鬼畜魔王ランス伝
第91話 「代行より助力を」 ランス一行が鍾乳洞の中をのしのしと進んでいくと、前方に大きなつづら……もとい、宝箱が見えて来た。 「おっ、宝箱か。がはははは。何か、久しぶりに冒険してるって気分になってきたな。」 人間の一人や二人は軽く入れそうな大きな宝箱を見て気を良くしたランスは、 「シィル! あの宝箱を開…」 つい、いつもの習慣から、鍵開けを命じようとしたが、 「…ちっ、剣だったな。そういや。」 奴隷であり、冒険のパートナーであり、宝箱の処理を任せていたシィルは、今は彼の手にある剣であった。とても、この姿のままでは鍵開けなどできそうもない。 人間形態になれば出来るだろうが、ここで取っておきを使ってしまうのも勿体無い。 「ところで、お前らの中に鍵開けの得意なヤツはいるか?」 まずは、後ろに付いて来ていた部下たちに聞いてみた。 しかし、イシスもきゃんきゃんもおかし女も残らず首を横に振った。 「となると、俺様がやるしかないって事だな。」 とりあえず、宝箱を無視するという選択肢は無いようだ。 「あの〜、ランス様。私がやりましょうか?」 おずおずと意見を述べるシィルを、 「がはははは。俺様は天才だから、鍵開けなんかもお手のものよ!」 強がりで黙らせて、慎重に作業を開始した。 ……それから1時間後…… 宝箱は、未だ開いてはいなかった。 「ええい、くそっ。ここがこうで…そこがああで……」 「ランス様、やっぱり私がやりましょうか?」 悪戦苦闘するランスを見かねてシィルが横から口を出したのだが…… 「うるさい。今いいところだから黙って見ていろ。」 すっかり宝箱と格闘するのに夢中になったランスに黙らされてしまった。 しかし、問答無用で黙らされたにも関らず、新しいオモチャに夢中になって遊ぶ子供のようにキラキラした目で、ああでもないこうでもないと試行錯誤しているランスを見ていると、シィルは何か微笑ましい気持ちが湧き上がってきて幸せな気分になれていた。 『ランス様……この頃、こういう事できなかったから……』 王や魔王では、立場上、気軽に迷宮探検に出掛ける訳にもいかない。それでも、魔王になってからは単独行動をポンポンやっているのでかなりマシにはなったが……迷宮探検に出掛けるにも軍勢連れでなくては許して貰えなかったリーザス王時代には、時々機嫌が悪くなっていた事をシィルだけは知っていた。……そういう時は、ハーレムの女の子に手出ししたり、前線に出たりしてストレスを解消していたのだが。 やっぱり、自分の力だけで何かを成し遂げようとする行為には、特別の面白さがあるようだ。 そう改めて確認しながら見守っていると、遂にゆっくりと宝箱の蓋が開き始めた。 「やりましたね、ランス様。」 しかし、妙な事に気付いた。ランスの手が蓋にかかってはいないのだ。 なのに蓋はゆっくりと開いていく。 その状況が導く答えに、シィルは全身を緊張させた。 「がははははは。女の子が入っているとは、サービス満点の宝箱だな。」 逆に、たいした警戒もせずに開いた宝箱を覗き込んだランスは、中に仕舞われていたモノの可愛らしさに満足気な高笑いを上げた。 「私、起動します。7回目の目覚め。」 目をこすりながら、頭の両脇に白いボンボンを付けた無表情な女の子は感情のこもらぬ声で言った。 「私、起こしたの、ダレ?」 赤い瞳がランスを真っ直ぐに見詰め、じっと黙り込む。 視線はピクとも動かない。 「……魔王、魔王様ですか……果たして、私に命じて下さるだろうか? でも、これが使命、仕方ない。」 魔王としての力は一応封印してある状態だというのに、一目でランスの正体を見抜く眼力は、彼女が只者では有り得ない事を示していた。 「おい、何をぶつぶつ言ってる?」 「ランス様、この娘……女の子モンスターの復讐ちゃんです。」 思わず漏れた呟きに答えたのは、愛剣の魔人シィルである。 「復讐ちゃん。何か物騒な名前のモンスターだな。……どんなヤツだ、シィル?」 「はい。復讐ちゃんは、人の依頼を聞いてターゲットを殺す事が目的のモンスターです。一度決めたターゲットを殺すまでは決して諦めないと百科辞典には書いてありました。」 「ほほう。なるほどな。」 多分レア女の子モンスターの一種だろうと見当をつけたランスは、全身を舐め回すが如くじっくりと値踏みした。黒と白を基調としたモノトーンの服装だが、無表情な本人に良く似合っていて中々の見映えである。 「依頼主のあなた……復讐したい人、いますか? 殺したい人、いますか? 憎い人、いますか? 消したい人、いますか?」 ランスをヒシと見据えて、口走るのは依頼のおねだり。 しかも、コロシの依頼である。 今時分でも、なかなか見つからないぐらい殺伐とした感性であった。 「いるにはいるが、多分お前の手には負えんぞ?」 苦笑を浮かべて言うランスに、 「かまいません。」 そんな事は関係無いとばかりに、答える復讐ちゃん。 「じゃあ、言うぞ。プランナーの野郎だ。」 「ターゲット、プランナー承りました。依頼、開始します。」 微塵もためらいも見せず立ち去ろうとした復讐ちゃんを、力強い腕がワシッと掴んだ。 「だぁぁぁ! 俺様でも楽勝じゃあない相手が、お前一人だけで何とかできるわきゃないだろうが!」 「でも……依頼……」 魔王に凄い剣幕で責められて、無表情が崩れて暗雲が立ち込める。その顔は、丁度幼い子供の泣き顔に似ていた。 「依頼はやってもらうが、お前独りにゃやらせん。俺様と協力しろ。俺様がうんと言うまでは仕掛けるなよ。いいな。」 ちょっとしまったな、と考えながら、思いついたアイデアを早口で並べ立てて行く。 「……ホント?」 「ああ、本当だ。まず、手始めに俺様の女になってもらおうか。」 口元に不敵な笑みを浮かべ、自信満々に胸を逸らす魔王に復讐ちゃんは今までにない感覚を覚えていた。そして、その感情の赴くままに顔をランスの胸板に沈めたのであった。 何故、魔王の女になる必要があるのかは全くわからなかったが……。 処女を捧げた上、使徒にまでしてもらった復讐ちゃんは、少々休んだにも関らずふらつく足で一行について歩いていた。 勘の良い人間になら読み取れるぐらいに、顔をわずかながら朱に染めて綻ばせている少女型モンスターは、トコトコとランスの後を付いて来ている。 優しく抱き抱えられて運ばれるのまでは遠慮した彼女ではあったが、傍目から見ても充分に幸せそうな表情であった。 「がはははははは。出口だ。さすが俺様だ。」 終始一行の先頭を歩いていたランスは、遂に鍾乳洞の出口を発見した。 「よし、今度は出られるぞ。」 妙な結界に邪魔される事もなく洞穴を出たランスたちは、薄暗い雑木林の中に出て来てしまった。 夜なのであろうか、霧も手伝って薄暗い林をランスたちは進んで行く。 「ちょっと薄気味悪いところだな……おい、シィル。ここがどこだか知ってるか?」 復讐ちゃんにも他のモンスターたちにも、ここがどこであるかの役に立つ知識がなかったので、結局はシィルに聞いてみる事に落ち着いたと言う事情があるのだが、 「いえ、わかりません、ランス様。……ごめんなさい。」 今回は、ランスの信頼には答えられなかったようだ。……まあ、シィルは博識な方ではあるが、もちろん全知ではありえないので、答えられない事があってもおかしくない。 「まあいい。進んでいけば、街の一つや二つは見えて来るだろう。行くぞ。」 分からないモノをうじうじ悩んでても仕方ないとばかりにさっさと歩き始めるランスであったが、 「ランス様、ランス様。向こうに何かいます。」 「なにぃ! 美女だろうな!?」 「(美女って……女の方しか頭にないのですか?)いえ、右手前方の方をご覧になって下さい、ランス様。」 言わずもがなの反問を頭の中に響かせながら、シィルは何かがいる方向を示した。 その方向を見やると、確かに怪しげな一団が列をなして歩いていた。 「ど〜ぶつの大軍か? 何の余興だ?」 言葉とは裏腹に、危険を感じたランスの声はひそめられていく。 「100匹か…200匹ってとこだな。」 <ふぉーふぉーふぉー> 動物の鳴き声が森の中に響き渡り、ただでさえ暗鬱な雰囲気が更に暗くなる。 「ランス様、あれはきつねです。」 注意深く観察していたシィルが結論を下す。まあ、輿かなんかを中央に置いて行列を組んで歩いているのだから、ただのきつねとは考え難いのであるが……。 「ランス様、気付かれないように注意しましょう。」 ふと、きつねと行列の因果関係が繋がったのか、シィルがそんな忠告をして来た。 「あの程度の数の動物なら楽勝じゃないのか? ……ん?」 中央の車…きつねが牽いている車には、確かに誰かが乗せられている。 「間違い無い、女だ。それも、そこそこ美人だぞ。」 それは、紛れも無く白無垢を着た美女であった。 涎を垂らさんばかりに身を乗り出そうとするランスを、 「あれは、多分……きつねの嫁入りという儀式です。」 危険を感じたシィルの耳打ちが辛うじて止めた。 「きつねの嫁入り?」 「はい。JAPANの山奥で古から伝えられている風習だそうです。きつね達は、毎年一人の女性を村からさらって山の神の花嫁として捧げるそうです。」 「そうか、なら、あれは女に違いない訳だな。なら助けるぞ。」 どうやら人間の女の子だと見極めたランスは、シィルを片手に飛び出そうとした。 「だ、駄目です……待って下さい。きつねの嫁入りを邪魔した者はみんな殺されてしまうんです。」 が、必死になって止めるシィルの念話に止められる。 「何だと? 詳しく言え。」 「あのきつね達は、ただの動物じゃないです。山の神の使いです。ほんと、恐ろしい事になります。だから止めましょう。」 真剣な声音で止めるシィルであったが、 「じゃあ、尚更退けないな。行くぞ!」 それは逆効果であった。 今のランスにとっては、眼前に立ち塞がる『神』は敵も同じであったのだ。 「でかぶつ。それと、お前らはここに残ってろよ。」 イシスと復讐ちゃん。そして他のモンスターたちに一瞥をくれると、ランスは一直線に飛び出した。 「ランスアタック!!」 そのまま勢いに任せて放った一撃は、いきなり数十体のきつねを葬り去った。 「がはははは……楽勝。……何!?」 しかし、ズタズタにされたハズのきつねはあっさりと復活した。 <ふぉーふぉーふぉーふぉーふぉーふぉー> わらわらと群がるきつねは、数に任せてランスの防御をかいくぐり、小刻みに齧り付いて来る。ランスが魔王の膨大な体力を手に入れてなければ、とっくに致命傷を負っていたに違いない。更に言えば、普通のダメージは受けない筈の“絶対防御”を無視して手傷を負わせてくる所辺りは、流石に山神の使いである。 「くっ、くそっ。……ええい、仕方ない。鬼畜アタック!!」 一気に自分に群がる連中を自爆覚悟で吹き飛ばし……再生する前に死体を次々串刺しにして、存在そのものすらもエネルギーとして吸収していく。吸血鬼の持つエナジードレインの能力を応用した戦法で、いきなり半数のきつねが片付いた。 一瞬にして大量の仲間が惨殺されたきつねは、今度は一撃でまとめてやられない為、密集しないように気をつけて戦ったのだが……それは、ランスの思惑通りの展開であった。 一遍にかかってくるのでなければ、別に苦労する事も無くかわせる程度の攻撃であったし、吹き飛ばして動きを止める手間も省ける。 そんな道理もわからぬケダモノ達は、既にランスの敵ではない。 ものの5分もかからず、残りの半数のきつねも見事に切り伏せられた。 「がはははははは。大丈夫だったか?」 下心を厚い装甲の下に隠して、ランスは助けた美女へと駆け寄った。 「ああ、ありがとうございます。旅のお方。これで…」 抱き起こした白無垢のJAPAN美人は、 「さて、助けた報酬を貰おうか。お礼は君の身体で…って、えっ!?」 ゆっくりと身体を薄れさせていく。 「何だと!? おいっ(これじゃ、ただ働きじゃないか。せめて1発やらせろ)。」 しかし、言葉も思いも天には通じず、 しかれども、微笑みを浮かべたまま、きつねの花嫁にされた娘は消えていった。 まるで、心残りの全てから解き放たれたような透明な笑顔で……。 娘が消えた後には、古びた櫛が一つ落ちていた。 が、 「ん、何だコレ?」 それに気付いたランスが拾おうと手を触れた途端、粉状に崩れて風に流されていった。 まるで、自分の役目が終わったのだと、櫛自らが悟ったかのように…… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ええ、皆様の応援と生暖かい無視のおかげで、とうとう私の二次創作同人作家生活も二年目に突入致しました。今後も駄文を量産するとは思いますが、何卒中傷やウィルスなどはご勘弁のほどを。 なお、今回の話しですが、やはり独自解釈が入ってます。……具体的に言うと『きつねの嫁入り』のトコですね。でも、どこらへんが独自かは…内緒です(笑)。 それでは、失礼をば致しました。 |
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます