鬼畜魔王ランス伝
第107話 「テロの報酬」 ジオから“おみやげ”を持ってリーザス城に戻って来たランスは、 「マリス、マーリース!」 さっそくマリスを呼び出した。 「何でしょうか、ランス王。」 名を呼ばれてからさほど時を置かずやって来たマリスは、ランスの手にあるモノを見て内心軽い溜息をついた。 『新しい女に手を出すぐらいなら、リア様のお相手をしてくだされば良いものを……』 と。 しかし、ランスがジオでやって来た事を聞かされて少々見方の角度を改めた。 今回の件は単なる女漁りではなくて、立派に政略の範疇であると…… 「それで、ランス王はこれからどうなさるおつもりですか?」 「その前に……例の特別室は使えるようにしてあるか?」 特別室とは、リーザス城地下に設けられた王専用の遊興場で、ランスの快楽に奉仕する女の子を囲っておく為の部屋である。 「はい。ランス王がお越しになると聞いた時から御用意致しております。」 特別室の人員に関しては、以前にいた女の子のうち特別室勤めへの復帰要請に応じた上に病気や妊娠などの検査を通過した半数ほど…5名…が復帰しており、ランスが何時でも遊べるように手筈が整えられていた。 「じゃあ、この娘は特別室に入れる。が、その前に……現状を報告しろ。」 マリスが現在までの戦況の推移を簡潔に報告すると、 「それなら、今回の一番手柄はコルドバだな。で、俺様をハメようとした連中の背後関係は洗い出せたか?」 「いえ、AL教が怪しいのまでは突き止めましたが、証拠がありません。」 テロの実行犯はジオの手のものであったのだが、ランスもマリスも実行犯の後ろに大掛かりな背後組織がいる事を疑っているのだ。 いや、むしろ確信していると言った方が正しいだろう。 「じゃあ、そいつらも俺様が後で取り調べるから殺すなよ。」 「わかりました、ランス王。」 「あと、俺様に逆らった連中から臨時徴収で財産をたんまりふんだくっとけ。金持ち連中や特権階級を中心にな。」 「わかりました、ランス王(王は早急に降伏したら許すとおっしゃっていましたから、別件で追求して締め上げる事にしましょう)。」 ランスは、見た者を総毛立たせるほどの凄みが滲み出ている微笑みを浮かべたマリスの返事を確認するとその場を立ち去った。 リアと待ち合せている時間まで、腕に抱いてる女の子を篭絡して、躾る時間に当てるために……。 なお、女の子に対する調教の結果は前話で述べた通りである。 魔王城に帰り着いたサイゼルとハウゼルは、ホーネットへの報告もそこそこに済ますと自室のベッドにバタンと倒れ込んだ。 いや、倒れ込むように睡眠を貪り始めた。 大仕事をやり終えた満足感と達成感を疲労感と混ぜ合せて浸り込む彼女らであったが、この先に彼女ら姉妹を待っている運命を事前に察知する事は不可能だった。 しかし、それを予測できなかったからと言って誰をも責める事は出来ない。 何せ、この大陸における運命というモノは、何者かの気まぐれでコロコロと風向きが変わってしまう事もままあるモノなのだから……。 「ダーリーーン!!」 ランスが自室でのんびり一人で昼食を食べていると、ドタドタと駆け込んで来たリアがぐわしっとばかりに抱き付いてきた。 「お、おい……リア、そんなに抱きつかれちゃメシが食えん。」 「いや。だってリア、ダーリンとお昼食べるの楽しみにしてたんだよ。それなのに、ダーリンったら一人で食べてるんだもん……。」 うっすらと涙ぐんでいるリアを見て、ランスはリアを振りほどくのを諦めた。 ただ、壁にかかっている時計を見て 「ところで、まだ11時44分だから約束の時間までには間があるはずだがな。」 と溜息混じりに漏らしただけである。 「うっ」 だが、そう言われてリアはピシッと石化した。 まさに痛い所を抉られてしまったからである。 「それに、これを食った後でもお前らの食ってるような上品なメシなら一人前は軽く平らげられるぞ。俺様は運動して来たから腹が減っているんだ。」 うし肉とタマネギをタレをつけて焼いた物を丼飯にぶっかけただけの御飯とキンキンに冷したピンクウニューンなんてメニューは、確かに王族の食卓に並ぶには粗末過ぎる。 ただ、元々が平民出であんまり高級な料理とは縁の無かったランスは、庶民の食卓に並んでもおかしくない感じの食事が無性に食べたくなる時があるのだ。 「じゃあ、リアが食べさせてあげる。」 ポンと手を打ったリアがそんな提案をして丼を取り上げようとしてきたのを 「却下だ。こういうメシは掻き込むように食った方が旨い。」 即答で却下して丼を死守する。 しかし、ランスは勢いでついつい口を滑らせてしまった。 「そういうのは後ですりゃいいだろ。今は黙ってメシを食わせろ。」 「うん、わかった……。」 強い語調に悄然とするリアであったが、語に含まれている意味を悟るとニンマリと微笑み、打って変わって明るく 「じゃあ、そこで待ってるね。」 と言って、ベッドの端にちょこんと腰掛けた。 その後、当然の事ながら、 ランスがリアの「あ〜ん」攻勢をかわすのに失敗し、照れ臭い昼時を過ごしたと言うのは言うまでもない事であろう。 旧魔人領地域。 魔王直轄領とも言うべきここで、現在3つの大きな公共事業が展開されていた。 一つ目は、死の大地緑地化計画。 ランスの手によって死の大地の放射能で汚染された土が残らず消し飛ばされたのを契機に、この地を豊かな森林に仕立て上げようと言う計画である。 二つ目は、カラーの森整備計画。 心無い人間の脅威からカラーを守る為、魔王城の南西に広がる荒野に大規模な植林を行ない、カラー族が住み易い環境を早急に整えようとする計画である。 上記二つの計画の責任者は使徒エレナ・フラワーであるが、カラー族がやってきた時点でカラーの森整備計画はカラーの女王パステル・カラーに引き継がれる予定であった。 そして、三つ目の計画は硫黄の森から番裏の砦Cへと繋がる街道を拓く計画である。 人間界と魔物の世界を隔てる壁“番裏の砦”が魔王軍の管理下に置かれても、その要衝の一つ番裏の砦Cには人間界からしか街道が繋がっていなかった。 これではいざと言う時に補給や増援に支障が出る恐れがあると言う事で、先日に街道建設が上申され、それが通ったのだ。 実際、ラボリがヘルマン解放軍と言う反魔王勢力に占領されている為に番裏の砦Cへの補給路は閉ざされており、飛行モンスターによる空輸に頼っているのが現状である。 整備された街道とまでは言わなくても、荷車が通るのに不足無い間道を整備するのは急務であったのだ。 この街道整備事業に数万にも及ぶモンスターが労働力として投入されてはいた。 しかし、魔の森とすら称される秘境を切り開くには並々ならぬ労力が必要であり、この道路が何時開通するかは見当すらつかない状況であった……。 リアを濃厚な口付けと執拗な愛撫で気を失うまで激しく虐めたランスは、そのまま縄で縛ってベットの上に転がしてきた。 まあ、縛ってきたと言ってもただの縛り方ではなくて、全身を締め上げ敏感な場所を刺激するようなHな縛り方であり、放置してきたとは言っても場所は本人の寝室のベッドの上にである。 こうすればしばらくは時間が稼げるだろうと見込んだランスは、さっそく時間が足りなくて午前中にはできなかった捕虜の尋問に行こうとしたが…… 『待てよ。男は催眠術と拷問で口を割らせれば良いとして、可愛い女の子までそうするのはマズイな。死んだら俺様が楽しめなくなるし。』 男女差別バリバリの懸案事項が頭をよぎり、足が鈍った。 しかし、すぐに 『ま、男連中を締め上げて何も出て来なかったら考えれば良いか。』 と言う風に開き直って地下牢へと向かったのであった。 今回の事変を契機に、無謀にも逆らった連中から財産や特権を剥奪しまくった結果、国庫は潤い、行政は幾らかスリム化され、税の不公平は(不完全ながらも)是正され、反乱を起こす前は裕福だった連中は路頭に迷う事となる。 そう。マリスは自由都市やAL教徒の反乱の主要な資金源になった者達に“貧乏”と言う罰を与えようというのだ。 それは、裕福や特権に慣れた者達には何より辛い仕打ちとなったのではあるが、今まで搾取されていた民衆が同列に落ちてきた彼等に同情する事はなかった。 「がはははは。さて、俺様を暗殺するよう命令したのは誰だ?」 地下牢の一室に集められたテロ犯人の生き残り7人…ちなみに全員が男である…は、ランスの質問に揃って口をつぐんだ。 なお、今までに行なわれた尋問によって全員が何とか辛うじて生きているってぐらいにまで傷めつけられており、ちょっと鞭で打っただけで死にそうな雰囲気である。 「さすがにマリスがてこずっているだけはあるな。……まあ、いい。」 憎々しげに射るような視線を送ってくる連中を不敵な笑みを浮かべて見下ろしていたランスの瞳が、突如妖しい輝きを湛えた。 その妖しい光はテロリストどもの心を鷲掴みにし、いつしか視線を逸らす事ができなくなっていた。 いや、視線どころか指一本すらまともに動かせない状況に陥っているのに誰一人気付いていなかった。 吸血鬼たる魔王の能力が一つ“魔眼”、つまり精神の力で相手に干渉する魔力である。 『抵抗できたヤツは……いないようだな。』 こっそり唱えた『リーダー』の呪文で表層思考を読むと同時に催眠術などで記憶操作がされているかどうかを念入りにチェックする。 『で、催眠暗示の痕跡は……ちっ、精神がブロックされてるか。』 精神探査用の呪文などで探られた時の用心として、暗示や魔法などの手段によって心の内部に設けられた強固な防壁で記憶や思考を探られるのを防ぐ処置を施しておく事、それをランスは『精神をブロックする』と称している。 つまり、精神がブロックされていると言う事は、それを解除しないと何とか自白させる以外の方法で相手から情報を引っ張り出すのが難しいという事を意味しているのだ。 それゆえに、ランスは精神ブロックを形成させている暗示の構成を読み取って、脳裏でちゃんとした手順で催眠暗示を解除する方法を算出した。 『これだと解除するのが面倒だな……。』 しかし、自分で弾き出した結果とは言え、順当な解除手順があまりに複雑で面倒になってしまった事にランスは少々顔をしかめたのであったのだが…… 『ま、いいや。乱暴に精神ブロックぶち破れば俺様の方はそんなに手間でもないか。どうせ俺様を襲ってきた奴等だから別に死んでも問題無いし、失敗しても予備はあるしな。』 男が相手の為に、すっかり手抜き処理する事が決定してしまった。 まあ、自分を狙った男どもの生命に配慮する義理も必要も無いので、ランスが相手の生存権を無視して作業を手抜きしても仕方が無い展開ではある。 「さて、と。まずは手始めに誰で練習するかな。」 その台詞に隠された不吉な響きにテロリストの面々は一斉に顔を青くするが、彼等に選択権などと言う上等なものは許されてはいない。 「どいつにしようかな、俺様の言う通り……よし、こいつに決まりだ。」 指差しつつ行なわれた投げ遣りな選出方法にも、勿論異論を挟む自由など無い。 ランスの視線の圧力が選ばれた一人に集中し、他の連中は眼力の束縛から解放された。 視線が運ぶのは純粋な苦痛。 催眠暗示によって、視線を受けた者自らが最も苦しむモノを直視するよう強制され、 それを後押しするかのように、ランスの魔力が念波となって犠牲者に叩きつけられる。 「あ…がガががガガが……ゲふッ!」 口から鼻から目から耳から盛大に血を噴き出しながら、手足が拘束されているにも関らず不恰好なタップダンスを踊らされた男は、突如カクンと脱力し……鈍い音を立てて後頭部を硬い石床に打ちつけた。 そのまま待つ事3分、 苦悶に引きつった顔のまま男は痙攣を止め、ついでに心臓の鼓動をも止めた。 血まみれの絶叫を耳に残して。 その生々しく恐ろしい死に様と 「ちっ、上手くいかなかったか。ま、良い。次だ次。」 魔王が漏らした苦々しげな呟きは、テロリストたちの神経をヤスリでザリザリと削るが如き心地を与えたのであった。 しかし、拷問はこれだけでは終わらなかった。 「フェリス、こいつの魂を狩れ。」 「はい、マスター。」 主の呼び出しに答え、どこからともなく現れた悪魔の魔人が手の大鎌を振るうと、青白い鬼火が鎌の先に引っ掛けられて身体から取り出された。 そして、 その魂を…… フェリスから受け取ったランスがバリバリと踊り食いにした。 声無き悲鳴が昼なお暗い地下室に満ち、それを聞いた人間の背筋を寒からしめた。 それは、単なる苦痛のみに留まらず地獄に落ちる事すら無い真の消滅を強制された場面を目の当たりに見せられた衝撃だけでは無く、 それが、ほど近い自分達の将来の姿だと思い知らされてしまったからであった。 二人目は、血の他に生温かい液体でズボンを濡らしながら床でエビの如く飛び跳ねていたが、ほどなく永遠に静かになった。 三人目は、ひたすら許しを乞いながらも、ランスの質問に答えられなかった為に前の二人と同様な運命を辿った。 「何となくコツが掴めてきたな。さて、次はどいつだ?」 邪な笑みを浮かべつつ、しかし目は決して笑っていない魔王の姿を見て残り4人の精神は脆くも崩れ去った。 だらしなくよだれを垂らしながら口々に訳の分からない事を羅列し、明後日の方向に視線を向けて命乞いする彼等の心は、もうどうしようもないほど壊れていた。 「「リーダー!」」 そんな彼らの表層思考を読み取るべくランスとシィルが魔法を唱えると、狙い通り精神ブロックはズタズタに崩壊していて、あっさりと読み取れた。 そのまま精神探査の針を冷酷に進めていくと、ある男の姿がおぼろげに浮かんできたのだが、その時点でタイムアウトとなった。 精神ブロックが崩壊すると作動する強力な後催眠暗示によって、暗示を受けていた対象を脳溢血にしてしまう仕掛けが発動してしまったのだ。 「……むう、むさい男なんぞ覚えるのも面倒なんだが……」 それでも辛うじて確保した情報を基にイメージを固めて行くと 「ランス様、この人ってランス様が斬り殺した人じゃなかったですか?」 そのイメージ映像を一緒に見ていたシィルが、該当する人物らしき相手を思い出した。 ランスが異世界から脱出した時に出口近くにいて、なし崩し的に戦闘になった連中の指揮官らしき男の姿であったと。 しかし、それは…… この方面での黒幕の詮索が袋小路に入ってしまった事を暗示していたのだった。 「ま、こいつの事に関してはマリスに洗わせる事にして……あと、黒幕の手掛かりはエリザベートちゃんか。やっかいだな。」 ガチガチの信心は、ある意味洗脳や精神ブロック以上の強固な抵抗力となって機能する事も多い。故に、今回ランスが男のテロリスト相手にやったのと同様に手荒な扱いをしたとしても必要な情報が得られない可能性も充分に考えられた。 しかも、 「可愛い女の子を死なせるようなもったいない事はしたくないしなぁ……。」 それなりに気に入っている女の子なので、できれば殺したくはないのだ。 長い長い溜息をつくが、ふと、ある事に思い当たった。 「ん、そうだ。あいつらを使おう。良し、そう決めた。」 思いつきが頭の中でカタチになっていくのに従って、自然と笑みがこぼれていく。 もっとも、微笑みなんてものじゃなく、魔想志津香辺りなら遠慮無しに『馬鹿笑い』と評するであろう笑みであったが。 「サイゼル、ハウゼル!」 自分とある意味では繋がっている二人の魔人を、ランスは念話で呼び出した。 「な〜に〜、ランスぅ。」 「何の御用でしょうか、魔王様。」 あからさまに疲れた眠いと言外に訴えてくる二人の語調にいささか怯みながらも、 「お前ら、できるだけ早くこっち……リーザス城に来い。」 ランスは用件をきっぱりと言い切った。 「え〜っ。」 不満気な声を思わず漏らす姉サイゼルとは対称的に、妹のハウゼルは、 「承知致しました、魔王様。」 従順に承諾の返事を返してきた。 「何引き受けちゃってるのよ、ハウゼル。」 「だって、魔王様の命令だし……。」 「強制力もかけてないような命令じゃ、どうせたいした事ないって。無視無視。」 「姉さん。そうは言っても……。」 「ああ、もう。そんなに言うならハウゼルだけで行って来てよ。」 眠さのあまりにブーブー文句を言うサイゼルであったが、 「俺様はお前にも『来い』と言ってるんだがなぁ、サイゼル。」 その文句は、ランスによって一言であっさり却下された。 今度は強制力有りの命令であり、魔人である限り無視はできない。 「チューリップ4号に乗って来ても良いから、急げよ。」 そう聞いて本気で緊急の用件だと思ったサイゼルは文句を言うのを止めて寝不足気味の頭をしゃっきりさせるべくシャワーを浴びに行き、ハウゼルは姉が納得したのにホッとしながら使えるチューリップ4号があるかどうかを確かめに自室を出て行った。 こうしてハウゼルが内心考えていた『魔王城で部隊を再編成する』案と、サイゼルが内心考えていた『しばらく姉妹二人でゆったり寝て過ごす』案が同時に没になり、二人は身一つでリーザス城へと赴く事となった。 しかし、何故に彼女らが呼び出されねばならなかったのかと言う理由は、この時点では明らかにされなかったのであった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今回は微妙にダーク風味です。 さて、これだけで後書きを終わらせるのも何なので、ちょっとした説明と言い訳を。 とある読者の方から、この頃のランスは許してばっかりで魔王らしくも鬼畜王らしくもないとの御指摘をいただいたのですが、106話では……正直、ジオの市民兵(女子供老人)部隊に居た美女や美少女を巻き添えにするのを嫌ったから吹き飛ばさなかっただけだったりします(笑)。かと言って、可愛い女の子に被害出さないように、ゲットした女の子を賞味するのを後回しにしてプチプチ地道に潰す気も起きなかっただろう……と考えてああいう行動に繋がっておるのですよ。 そこはそれランスですから、どこまでも自分の都合と勝手が優先してます。 あと、毎度恒例になってきた今回の見直し外注に協力して下さった辛秋さんとコトラさん、どうもありがとうございました。 |
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます