえてやりたい。
いつか、朔夜の心を覆う殻が溶けて消えるまで。
 
痛い女としての仮面は、朔夜の心を守るために作られた。
ならば守る必要が無くなれば、心を覆う鎧も仮面も溶けて消えていく筈だ。人の心は環境しだいで変わるのだから。
瀬戸内海産のサザエは貝殻にトゲが無いのじゃよ。荒波が無ければ、殻を守るトゲは必要ないからな。  
 
 
 
 
 
おおっと 黙ったまんま朔夜のことを考えてたら、演劇部の皆さんの機嫌が更に斜めに傾いてきましたよ。早く弁明に移らねば。
 
 
 
ええと、皆さん。宜しいですか?
皆さんも知っての通り、朔夜は演劇部が大好きなんです。
殺陣も好きだし演技も好きだし、準備も練習も好きなんです。演劇部の仲間が‥皆さんのことが大好きなのですよ。
 
で、素人の俺が言うのもなんですが、今の演劇部はベストメンバーだと思います。人数はともかく、質とゆうか個々人の演技力と部員の団結心の固さは演劇部史上最強でしょう。
 
でも、逆に言うと今がピークです。
 
秋と冬の公演は先輩方が引退してますから戦力の低下は否めませんし、春公演はと言えば入ったばかりの新入生を戦力として数えるわけにもいかない。
つまり、この最強の布陣で臨める公演は一回だけ! この夏しかないんですよ。
 
一般生徒から見れば新入生勧誘を兼ねている春公演や、成否が来年度予算獲得の決め手になる秋公演の方が印象強いかもしれませんが、通人からすれば夏公演こそが演劇部の天王山ですからね。DVDも良く売れるし。
 
 
しかし、朔夜は不慮の事故により入院。夏公演へ参加できなくなってしまいました。
 
 
え? そんな事言われなくても分かってるわよ とな?
キャンキャン喚かず人の話を聞けよ、最後まで。
 
 
 
 
 
たとえ今、朔夜の足が突然に治ったことを上手く誤魔化すことが出来たと‥誰にも疑問を持たれないようにする事が出来たとしても‥ それでも、朔夜の抜けた穴は既に塞がっている。脚本も台詞も修正済みなのだ。
 
土曜の午後には通しの総練習、日曜が公演本番。
演劇部も所詮は部活動であり、放課後の限られた時間で煮詰めていくものだ。時期的に、そろそろ最後の調整に入るべきなのだ。
一週間前なら、朔夜が足を折った直後なら 治療後、直ぐに練習に復帰できただろう。だが、今日の午後では遅すぎる。
 
 
後先考えずに治してしまったが、朔夜が夏公演へ抱いているだろう無念を思うと、正直複雑だ。
いや、治したことは悔やんでない。あの時は、朔夜の苦痛を一秒でも早く取り除いてやりたかったのだ。
たとえサタえもんが時を遡れるラベンダーの香水を持っていて、俺の時間が遡ったとしても、きっと同じ選択をするだろう。
 
 
さて、と。演劇部の皆さんに、朔夜の感じている辛さを訴えなければ。
たとえ端役でも、雑用係でも良いから夏公演に関わりたいのに、演劇部員の一人として夏公演を成功に導きたいのに、何も出来ない。一生の思い出に残る舞台に上がれない辛さを。
 
 
 
ソプラノ声が五月蝿い後輩に、しばらく黙っているように頼んでから、話を続ける。
 
 
そりゃあ、演劇部の皆さんは 朔夜が来ても迷惑だなんて思いもしないだろう。
それどころか、朔夜の分も頑張らねば とより一層稽古に熱が入ること請け合いだ。
だが、朔夜はどうなる? 
 
この素晴らしい舞台に上がれない、裏方として支えることも出来ない、寂しさ、悔しさ。
怪我さえなければ、事故さえなければとゆう悔恨。
それらを抱えて、病院のベッドで悶々としている朔夜の図 を想像してしまったのだ、俺は。
 
そうゆう訳です。俺個人の判断で、朔夜を連れてきませんでした。これ以上朔夜を苦しめたくなかったからね。
俺の判断が、皆さんから見て正しいか間違っているかは分かりません。どうぞ好きに裁いてください。
 
言うべき事を言ってから、俺はその場にどっかりと胡座をかいて座り、目を瞑った。
 
 
 
「‥では票決を取る。大輔が有罪だと思う者は右手を、無罪だと思う者は左手を挙げてくれ」
 
目を閉じたままの俺の耳に、沙希ねぇのクールな声が響く。いくらかの間を置いて、演劇部の皆さんが手を上げる動作が微かな気配の変化として全身の感覚に伝わって来た。
魔力に目覚めた身ではあるが、流石に誰がどちらの手を挙げたかまでは分からんのう。誰がいつ動いたかは大体分かるんじゃが。
 
 
「では、町村に関しては無罪とする。遅参については有罪、労役として大輔が買出しに出ることで罪を償うものとする。以上」
 
 
沙希ねぇの無罪判決が下った。どうやら助かったようだ。
 
では、早速買い出しに出るとしますかね。舞ちゃん、買い物リストをくれ。
 
どれどれ‥ステンレスのネジ釘一箱に延長コード20メートルに銀色テープ半ダースに百ワット電球3個に徳用麦茶2パックにカットバン一箱以下省略。
ええい、なんだこの巻物のよーに長い買い物リストは。
これなら駅前まで買いに行った方が良さそうだ。学校の近くにあるホームセンターは安くて品揃えが豊富なのは良いんだが、質が今一つだからな。
 
 
 
 
「待ってくれないか、与渡君」
 
買い出しに出ようとする俺を、見覚えのある男子生徒が追いかけて来た。
確か名城と同じクラスの美術部員で、名前は‥ 何だったっけ? まあ良い、美術部員Aとでもしておこう。
このAも、俺と同じく外部から演劇部を手伝いに来ているのだ。他にも音楽部やパソコン部から来た若干名の支援要員が夏公演を成功させるために働いている。
 
校内を流れている怪しげな噂と、現実は違う。
演劇部は男子禁制とゆう訳ではない。部活動に貢献できて、最低限の礼儀と節度を守れる男なら部室や舞台に入れて貰えるのだ。
まあ、その最低限の礼儀が守れる野郎が少ないのが問題なんだがな。
 
‥無理もないか。他所の学校ならトップランク間違い無しの美少女が九人も居れば、理性が持たなくなる奴も出るじゃろう。うむ。
 
 
 
で、俺に何か用か?
 
「うん。まあ、歩きながらでも話すよ」
 
演劇部員Aは俺の買い出しに付き合うとゆう名目で追いかけてきたのだが、本当の目的は俺に意見‥と言うか忠告しに来たのだそうだ。
忠告ねえ? 俺とコイツは、助言を貰うほど親しい仲ではないと思うんじゃが。
 
「とゆうかね‥ 君はさっきの小裁判の意味を理解してないだろ」
 
ん? なんだお前も見てたのか。
理解も何も、あれは俺にかけられた「演劇部の皆さんの友情とゆうか絆を疑った」とゆう容疑を晴らしただけだが。他にどんな解釈があると言うのだ。
 
「‥君に何を言っても無駄な気もするが、頼むから明日は遅れないで欲しいな」
 
うるせえな。俺だって好きで遅れた訳じゃねえよ。
大体、俺が来ないと何か困る事でも有るのか? 
 
「与渡先輩の機嫌が悪くなるね。はっきり言って今日は生きた心地がしなかったよ」
 
おいおい。そりゃー手伝い人が遅れて気分が良くなる訳がないが、大袈裟すぎはせんか?
 
「立場を逆にして考えてみようよ」
 
逆の立場ねえ‥ つまり俺がとある部の部長で、部は大事な発表会の準備中 と。で、一つ年下の従妹が手伝いに来てくれている‥ こんな感じか。
 
「君の事を兄さん兄さんと呼んで慕ってくれている可愛い従妹が、この数日部室に来ない。今日は来るか明日は来るかと気を揉んでいると、従妹が後輩の男にお姫様抱っこで何処かへ運ばれていった とゆう目撃情報が入る。‥君ならどう思う?」
 
といわれても、俺には一歳下の従妹なんて居ないからなぁ。
 
 
由香と俺が戸籍通り従妹扱いで育ったと仮定して‥愛しの従妹と2〜3日まともに会話もしてない状況で、その従妹(由香)がジョーかヤスにでもお姫様だっこでお持ち帰りされてしまったとしたら‥ 血の雨が降るな。
 
 
ふむ 沙希ねぇは出来たお人だから周りに当たり散らしたりはしないだろうが、美術部員Aが気にする程度には不機嫌になる訳か。
成る程な。こいつの胃袋の為にも、明日からは遅れないことにしよう。
 
「そうして貰えると助かる。‥じゃ、僕はこれで」
 
待て。俺の買い出し手伝いに来たんじゃないのかお前は。
 
「それは口実だよ。大丈夫、罰だから手伝って貰うわけにはいかない とゆう理由で断られたことにしておくからさ」
 
勝手にしやがれ、畜生。
 
 
 
 
薄情者の美術部員を呪いつつ、俺は出来る限り素早く買い物を済ませて、まだ日のあるうちに帰還した。サボってたとか言われたくないからな。
 
あー 荷物が重てえ。
怪力腕輪のおかげで荷物の重たさには耐えられるけど、疲れが2倍溜まるからなあ‥ 俺ももう少し体を鍛えた方が良いな、やはり。
因みにこの買い出しの費用は沙希ねぇ持ちだ。演劇部予算用のカードで支払っている。
 
 
で、帰ってみると‥あの野郎(美術部員A)いねえよ! 
なんと、自分の仕事まで俺に押し付けて消えやがってくださったのです。
良い度胸してやがる。この借りは必ず返して貰うから憶えてろよ。畜生。
 
そんな訳で、俺は只今スプレーや彩色ブラシを使って大道具に色を付けている最中なのだ。
 
「‥そこ、違う」
 
ん? あ、本当だ。色間違えてるよ、俺。
赤沢が指差す部分から絵の具を拭き取り、塗りなおす。
 
 
 
一通り彩色が終わったら、舞台裏で機材の調製だ。
小道具大道具の製作と平行して、照明と音響機材の設置と動作テストもしなくちゃならんのじゃよ。本当に忙しいのう。
 
「与渡くんが来ないから、力仕事が溜まるってるんだよ」
 
俺の所為ですかそうですか。
 
分かったよ、明日は真っ直ぐ来るよ。そんなに睨まなくても良いじゃねーか。
もう勘弁してくれよ。帰りに何でも好きなもの奢るからさ、な?
 
「‥食べ物出せばあたしの機嫌がなおると思ってるな」
 
おおう。虎美の奴、本気で機嫌悪いわい。
どうすれば良いものやら‥ 食い物は駄目か。かといって女の子の機嫌を宥める方法なんて他に知らないしなぁ。
 
 
「大輔」
 
む? 何でしょうかくぬぎさん。
 
「九条には奢るのに、私らには何も無しか?」
 
い、いえ そんなことはありませんよ。くぬぎさんさえ宜しければ‥とゆうか皆さんの都合が宜しければ喜んで。ええ。
 
 
まぁ、そんな訳で。
本日の稽古の後に 俺は駅前のケーキ屋で演劇部の皆さんにお茶と菓子を奢ることになってしまいました。 ‥いや別に良いけどね、うん。まだ懐、暖かいし。
 
 
おおっと くぬぎさんと話してるうちに虎美が消えちゃったよ。何処に行ったんだろう?
 
 
まあ良いか。今は下手に触れないことにしよう。刺激すると拙いからな。
 
‥‥やっぱ駄目だ。虎美が居ないと作業が進まない。
探しにいくか。
 
 
 
 
 
現在校内放浪中。
 
おーい 虎‥じゃねえや九条さーん。何処に行ったんだよー。
 
校内一周して舞台裏に帰ってきたが、まだ戻ってない。
バレー部の一年生に、体育用具室に居たと聞いたので行ってみるが、やはり居ない。
 
 
おーい 九条さーん 居るなら出てきてくれー
 
なんだか分からんが俺が悪かったー 二人で(作業を)やりなおそうよー
 
 
むう。呼べど叫べど出て来ない。人の気配はするんだがなー
とゆうか、虎美の匂いがする。ふむ、霊触に続いて霊的嗅覚に目覚めたのかもな? 俺。
 
 
畜生、聞こえてるのに無視しておられますな。
仕方が無い。我が心の友の秘密を暴露させて貰うか。
 
九条さーん 出てこないと「あの事」をバラしちゃうぞー
 
体育用具室の中で、俺は声を張り上げる。
ふふん 恥かしい過去を暴露されたくなければとっとと出てこい。
 
では行くぞ‥
 
 九条さんはー 去年の夏ー 俺と一緒に某サッカーチームの試合を応援に行ってー 試合前のー「ていっ!」
 
べしっ と俺の後頭部に上履が命中した。振り返ると、体育用具室の天窓の枠に虎美が腰掛けていた。
 
なんだ此処に居たのか。さっき見上げたときには居なかったのだが‥屋根に上がっていたのかな?
猫かお前は。
 
 
 
体育用具室の天井には通風と採光のために二つの大きな天窓が開いている。身軽な奴ならキャットウォークから天窓の枠や更にその上に上がれないこともないのだ。
なんでまた天窓なんぞに‥ ああなるほど、携帯を使うためか。
 
虎美は二〜三言電話の相手と話してから携帯を折りたたんでポケットに仕舞う。
ふむ、口調からして名城と話していたようだな。
 
「悪かったな。どーせあたしゃ友達少ないよーだ」
 
うむ。機嫌の悪い虎美もまた可愛いのう。尻尾ふくらませてる猫みたいで。
 
そういや虎美って友達少ないほうだよな、考えてみれば。
変人とゆーかエキセントリックとゆーか、やんちゃが過ぎる傾向にあるからなー。
朔夜と違ってそれなりに人付き合いはしているのだが、クラスに友達と言える程親しい女の子とか居ないみたいだし。
ま、かく言う俺も 同じクラスに友と呼べる者は虎美しか居ない訳だが。
 
 
ううむ。空はまだ明るいが微妙に光量が足りない。見えないな。
何がって? 虎美のスカートの中に決まっているじゃないか。
覗きじゃないよ。ただ単に見上げたら見えているとゆうか見えそうで見えないから少々もどかしいだけだ。
 
測定レンズの拡大モードならあるいは‥ と邪念を凝らしていると「見るな!」流石に気付かれました。残念。
 
はいはい もう見ないよ。後ろ向いてるよ。だからそろそろ帰ってきてくれよ。
 
 
 
 
 
俺はいわゆる『超能力』とか『オカルト』といったものに対して懐疑的なのだが、霊感とゆうか第六感的なものがあることは認めている。
人間の感覚は、五感やその他の言語化された単語として意識されている感覚以外にも、なんとゆうか意識されていない、本人にも良く分からない感覚があるような気がするのだ。
 
まあ、俺はどちらかとゆうと鈍い方だと思うのだが 今このときは感じ取れた。
嫌な感じに振り向いた俺が見たものは、天窓の枠から飛び降りようとして足を滑らし 地上5メートルの高さから落ちようとしている虎美の姿だった。
 
 
 
 
 
間に合う。
地上の重力だと、物体は一秒で10メートル近い距離を落下する。
逆に言えば 一秒ちょっとの時間をかけなければ10メートル落下しない。
 
間に合う。
虎美の後頭部から体育用具室床まで4メートル弱。激突まで0.5‥いや0.6秒はある筈だ。
 
間に合う。
世界から音が消える。色彩が消える。落下する虎美が、全てのものの動きが遅くなる。
俺の脳味噌は、今この瞬間に高速モードに入ったのだ。
 
間に合う。
訓練されたボクサーは相手選手のパンチがスローモーションで見えるとゆう。訓練など何も受けていない凡人ですら、死を意識した事故の瞬間には一秒にも満たぬ筈の時間が何分にも何十分にも感じるとゆう。
危機にさらされた人間の脳は、生存に不用と思われる情報の処理を止め必要な情報のみを普段の数倍数十倍、いやそれ以上の速さで処理するのだ。
余計なものを動かさないから速いし安定する。パソコンのセーフモードみたいなものだろう。
 
間に合う。
『怪力腕輪』を発動した俺の重量出力比は当社比約2倍。速さや跳躍力は三割ないし四割増。誇張抜きで、正月番組の筋肉野郎どもの祭典に出れば全種目で一位を狙えるだろう。
 
間に合う。
間に合わせてみせる。
 
 
俺の左足が体育用具室の床を軽く蹴り、宙に浮いた状態で右足が跳び箱の上面を思い切り踏みしめる。
作用反作用。俺の体は斜め上方向に飛び上がり、落下中の虎美と重なった。
「!!」
出来るかぎりやんわりと当たるように気を配ったつもりだが、やはり虎美の身体に少なからぬ衝撃が走ったようだ。ええい、要は即死しなければ良いんだ。多少の怪我なら俺でも治せる。重傷ならサタえもんを呼べば済む。
 
空中で大幅に減速した俺達は用具室の隅に積まれたマットの山めがけて落下していく。
あー 虎美は後方受身できるかなあ? 無理かもしれんなぁ。
何故か俺は柔道を習う前から、それこそ物心つく前から受身が出来たりするのだが虎美に同じ事を期待するわけにもいかん。
仕方ない、転がるか。
 
俺は着地寸前に身を捻り、身体に回転をかける。地面や畳にぶつかるのではなく転がるように着地する為に。つまり前回り受身の変形、衝撃を回転力に変換するのだ。
 
転がり過ぎました。
 
虎美は無事に軟着陸できたようだが、俺のほうは勢い余って用具室の鉄骨に頭ぶつけました。脳は高速モードでも、体の反応の方に限界がある。正直言って間に合わない。
ボクサーのパンチって、スローモーションで見えてても避けられないんだよな。畜生。
 
 
 
‥目から火花が出た。いや、衝撃で神経系が押されてそうゆう幻が見えただけだが。
めっちゃ痛い。これだけ強く頭を打ったのは一年ぶりぐらいか?
余りの痛みに転がることもうめくことも出来ない。
 
しばらくするといくらか痛みがマシになった。
 
「よ、与渡君‥ 生きてる?」
 
生きてる生きてる。心配すんな。
 
 
虎美は俺の傍に寄って来てマットの上に座り、自分の腿の上に俺の頭を置いた。
おおう、これは伝説の膝枕ではありませんか!?
 
「うっわー 凄いタンコブができてる」
 
も、もっと優しく撫でてくれ。涙出て来た。
 
瘤ができてるなら安心かな? 衝撃が頭の皮と頭蓋骨の間で受け止められたってことだからな。膜下出血や脳内出血の可能性は低いだろう。
自分で瘤のあたりに手を当てて診断してみるが、急性出血とかは無さそうだ。念のために一時間後ぐらいにも診断しておこう。
 
 
スカートからはみ出している虎美の膝小僧に手を当てて、魔力を放出してみる。
ふむ 怪我らしい怪我はないな。内臓も問題なし、胃腸も肝臓も凄く健康だ。空中でぶつかった衝撃はかなりのものだった筈なんだが、見た目に寄らず丈夫な娘さんである。
筋肉の質とかつき方は朔夜より劣っているけど‥とゆうか朔夜が反則過ぎるだけか‥内臓の健康度は虎美のほうが上かもしれんな。昔なら健康優良児として表彰されているだろう。
 
 
しかし 人体って個人差が凄いなぁ。
虎美と朔夜の身体は、筋肉のつき方も密度も質も物凄い差がある。
 
つーか、朔夜の身体っていったいどうやって鍛えたのだろう?
虎美の運動神経は決して悪くない。いや、センスだけをいえば俺なんかより遥かに優れている。多分朔夜よりも上だろう。
体育祭だろうが球技大会だろうが、どんな競技のどんなポジションへ就かせても大いに活躍してくれる。
 
それでいて実際の運動能力は朔夜の方が段違いに勝っているのだから、朔夜の鍛えっぷりは尋常じゃない。
虎美は余程の強豪部活動でない限りレギュラー並の活躍が出来るが、朔夜は強い部のエース並かそれ以上に動ける。センスや技術の差を肉体の性能差で埋めるどころか飛び越えている訳だ。
つくづく常人じゃねえな。
 
 
さて 身体のほうも相当に違うが、精神‥脳内の方は更に違う。
一言でゆうと 分かり難い。
露出度で喩えてみると 朔夜が「ハニー! 僕を見ておくれー!」と素通しガラス越しに全裸でアピールしているようなものだとすれば、虎美は湯帷子着とタオルで身をかためつつ風呂桶に入ったままのよーな感じだな。
 
 
読めない訳ではないのだが、とにかく分かり辛い。
虎美の内面に様々な感情がうねり犇きあっているのは分かるのだが‥どの感情がメインス
トリームなのか分からないから困るんだよなー。
あえて言うならドキドキ感24%トキメキ感19%ビクビク感18%ワクワク感15%ぐらいかなぁ。殺意とか憎悪とか、ヤバい代物がない(無いも同然だ)から安心と言えば安心だが。
 
もしかすると朔夜が極端に読み取りやすいとゆうだけで、虎美の方が人類の平均値に近いのではなかろうか?
だとしたら少々厄介だ。霊触に目覚めて「これで心理分析能力アップだぜ!」とか喜んでいたのが空しすぎる。
 
まあ良いか その時はその時だ。修行に励むなりサタえもんにドーピングして貰うなりすればいい。
 
 
 
撫でて貰っているうちに、頭の痛みも引いてきた。あー気持ち良い。
 
なあ 虎‥じゃなくて九条さん。
なんで怒ってるんだ? 俺、鈍いし頭悪いから分からないんだよ。
お前、俺が何をやらかしたから怒ってるんだ? どうしたら機嫌直してくれるんだ? 教えてくれよ。
 
「解らないの?」
 
皆目見当つきませんです。
 
うを? な、なんだ!? 触れてる膝越しに虎美の怒りが伝わってくるぞ!? 
 
ま待て落ち着けからかったりしてないって本当だってば!何の自慢にもならんが俺は女心が理解できんのじゃよー!!
 
 
俺の魂の叫びが伝わったのか、膝から伝わるオーラが柔らかくなる。虎美の「なにとぼけてやがんだゴラァ」的な怒りの疑念も晴れたらしい。晴れたなら良いな。晴れてくださいお願いします。
 
 
「‥町村のことはあんなに良く解るのに、あたしのことは解らないんだ」
 
む? そー言われればそうだが‥ 朔夜は解りやすいとゆーか解りやす過ぎるキャラクターだしなぁ。比べるだけ無意味ではないかと。
 
「本当に 町村のことはよく分かるんだね」
 
いやまあ、よく解るようになったのは今日からですけどね。
 
うーむ、この感情はあえて言うなら『嫉妬』かな。
虎美は俺と朔夜の仲に妬いているらしい。それだけではないようだが、虎美の態度に嫉妬心が入っているのは間違いない。
 
なるほどそうか。虎美にとっては友達以上恋人未満な、付き合っているかいないかよく分からない微妙な関係なのか、俺達は。
てことは やっぱり虎美は俺のこと好きなのか。
もしかして‥俺って密かにモテモテさん状態?
だって クラス一の美少女(虎美)と、学年一の才媛(朔夜)に好意を寄せられてるんですよこの俺は。これがモテモテさんでなくて何だとゆうのだ。
 
 
 
 
 
添い寝やら膝枕やら、今日の放課後は密度が濃いですなぁ。
 
あれから半時間ほど過ぎました。俺と虎美は薄暗い体育用具室で、二人っきりの時を過ごしています。
と言っても互いの部屋に遊びに行く仲になって半年以上経つのに、手を握ったこともない俺らに進展とか発展とかそういった出来事は何も無い訳だが。
膝枕状態にもかかわらず「名城と何を話していたんだ?」とか「綾ちゃん、今日も来ないんだって」とか、会話にも色気ってものが無い。
 
俺と虎美の付き合いはまるで80年代ラブコメ漫画のよーではあるが、俺のキャラクターはそれらの主人公どもと違う。顔がちょっと良い事だけが取り得の軟弱君どものように、精神的インポテンツゆえに手出し出来ないのではない。
手出し出来ないのではなく、出さないだけだ。少なくとも今のところは。
 
虎美は まだ熟していないのだ。
確かに、虎美は俺のことが好きなのだろう。前々から好意は持たれていると思っていたし、今日この場で霊触能力を使い、実感として確認した。虎美は、何故か知らんが俺に惚れているらしい。
 
だが、今の虎美が抱いている恋心は未だ不完全なもの。由香や朔夜のような、完全に出来上がっちゃった想いではないのだ。
 
だから 今ここで不用意に手出しするわけにはいかんのじゃよ。
俺がごく普通の高校生なら喜んで突撃するんじゃがのー 総勢四名の小規模(うち内定一名、保留一名)とはいえ、ハーレム持ちが堅気の娘さんにホイホイ手を出しちゃいかんだろ やはり。
いや朔夜も市子さんも堅気だけど、二人とも俺が貰ってあげないと嫁き遅れどころか嫁きそびれる気配濃厚じゃからのー。うむ、ハーレム運営も世のため人のためなのだ。
 
その点虎美は嫁の行き先なり婿の来てなり、充分にあると思う。まあ、男運が壮絶に悪いとゆう問題はあるけど。
とゆうか言い寄る男の半分近くがストーカー野郎で、半分強がストーカーどもへの盾にも使えない腰抜けばかりなのは何故なのだろーか? 
一度神社にでも連れて行ってお払いしてもらうべきなのかもしれん。
 
 
まあそんな訳で俺としては当分今のままの‥友達以上恋人未満な関係を続けたかったりするのだが、虎美はそうでもないよーな感じなんだよな。いや、はっきりとは解らんが。
なんにせよ、虎美が俺のハーレムに入ってくれるなら嬉しいが無理矢理入れる気はない。
 
「それも良かろう。組織の急拡大は内紛の元だからな、支配者よ」
 
    
なんだサタえもんか。鍋の方は良いのか?
 
「ああ。一通りのものは揃えた。以後は外注主体で構うまい」
 
当座の必要量は用意できたので、これからは一々鍋の様子を見に行かなくとも良いらしい。
外注とゆうのは、地上では手に入らない材料とかも含めて魔界から色々と買い付けるのだそうだ。
その辺りの計画立案はサタえもんに丸投げしているので別に構わんがな。俺に支配されている以上、サタえもんは俺の不利益となる行動を何一つ取れない訳だし。
 
短い相談の結果、近いうちにサタえもんが魔界に行って商談を取りまとめることになった。
 
 
 
 
さてと、虎美の足が痺れ始めたようなので名残惜しいが膝枕を止めて体育用具室を出るか。
 
そろそろ行こうよ、九条さん。組みかけの大道具が俺達を待ってるから。
 
 
マットの山から降りて体育用具室の扉に近づくと、スライド式の扉が勝手に開いていく。
 
「先輩〜 まだですか〜」
 
無論、自動ドアなどではない。いかにも待ちくたびれましたとゆう口調な演劇部員一年生が開けたのだ。待ちきれずに様子を見に来たらしい。
 
舞ちゃんが開けた扉をくぐると‥ おおう、様子を見に来るのも無理はない。既にバレー部員たちは撤収済、演劇部の皆さんも後片付けを始めている。
ふむ。そういや外はもう暗くなっている。とっとと帰らないと普通の家庭なら晩飯にありつけなくなる時間帯だ。
 
俺と舞ちゃんの横をロケット花火のよーな加速で走り抜けて、虎美は舞台に向かった。まあ、大道具担当が片付け作業しない訳にもいかんしのう。
勿論、俺も手伝いに行かねばならない。特に今日は微妙に立場が弱いからのー 何故かは解らんが。
 
む? なにやら舞ちゃんの様子が変だ。俺の背後、用具室の中の一点を凝視している。
その視線の先は と振り向くと‥ 手前ぇかよこのヘボ悪魔。
 
どうしたんだい? 舞ちゃん。
 
「せ、先輩 あそこに何かいます」
 
声をかけると舞ちゃんは怯えながらすがり付いてきた。俺の陰に隠れるようにしながら俺を引っぱって用具室から離れようとする。
何かって‥ もしやサタえもんが見えてるのか?
えーと、とりあえず「‥何もいやしないぞ?」と見えない振りをしておこう。
 
「見えないけど何かいます!」
 
あー そういや舞ちゃんはいわゆる霊感少女だったけか。つまり見たくもないものが見えちゃう人。
世の中には「幽霊が見える」と主張する人が稀にいるけど、舞ちゃんは特に見ることが多いそうだ。
 
どのくらいかとゆうと登下校の際に踏切とゆうか、遮断機のあるところを避けて通学するぐらいに見えてしまうのだとか。
そりゃーそうだろう。実体の無い幻のようなものとはいえ、毎朝の通学路に血まみれの轢死体が転がっていたりしたら嫌過ぎる。もし俺が霊視能力に目覚めたとしても、慣れるまでそういった心霊スポットにはなるべく近づかないだろうな。
 
 
で、おい。そこのヘッポコ最下級悪魔。お前は俺以外の人間には見えないんじゃなかったのか?
 
「基本的にはな。支配者よ、何事も例外がある」
 
 
 
 
 
サタえもんは俺以外の者には見えないし触れないのだが、実は幾つかの例外があるらしい。
 
 
第一に サタえもん直属の上司またはそれに近い悪魔
 
これはまあ、道理ではある。
もし人間と契約して不可視・不接触・確認不可能の存在になれるとしたら、地上に派遣された悪魔どもは皆して仕事しなくなること請け合いだ。
怠惰は七つの大罪の一つ、悪魔ってのは勤勉な奴のほうが珍しいだろうからな。働くとしても表向きの仕事は適当に済ませて内緒のアルバイトの方に励むだろう。なかには反乱とか物騒な事を考える奴も出るかもしれん。
怠け者や不穏分子を見張るために、直属の上司‥サタえもんが平社員だとしたら所属する部署の課長ぐらいまで‥の悪魔には配下の悪魔が見えてしまう訳だ。
 
 
第二に 特殊な力を持つ天使や悪魔など
 
例えば天使の一派には『天眼』とゆう特殊能力が備わっていて、この能力を持った天使やその契約者にかかるとあらゆる存在が確認されてしまうそうだ。
つまりある種の天使や悪魔には偽装や幻術が通用しないのだが、やはり限度とゆうものがあり 最下級とはいえ隠れている悪魔を見つけるには第四階級以上の天使で天眼持ちでないと難しいのだそうだ。
サタえもんの話では地上には第四階級の天使は殆ど居ないし天眼持ちの天使は更に少ないので見つかる可能性は億に一つもない、とゆうことだが‥ 不安だなあ。
 
 
第三に 俺に近い魔力を持つ人間
 
俺と近い性質で高い魔力を持つ人間なら、サタえもんの姿が見えることも有り得るのだ。
具体的に言うと源一郎爺さんが生きていたら、俺にとりついているヘボ悪魔の姿を見れるかもしれない とゆうことだ。
 
ちなみに 由香がサタえもんの存在に気付くことはまずありえない。
由香や母さんの魔力は、俺との相性が良いのであってぴったり同じとゆうわけではない。質的に言えば非常に近いのだが性別が違う分どうしても微妙な差異があり、完璧に同調することはないらしい。
まあ、質的に全く同じだと今度は同性扱いになってしまい、子作りが極端に難しくなるそうなのでこれはこれで良いのだが。
 
では何故に他人で異性の舞ちゃんがサタえもんの気配を感じとったかと言えば
舞ちゃんは俺の‥とゆうか与渡一族のものとよく似た魔力を持っている上に、「11/16/73」とゆう極端に感知力に偏った魔力と、たぐい稀な『霊視』の才能までも併せ持っているからなのだ。
 
 
 
 
今、俺達は駅前のケーキ屋に来ている。ここは元は普通のケーキ屋だったのだが、何年か前に改装して店舗の半分が洋風甘味屋になっている店なのだ。
客商売だから当然ながら手洗い場もある。俺はさっきから手洗い場に行くと言って席を離れ『測定レンズ』を使い、演劇部の皆さんの魔力を測っている訳だ。
 
ちなみにサタえもんは舞ちゃんが怯えるのでとっとと帰らせた。
へっぽこ悪魔が体育用具室の壁からフェードアウトすると「悪いものがいなくなりました」と落ち着いたところを見ると、舞ちゃんの霊感は本物らしい。
サタえもんも帰り際に「その小娘にも今のうちに唾つけておくべきだな」とか言っていたが、どうしたもんかいのう。
舞ちゃんのことは嫌いじゃないとゆうか、かなり好きだが‥ まあ後の話だよな。口説くにしても朔夜と市子さんと沙希ねぇをなんとかしてからで良い。
 
 
あまり間を置くわけにもいかないので、適当なところで席に帰る。
ん? ケーキのお代わりが欲しいのかい舞ちゃん? 
良し、好きなだけ頼みなさい。勘定は気にしないよーに。
 
怖がらせてしまったせめてもの詫びだ。店員さんを呼んで追加注文する。
む? 勘定よりもカロリーが問題なのか? なら半分は俺が食おう。
 
 
 
さて‥ ついでにさっき測った、演劇部の皆さんの魔力を表にまとめてみますかね。
 
一年生三人が
百合恵 「28/37/40」
赤沢  「32/40/31」
舞ちゃん 「11/16/73」
 
二年生は、今ここに居るのは虎美だけだが
虎美 「39/35/28」
朔夜 「51/38/17」
名城  測ってないので不明
 
そして三年生が
くぬぎさん 「35/27/33」
大山先輩 「23/48/21」
沙希ねぇ  測定不能
とまあ こんな具合だ。
 
 
これって明らかに作為的人選だよな。魔力の高い娘さんばかり狙って集めたとしか思えない。
 
二年生の三人はまだ分かる。名城は借金絡みでやむなく入部した口だし、虎美はストーカー対策として、朔夜は友達の一人も作ってくれればと思い俺が演劇部へ入るよう勧めたのだからな。
 
三年生はとゆうと くぬぎさんは沙希ねぇの親友だし、大山先輩は胸のサイズに悩んでいた関係で沙希ねぇに施療と引き換えに入部して貰ったわけだ。
実は、沙希ねぇが高校進学した時点での演劇部は部員の数が足りず微妙にピンチだったりしていたのだ。一時は廃部の可能性すらあった程だ。だからとにかく部員が欲しかったのじゃよ。
 
ここまでなら、無理矢理説明がつかないこともない。俺や沙希ねぇ‥つまり与渡一族の血統は強い魔力を持つ人間に惹き付けられたり、あるいは逆に強い魔力を持つ人間を引き寄せる傾向があるからだ。
 
しかし、一年生三人が全員稀に見る魔力の持ち主とゆうのは出来すぎだ。沙希ねぇに憧れて入学した百合恵はともかく、舞ちゃんと赤沢までここまで高いと偶然では説明がつかない。
なによりも『魔力の低い娘さんが一人もいない』とゆうのが致命的だ。
 
 
 
なるほどな。そうゆうことか。
 
サタえもんが源一郎爺さんと出会ってから地上を去るまで、三十年余り。その間に爺さん‥つまり与渡家に送り込まれた魔界アイテムは数百個に及ぶとゆう。
もっともサタえもんの分析ではそれらのアイテムの大半は使い切ってしまったか、或いは壊れるか魔力切れを起こしているだろうとゆうことだが。
それでも百個前後の魔界アイテムが稼動もしくは待機状態にあるらしい。
 
仮にこの分析が正しいとすると、与渡本家は約百個の魔界アイテムを使えることになるが、そのアイテム全部を一度に使い回せる訳もない。
与渡一族の本拠地はこの街だが、この街以外にも大事な場所はいくらでもある。戦力を過度に集中することは戦力を過度に分散するのと同様にやってはいけないことなのだ。
 
何が言いたいかと 与渡一族の当主や当主代行といえど、自由に使える魔界アイテムの数は限られている とゆうことなのだ。
考えてみれば当然のことだ。与渡家は所詮一地方都市を縄張りとする戦後成金に過ぎない。この街でこそ幅を利かせていられるが、決してそれ以上のものではない。
もし数百個に及ぶ魔界アイテムを何時でも好きなだけ使えるのなら、我が一族はもっと羽振りが良い筈だ。
 
多分とゆうかまず間違いなく、沙希ねぇは与渡家の秘密を知っている。与渡家当主代行を務める沙希ねぇが知らない訳がない。
当然ながら、沙希ねぇの手元には数十個‥多くて五十かそこらの魔界アイテムがある筈だ。
ちなみに俺は今のところ二十数個の魔界アイテムを持っている。しかし使っているのはせいぜいその三分の一程だ。魔界アイテムは使いどころが難しいからな。
 
前に話したと思うが 魔界アイテムは9個までしか同時に使えない。一人で何十個も持っていてもあまり意味がないのだ。効率的に使うのなら、得意分野に合わせて一人当たり何個かに分けて支給した方が断然良い。
 
 
長い話になったがまとめれば一言で済む。つまり「戦争は数だよ兄貴!」だ。頭数が揃わないことには何も出来やしない。
 
だからこそ俺はハーレム作ってまで与渡一族の子供を、魔界アイテムが使える次世代の人員を増やそうとしている訳だが‥沙希ねぇがやっているように『魔界アイテムを使える人材』を集めるとゆうアプローチも有りなんだよなぁ。
質とゆうか一人一人の魔力では俺の子供達に劣るだろうが、そのかわり即戦力になる。
 
 
ま、俺には出来ない方法論だがな。
俺では演劇部の皆さんのよーな濃い人々を纏めるには人望が足りない。とゆうか人格が薄っぺら過ぎる。
器が小さいともゆう。畜生。
 
 
一事が万事、この調子だ。俺が暢気な学園生活を送ろうと汲々としている間に、沙希ねぇは将来を見越して次々と布石を打っている。
うむ。やはり俺は当主の器ではないな。与渡家の運営は沙希ねぇに任せることにしよう。元々当主の座に興味は無い。俺は沙希ねぇが手に入ればそれで良いのだ。
それだけで充分だ。沙希ねぇに比べれば与渡家の財産や人脈など塵芥(ごみ)も同然じゃよ。
 
 
 
 
「聞いているのか? 大輔」
 
沙希ねぇを墜したら‥とゆう妄想に連動して思い出してしまった 去年の夏休みに偶然見た沙希ねぇの下着姿 に半分トリップしていた俺は、勿論何も聞いちゃあいなかった。
 
聞いてませんでした ごめんなさい。
 
謝る俺を見て、くぬぎさんが溜息をつく。
どうやら話題は名城についてらしい。最近出席率が悪いし部活にも顔を出さないからお前なんとかしろ ‥って俺に言われてもなー。
 
「仕方がないだろう。名城はお前の言うことしか聞かないからな」
 
そうですか? 
 
 
 
 
 
甘味喫茶を出て解散した頃には、辺りはもう真っ暗になっていた。
やれやれ、すっかり遅くなっちまったな。
 
家が遠い百合恵はタクシー呼んで帰り、舞ちゃんと赤沢と大山先輩は沙希ねぇとくぬぎさんがそれぞれ手分けして送って行った。
そして俺はいつもとおなじように 虎美を駅まで送っている。
 
いつもと同じ筈なんだが、なにかが違う。俺と虎美の二人ともが互いに意識し過ぎてる感じがするんだよなー。
気付いてしまった以上、もう戻れないのかもしれんなぁ。気楽な女(男)友達同士には。
妙に寂しい気がするわい。
 
「さっきの話なんだけどさ‥」
 
ん? 何の話だい九条さん。
 
「綾ちゃんは与渡君の言うことなら、聞くと思うよ」
 
そうかな。名城がそこまで気難しい奴だとは思えんのだが、俺には。
と‥ いや、九条さんの言うことだって聞くと思うんじゃがのー。
 
「ううん。彩ちゃんを言葉で動かせるのは与渡君だけだよ」
 
 
虎美が言うには、名城にとって俺は特別な存在であり他に類のない信頼を寄せているらしい。その俺が言えば、名城もそう無碍にはしないだろうと。
 
そうかなぁ。
 
「なんて言うか、綾ちゃんと与渡君の間には独特な信頼があるんだよ」
 
言われてみれば確かに‥
綾子がどう思っているか知らんが、俺は綾子に対して妙な信頼とゆうか信用とゆうか「コイツは絶対に裏切らない」とゆう確信があるんだよな。
財布丸ごと どころか全財産を預けて平気な他人とゆうのも珍しい。
 
名城綾子は俺を裏切らない。断言できる。魂を賭けても良い。
もし運命の悪戯で俺の敵に回ったとしても、それを堂々と宣言し俺との関係を完全に清算してから立ち向かってくる。そんな奴なのだ。
 
わかった。明日にでも名城と話してみるよ。
 
 
 
 
「じゃ、また明日」
 
おう また明日、な。
 
いつもと同じ別れの挨拶を交わし、虎美を駅の改札口まで送る。
やれやれ、もうこんな時間か。
 
 
まぁ予想と大幅に違いはしたが、遅れてでも演劇部の手伝いに行って正解だったな。
もしすっぽかしていたら、明日はどうなっていたことやら‥ 正直、想像もしたくない。
由香と朔夜に、埋め合わせを兼ねてなにかご褒美をあげねばならんな。
 
駅前から歩いて学校まで帰って、乗ってきた自転車に跨る。あ、そういやこのMTB、籠も荷台も付いてねぇよ。
‥仕方がない、片手運転で帰るか。右手はハンドル左手に鞄。解りきったことではあるが乗り辛いのう。
おまけにライトも無いから無灯火で走るしかない。お巡りさんとエンカウントしませんよーに。
 
とかなんとか言った二分後に遭遇してしまいました。畜生。
 
うおっまぶしいっ なんだこの車、やたら照らしやがって 住宅地ではライト下げておくのが常識だろうが などと思ってたら覆面パト車でした。なんてこったい。
 
 
「はいそこの無灯火自転車止まりなさい」
 
停まりますよ停まれば良いんでしょ。‥って、何故に貴女が乗っておられるのですか麗子さん!?
そう、磁石つき小型パトライトを付けた軽自動車の運転席に乗っているのは、かつての隣人にして現在はこの街の治安を守る公務員、犬塚麗子さんなのだ。
 
「丁度よかったわ。話があるから乗りなさい、大輔くん」
 
いやその、お話は喜んで拝聴しますが帰ってからではいけませんか?
 
「私は今すぐ、二人っきりで話したいの。分かる?」
 
うはぁ何気に機嫌悪いですな。
なんでまたこんな目に遭わねばならんのだ。学校じゃ演劇部の皆さんに吊るし上げられ、帰り道では麗子さんに‥ 
 
あ そーいや、麗子さんと約束してたよーな気がするな。確か初体験が上手くいったら報告するとかなんとか。
いかんな、完全に忘れてた。
 
うーむ、まさか麗子さんに「実の妹相手に無事済ませました。今もラブラブです」とか説明する訳にもいかんし‥ かといって嘘ついても直ぐに見破られるだろうしなぁ。
前にも言ったかもしれんが、女の勘より鋭いものなんて有りはしないのだ。加えて麗子さんは本職の警察官。俺ごときが誤魔化せる相手ではない。
 
どうしよう? 
 
とりあえずサタえもん呼んでみるか。あんなへっぽこ悪魔でも、居ないよりはマシだからな。
 
 

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