鬼畜魔王ランス伝
第4話 「光との訣別」 『そうだ、今リーザス城にいないが、俺様にらぶらぶな奴を呼ぼう。あまりリーザス軍から引き抜き過ぎると、後で俺様が遊ぶ時に面白くなくなる。』 そう考えたランスは、朝一番でプルーペットを呼び出した。 「まいど〜〜〜!! 今日もええ天気どすなランス王。」 「ああ、そうだな。」 「ほんだら、さっそく、商売させて貰うでごわすよ。今日は、これなんか…」 「いや、今回は別の用がある。キサラちゃんを呼べ。あとキサラちゃんの妹も連れてきとけ。ちゃんと呼んだら10万Gold払ってやろう。」 「おー。王様、太っ腹やな。呼んでくるだけで10万でっか。」 「そうだ。今日中に何とかしろ。」 「ええっ、そんなに早うでっか? ……50万でなら何とかできるでごわすが。」 「ちっ。まあ、しょうがない。……早くしろよ。」 「まいど〜。ほな、また会いまひょ。」 『ふう、屋敷が焼けた時の再建資金としてあの娘を処分してなくて良かったでごわす。もし、そうしてたら……おいどんの命はなかったでんがな、う〜ぶるぶる。』 ランスの寝室の隣の部屋。そこには、5人の女性が集まっていた。メンバーはすずめ、メリム、レベッカ、シャリエラ、エレナといった面々である。このメンバーの共通点としては、かつてランスに助けられた経験を持つ事、そして、魔王となった今でもランスに対して好意を抱き続けているという事である。世話役に志願したり……謁見の間から様子を見に戻ってきたランスに、自分たちも連れていって欲しいと頼み込むぐらいに。 「がはははははは。いいか、お前ら。」 ランスは威圧感といやらしさと……見る人が見ないと分からないいたわり……をこめた視線で5人の全身をじっくりと見回した。 「俺様は魔王だ。従って、俺様についてくるって事は、人間を捨てるって事だ。それを判ってるか?」 「人間を捨てる……って事は私…人形に戻るの?」 かつて、ランスの手によって人形から人間になったシャリエラは不安そうな目でランスを見る。 「いや、人間が魔物っていっている存在になるんだ。まあ、魔王の眷属って奴だな。」 「魔王の眷属って……もしかして魔人の事ですか、ランスさん。」 これは、メリム。遺跡研究が得意で古代文献に詳しい彼女は、その手の知識も人並み以上に知っている。 「まあ、結論から言えば違う。お前らでは、魔人になるのに躰が耐えられん。」 「では、どうするんですか……ランスさん。」 「お前らには“使徒”になってもらう。勿論、俺様についてくる娘だけな。」 「使徒っていうと……確か魔人の部下で魔人に絶対服従だとか聞きましたけど……」 「さすがに物知りだな。ただ、魔人は俺様の部下だし、ちょっと変った方法で使徒にするから問題ない。」 「ちょっと変った方法って……」 「おっと、ここまでだ。俺様についてくる気のない奴は今すぐ出てけ。」 ……5分たち、10分が過ぎても部屋から出ようとする者はいなかった。 「けっ、そろいもそろって馬鹿ばっかだな。」 ランスは腰の剣を抜き、それに呼びかけた。 「おい、シィル。こいつらをお前の使徒にしろ。いいな。」 「はい、ランス様」 「……あの、ランスさん。これはいったい……」 交渉のため前に出ていたメリムが最初になった。ランスはシィルを自分の左手首に走らせると、血のついた刀身をメリムの口の前に差し出した。 「舐めろ。」 さすがに躊躇するメリムに、ランスは強い口調で繰り返す。 「……いいから舐めろ。」 「……はい。」 意を決して刀身に付いた血を舐めるメリム。その彼女の躰にみるみる力が湧いて来た。 「ランスさん。……これは?」 「使徒の力だ。まあ、不老の効果と若干のパワーアップの効果がある。あと、俺様やシィルに危害を加える事はできないが、命令は何でも聞かなきゃならないってのはなしだ。」 「どうして……王様。」 「ふん。何をしても決して逆らわん連中なんぞ、ただの木偶人形と同じで面白くない。」 「そ…それは……」 シャリエラが言葉を濁す。元人形の彼女としては聞き捨てならなかったのだろうが、何と答えて良いか判らなかったので、言葉を続けられなかったのだ。 「例えば、今、俺様がお前を殺そうとするだろ。ただの人形なら、何も抵抗せず、何も思わずに壊されるだろうが、お前は嫌だと思うだろ。」 「……はい。」 「それが、違いだ。ただ、俺様は今のお前の方が人形よりいいぞ。」 「……!…王様……嬉しい……。」 その台詞を聞いて複雑な表情をしているのは、すずめとレベッカだった。王様の考え方には好感が持てるが、できれば自分が言って欲しかった……そんな表情だ。 「じゃあ、続けるぞ。この儀式は長引くとそれだけ俺様が余計に痛いんだからな。」 「はい、王様。」 そして、そこにいる全員……5名がランス一行に加わったのだった。使徒……というより準魔人という方がしっくりくる立場で。 「あー、まだ立つなエレナ、いいから寝てろ。」 手首の治療を始めたランスを手伝おうと起きようとしたエレナの機先を制す。 「……おまえもだ、すずめ。部屋の掃除は後にしろ、後に。」 「でも……」 「いいから。お前らまだ躰が力に馴染んでないだろ。無理して躰を壊される方が困る。」 「はい……」 「レベッカ。」 「はい。」 「お前にかかっていたプルーペットの魔法の大半は、使徒化のついでで解除したが……その分みんなよりは躰に負担がかかっているから、しばらく寝てろ。ゆっくりとな。」 「………ありがとうございます、王様。」 「おう! 俺様に任せとけば幸せ度500%だ! がはははは!! 元気になったら、たっぷり色々と働いてもらうから、今はゆっくり休め。がははははは。」 そう言い残すと、ランスはみんなを残して謁見の間へと移動した。 「早いなプルーペット、もう連れて来たか。」 「はいでんがな、王様。」 「え……えと、この国の王様が何のよ……ランスさん!」 「おう、久しぶりだな。キサラちゃん。」 「な、何でランスさんがここに……」 「まあ、今は俺様がここの王様だからな。で、プルーペット。今現在でキサラちゃんの借金はいくらある?」 「利子込みで460万Goldですな。」 「俺様が全額立て替えてやるから、キサラちゃんの妹を寄越せ。」 「そ…それは、はい、わかりましたでんがな。あーこれ、パン、パン。」 プルーペットが手を叩くと、首輪で繋がれた女の子が引かれてくる。キサラの妹だけあって中々可愛い。 「まいどー。」 「こら、借金の証文も置いてかんか。」 「(ちっ)こら、失礼しました。こちらになりますがな。」 「うむ、じゃ行っていいぞ。」 「ほな、失礼しましたー。」 プルーペットが帰ってから、キサラと妹は抱き合って再会を喜んでいた。 「でも、ランスさん。どうしてこんなに良くしてくれるんです? 私の借金を清算したってランスさんには何のメリットもないはずじゃ……」 「それはな、前にも言ったが、お前の身体が目当てに決まってるだろ。借金の返済に追われてたんじゃ、俺様のそばに置いたままって訳にもいかんからな。」 「はい、有難うございますランスさん。この御恩は一生かかってもお返しいたします。」 妹から少し離れ、玉座近くにいるランスの前に移動したキサラが深々と頭を下げる。 「実は、俺様が魔王でもついてくるか?」 そのキサラに冗談めかした口調ながらも真剣な目で確認を取るランスは、 「はい。今のランスさんが……私を助けてくれたんですから。」 即答で快諾したキサラの返事に目を細めた。 「そうかそうか、がははは。」 場が和やかな空気に包まれた……だが、それを嫌うように血生臭い血風が駆け込んで来た。健太郎だ。謁見の間の扉を警護している衛兵を切り殺し、一直線にランスに向かって来る。その線上にちょうどキサラの妹が……いた。 「まずいわ……炎のカードよ!」 キサラは爆炎カードを健太郎の前方の床に向かって放つ。それは、健太郎が回避する事を狙っての……進行方向を妹のいる位置からそらすための方策だったが、健太郎は走る速度すら減じる事なく、手にした刀で眼前の爆炎をあっさり切り裂いた。そして、次の瞬間に横殴りに振り抜いた刀は鈍い音を立てた。 <グシャ……ごろごろごろ…ぽてっ> あっけなく転がった小さな躰は、何度も床の上を転がって……10m以上を転がってようやく止まった。首が不自然な角度に折れているのが、印象的だ。 「…お…ねえ……ちゃん……いたい…よ……」 それが、最後の言葉だった。 「…………許さない。」 ありったけのカード……魔道の呪札を手に前に出ようとするキサラ。だが、その肩を掴んで横にどけた者がいる。……ランスだ。 「どいてろ。キサラちゃんじゃ、奴には勝てん。」 「でも、ランスさ…あ……」 キサラはランスの腕が震えているのに気がついた。顔を良く見ると、激しい怒りが滲み出ている。 「行くぞ! この外道!!」 「外道はどっちだ! よくも美樹ちゃんを!!」 両者の剣が激突し、劣った力の持ち主が弾かれる。すなわち健太郎が。 『まともにやったんじゃ勝てない。日光さんもいつもより重いし……それなら!』 健太郎は倒れた女の子の足元に近寄ると、それをランスに向かって蹴り飛ばした。そのまま、その影から突撃する。 「自分が教えた技で死ね! ランスアタック!!」 女の子を受け止め、動きの止まったランスに向かって剣を振り下ろす。最も受け難い方向……すなわち、女の子ごと。練り上げて剣に集中した闘気が炸裂し、女の子をただの肉片に変えて爆散させる。 「やったか?!」 だが、健太郎の刀が生み出した血煙が晴れた時、ランスは微動だにせず立っていた。全身に血糊を浴びた凄惨な格好で。 「洒落にならん事やってくれるな、健太郎。……黒の波動!」 ランスの怒りが魔法を介して物理的な破壊力と化し、健太郎を吹き飛ばす。更に追い討ちをかけるため、剣を携え突撃する。 「ランスアタック!」 魔王の手加減抜きの一撃は、床に大穴を開けるほどの威力があった。健太郎はガレキに埋もれたのか、とにかく、その場から姿を消したのだった。 「すまん、キサラちゃん。見失った。生意気にも最後の攻撃をガードしやがったから、しぶとく生きてやがるかもしれん。」 「ランスさん……」 「で、改めて聞くけど……どうする?」 「……連れてって下さい。もう、人間の世界でやりたい事なんて……ないです。それに、……私、まだ、ランスさんに恩返ししてないです。させて……下さい。」 「おう、いいぞ。がはははは。」 「くっ…どうして……どうして勝てない! あれからレベルだって上げたのに!」 そう、健太郎である。リーザス城から脱出した健太郎は、盗賊の迷宮で傷ついた躰を休めていた。 「それは、貴方が憎悪に囚われ、怒りに任せて私を振るっているからです。健太郎様。」 「くっ……それは。」 「健太郎様がそんな心構えでいる限り、私は聖刀としての力を振るう事ができません。つまり、魔人が切れるだけの刀に過ぎないのです。それでは、魔王には通用しません。」 健太郎が黙り込む。心当たりがあるのだ。あの時、日光の力は発揮されていなかった。もし、あの時にそれが発揮されていれば、ランスを殺す事も可能だったかもしれない。 「心を澄み渡らせ、静かな湖水のように平静に保つのです。復讐ではなく、誰かを守るために刃を振るうのです。それが、それだけが私で魔王と戦う術です。」 「………それなら、もう僕にはできない。美樹ちゃんがいない今、僕が守るべきもの…守りたいものなんてない。」 「……わかりません。ランス王からは何ら後ろめたさのようなものを感じないのです…もしかすると……」 「それは、奴が良心の呵責を感じないクズだって事だろ!? 奴は美樹ちゃんを殺したって事を否定しなかった! だから奴が殺したんだ、間違いない!!」 「健太郎様! もう少し冷静になって…」 「もういい!!」 健太郎は日光の言葉を遮ると、日光を乱暴に放り出して、ふらふらと歩き出した。 「健太郎様!」 「だって、日光さんじゃ無理なんでしょ……。さよなら。」 「健太郎…様……」 健太郎がもはや日光を振り返る事はなかった。 それから2時間後……ランスの寝室にマリスが訪れた。 「ランス王、ご要求のものをお持ちしました。」 「ご苦労。……さて、リア。シィルに謝れ。」 「ぷぅ、何で奴隷なんかにあやまんなきゃなんないのよ。」 「そうか……じゃ、しょうがないな。」 軽く溜息をつくと、マリスから魔血魂と金塊を受け取る。 「リアは返す。……それじゃな。」 「はい、ごきげんよう、ランス王。」 ランスは、配下の魔人や使徒、ガーディアンたちを率いてリーザス城を出ていった。 マリスに止められてそれを見送らざるを得なかったリアが、出発を傍観させたマリスに食ってかかる。 「何で、ダーリンを止めてくれなかったのマリス。リアを置いてくなんて事するの。」 マリスは嘆息しながら答えた。 「おわかりにならなかったのですか、リア様。」 「なにが?」 「多分、ランス王は……リア様がシィル様に謝れば連れて行くおつもりだったのではないでしょうか。」 「!」 「あのタイミングで聞いてきたと言う事は……多分そうなんでしょう。」 「じゃ……じゃあ、今から謝れば……」 「多分、無駄です。次の機会を待った方が良いかと。」 「次……次って?」 「魔王軍の人類圏侵攻です。ただ、一応手紙かなにかで先に謝意は伝えておいた方が確実でしょう。」 「う……うん、わかった。」 リアは、かなり不承不承ながらも承知した。ダーリン……ランスの機嫌が何故だか悪いのには気付いていたからだ。確かに、今すがりついても逆効果だろう。 「うん……リア、いい子だからがまんする。」 それでも、自然と滲み出てくる涙を止める事はできなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ついにランス出奔です。魔王エンド系SSとしては異例の長期リーザス滞在でしたが、それもこれで一段落です。リアの我慢は……1ヶ月もてばいい方でしょうか。 なお、知らない人も多いかも知れないキサラはランス4.1と4.2のヒロインキャラです(この時のシィルは裏方です)。 |
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