警告!!
 
        この物語には 読者に不快感を与える要素が含まれています!
          読んで気分を害された方は、直ちに撤退してください!
 
 
 
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・宗教・学問・物理現象等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退してください。
 
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な内容及び表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
 
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
 
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・微弱電波・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます。
以上の属性に拒絶反応が出る方は、お読みにならないことをお勧めします。
 
作品中に 所々寒いギャグが含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご勘弁ください。
基本的に 爽やかさとは無縁の内容となっております。主人公は腐れ外道です。これまた峯田作品の仕様でありますので、ご勘弁ください。 
 
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様 きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
 

 
 
 
 
               『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その15』
 
 
 
 
我が家の朝は、まな板と包丁の合唱及び飯の炊きあがる匂いで始まる。
これに味噌汁と卵焼きの匂いが加わる頃には、俺の胃袋は辛抱たまらずぐぅぐぅと文句を言い始めるのだ。
あー五月蠅ぇ。自然の摂理だとはいえ、なんとかならんのかコイツは。
昨日、学校の帰りにケーキ屋に寄ったから夕食を抜いた事がそんなに恨めしいのか。我が胃袋よ。
 
 
 
ただ今朝食調理中。
といっても、炊飯器は母さんがタイマーまで仕掛けているから見てるだけ。味噌汁も鍋に出汁と味噌と具を少し足して温めなおしただけだがな。
漬け物刻んでるのは朔夜だし。
 
そして 程なくできあがった献立は
 
炊きたてご飯
二日目の赤味噌汁(具はワカメとカボチャとネギと焼麩)
野沢菜漬け
卵焼き(甘塩味)
焼き海苔
 
以上。 うむ、日本の朝飯ここにあり! 一応一汁三菜だし。
個人的にタンパク質とミネラルが足りない気がしてきたので、納豆一パックと生ハム二枚、鮭の水煮一缶とかつお節少々を追加しておくか。それにカルシュウムとビタミンの錠剤も。
夕べは大量消費したからなぁ。多分合計で十四回ぐらいかな?
朔夜との初夜も計算に入れると二十回近くか‥‥そりゃ腹も減るわい。栄養補給しておかないとな。
 
ん? 朔夜は喰わないのか?
 
 
「僕はおみおつけだけにしておくよ」
 
俺の差し向かいに座り、ご飯のお代わりをよそおってくれる大柄な女の子は 町村朔夜(まちむらさくや)。
俺の幼馴染み的立場に居て、何年も前から俺のことを一途に想い続けてくれている、可愛い娘さんなのだ。
 
16歳の少女が持ち得る美を極めたと言える、しなやかで力強い素晴らしい肢体と、素直で脆くて傷付きやすい危なっかしげな心を持つこの女の子が、どうゆう風に俺の恋人になったのかは‥‥前の話を読み返してくれ。
 
恋人とゆうか、法律的にはともかく気持ちの上では既に妻だな。俺と添い遂げることを誓ってくれた愛妻なんだ。同棲始めたのは昨日からだけど。
初夜も昨日。 
 
いや、今朝まで と言った方が正しいか。
つい二時間ほど前まで、組み敷いたり跨ったりで大いにベッドを軋ませてたのだから。
その後も抱き合って他愛もない睦言を交わしたり、二人っきりでのんびりと風呂に入ったり と新婚気分を満喫中だ。
 
朝食の準備も二人一緒。
キッチンから響く『幸せの音』を聴きながら待つのも良いけど、バスローブ姿の新妻といちゃいちゃしながら作る朝飯とゆーのもまた良いものである。
広いキッチンに設計した父さんに感謝だ。
 
 
深夜どころか明け方までえっちのやり通しなのに、我が新妻は何故ゆえこうも元気なのかと言えば‥‥朔夜は昨日までの入院生活で生活サイクルが半日近くずれてしまっているからだ。
つまり、朔夜の体内時計では今が真夜中。夜食代わりの味噌汁を飲んだら寝るべき時間帯なのだ。
今から寝れば起きるのは昼ぐらいになるだろーな。
 
おっと忘れていた。朔夜のために牛乳を湯煎しておいたんだった。
飲め、朔夜。こいつは只の牛乳じゃないぞ。与渡家と契約している酪農家の逸品だ。
 
程良く温めた瓶詰め低温殺菌牛乳を、朔夜のマグカップに注ぐ。
 
 
「‥‥美味しい」
 
だろ? なんでも、県コンクールで優勝した乳牛から搾った物だそうだ。
 
朔夜にはよく眠って欲しいのじゃよ。
流石に疲れてるだろうし、実は骨折も完治している訳じゃない。
 
もっと飲むか? 安眠にはホットミルクが一番だからな。
 
「ううん。タンパク質は充分だよ‥‥お風呂場でも、ハニーのミルク飲ませて貰ったからね」
 
温い白牛乳を飲み干した朔夜は、冷蔵庫の扉に手を掛けた俺を上目遣いに見上げる。
その‥ なんとゆうか、唇についた白い液体を舐める仕草が‥‥実にエロいです。
 
風呂場での、甲斐甲斐しくも不器用な舌捌きを思い出して思わず愚息もスタンドアップ。
おい。こいつをどーしてくれるんだ、朔夜。
 
 
 
えー 我が新妻は、僅か一夜で精液の味を覚えてしまいました。
やはり 初夜の直後に多人数プレイ は拙かったかもしれん。
 
いや、正確に言えば精液そのものではなく、その中に含まれる魔力に反応しているらしい。本人じゃないから詳しくは解らないが、俺の子種汁に残留する魔力を朔夜の味覚は『甘み』に近い感覚で受け取っているのだ。
 
どうやら 由香や母さんが「美味しい」とか「甘露」とか言って、俺の精液を飲みたがる理由がこれのようだ。
由香が他者に送る言葉が、ポジティブなものなら祝福にネガティブなものなら呪詛に と並の呪術師の祈祷よりも効く呪文になるように‥‥
俺が愛情を込めて注ぐ子種は、触れた女に幸せを実感させる媚薬となるのだ。
 
その幸せ具合を喩えるならば 極甘党な女が何日も荒野を彷徨った後に、低血糖一歩手前の状態で大好物の果物ジャムを大鍋で見つけて、熱々のそれを口一杯に頬張ったようなもの ‥らしい。
一言で言うと「生きてて良かった」と感涙にむせぶ程のものなのだ。
 
まぁ、ここまで強烈に効くのは 俺との相性が良い母さんと極端に相性が良い由香、そして極端に解りやすいが故に俺が魔力の揺らぎを合わせることができる朔夜、の三人だけだが。
 
他の女‥ 例えば俺のお妾さんに内定済みの大和撫子、末森市子さんあたりに飲ませたとしてもここまでは行かない。
気持ちよくさせたり美味しく感じさせたりすることは出来るが、病みつきになる程ではないのだ。他の女を病みつきにさせたいなら、魔界アイテムあるいは他の手段が要るだろうな。
 
他の女なんて要らないけど。
 
少なくとも、当分の間は。
なにせ この数日、一日一人のペースでハーレム要員が増えているからのー。せめて今日一日ぐらいは追加人員が来ないことを祈ろう。できれば明日も。
 
 
 
 
 
俺の名は与渡大輔(よわたりだいすけ)。17歳。
可愛い奴隷妻三人を擁するハーレムを持つ高校二年生だ。
 
そう、俺はハーレムの主なのだ。ちなみに在位歴は二日半ぐらい。
ハーレム王なので、好きなときに好きなように好きな女とえっちをする。
 
「 ハニぃ 僕もう‥いっちゃいそうだょぅ」
 
うむうむ。好きな女の喘ぎ声ってものは、何度聴いても良いものじゃわい。
 
俺に組み敷かれた女、奴隷妻三号で第四夫人の朔夜は、刺し貫かれてよがりながら俺を抱きしめている。テクニックのテの字もなく、ただただ与えられる快楽に流されているだけ‥ でも、そこが良いんだよな。初々しくて。
 
開発途上とゆうか開発を始めたばかりの身体だが、感度は良好だ。
首に付けられた首輪と鎖が俺の感じている悦楽を‥ 俺の分身が未だ処女膜ついてる新鮮肉壺で味わっている快感を何倍にも増幅して、朔夜の下半身に送り届けているのだ。
 
知識は豊富なくせに経験は無いに等しい女体を開発する、この喜び。
エロ漫画とかでよくある「俺の色に染めてやる」って、陳腐な言葉だと思っていたけど‥‥自分で言うと結構良いものですなあ。うん。
 
 
ちなみに奴隷妻一号であり第一夫人にして実妹である由香は、広いベッドの中央ですやすやと眠りこけている。
奴隷妻二号で第三夫人な俺の実母、美香はとゆうと‥ 由香の傍で娘の頭を抱き、指を絡めて眠っている。
 
 
おや、母さん起きちゃったよ。ちと騒ぎすぎたかな。
 
「‥‥おはよう」
 
おはよう母さん。
半分寝ぼけている母さんに「まだ寝てていいよ、朝飯の支度はしておいたから」と言っておく。ゆっくり休ませてあげたいのじゃよ。明け方まで寝させなかったからなー。
 
「‥‥朔夜ちゃんとあさのおつとめ?」
 
うん。朔夜の表情があまりにエロかったから、犯してるとこ。
顔もだけど、身体の方も本当にエロいよ。正直辛抱たまらない。
 
「そう‥‥」
 
 
主導権を完全に放棄、とゆうか最初から取る気がなく流されるままの朔夜だが、いわゆるマグロ女な訳ではない。もしマグロだとしたら、釣り上げられたばかりの近海マグロだ。
 
瑞々しい肌は火傷しそうな程に熱い。
柔軟で力強い筋肉に支えられた乳房は、仰向けで寝ていても形を崩すことなく俺の顔を受け止めてくれる。
愛撫に反応してひくつく肉壺の締め付け具合ときたら、柔な男ならあっとゆう間に果ててしまうだろう。
 
 
「‥ぅんっ」
 
寝ぼけ眼の母さんは息子と義娘の交わりをオカズに自慰を始めた。右手は くちゅくちゅ と音を立てながら精液まみれの股間を弄り、左手は左の乳房を持ち上げ、唇はその乳首に吸い付いている。
うわぁ こっちの顔も反則的にエロい。熱っぽい視線と切なげな表情が男の‥雄の本能を煽り立てる。
 
膣肉をひくひく痙攣させながら、軽い(C−ぐらいの)絶頂を迎えた昨夜に「朔夜。母さんも仲間にいれて良いかな?」と尋ねる。
まぁ訊くまでもないことだがな。ただの乱交ならともかく、互いの愛と絆を確かめ合う家族えっちを、朔夜が嫌がる訳がない。
二人の奴隷妻から快く承諾を貰い、いざ3人プレイに突入だ。
 
 
 
 
「義母さんの胸、素敵だね‥ ハニーが夢中になっちゃうの解るよ」
 
朔夜は母さんの乳が気に入ったらしく、嬉しそうに揉んだり吸い付いたりしている。
 
「あら、大輔は朔夜ちゃんの胸も大好きよ。そうでしょ?」
 
はい。朔夜の色も肌触りも申し分ない、清楚で可憐なお椀型の、揉み心地が良い少女おっぱいが大好きです!
 
「でも、義母さんの胸は別格だよね?」
 
おう。美香のふんわり柔らかいくせに張りがあって、二児の母なのに乳首がつんと上向いてる大人おっぱいが大好きだ!
 
仲良くじゃれあい乳繰りあう妻たちを、『奴隷首輪』を付けた朔夜と『ペット首輪』を付けた母さんを交互に貫く。片方は膣口付近を肉棒でこすりあげ、片方は肉壺に差し込んだ二本の指で急所(スポット)を探る。
 
「あふぅっ‥ お、御上手ですご主人様‥ 美香も、美香も逝かせてくださいませぇ」
「奥に、奥に来て! ハニーのお○んちんで僕の子宮ぐりぐりして欲しいよぅっ」
 
二つの首輪に繋がった『主の鎖』ごしに俺の感じている快楽を、肉と心の悦びを何倍にも増幅して二人の身心に流し込む。
 
 
「「ぁあんっ あぅっ ‥あっつぅ  ‥‥ひぃぃんっ」」
 
よがり声の合唱。血の繋がらない母娘奴隷妻は、手を取り合い二人そろって快楽の螺旋階段を昇りつめていく。
俺の方も限界が近い。股間の波動砲も充填率120%だ。
 
「いくっ 逝きますっ 美香はご主人様の指でいっちゃいまぁすぅ!」
 
完全にペットモードへと入っている母さんが昇天した。
逝ってる最中の膣壁を軽くひっかいて 「あふぅっ!」 絶頂感を味わう愛玩母の誇らしげな表情を蕩かしてやる。
締め付けてくる肉穴に差し込んだ人差し指と中指を踊らせ、同時に親指の腹で肉の蕾を優しく弄ってあげると、母さんはさらに連続で逝き続けた。
 
5回ほど逝かせると流石に辛くなってきたようなので、そこで止めておく。甘酸っぱい匂いのする愛液にまみれた股から指を抜き、敏感になりすぎた下腹部を撫で回して快楽を全身に散らしてやる。
真性マゾ女には、しつこいぐらいの愛撫で丁度良いのじゃよ。
 
 
さあて、次は朔夜にとどめを刺すぞ。
後戯がわりに母さんの植生薄いヴィーナスの丘を撫で回していた左手を離し、朔夜の腰に据える。両手で腰を固定して、ラストスパートの体勢につく。
 
「ぁ‥ あぅっ ‥んふっ」
 
今までのような余裕のない、勢いにまかせた動きで腰を使う。
尾骨のあたりに蓄えられた熱いもの‥‥生命の魔力を、圧力を高めた液体に染み込ませ充填させていくイメージを思い浮かべる。念じて確信する。これが俺の切り札、女を蕩かす必殺技なのだ と。
 
待ちかねていたものが近いことを悟った朔夜は、おねだりの声に精一杯の淫らさを込めて叫んだ。
 
「来てハニぃ‥ ハニーの、ハニぃの熱ぅいミルクで、僕のおなかいっぱいにしてぇぇ!」
 
おう、お待ちかねの特濃だぞっ 受け取れ!
 
必死で逝くのを堪えているきつきつ肉穴の奥に、俺の欲望をぶちまける。俺なりの愛情を、朔夜に抱いている愛しさを込めて、子宮の奥に送り込む。
届け、俺の想い! 
声にならない悲鳴をあげて痙攣する朔夜の腰を両手で掴み、精液を残らず出し切るまで押さえつける。俺の魔力を、丸一日前までは無意識のうちになんとなく出していた『魔力』を束ね、目的を持った『術』として精と共に送り込む。
 
さあ逝け朔夜! よがり狂って悦べ! 
俺との交わりを、俺のことをもっともっと好きになれ!
 
 
 
 
 
 
 
あー 気持ちいい。やはり性交は膣出しが一番だ。
女の子が逝くと、ただでさえ気持ちよい蜜壺が更に具合良くなるんだ。母さんの熟した肉穴も良いけど、朔夜の膣(なか)の気持ちよさもまた格別。
感触もだけど、思いっきり動けるのが嬉しいよな。
 
で 自分自身の快楽と、魔力のもたらす快感と、魔界アイテムで増幅された俺の悦楽と幸福感をまとめてくらった朔夜は気絶してしまっている。
ベッドの上の失神は医学的に言う気絶とは違うものだそうだが、細かいことは気にしないでくれ。
ぐったりとした朔夜の胸に顔を埋めて、しばらくの間余韻にひたってしまいましたよ。
 
 
母さんは‥ とゆうと、絶頂後の余韻から醒めてから俺の逸物を美味そうにしゃぶって尿道に残っている子種を吸い上げてくれた後に、寝なおした。
あまりの気持ちよさに、もう1ラウンド延長したくなったことは俺だけの秘密だ。帰ったら最初に犯してやろう。
由香は最後まで熟睡したままだった。よほど疲れているのだろう。
 
 
さてと、そろそろ身支度して出るとしますかね。
 
最低限の後始末を済ませて二階に上がり、着替える。
出がけに妻たちの眠る寝室を覗いてみると、三人ともにそのまま幸せそうに眠っていた。
 
そんな訳で、俺は抱き合い手を握りあって眠る三人の奴隷妻たちに布団を掛けなおした後、それぞれの頬に「行って来ます」のキスをしてから学生鞄片手に家を出たのだった。
 
 
 
 
登校にはちと早い時間帯だが致し方ない。家で寝たら絶対に寝過ごしてしまう。
どうせ寝るなら学校で寝た方が遅刻しないだけマシだ。
 
 
 
それにしても内臓が痛ぇ。睡眠不足が堪えてるなあ‥ 
サタえもんに掛けてもらった『活力充填』の効果が切れたかな? 連続して掛けると二回目以降は効果が薄くなるのかもしれん。
 
 
自販機でスポーツドリンクを買い、水筒代わりに持ってきたミネラルウォーターと交互に飲む。
睡眠不足の苦しみは脱水症状の苦痛に似てないこともない。だから徹夜明けに水分を取ると、苦痛が僅かにやわらぐ‥‥ような気がする。気がするだけだが。
 
 
時間が中途半端なせいか、通学路の人口密度は低い。とゆうか顔見知りがいない。
部活動やってる連中はもう校内で朝練の最中だし、帰宅部連中が大挙して来るのはもう少し後だ。
 
いや、一人いるな。
 
「いよう与渡。どうした、今日は早いじゃないか」
 
俺に気付いたその男は、片手を挙げて挨拶した。
俺も同じく「夜中に妙なところにギアが入っちまってな。ろくに寝てない」と 片手を挙げて答える。
 
中肉中背でついでに猫背。人の良さそうな丸顔に、根性が曲がり具合がよく表れた表情を浮かべているコイツの名は嵯峨野薙(さがのなぎ)、一年の時のクラスメイトであり、俺の数少ない友達とゆうか悪友だ。
色々あって、小中学生の頃の友達とは疎遠になってしまったからなぁ ‥‥富豪の孫なんぞやってると、対人関係歪むのじゃよ。いやその、殆どが俺の自業自得だけどな。
 
わりと珍しい名字してるから分かると思うが、コイツはあの霊感少女な一年生演劇部員、嵯峨野舞(さがのまい)ちゃんの実の兄なのだ。顔は全然似てないけど。
まぁ、遺伝子の不思議については俺と由香も似たようなものじゃが。
兄妹なのにあまりにも似ていないとゆう事実が「実は血が繋がってないんじゃないか」と憶測を呼んだり呼ばなかったりしたなぁ。
 
嗚呼、今にして思えば何もかもが懐かしい。さらば遠き日々よ。
 
 
「何を訳のわからんことを‥ 教室で寝るのはいいが、鼾も寝言も勘弁してくれよ?」
 
心配するな、保健室で寝る。
 
 
「保健室と言えば、町村は結局どうなったんだ?」
 
む? 昨日のアレ、お前の所まで噂が飛んだか。
 
「衆人環視の中、お姫さまだっこでお持ち帰り。しかも町村は病室から消え、病院側はノーコメント‥‥と来た日には当然だろう」
 
とゆーことは、新聞部か報道研だな、噂を広めやがったのは。
間違いない。普通の人間は病院まで押し掛けて調べたりしない。
 
「俺の聞いた話だと、与渡に会いたい一心で病室抜け出してきた町村が校門前で転んで骨折したそうだが‥ 町村病院にいないってことは、隔離病棟にでも入れられたか?」
 
阿呆かい。伝染病じゃあるまいし、なんで朔夜を隔離しなきゃならんのだ。
 
「骨折はともかく、ヤンデレは伝染するぞ」
 
ヤンデレ言うな。とゆうか実在の人間相手に、虚構演劇用の用語を使うな。
朔夜がヤンデレ女なら、俺はもう二十回ぐらい死んどるわい。あるいは俺の周りに死体の山ができてるかだ。
朔夜の知能と肉体を残虐な精神が操るようになった日には‥‥単独殺人の世界記録が更新されかねん。
医者は怖いんだぞー 堅気の職業で、医者連中ほど人間の弱点を知り尽くしている者はおらんからのう。
 
朔夜はヤンデレなんかじゃない。
つまるところ、ヤンデレってゆーのは 『恋愛には避けられない些細な危惧や不安から生じるストレスを恋人や恋敵(と見なした相手)に過剰かつ残忍な手段でぶつける危険人物』 のことだろ?
 
朔夜は違う。あいつは悪意や暴力を撒き散らすよーな女ではない。
恋道に限らず 人生の障害や敵対者を排除する際には、的確かつ迅速な、取り得る限り最善の手段を選ぶ女だ。良い外科医がむやみに患者の身体を切らないのと同じように、暴力をなるべく使わない方向で解決しようとする奴なんだ。
つまり、朔夜は骨の髄まで医師なんだよ。やつあたりなんかしないんだ。 
 
 
「そう言われると、凄く良い女に聞こえるな」
 
良い女なんだよ。趣味と人付き合いが壮絶に悪いけどな。
第一にだ、朔夜は演劇部の様子を見に来たのであって 俺に会いに来た訳じゃねえ。
俺が恋しくなったなら遠慮なく電話をかけてくる奴なんだよ、朔夜は。携帯の番号教えてあるしな。
 
そう、朔夜が病室を抜け出して学校まで来た理由は、演劇部の皆さん‥‥仲間たちなのだ。
偶然にも俺と会ったこと、そして怪我を増やして難儀している所に助けの手を差し伸べられたことや、怪我を癒して貰ったこと自体は喜んでいるが、俺を目的として来た訳ではない。
 
 
「そうゆうもんか? まあ、俺としては町村が何処に入院しようと、お前との仲が進展しようと後退しようと関係ない訳だが。‥‥舞さえ巻き込まれなきゃな」
 
安心しろ。舞ちゃんは可愛い後輩だからな。不幸になどさせるものか。
 
「いや、幸福にしようともしないでくれ。無関係が一番だ」
 
そこまで言うか。
 
「ああ。お前に「義兄さん」なんて呼ばれるのは御免だからな。‥‥まあ、舞は与渡の趣味じゃないからあまり心配してないが」
 
‥‥って そっちの心配かよこのシスコンどもめ! 俺もだが。
 
 
シスコンども と複数形で言ったのは、コイツには双子の兄がいるからだ。
舞ちゃんのもう一人の兄も、妹とは全然似ていない。とゆーか嵯峨野さん家は父母姉兄弟妹の6人家族なのだが、舞ちゃんだけ浮いてる気がする。
もちろん外見的な意味で。
 
で、まあ 可愛い妹を持っている兄の大半がそうであるように、嵯峨野兄弟もシスコンだ。
全世界の妹を持っていない不幸な人々よ! 「実妹に萌えるなんてありえない」などとゆう世の兄どもの言葉に騙されてはいけない。
あれは演技だ。擬態だ。照れ隠しだ。でなければ自分に嘘をついているのだ。
 
舞ちゃんのような愛らしくて健気で兄を立ててくれる妹がいたら、護り慈しみたいと思うのが普通じゃないか。
なにせ、同志によって結成された『舞ちゃんを見守る心の兄の会』とゆう隠れファンクラブまである娘さんじゃからのう。ちなみに俺は会員bSだ。 
 
とゆうか、舞ちゃんはかなり好みじゃがのー。内面外面行動面、全て文句無しの好少女だし。
 
「女としては大山先輩みたいな方が、より好みだろう? 与渡はおっぱい聖人(セイント)だからな」
 
違う 俺は巨乳派じゃない、美乳派なんだ!  ‥大山先輩は実は美乳だけどな。
あと、乳が好きなのは哺乳類の本能だ。本能なんだから仕方がないじゃないか。お前だって嫌いじゃあるまい。
 
 
 
 
 
パソコン部にちょっとした用が有るので、嵯峨野弟と共に部室棟に入る。
 
「よう兄貴、生きてるか」
「三割ぐらいは」
 
先に部室に入った嵯峨野弟の問いに、機材や資料で塔や山が出来ている机に座っている、丸顔にひねきった表情を浮かべた男が答えた。
コイツは嵯峨野‥‥何だっけ? まあとにかく、嵯峨野兄弟の兄の方だ。実は、この野郎どもはパソコン部の正副部長なのだ。
兄の方が部長なのはただ単に年功序列。この兄弟、双子なのに学年が違うのじゃよ。兄が三年生で弟が二年生。
 
日本の法律だと 四月一日生まれは前年度に、四月二日生まれは今年度に編入される。
で、運の悪いことにコイツらは四月一日の午後十二時直前とその数十分後に生まれたのだ。
普通なら二人まとめてどちらかの日付で出生届けを出すのだが、この二人は学年が別れるように一日違いで届けを出されたのじゃよ。
 
理由は‥‥ただ単に 面白いから だと思う。
正月に「これで何か美味いものでも食ってこい」と息子たちに渡した分厚いご祝儀袋の中身が、折り畳んだコピー紙に挟んである割り箸だったりする人だからなあ、嵯峨野父は。
当の兄弟は 兄の服や教科書や学習機材を弟におさがりさせて学費を浮かす為 だろうと言っているが。
 
勝手に子供の戸籍を改竄した俺の家とか、某球団と虎が好きだから娘に「虎美」と名付けた九条さん家とか‥‥ 親とゆうものはつくづく勝手じゃのう。畜生。
 
 
「ほら。朝飯持ってきてやったぞ」
「おお、すまんな弟よ」
 
嵯峨野兄はひとまず作業を止め、舞ちゃんが握ったらしい海苔おにぎりを喰い始めた。
‥‥飲み物がペ○シコーラな辺りがちと退いてしまうが。
コーラと米の飯は合わないだろう常識的に考えて。一体どーゆー味覚をしているのだ、この野蛮人め。
 
 
嵯峨野兄が何をやっているのかと言うと、泊まり込みでゲーム制作を進めているのだ。
学校は山風の通り道になるので、夜は割と涼しい。涼しければパソコンにも負担がかかりにくい。
更に、夜は電気代が安い。夜の方がネットを通じて部のパソコン部OBや部外の協力者たちと連絡もつきやすい。つまり色々と都合が良いのだ。
と ゆー訳で嵯峨野兄はしょっちゅう部室に泊まり込んでいる。学校には便所もあればシャワーもあるから、泊まり込むのに支障はない。恐いお袋さんもいないし。
 
我が校はかなり規律がゆるい事もあって、泊まり込んでいることをおおっぴらにしない限り黙認して貰える場合も有るのだ。まあ学業に響かなければ、の話だが。
パソコン部は風紀を乱さないように気を配っているし、部費を全額自力で稼いでる上に毎月の電気代も払っているので、割と大目に見て貰えるのじゃよ。パソコン部OBの中には名を上げた人も多いしな。
 
ちなみにモニタに映し出されている開発中のゲームは、昔懐かしの2D格闘もの。数年前にパソコン部が制作した『ワールドヒールズ』なるゲームに、画像を中心に色々と追加してバグ取りやバランス調整しているものだ。
 
このゲーム 設定は『麻薬組織を仕切る超能力軍人』や『日本武道かぶれな暗黒街の元締め』といった何処かで見たようなプレイヤーキャラたちが、魔界の王を名乗る謎の存在に大武闘会へと招待される とゆうよく有るものだが、普通に出来が良いのでそこそこ人気が出た作品だ。
 
所々に入っている小ネタも、俺好みで良い感じなのだが‥‥
これが徹夜してまで作る代物か? 新作はどうなったんだよ。
 
「(もぐもぐ)‥‥『家老伝説』は組める所まで組んだ。後は発注してあるパーツ待ちだな。(ぐびぐび)『ヒルデニア戦記』はシステムを巡って原作とデベロッパーが、揉めてる」
 
おいおい、もう6月も終わり近いのにまだシステムも決まってないのかよ‥‥
 
「ああ、夏には(むしゃむしゃ)間にあわないな。(ごくごく)分かってはいたが」
 
人事ながら気になってきたぞ。出荷ソフトが一本減ると、拙くないか?
 
「まあ、なんとかする(もぐ‥)」
 
最後のおにぎりに食いついた嵯峨野兄が、不意に固まった。口の中の物をゴミ箱に吐き出し、慌てて○プシを飲もうとしてむせかえる。
 
この症状はひょっとして‥‥ やはりな。
 
拾い上げて見てみると、嵯峨野兄が投げ出した最後の食いかけおにぎりは断面が真っ赤だった。タラコ混ぜご飯の中央に刻み唐辛子が山ほど入れてある。ぱっと見て梅干しかと思った程の量だ。
 
「ああ、その握り飯に特に意味はない。ただの悪意だ」
 
ってオイ。舞ちゃんじゃなくて、お前が握ったのかよ嵯峨野弟。
 
「‥‥表に出ろ、兄弟」
 
 
相変わらず仲が悪いのうコイツらは。呆れかえるわい。結束良くなるのは舞ちゃんに関してだけか。
 
部室棟の裏で 先週の土曜にすき焼きの肉を盗られた だの 贔屓歌手の新曲を鼻で笑われた だのと、日頃の些細な恨みをネタに一卵性双生児の弟とど突きあいを始めた嵯峨野兄の鞄に、頼まれていた映像をコピーしたDVDを入れておく。
これで用件は終わりだ。嵯峨野兄からの物(ブツ)回収は、また今度にしておこう。
 
 
さて と。演劇部の朝練に顔を出しても邪魔になるだけじゃし、保健室で寝るとするか。
教室で寝る訳にもいかんからな。正直、ホームルームが終わるまで持ちこたえる自信がない。
 
これなら家で寝ていても良かったんじゃないか とも思ったが‥ 
そうすると起きた時点でまた誘惑に負けてしまい、真っ昼間からえっち三昧になる危険性がある。
その点 俺が学校に行けば由香も後から追いかけて来るだろうから、二人とも午後の授業には出られるのじゃよ。
 
 
 
と ゆう訳で保健室の前まで来てみると、其処には見覚えのある人影が。保健室に入ろうとしているようだが‥‥
 
「‥あ 先輩」
 
おおう。そう言う君は昨日の美少年、もとい一年生の和邇(わに)君ではないか。
 
どぎまぎと怯えた様子で目を伏せる和邇少年のしぐさに、不覚にも目を奪われてしまう。
か、可愛い過ぎる‥‥ コイツ、本当に男か? ほっぺたとか虎美より柔らかそうだぞ?
 
む。よく見ると柔らかそうな頬に、傷が出来てしまっているではないか。
まさか、また彼奴らか!?
 
「ち、違いますっ これは今朝、河原で切ったんです」
 
河原? ススキの葉かなにかで切ったのか? それにしては刃物っぽい傷跡じゃが‥‥
まあいい。本人がそう言うなら信じておこう。深い傷ではなさそうだし、我が校の生徒に刃物を持ち出す奴はいない筈だ。
 
例によって無人の保健室に入り、棚から取り出した絆創膏を和邇少年に渡してやる。
勝手に使って良いのかって? 気にするな少年。少なくとも俺と保険医は気にしない。
 
「あ、ありがとうございます。先輩」
 
癖なのかどもりながら礼を言い、頭を下げる和邇少年。
それにしても高い声じゃのう。まだ声変わり前なのか、それとも声変わりしてまだこの高さなのか? 答えがどちらでも和邇少年が傷付きそうだから尋ねはしないが。
 
後輩のなよやか過ぎる後ろ姿を見送ってから、改めて保健室に入る。
流石にもう限界だ。疲れた。
悪魔の強精呪文連発や興奮剤の注射で乗り切ったものの、いくら何でも一晩に二十回は無理過ぎた。俺は早死にするかもしれんな、腎虚で。
 
サタえもん特性の安眠剤と疲労回復剤を飲み、保健室のベッドに横たわる。
ちなみにサタえもんは今日の明け方から、生まれ故郷へ帰っている。前回と同じく魔法薬の材料や魔界アイテムを調達に行ったのだ。
 
今回はとんぼ返りだから夕方ぐらいには帰ってくると言っていたが‥‥ 
そうすると、俺の家から長くても片道4〜5時間ぐらいで行ける訳だよな、魔界。
意外と近いのう。
色々と持たせた手土産が、サタえもんの家庭円満に役立つと良いのじゃが。
 
それにしてもサタえもんがいないと、出来ることが限られてるなあ。
今の俺に出来ることとゆーか取り得と言えば
 
一、素肌に触れると、相手の感情や感覚が解る。ただし相性による差が激しい(劣化接触テレパス?)
一、俺を好いてくれる、俺が好きな女の子を気持ちよくさせてあげる能力。ただし相思相愛じゃないと無効。
一、外傷をある程度まで治療できる。ただし嫌いな奴は治せない。
一、筋力だけなら一流運動選手並み。
 
こんなものかな。
‥‥なんか、本気でインチキ新興宗教の教祖ぐらいにしか勝てない気がしてきたぞ。
 
 
 
あー 横になってると眠たくなってきた。安眠剤は眠りが安定するだけで、睡眠誘導効果は無いとかサタえもんは言ってたが‥‥
まあいいや 寝よう。うん。
数日ぶりの独り寝だが、それもまた良し。
 
 
 
 
 
何か良い夢を見ていたような気がするのだが、起きてみると内容を忘れてしまう。よくある事だ。
 
「そんなに良い夢だった?」
 
うむ。懐かしくも切なくそれでいて心安らぐ‥‥ って何故ここに由香がいるのかな?
 
「もうお昼休みだもん」
 
おお、本当だ。何時の間にやら昼ですよ、昼。
 
「お弁当つくってきたんだよー。いっしょに食べよ、お兄ちゃん」
 
‥い、一緒にお昼 ですか? 妹よ。
 
「嫌?」
 
嫌じゃありません。ちょっと気恥ずかしいけど。‥‥念のために言っておくが お箸で「はい、あーん」 とか 口移し とかは無しだぞ。誰かに見られると拙い。
 
「いくら由香でも、沙希ちゃんのまえでそーゆーことする勇気はないよぅ」
 
ん? 沙希ねぇも一緒か?
 
「うん。さっきメール送ったら、中庭で待ってるってへんじきたよ」
 
そうか。とゆうことはくぬぎさんや大山先輩も一緒かな? 賑やかな昼食になりそうだ。
ベッドから降りて背伸びする。うむ、体力も大幅に回復したようだ。
 
 
ふむ。舞ちゃんはともかく、嵯峨野兄弟は呼んでも来ないだろうな。あいつら沙希ねぇが苦手だから。
 
「嵯峨野さんがどうかしたの?」
 
ん、いや 違うよ。舞ちゃんが欲しいとかそーゆー事じゃなくて、今朝ちょっとあってな。
仲睦まじい兄妹とゆうのは良いもんだなあ、と改めて思っただけだ。
 
「そうだね。由香もお兄ちゃんの妹で良かったって思う」
 
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
かいぐりかいぐりと頭を撫でてやると、妹は嬉しそうに抱きついてきた。
やはり妹は可愛い。世間には可愛くない妹もいるのかもしれんが、俺の妹は可愛い。
俺の知っている妹さんたち‥朔夜も舞ちゃんも、大山先輩や綾子の妹も可愛い。よく考えりゃ虎美だって妹キャラだ。
 
結論、妹は可愛い!
 
何が言いたいかと言えば、仲の良い兄妹とは良いものだ とゆうことじゃよ。
俺と由香のように『真実の愛』で結ばれた兄妹関係も良いが、嵯峨野兄弟と舞ちゃんのようなごく普通の兄妹愛で結ばれた関係も良いと思うのじゃよ。
 
時にじゃれあい、時に喧嘩し、時に支え合う。
妹を妻にしたことに一片の悔いもないが、それでも羨ましくなる時もある。由香と普通の兄妹でも、それはそれで楽しいだろう と。
 
まあ、俺の場合はたとえ人生やり直せるとしても、また同じ選択肢を選んでしまいそうな気はするけどな! 
 
とゆーか、今すごしているこの人生がそうでないと 誰が言えるのだろう。
来世とか輪廻転生が本当にあるとしたら(サタえもんの話だとあるらしいのだが)、俺は絶対に似たようなことを繰り返しているのだろう。
前世もその前も、来世もその次も、変わることなく由香と愛しあい結ばれている筈だ。
 
 
「どうしたの、お兄ちゃん」
 
保健室の戸口で立ち止まった俺を見上げる妹に、身を屈め唇を近づける。
察しのよい妹は目を閉じ顔をあげ、背伸びして兄の口付けを受け入れた。
 
由香。今日も遅くなると思うけど、待ってておくれ。
いっぱいえっちしたいから、俺が帰るまでに宿題済ませておくんだぞ。
 
「‥‥お兄ちゃん。帰るまでに由香の宿題おわってたら、ご褒美くれる?」
 
ん? 何が欲しいんだ? 言ってみなさい。
 
「由香、お兄ちゃんと一緒にお風呂はいりたいの‥」
 
 
ぐおっ! おねだり上目遣いは反則だぞ妹よ。  
良し! こうしよう。帰るまでに宿題と明日の登校準備を全部済ませていたら、ご褒美に二人っきりでお風呂だ。背中と言わず隅々まで洗ってやるからな。
済ませてなければ、美香と朔夜も一緒だ。
 
「うん♪ 約束だよお兄ちゃん」
 
何処らあたりが褒美や罰なのか分からない俺の提案を、妹は大喜びで受け入れた。俺がそうであるように、由香は俺と一緒ならどんな些細なことでも嬉しいのだ。
人は愛しい存在と共にあるだけで、幸せを得られる生き物なのだから。
 
ゆびきりげんまんうそついたらハリセンボンのーますっ
 
そして俺たち兄妹は久方ぶりの指切りを交わした後に、仲良く手をつないだまま中庭へと向かったのだった。
ん? いや、待てよ『互いの純潔を交換する』と約束したのが五日前だから、そう昔でもないな。その前は割と時間が空いてたのじゃが。
 
 
 
 
 
中庭へとやってきた俺たちを待っていたのは演劇部‥つまりは我が校を代表する美少女揃い‥の皆さんだった。
ただしフルメンバーではない。とゆーか過半数切ってます。絶対数で言うと四人しかいません。
 
ちなみに 今ここに居ない五人の内訳は、午前中の授業には出たけど昼で早退した方が一名。温泉つき宿泊施設で骨折治療中の方が一名。親戚の法事で朝から休んでいる方が一名。今朝、女子剣道部の後輩がトラブルに巻き込まれたとかで昼休み中も相談に乗っておられる方が一名。今日は学食で食べている方が一名。
 
つまり残る四人+1(由香)で、俺は合計五名の美少女たちに囲まれて飯を喰っている訳であります。いやぁ周りの視線が痛いですよホント。
 
まあ、外野が妬ましそうなのはいつもの事だが、今日はちょっと違うんだよな。
 
中庭の特等席‥木陰になる位置に置かれているベンチとテーブル‥についているのはいつもと同じ。今まで何度か体験した、中庭で沙希ねぇたちと一緒に飯を喰う時と同じなのじゃが‥‥
 
 
「お兄ちゃん‥ やっぱりお握りのほーがよかった?」
 
いや、そんなことはないぞ妹よ。うん。美味いよ、そぼろご飯。
 
今ひとつ食が進んでいない兄の様子を見て尋ねてきた由香に答え、がつがつと弁当の飯を喰う。
うむ、味は問題ないんだよ味は。
 
「ふむ。大輔は昔から握り飯が好物だったからな。なまじ凝ったものより飯を握るだけの方が喜んでいたぐらいだ」
 
と言いつつ、沙希ねぇはとろろ昆布を巻いたお握りを囓る。
 
あー そう言われるとそんな記憶も有るな。
巻き寿司や稲荷寿司やキャラクター弁当とかよりも、シンプルな握り飯の方が好きだった当時の俺の味覚に「作り甲斐がない」と沙希ねぇのお袋さんが嘆いていたような気がする。
 
演劇部部長にして俺の女神様であらせられる従姉、沙希ねぇは当然ながら料理もできる。
幼い頃は母親の真理亜(まりあ)さんに、真理亜さんと永別した七年前からは母さんと婆様に仕込まれ、その後は本職の料理人をも含めた講師陣に鍛えられている。
流石に 玄人も裸足で逃げ出す とまではいかないが、ごく限られた分野と状況でなら経験の浅い本職を凹ますことぐらいはできるのじゃよ。
 
ただまあ、学生と実業家の二足の草鞋を履いている都合上、どうしても時間が足りなくなる訳で‥ 沙希ねぇは学食を利用する事が多い。
今日は珍しく弁当持参。その中身は とろろ昆布や葉野菜の漬け物で包んだお握り+炙った魚の干物+卵焼き とゆうシンプル極まりない代物だ。 
 
「なにぶん時間が無いのでな。手間の要るものは作れん」
 
献立は至って簡素だが、沙希ねぇの弁当は量が多かった。その量、重箱で三段分。
俺が喰う分を計算に入れても多すぎる。多分くぬぎさんの分も入ってるな、これは。
しかし残念ながら我が従姉殿の親友にして剣道部の重鎮である、佳夜原さんちの跡取り娘は此処にはいない。
 
「とても美味しいですよ。お姉さまのお結び」
 
代わりに握り飯をぱくついている、栗毛の一年生は宮内百合恵(みやうちゆりえ)。沙希ねぇの崇拝者だ。
愛しの『お姉さま』と同じ学舎に通うために、毎日一時間近い時間をかけて自家用車で登校している百合恵もまた学食派なのだが‥ こいつも今日は弁当持参だ。
 
 
「そうか。百合恵のサンドイッチも美味いぞ。‥‥大輔も一つどうだ?」
 
沙希ねぇの弁当が和風シンプルなら百合恵の弁当は欧風シンプルだな。黒パンのサンドイッチを主体に、ミートローフっぽい肉の冷菜やマッシュポテトやピクルスらしきものが籠に詰められている。
 
にこやかな笑顔で後輩が差し出した籠から、サンドイッチを一つ取り出す。
なにかと俺に突っかかってくる事が多い百合恵だが、流石に時と所と状況を弁えているらしく愛想が良い。
うーむ‥‥確かに美味い。パンが良いんだなこれは。挟まれた風味の強いチーズもライ麦ならではの苦みと酸味を持つ土台(パン)に合っている。
 
 
ああ、沈黙が重たい。
 
この場にいる残り二名は、先程から黙ったままだ。
いや片方は良い。今も黙々と静かに昼食を咀嚼している演劇部で一番影の薄い娘さんは、普段から口数が少なく、あまり喋らない人物(キャラクター)だからな。
 
もう片方の、普段は明るく賑やかな娘さんは‥‥なにやら機嫌が悪そうであります。
 
 
‥‥えーと 九条さん?
 
「      ‥なに?」
 
うはぁ 返事に何やら名状しがたいタイグラムが! 本格的に機嫌悪いぞこりゃ!?
 
えーとえーと その、あれだ  み、ミートボール食べないか? 昨日分けて貰った卵焼きのお礼ってことで。割といけるよ。
 
爪楊枝に刺さった母さん手作りの煮込み肉団子を、有無を言わせず虎美弁当箱の蓋に置く。
 
「う うん。頂くね」
 
よし、受け入れて貰えたぞ。
泊まり込みしたことは無いものの、虎美はもう何回も我が家で飯を喰っている訳で‥ このマイベスト眼鏡っ娘は、母さんの手料理の熱烈な支持者(ファン)なのだ。
 
昨日のお礼 とゆう点からみれば肉団子以外にも分け与えねばならんのだが‥‥ちと問題があるのですよ。
何故ならば、由香が持ってきた俺の弁当箱に詰まっている肉団子以外の中身は 
 
ハート型ゆで卵
ハート型きんぴら蓮根
ハート型キャベツの一夜漬け
タコさんカニさんウィンナー+人参のソテー
止めに炒り卵地におぼろ海老でハートがかかれたご飯
 
とゆう、思わず「どこの新婚さんですか?」と言いたくなるような代物だったのだ。
蓋を開けた瞬間、空気が凍り付くのが分かりました はい。
妹いわく「ハート形のは由香が作ったんだよ」だそうな。当然ながら作った本人が喰っているものも、お揃いのハート形だらけ弁当なのだ。
退いてる みんな退いてるよ。
 
 
「ふむ、では私からは卵焼きをやろう」
 
「沙希ちゃん、由香もたまごやき欲しいなー」
 
「‥‥‥‥」
 
微笑ましい筈の従姉妹どうしのやりとりも、張り詰めた空気のお陰で台無しです。
見目麗しい娘さんたちに囲まれて美味い飯を喰っているのに、何故か楽しくありません。
 
今日に限って、何故にここまで空気が荒んでいるのだろう?
沙希ねぇと由香と虎美の間に、張り詰めた空気の三角形が出来ている。明るく笑ってるけど、目つきが危険だよ三人とも!
 
前と‥‥ いつもと何が違うんだ? 
演劇部員候補の中学生が演劇部の昼食会に誘われることは珍しくない。由香だって、月に一度ぐらいは沙希ねぇと一緒に飯を喰っている。
この前の会食では、こんな緊張感はなかったのだが‥‥ 
くぬぎさーん! 早く来てくれー! 貴女の人徳と調整力が必要なんだよー 今すぐに。
 
女子剣道部員にちょっかい掛けたとゆう変質者め。
後輩を脅かし、くぬぎさんを煩わせた上に俺の昼飯を不味くさせるとは‥‥ 良し殺そう。社会的に抹殺してやるぞ、畜生。
 
 
こーゆー時に頼れる先輩が、二人揃っていないのが痛すぎる。
かと言って百合恵は論外だ。信者を通り越して沙希ねぇ依存症なこの後輩は、お姉さまが不機嫌な時はただひたすらに嵐の通り過ぎるのを待つだけなのだ。 
いや、逃げ出さないだけ俺より根性据わっているかもしれんが。
俺は逃げたい。今すぐこの場から逃げ出したい。
 
もう一人の後輩は、場の張り詰めた空気を一切気にせず昼食続行中だ。まさに我関せず。百合恵とは別の意味で頼りにならない。
 
「‥‥こっち」
 
目線が会った無口系娘、赤沢鮎(あかざわあゆ)は囓りかけのチョココルネの太い方を指さして、そう言った。
 
いきなり何を言い出すかな、この娘は。
 
「チョココルネの頭は、こっちだと思う」
 
あー そーいえば前の昼食会でそんな話題有ったねえ。菓子パンの前後問題。
‥‥‥‥まさか、先月から延々考えていたのだろーかこの娘は。うーむ、つき合いが浅く短いせいか、赤沢の性格がもう一つ掴めんのう。
 
 
 
 
結局、くぬぎさんもそれ以外の救援も来ないまま、昼食会は妙にぎすぎすした空気を残して終わった。頼むからこれ以上続いて欲しくないものである。
放課後もあの雰囲気が続いてたら、泣くぞ俺は。
 
昼休みの残り時間をぐったりとして過ごし、午後の授業をぐったりしながら受ける。
そう言えば再来週から期末試験か。早いなあ。
次の日曜が演劇部の夏公演。その次の日曜が沙希ねぇの誕生日。その翌日から期末試験開始。
毎度ながら6月末はハードだぜ! 畜生。
 
 
 
 
 
放課後は 昨日にひき続いて演劇部の準備を手伝いに行きました。
今はその帰り道。大道具もその他の準備も殆ど終わった。明日の作業で仕上げだな。
まあ、演劇部の皆さん‥‥とゆうか沙希ねぇからは「明日は来なくても良いぞ」と言われてしまったが。
 
ううむ 何やら様子が変だ。何が変かと言えば右隣に並んで歩いている女の子、我が心の友である九条虎美の様子が変なのだ。
 
昼間のギスギスとした雰囲気は、部活動の時間には殆ど残っていなかった。少なくともお手伝い要員の野郎ども(美術部員Aとか)が、逃げたりはしていない。
やはり三年生のお姉さま方が居てくれたのが大きいな。大山先輩は授業には間に合わなかったが部活には最初から出てきてくれたし、くぬぎさんも三十分遅れで来てくれたのだ。
 
ただ、虎美の様子がおかしい。話しかけたら三秒遅れて返事をするわトンカチで自分の指ひっぱたくわ、と昔の漫画みたいな事を繰り返している。
幸い酷い怪我ではなかったで、練習を兼ねて叩いた指先を治療(ヒーリング)してみた。
その時に解ったのだが‥‥どうやら原因は俺らしい。
 
より正確に言えば、虎美は俺のことを意識し過ぎているのだ。
指が触れ合っただけで真っ赤になってしまうのだから、過剰反応気味だ。
ヒーリングしたのが衝立の裏で、誰にも見られなかったから良かったが‥‥百合恵あたりに見られていたら「ふしだらです!」とか言われていたかもしれん。
 
うーむ、何故にここまで意識しているのだろうか。
昨日の膝枕イベントで二人の距離が縮まったとか‥‥ んな訳はないよな。その程度で一気に縮まる仲なら、とっくの昔に密着している。
考えてみると妙な関係じゃのう。互いに憎からず想っている年頃の男女が 密室で二人だけで数時間過ごして何も無し とゆうのも。
いやまぁ 今の俺が虎美の部屋に招かれたら、勢いに任せて押し倒してしまうかもしれんが。 
 
 
で 互いに意識しあっている俺と虎美はチラチラと様子を窺いつつ、一言も話さないまま歩いている。
もうすぐ駅前だ。普段なら駅の改札口あたりまで送って別れるのだが、今日は虎美の家まで送ることになっている。
 
今朝方、剣道部の女子が絡まれたことは昼に言ったと思うが‥‥この手の事件は連続する傾向があるのだ。そんな訳で暫くの間、女子を一人で下校させられないのじゃよ。
 
 
んー 九条さん。ちと時間が有るから、何処か行くかい? 昨日、奢るって約束したし。
 
「‥‥甘い物、食べに行ったけど?」
 
あれは皆で行ったからノーカウントじゃよ。本来の約束は「二人で」だからのー。
 
「そっかー」
 
 
虎美はしばらく考えていたが
 
「何でも良いの?」
 
と訊いてきたので「おう。まだ懐暖かいから、何処でも良いよ」と答える。
実際の話、サタえもんが持ってきた古物がネットオークションで着実に売れ続けているので当分飲食代に困らない。『金龍館』で満漢全席でも注文しない限り大丈夫だ。
 
「そんなには要らない ‥と思うよ」
 
 
販売機で切符を買い、ホームで列車を待つ。
 
 
 
‥‥‥‥何故か分からないけど、妙に不安になってきた。
 
大丈夫だよな? 心配ないよな? 軽く飯喰ってから家まで送るだけなんだし。
ハリセンボンの出番なんて、有るわけないよな?
勝利条件は、少々遅れても無事に我が家へ帰ってくるだけ。
それだけで良いんだから、約束破ることはない‥‥筈だよな? うん。
 

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