鬼畜魔王ランス伝

   第49話 「荒ぶる神の社」

 ランス一行は長崎に到着した。寄り道などのせいで、予定時間を大幅に超過した夕刻も間近という時刻に。
 そこで、早いとこ五十六の所に行こうとしたのだが、長崎の軍司令部には五十六もかなみも不在だった。留守を守っていた者たちに聞いた所では、五十六は大阪近くの前線に出ているとの事であった。
 そうなれば、そこはランスであるから……居合わせたホルスの伝令に空戦部隊を1個大隊(600名規模)シャングリラに派遣するように命令してから、セルさんを部下達に任せて長崎の観光と洒落込む事にした。まあ、部下の女の子モンスター達は元々捕まえたセルさんを監視するために連れて来たので、これが本来の任務といえる。とは言え、セルさんを捕まえる際に予定外で意外な活躍を見せてくれた部下達の働きはランスを至極満足させていた。
『暇を見て使徒にしてやってもいいかな。』
 そんな事を考えるほどに、である。
 まあ、それもこれも魔王城まで無事に帰り着いた後の話ではあるが。
 使徒化の儀式も、施術された者がしばらくの間無力化する危険な儀式であるのだから。


 闘神都市Ω(オメガ)。
 かつて、聖魔教団が魔族と戦う為の切り札として建造していた浮遊要塞である。
 だが、今ではフリークこと闘神Ωごと接収されて、魔王軍の機動要塞として急速に整備が進められていた。ゼス王国が手に入れた闘神都市群に対抗する為に。
 この闘神都市Ωに、浮遊システム、最小限度の推進システムの次に最優先で備え付けられた設備は……転送施設であった。
 これにより、魔王城の一角に新たに設置された転送施設と結ばれたΩの補給は格段に楽になったのである。
 なお、これらの作業は主に、あんまり作業向きじゃない闘神Ωに代わってフリークロボといわれる魔力で動く鉄人形の改良版や闘神都市警備用の闘将たちの整備用に残されていた闘将化していた魔鉄匠たちの手によって行われた。しかし、それだけでは圧倒的に手が足りない為、魔物たちや他の魔人達……時には人間の手も借りて工事が進められていた。
 近く予想されるゼス側の反攻作戦に間に合わせるべく。
 それと並行して、フリークはロボット兵器PG−Xの技術を魔法機や鉄人形の技術と融合させるべく、暇を見ては設計と試作を繰り返していた。
 そして……
「……完成じゃ。」
 組み上がった一機のロボットを前に魔人フリークは腕組みをした。
 無骨なデザインの鋼鉄の人形。
 それは、背に鋼鉄の翼と、腕に大型の銃火器を持つ鎧騎士。……そんな感じの外観をしていた。
 フリークロボの魔法支援能力と、PG−Xシリーズの機動力を兼ね備えた新機軸の魔法機。それが、この新型機である。大規模な生産プラントが使用可能になった現在の状況に合わせて、手作業で生産と修理と整備をする為に省略せざるを得なかった機能などを大幅に復活させ、新技術の導入によって強化改良した機体である。
「しかし、ワシは(パイアールが)蓄積したデータを素直に使えたから比較的楽じゃったが……マリア嬢ちゃんの方は大変そうじゃのう。」
 窓を横目で見るフリークの目には……今日何度目かの墜落をするマリアの姿があった。


「へえ、こんな所に神社があったんだな。」
 茜色に染まる空の下、ランスは町から少し外れた所を散歩しているうちに、赤い鳥居を見つけた。
「よし、おみくじを引いて行こう。」
「私の分もお願いします、ランス様。」
 人影はランス一人なのに別の女性の声がした。どうやら、腰に提げられた剣から声が発せられたらしい。
「がはははは、気が向いたらな。」
 そう答えると、ランスは丘の上の境内へと続く石段を登り始めた。
「結構あるな……よっと……お、やっとついた。…おっ!」
 境内では、この神社の巫女らしい少女が、地面を掃いている最中だった。
「おーいっ、そこの巫女さん!」
「は…私ですか?」
 ランスの声に応えたのは、年の頃は15、6ぐらいに見える長い黒髪の少女である。
「そうそう、その通りだ。君は名前はなんていうの?」
「え…あ、あの…」
 突然顔も知らない相手に名前を聞かれては、即答できようはずもない。戸惑う少女をよそに、ランスはじろじろと観察を続けた。
『ふーん……巫女さんか……いかにも処女って感じだな。清楚なイメージを絵に描いたみたいだ。』
「あ、あの…」
「ん、なんだ?」
「あなたは…その出で立ち、もしや大陸の方ですか?」
「がはは、よく聞いたな。そう、俺様が世界の王、ランス様だ。当然、JAPANの主でもある。よく覚えておけよ。」
 ランスは胸を張り、思いっきり得意げに言った。
「せ、世界王…それは失礼致しました。私はこの神社の娘で、巫女の風華と申します。」
 ランスの尊大に見える態度と自信たっぷりの迫力から、風華は気圧されて丁寧な態度をとる事にした。……あまりに話が大き過ぎて、すぐに信用するには抵抗があったが。
「そうか、風華ちゃんか。よろしくな。」
「はい。ところでランス様、今日はこの神社に、如何な御用で…?」
「うむ、特別用は無い。あえて言うなら、散歩だ。しかし…ちょっと目的が出来たな。」
「と、申されますと?」
「風華ちゃん、SEXしよう。」
「え、えっ、あ、あの…」
 ずずいっ、と迫るランスに戸惑い、ずりずりと僅かずつ後退りする風華。
 その時、境内の裏手から一人の老人が現れた。
「お、おじいさま!」
「風華よ、もう掃除はよいぞ。中に入っておるがよい。」
「はい…それではランス様、失礼させていただきます。」
 風華はそそくさと、境内の奥へと消えていった。
「……なんだよ、じじい。」
「ランス殿と申されましたな。大陸から来られた王様だとか。」
「ちっ、じじい。話を盗み聞きするとは、趣味の悪い奴だぜ。」
「はっはっ、申し訳ありません。長く生きておると、色々と気になることも出てきますでな。」
「で、じじい。じじいはいいから、さっさと風華ちゃんを呼び戻せ。俺は風華ちゃんとSEXがしたいのだ。」
「……それは、なりませぬ。風華は特別な巫女ですゆえ……」
「なにい?! 俺は王だぞ、その王がよこせと言ってるんだ、さっさと出せ!」
「なりませぬ。ランス殿が風華を抱いたが最後、JAPANはおしまいですぞ。」
「な、なんだと?」
 事の大きさに少し驚いたか、ランスの態度が変わった。
「風華は、この地に奉られている神獣、オロチ様の贄になる為の特別な巫女でしてな…オロチ様にその身を捧げる日までは、清い躰でいて貰わねばならんのです。」
 その話は、ランスを憤慨させるに余りある内容だった。たちまち隠し切れない怒りが額の青筋となって現れる。
「ちょっと待て…贄って…生け贄にするってのか?! あんな可愛い子を?! じじいボケたか?! もっとこう、ブサイクがいるだろうが! 化け物に食わせても惜しくないような!」
 そのランスの剣幕にも関らず、老人は様々な事々に疲れた顔をして、諦めの言葉を口にした。JAPANに対する責任感だけが、老人の気力を支えてるかの如く。
「今から代わりを立てる事は、無理というもの…あの子も納得しておるでな。」
 ランスの眼光はいよいよ鋭くなってくるが、老人の気迫も中々崩れない。
「じゃあ、俺様がそのオロチとかいうのを退治してくれるわっ! それなら文句ないだろう?!」
「なりませぬ。オロチ様を怒らせたが最後…JAPANは滅ぶとの言い伝え。あの子一人の命で、この国全ての民が助かると思えば……」
『くそくじらの腰巾着め……相変わらず、ロクな事しやがらないな。ちっ、面倒臭いが仕方ない。俺様の土地に女の子を食うような化け物をのさばらせておく訳にもいかん。』
 心の中で悪態をつくと、ランスはまず眼前の愚か者に文句をぶつけた。
「じじい、俺様が絶対に勝てないという前提で物を言うな、ボケ。」
「無理でしょう…オロチ様は、獣の姿をしているとはいえ…神ですぞ。」
 ランスの一喝にも関らず、老人は中々譲らない。
「そこらに転がってる神の一匹や二匹どうにかできんようで、世界の王は名乗れんわ!」
「とにかく。」
 老人はきっぱりと言った。
「風華は、大事な身でしてな……いくら王と言えども、差し出す訳にはいきませぬ。どうぞ、お引取りを」
 決然とした態度を見せる老人に、ランスは一歩も引かず渡り合った。相手が“神”と聞いては黙っている訳にはいかないからだ。
「さっさと片付けてやるから、風華ちゃんかじじいかのどっちかが付いて来い。何なら両方でも良いぞ。」
「そ、そんな訳には…」
 流石に、いい加減ランスの堪忍袋の緒にも耐久力の限界が近付いていた。
「ええい、つまんない事ぐだぐだ言ってると、オロチが滅ぼすより早く俺様がJAPANを滅ぼしてくれるわ!!」
 老人は、突如ランスの躰から放散された殺気に身を凍らせた。危うく心臓が止まりそうなぐらいに。今にも溢れ出さんまでに軛を外された闘気によって、ランスの足元でつむじ風が舞う。その殺気と底知れないパワーに老人の態度は粉砕され、地面に倒れ伏した。心の中から湧いて来た、魔王である自分を馬鹿にした発言を繰り返した馬鹿者に制裁を加えようとする衝動のままに老人に手をかけようと一歩を踏み出しかけた……ところで自制して気を抑える。別に、老人を殺すのが嫌という訳ではないが、ここで殺してしまっては風華ちゃんをゲットするのに支障が出る。さっきから物陰から風華が成り行きを心配そうに見守っているのに気付いていたからだ。
「おい! 風華ちゃん! 出て来てじじいを手当てしてやれ!」
「手当てって…おじいいさま!」
 ランスの殺気に当てられたのか、ふらふらの状態で物陰から出て来た風華は、地面に倒れ伏している老人を見て顔色を変えた。
「ランス様! いったい、おじいさまに何をなさったんですか!」
「別に何もしちゃいないぞ。しいて言うなら気合い負けしたんだろ。」
 これは、一応本当の事である。ただ、今のランスの気合いを普通の人間にぶつけたら、それだけで死人になりかねないのだが……。
「それより、早く手当てした方が良いんじゃないのか?」
 その言葉に、風華も目下の優先事項を思い出した。
「いけない! おじいさま! ……良かった、脈がある。……息もしてる。」
 とりあえず命に別状が無さそうなのを確かめ、風華は胸を撫で下ろした。
「ところで、運ぶのが大変なら手伝うぞ。」
 そして、大いなる下心に支えられたランスの親切……に見える態度に、風華も態度を幾分か軟化させた。
「はい。申し訳ありませんが、お願いできますか。」
 自分一人の腕力では老人を引きずる事になるのを悟って、言葉通り申し訳なさそうな顔で頼む風華に、ランスは豪快に笑いながら快諾した。


 アークグラ−ドにアールコート率いる救援部隊が来たのと入れ替わるように、アリオスは古代遺跡に向けて出発した。彼が助けた人々が少ない物資を遣り繰りして渡してくれた食料品を大事に背負い。
「さて、次は127階からだ。行くぞ!」
 アリオスの迷宮探索は、その実力からすると攻略速度はあまり早くない。肝心なところ以外では不運という勇者の特性から、全ての罠に1度は引っかかってしまうからだ。それで死ぬ事がないとはいえ、厳しい事は確かだ。……もっとも、迷宮が攻略不能になる罠や絶対に致命的な事態だけは回避できているのだが。
 人類最後の国家ゼス王国が行った行為に正義を見る事ができなかったアリオスは、当初の目的通り迷宮探索に精を出すのだった。いざという時に魔王を倒す事ができるだけの力を得るべく。


「ところで風華ちゃん。俺様は忙しい身の上なんで、オロチなんて化け物は出来ればさっさと片付けておきたい。」
「えっ。」
 過去に討伐しようとした勇敢な者達をことごとく返り討ちにしてきた、自分達ではどうする事もできない神獣オロチを、単なる化け物と単純に言い切る眼前の男の言い草に、風華はいささか違和感を感じた。
「と、いう訳で今夜にでもケリをつけるつもりだ。じじいがこんなだから、風華ちゃんが証人として付いて来い。」
 あの時感じた“気”といい、今の言い草といい……実は、世界王と名乗るこの男こそが荒ぶる神なのではないのか……と。
「はい、わかりました。」
 しばらく熟考した風華がようやく答えを返す事が出来たのは、月光が辺りを照らす時刻になってからの事であった。


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 やっと出ました風華イベントです(笑)。魔王軍新兵器シリーズもこれで第三回(?)目を迎えて、ますます充実……してればいいな(笑)。
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