鬼畜魔王ランス伝
第47話 「異世界の戦士達」 本復したランスは、さっそく東の地へと飛んだ。 顔も知らん連中が自分の土地であるJAPANで我が物顔でのさばっているのが許せないといった事が主な理由である。 特訓缶詰状態(ヘルメット無しで魔物と対話&レイラさんに会うの禁止)が功を奏したのか、魔物の軍を率いても何とか使い物になるようになってきたリックに留守を任せてランス一行は旅立った。 今回の道行きは、病み上がりである事を考慮してロールアウトしたばかりのチューリップ4号ヴィントの先行量産型を利用していた。その為、今回の作戦では魔王親衛隊から厳選した女の子モンスター5人(神風・髪長姫・まじしゃん・キャプテンばにら・とっこーちゃん)とメリム・ツェールをある目的で同行させている。 とにかく、ランス一行は、ほぼ直線コースで長崎へと向かう進路を採った。 「ふっふっふっふっふっ、完成よ。……まあ、独力での開発じゃなくなったけどね。」 完成した発明品を前に、腕組みをして怪しげな含み笑いをもらすマリアの姿は、何やら薄ら寒い雰囲気を辺りに振り撒いているが、ここではそう珍しい光景ではなかった。 そう、魔王城の実験研究区画にあるここ、マリア研究所では。 なお、他にも実験研究区画にはシルキィのバイオラボや、サテラのアトリエなどの施設も充実している。そのため、関係者以外は恐れ知らずの魔物でも近付かないとの評判であるのは公然の秘密だ。 今回完成したのは鎧……に見えるものである。 地金の色が剥き出しで胸部にあたる場所にチューリップの模様が描かれているという金属製の全身鎧なのだが、どことなく奇妙な鎧だった。妙に生物臭い上に、機械的なギミックが各所に内臓されているのだ。確かに鎧の形状はしているのだが、関節部や背部や脚部に配されたバーニアスラスターなどがその印象を単なる鎧では有り得ないものだと主張しているのだ。 「さて、試験飛行だけど……やっぱり私がやるしかないか。」 マリアの作った試作品の人体実験の被験者をしたい者など、魔物の中を捜しても滅多には見つからない。今回の品はその中でもピカイチに人気が無かった。空中で暴走したり故障したりしたなら、即墜落。ただじゃ済みそうに無い事がハッキリとしていたからだ。 それを見越して試作品はマリアのサイズに合わせて作られている。量産型は当然フリーサイズ対応にする予定であるが、今回はそこまでする時間がなかった。どうせ、基本システムからして後何度かの実験試用を経なければ実用段階とは言えない程度の段階であるから、そこまでする意味はあまりない。 さっそく装着してみる。ヒラヒラだのピラピラだのトゲトゲなんぞが出ている服でもなければ着衣のままでも問題なく装着できるようには設計してある。 まず、下半身部分に両足を差し込んで、前後に分割されている上半身部分が胸の辺りまで自動的に起き上がって来るのを待つ。この間、約2分。 「ふ〜ん。人工筋肉の凍結解除は思ったよりも早いわね。サイボーグ化の成果かしら。」 両脇にぶら下がっている腕部分に両腕を入れる。そうすると、背部から被せるように頭部分周りが折れてきて、ピッタリと合わさった。 「神経接続良好、機体制御系……まあ、おおむねグリーンじゃないかな。」 頭部は……マリアの都合上ヘルメットを省略してあるが、量産型ではちゃんとしたものを用意する予定である。 全身を軽く動かしてみる。 とりあえず問題は無い。 ラジオ体操をしてみる。 これまた問題はない。 「シルキィさん奮発して凄いキメラ素体提供してくれたみたいだけど……予算大丈夫かしら。」 そう、この鎧(?)はマリアとシルキィの共同開発なのだ。どうしてそんな事になったかと言うと…… マリアは元々パイアールの残したPG(パーフェクト・ガール)技術を使った鎧の制作を予定していた。だが、PGの装備はサイボーグかロボットが使用するのが前提の兵器であり、制御システムと人間を結び付けるには少なからぬ機械装置を手術で埋め込む必要があった。できれば、それは避けたい。 その時、そんな事を考え込んでいるマリアの所へと忍び寄る小柄な影があった。 「また、不毛な機械いじりでもしてるかと思って来てみれば、ここまで落ち込んでいるなんてな。さては、機械工学が生物工学に及ばないのを悟って落ち込んでいるのか?」 いつものシルキィの悪態。だが、それはマリアの頭に天啓の如く問題の解決法を提示していた。 「それよっ!!」 「わ! 何だ何だ!」 「お願い。シルキィ、力を貸して。」 「そうかそうか。お前も遂に悔い改めて生物工学の素晴らしさに目覚めたか。」 何やら勘違いして自己完結しているシルキィの誤解を解く訳も無く、マリアは研究依頼を行った。中に人間が一人入る事の出来る外骨格装甲のキメラを。 ……といういきさつである。その後、出来た素体をマリアが改造して今に至る訳だが、この素体にはシルキィが座乗しているリトルと同様に使用者とリンク出来る機能を持つ事と自我意識を持たないように大脳部分を省略しているという特徴があった。 つまり、着用者と接続できるキメラに機械装置を埋め込んでPGの装備を利用できるようにしようというのだ。 この計画は上手くいっている。少なくとも地上試験の段階では。 「改良型のチューリップ1号もおっけー。となると、いよいよ飛行試験か。」 そして、記念すべき最初の試験飛行は……失敗した。 「つつ〜っ。飛行状態での姿勢制御があんなに大変だとは思わなかったわ。」 当然である。チューリップ4号と人体では訳が違う。人間型という形状は飛行するのに向いているとはお世辞にも言えないのだから。 「……飛行制御用の補助脳くらいは入れた方が良いかしら。それとも……」 墜落後、地面に寝転がったまま考え込んでしまったマリアを救護班が心配して助けに来るまで、善後策の検討を続けるマリアであった。 「お、そうだ。ついでだからあそこに寄って行こう。」 ランスが突然そんな事を言い出したのは魔王城を出てから1時間ぐらいの事であった。 場所も予定コースからそんなに離れていないそこは…… シャングリラであった。 闘神都市の残骸の上空を越えて、オアシスの北端のはずれに着地したチューリップ4号を出迎えたのは……盾と槍や斧を持った直立歩行するトカゲの軍団だった。 「とかげ……?? どういう事だ?」 更に不思議な事には、そのトカゲ達にはどうやら敵意が無いらしいのだ。 とにかく降りて様子を見る事にしたランスに対しても応戦の態勢を取ろうとはしないのだ。まあ、武器を携えてはいるので、全く無警戒という訳ではないらしい。 『むむ……そこそこできるな。こっちから先に仕掛けたとして、相手が応戦して来るまでに倒せるのは20〜30体ってとこか。大き目の攻撃が出来ないと回り込まれるな。』 トカゲ達が半包囲の態勢をとっている事、武器防具を使う知性がある事を見て取って、ランスは油断の無い目で周囲を睥睨した。 そのランスの威圧にもかかわらず、トカゲ達は一歩も退く気配がない。 『ほう。こいつら中々使えるかもな。』 そんな、殺伐とした緊張感も3人の到着によって霧散した。 一人はシャンググリラの主とも云える存在、ハウセスナース。 もう一人は、見るからにここに居るトカゲ達の親玉といった感じの人物。 最後の一人は、何故か人間の女の子……に見える娘だった。 「がはははは、久しぶり。」 「久しぶりね、魔王。」 「何だ? この物々しい歓迎は? そして、こいつらは誰だ?」 「ああ、そう言えばそうね。紹介するわ。こっちが……」 「御目にかかれ、光栄でございますぎゃ、魔王ランス殿。私の名は、怪獣王子。そして、後ろに控えておるのが…」 「王子の妹の怪獣王女ぎゃ。うふ。」 そう言うと、怪獣王女はランスに向かってウインクした。 「これ、やめなさいぎゃ。はしたない…」 「いいぎゃ…別に…」 ちょっぴり膨れっ面になっているのが可愛いといえば可愛い。まあ、確かに人間とはいささか違う形の耳をしている。……兄貴とは全然似ていないが。 「最近、謎の機械兵士が襲撃してきたので皆神経過敏になっていますぎゃ。御無礼はお許し下さいですぎゃ。」 謎の機械兵士とは闘将や魔法機であろう。どうやら、墜落にもめげずに生き残ったしぶといのがいたらしい。 「しっかし、何時の間に。この前来た時にはいなかったようだが。」 周りを囲んでいるトカゲ……いや、怪獣戦士達は百や二百ではない。 「はいぎゃ。ランス王。実は、我々は、この世界の生物ではありませんぎゃ。別の……異世界から、新天地を求めて来ましたぎゃ。」 「別の世界から……本当か?」 「ええ、本当よ。」 横で怪獣王子の説明を聞いていたハウセスナースが太鼓判を押す。そして、目で先を促す。どうやら自分で説明する気はないらしい。 「この世界に来る事になったきっかけは、我が国の怪獣神官の降神術の最中……偶然、ハウセスナース様と会話が繋がったからでございますぎゃ。」 ランスが横目でハウセスナースを見ると、軽く頷いてその言葉が正しいという事を伝えてくれる。それを確かめると、また視線を眼前の妙に礼儀正しいトカゲ……いや、怪獣王子に戻した。 「我々は、砂漠の中で生きてますぎゃ。そして、新天地も出来る事なら砂漠を中心に動きたいと思ってましたぎゃ。我々にとっては好都合だったので…ハウセスナース様と怪獣神官達の力で、この世界に来る道を作って貰いましたぎゃ。そして、シャングリラに来たという訳ですぎゃ。」 「なるほど、わかった。」 「ところで……」 話が一段落したところで、ハウセスナースが口を挟んでくる。 「この前はありがとう。一応、礼を言っとくわ。正直、連中がヘルマンでやった事をここでもやられたら結構堪んなかったからね。」 闘神都市が魔導砲で町々を爆撃した事を指しているのだろう。確かに、シャングリラの規模では1発で壊滅しかねない。 「我々からも厚く御礼を述べさせていただきますぎゃ。」 「ありがとうだぎゃ。」 深々と頭を下げる王子と王女。そして、武器を掲げて最敬礼をする怪獣戦士達。ある意味壮観な場面は、 「がははは! 俺様は英雄だから当然の事をやっただけだ。」 といい気になって高笑いしても崩れる事がなかった。 「格好良いぎゃ。素敵だぎゃ。」 約1名、勘違いしている人間(?)を生み出しただけで。 後、4号のデッキ上で、 「うわ〜、異世界の王子と王女。それに伝説の聖女モンスター……ああ、この目で見られるなんて感動ですぅ。」 と言って小躍りしているメリムもいるが、デッキから降りて来ないので誰にも相手にされていなかった。……ランスが降りても良いと命令し忘れているだけなのであるが。 「ところで、シャングリラ王でもあられる魔王ランス殿は、この地に害をなそうとした一味と奮戦中と聞きましたがぎゃ。」 「おう。」 短く返答するランス。まあ、手段を選ぶ余裕の無い所まで敵を追い詰めたのもランスではあるのだが…… 「微力ながら、我々もその戦争に参加させて頂き、魔王ランス殿のお役に立ちたいと思いますぎゃ、如何でございますぎゃ。」 怪獣王子は優雅に頭を下げた。 「……強いか?」 「魔王ランス殿の足を引く様な無様な真似をしない程度でございますがぎゃ。」 「強いもんぎゃ。ね、にいちゃん。」 「これ、お前も頭を下げなさいぎゃ。」 「ぶうぎゃ!」 ランスぐらいの戦士になると、相手の何気無い所作からでも大まかな実力は見て取る事ができる。その目で見ると、怪獣王子は超一流の戦士に見える。怪獣王女の動きも中々に侮れそうに無いようだ。 「よし、わかった。異世界の人間だろうが、ハウセスナースが紹介するほどの連中なら、使ってやる。」 何気に偉そうな口調ではあるが、ランスの口の端は思わぬ戦力をゲットできた事で笑みの形に緩んでいる。 「ありがとうございますぎゃ。光栄の至りですぎゃ。」 「時に……後ろの妹は、戦うのか?」 「あたしは、にいちゃんとセットだぎゃ。あたし、戦うの嫌いだけど、にいちゃんが戦争に行くなら、ついて行くぎゃ。あたし、にいちゃんと離れたくないぎゃ。」 「よし、わかった。では、ふたりを俺様の部下と認めてやる。」 「ありがとうございますぎゃ。」 「うん、王様ぎゃ。」 「とりあえず、お前らの仕事はここの防衛だ。……お前らの軍団に空を飛べる兵士はいるか?」 「残念ながら、いませんですぎゃ。」 「わかった。それなら後で空戦部隊を送るように言っておく。」 「ありがとうございますぎゃ。」 こうして、ランスはシャングリラを手に入れ、そこを根拠地とする怪獣王子と怪獣王女に率いられた怪獣軍団を配下に加えた。 この地が再び戦略的な価値を高めるかどうかについては……以後の話に持ち越す事としよう。 ゼス国内の魔狩りは着々と進んでいた。 ただ一個所、聖女の迷宮を除いては。 大佐ハニーに率いられた強力な魔物達は、鎖を解かれたとはいえゼスの奴隷兵団程度が歯が立つような強さではなかった。味方の遺体の回収が義務付けられているのも掃討任務にとってはマイナスに働いていた。 そこで、ゼス幹部は本腰を上げて掃討任務にかかる事にした。 リーザスやヘルマンなどから亡命してきた部隊を中心に迷宮討伐隊を編成したのだ。 何だかんだ言っても、人間界で焼き討ちや内乱が起こっていないのはゼスだけである。 魔物による支配を嫌ったり、家を焼かれたり、戦火を逃れたりなどと理由の方は様々であるが、このところの他国からの亡命者は数多かった。その中の元兵士や傭兵などを駆り集めて部隊を編成しようというのだ。 それと並行して行われたのが、奴隷兵たちへの本格的な軍事教練である。 戦争時における基本的な部隊戦術の教授は、先の魔王軍侵攻戦のさいにリーザス軍が残した物資……特に武器や防具が兵に支給された事とあいまって、奴隷兵たちの戦力を見違えるほど大幅に…他国の歩兵部隊にも見劣りしないほどの戦力にまで…引き上げた。 だが、それでも、聖女の迷宮を守る魔物たちは、じりじりと押されながらも何とか持ち堪えていたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 相変わらず寄り道が好きです、うちのランス君。果たして予定の通りに行くでしょうか? ……無理ね、残念だけど。 ぐはっ。 |
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