鬼畜魔王ランス伝


   第111話 「神と魔の対峙」

 久々に粗相をしでかしたウェンディにおしおきを気持ち良くかましたランスは、今後の事について思案していた。
『とりあえず、リーザス城で今やりたい事はだいたい終わったが……さて、これからどうしようかな。』
 マリスとの約束では年始の期間はリーザス城にいるとなっていたが、テロ騒ぎですっかり予定が狂ったのでリアの相手をしていられる時間がかなり減っていた。
 そこで三が日が過ぎても滞在していた訳なのだが、そろそろ他の場所で待っている美女や美少女が恋しくなってきたのである。
『……よし。ちょっくら出歩いて来よう。気になるとこもあるしな。』
 思い決めると、ランスはさっそく一人リーザス城を飛び出した。
 魔剣シィル一本を腰に提げただけの軽装で……。


 そんなランスがまず立ち寄ったのは、自由都市の反乱に巻き込まれたMランドである。
「おう、さよりさん。久しぶりだな。」
 腕利きの護衛はつけておいたものの、ちょっとだけ心配になったのだ。
「はい。ランス王もご無事で何よりです。」
「がはははは。俺様がどうかなるわけ無いだろ。それより、そっちは大丈夫か?」
「はい。ランス王のおかげで……。」
 頬を染めて頭を下げるさよりを見て、ランスは自分が書いておいた手紙が彼女に渡っていると確信した。
「それで、さっそく今夜……どうだ?」
 さよりは、俯いて首を横に振った。
「そうか。俺様が嫌いか? 抱かれるのは気が進まないか?」
 心底残念そうに漏らすランスに、さよりは慌てて弁解する。
「すみません。今夜は予定が……」
「それじゃ、今なら大丈夫だな。」
 一転して笑顔で物蔭に連れ込もうとするランスであったが、本気で泣きそうなさよりの目を見て寸前で思い止まった。
『ちっ、危うくクソクジラを喜ばせるような事しちまうトコだったぜ。それに、さよりさんは慎重に扱わないと、せっかく手間暇かけたのがパーだからな。』
「ランス王?」
 急に襲うのを止めたのを訝しげに見ていたさよりに、ランスはハタと気が付いた。
「俺様に抱かれるのが嫌だと言うんじゃないなら……もしかして、ここでするのが嫌なのか?」
「はい。すみません、ランス王。この遊園地の中でするのは……ごめんなさい。」
 暗い顔で頭を下げるさよりの顎を手で持ち上げて、至近距離で囁く。
「じゃあ、今度さよりさんの都合が良い時に来たら相手して貰うって事でいいか?」
「は、はい。」
 反射的に答えてしまってから、さよりは愕然とした。
 今は亡き夫ではない人間に貞操を許すような言葉が自然と出てしまった事に……。
「じゃあ、手付けだ。」
 そのまま唇を奪われ、口の中を舌で縦横無尽に弄られてから、さよりはようやくランスの腕の中から解放された。
「じゃあ、またな。がはははははは。」
 そう言って立ち去るランスを、さよりはぼうっと霞んだ視界の中で眩しく見つめていたのだった。


「さて、さよりさんの次は誰にしようか……。」
 色好い返事こそ引き出せなかったものの、段々態度が軟化してきているのを確認してほくそえんだランスは、次なるターゲットを誰にしようか楽しそうに思い浮かべていた。
「ランス様、迷うぐらいなら帰りましょうよ〜。」
 腰に携えたシィルが小声で呟くが、無論ランスがそれを聞き入れる訳も無い。
「ん? この気配は……そうか、あの外道がのこのこ降りて来てやがるのか。」
 そんな時にランスが察知した微かな神の気配。
 その気配の主に、ランスは心当たりが有った。
「よし。ここは俺様に失礼働いた気に食わん神っぽい果物に仕返しに行こう。」
 そうと決まれば、善は急げとばかりに南へと飛び去るランス。
「あと、ついでだから色々連れてこう。あそこには結構可愛い娘がいたからな。」
 魔王城からなら遠くて中々行けないが、Mランドからなら結構近いのだから。

「よしよし、未だ居やがるな。」
 自分の気配を多少は隠して簡単に見つからないよう闘神都市に再建された聖ヨウナシ降臨教会の上空に達したランスは、虚空に向けて呼びかけた。
「フェリス! この教会から誰も逃げ出せなくしろ!」
「はい、マスター。」
 即座に空間が封鎖され、神といえども下級の連中では出入りが不可能になる。
 ちなみに、中を見るのは自由なのでクジラがとやかく介入してくる心配は要らない。
「がははははは、行くぞ!」
 そうしてから、玄関から堂々と入る。
 そこには、アリシアとシンシアの双子の姉妹とヨウナシとか言うふざけた洋梨に手足と目と口がついた神っぽいモノが居た。
「ああ、邪悪な魔王がとうとうこの街に……」
 シンシアが嘆くが、アリシアは小声で
「ランスさん、前に見た時とほとんど印象変わってないけどな。」
 と呟いていた。
「こんな時こそヨウナシ様に救いを求めなくてはなりません。ヨウナシ様、私達をお救いください。」
 しかし、ヨウナシ様はランスに睨まれて動けない。
「ヨウナシ様?」
 それはもう、蛇に睨まれた蛙の如く。
「邪悪な魔王をなにとぞ、そのお力で滅ぼして下さい。」
 しかし、重ねて祈願されて流石に無視できなくなったのか、ヨウナシ様は渋々重い口を開いた。
「シンシアちゃんよ。」
「あ、はい。」
「耐えるのだ、今は試練の時ぞ。悟りを開くチャンスだぞ。」
 しかし、口から出たのはそんな一言。
「では、頑張りたまえ。」
 あまつさえ天界へ逃げ出そうとしたが、上位悪魔級の実力を持つフェリスの張った結界を破るのはヨウナシ様にはとても無理だった。
「え、そんな……ヨウナシ様?」
 逃げ出すのに失敗して自らの神像に正面衝突して地面に墜落するヨウナシ様。
「本当に、大事な時に役に立たない神様だな。そんな頼りにならない神より俺様を慕ったらどうだ。」
 以前のイラーピュでの冒険でも、アリシアはヘルマン軍に、シンシアは闘将ディオ・カルミスにあっさり誘拐されるというぐらいヨウナシ様は役に立たなかったのだ。
 黒い闘気を目に見えるほどに全身から噴き出して威圧感を撒き散らすランスに気圧されて、その場にいる者達は金縛りになったかの如く足が動かなくなる。
「ヨウナシ様は、偉大です。これは試練なのです。」
 あくまでもそう言い張るシンシアだが、膝が震えて立っているだけでもやっとだ。
 アリシアの方は、気絶せずにいるのが精一杯で床にペタンと座り込んでいる。
 そして、ヨウナシ様は……シンシアを盾にして、ランスの視線から隠れようとこそこそと移動していた。
「がはははは。ご自慢のゴッドバリアの威力とやら、見せて貰おうじゃないか。」
 ランスの、魔王の手がシンシアの首に伸びる。
「ランスさん!」
 姉、アリシアの叫びが教会の中で木霊する。
 と、ランスの腕はシンシアの首根っこを掴んでむんずと持ち上げ、横に置いた。
「え?」
「俺様が用があるのは、そっちの外道植物の方だ。」
 剣呑な視線を突き刺すランスに、ヨウナシ様の全身から油汗がだらだら流れる。……成分はヨウナシの果汁だが。
「シ…忠実な我が神官シンシアよ……私を守れ……(と言うか、助けて)」
 歩み寄る死神の気配に、ヨウナシ様は虚勢を見破られないように必死だった。
「てめえご自慢のゴッドバリアとやらも大事なとこでは役立たずだろ? シンシアちゃんは、一回それでさらわれて酷い目に遭いかけたんだからな。」
 イラーピュでの事件の際、シンシアがディオに誘拐された時の話である。ただ、ランスがシンシアを抱くのはきっちり邪魔したので色々恨みが貯まっているのだ。
「それなら、今回も役立つはずないよな。がははははは。」
 ランスがすらりと腰のモノを抜き放つと、それはピンク色の輝きを放つ。
 ゆっくり闘気を練り上げ大上段に振り上げていくと、ヨウナシ様は顔色を青くして慌てて言う。
「わ、わかった。良いものやるから助けろ。」
「……何を寄越すんだ? 下らんモノなら即座にズバッとやるぞ。」
 ランスが放つ魔王の本気の殺気に、ヨウナシ様は震え上がって壺やら掛け軸やらを後ろ手に隠した。
「(な、なにか無いか、魔王が欲しがりそうなモノ……そ、そうだ。)お、女の子ならどうだ?」
「ほほう。」
 剣をチャキッと構え直したランスは、偉そうに言い放った。
「誰の事だか言って見ろ。もしかしたら俺様の手が止まるかもしれんぞ。」
「アリシアちゃん……」
 ランスの腕がゆっくりと振りかぶられていく。
 その無言の圧力に、ヨウナシ様は割とあっさり屈した。
「ええい、シンシアちゃんもつける。これでどうだ。」
「勿論、お前が説得するんだよな。」
 剣を止めて殺気だけをぶつける魔王に、ヨウナシ様はガクガクと頭を身体ごと縦に振るしかなかった。
「我が忠実なる神官シンシア。お前は今日から魔王ランスのものだ。」
 今まで信じてきた相手に裏切られたと感じ、愕然とするシンシア。
「私の為に殉教するのだから死後は天国に行けるぞ。安心したまえ。」
 それを聞いてニヤリと笑うランス。しかし殺気も剣も納めない。
「アリシアも魔王ランスのものになるのだ。分かったな。」
 黙っているとドンドン不安になるので、ヨウナシ様は次々に説得の言葉を口走る。
 その弁舌だけは確かにちょっとしたモノで、遂には双子の神官はランスのものになる事を快く了承した。
 アリシアの方は信仰心というよりも唯一人の肉親で妹のシンシアに付き合ってヨウナシ様の神官をしてただけなので、シンシアが説得されれば問題はさしてなかった。……もともとランスには好意的であったし。
 そして、シンシアにとってはヨウナシ様の言葉は絶対である。ヨウナシ様がランスに自分を下げ渡すと言えば、それは正しいのだ。
「がはははは。お前らは俺様のものだな?」
「はい、ランス様。」
 即答するのはシンシア。
「俺様の言う事はコイツの言う事より正しいな?」
 それには少し考えこんだが、
「はい、ランス様。」
 シンシアはこう答えた。どうやらヨウナシ様の説得が上手くいったらしい。
「うんっ、ランスさんとするのは気持ち良いし。」
 既に殺気を向けられているのはヨウナシ様だけになっていた。以前ランスと気持ち良い事をしたアリシアにも、ランスのものになるのには依存は無かった。
「がはははは。良し、俺様はお前に手を出さないと約束してやろう。」
 殺気と闘気を納めたランスにヨウナシ様はホッとするが、いっこうに結界が解けず魔剣を鞘に納める気配が無いのをいぶかしんだ。
 が、それを指摘する勇気など無く、場に重い沈黙が立ち込める。
「さて、シンシアちゃん、アリシアちゃん。質問がある。人を言葉巧みに騙して色々貢がせたあげくに、肝心な所で役に立たなかったり、他人を犠牲にして自分の身の安全を計るヤツは悪いヤツだと思うか?」
「「はい。」」
「もし、そいつを成敗できる力が自分にあるなら、そいつを退治する勇気はあるか?」
「「はい。」」
 この問いにも二人は即答した。
 が、ヨウナシ様の顔色は明らかに変わった。これが一般論ではないと気が付いたのだ。
「お、おい……何を…」
 だが、ランスはヨウナシ様の言葉を遮って声高らかに双子の神官に告げた。
「ここに、その悪いヤツを倒せる神剣がある。これを貸してやるから悪を討て。」
『ラ…ランス様……それって……もしかして……』
 手にした魔剣が声に出さずに問いかけるのに、ニヤリと口元に浮かべた笑みを浮かべて答えの代わりにするランス。
「はい。」
 即答するシンシア。
「ランスさん、その悪いヤツって、もしかして……」
 どうやらアリシアにもピンときたらしく、教会の一角をチラリと見る。
「アリシアちゃんの考えてるヤツで間違い無いと思うぞ。」
 人の悪い不敵な笑みを浮かべるランスの視線の先には、ガタガタブルブル震えるヨウナシ様が逃げる事すらできずにいた。
「ほい、シンシアちゃん。」
 ランスが手の中の魔剣シィルを手渡すと、そのズッシリとした重みがシンシアをよろめかせる。
 よろけたシンシアをアリシアが支え、双子の女神官は二人で一本の魔人にして魔剣シィルを何とか構えた。
「さあ、その“悪いヤツ”と言うのはそいつだ。後は任せる。」
「や、約束が違うぞ魔王!」
 ヨウナシ様の抗議に、ランスはきっぱりと答えた。
「約束だから“俺様は”手を出さん。ありがたく思うんだな。」
「そ、そんな……(そんな事なら二人とも渡すんじゃなかった。)」
 後悔するがもはや遅く、逃げる事もできず戦う事も不得手だ。
 それに、二人の手にした魔剣が放つのは自分より遥かに高位の神の気配。
「そんな馬鹿な……これほどの神気、地上に降りて来るような神が放てるような強さじゃないのに……」
 実際にはウィリスとミカンという二人のレベル神の神気をシィルがまとめて増幅しているので気配が一つに感じられるのである。ただ、それは……ヨウナシ様が逆立ちしても敵わないという事実を冷厳に示していた。
「処分するなら早くしろ。ただ、俺様は嘘ついちゃいかんと思うぞ。」
 自らの発言を思い出し、ギュッと剣の柄を握るシンシア。
 妹の手に自分の手を重ねるアリシア。
「助けろ! 見逃せ! 話が違う! この罰当たり! ……助けて!!!」
 姉妹が慣れない剣を振り回して攻撃するのから命辛々逃げ回りつつ漏らすヨウナシ様の悪態をランスは耳の穴をほじりながら聞き流した。
 しっかり教会の出入り口は塞いで。

 そして、
 遂に、
 桃色の刃がヨウナシ様の腕を僅かにかすると、
「ギャアアアアアアアアア!!!!!!」
 魔剣は、世にも稀な激痛を置き土産にヨウナシ様の力を傷口からごっそりと奪い去る。
 床の上で見苦しくのたうち回るヨウナシ様に改めて剣を突き刺すと、ヨウナシ様はどんどん萎びていき、最後には塵の山になってしまった。
 こうして、30年に1回の頻度で処女の子宮を借りて維持してきたヨウナシ様の生命は見事に断ち切られたのである。
「がはははは。さて、お前らに褒美をやらないとな。」
 魔剣シィルを二人から受け取りながら、ランスは上機嫌で言う。
「お前らを俺様の使徒にしてやろう。」
「それって、どんな良い事があるの?」
 さっそく反応したのはアリシアだ。
「ちょっとした神に近い力が手に入る上、俺様に抱かれた時の気持ち良さが凄いことになる。」
 その素朴な質問に、不敵な笑みを浮かべて答えるランス。
 神に近い力にシンシアが、凄い気持ち良さにアリシアの目の色が変わる。
『さて、こいつらをお前の使徒にしろシィル。』
『はい、わかりました……』
 気乗りしない口調ながらも承諾したのを聞いたランスは、魔剣シィルの刃を自分の手首に走らせた。
 そうして、お決まりの手順で刃についた血を舐めさせると、双子の姉妹神官は眩い光に包まれた。
 ヨウナシ様から吸い取った力を利用して、二人を人ではないモノへと変えてゆく。
 神の力を身に宿した魔の眷属へと……。
「さて、こいつらが使えるようになるまで、そこらへんを散歩でもしてくるか。」
 フェリスに結界を張るのを止めさせて、その代わりに二人が気付くまで面倒を見るよう申し付けてから、ランスは闘神都市と呼ばれている街の散策に出かけたのだった。
 地に落ちた闘神都市ユプシロン、イラーピュとも呼ばれていた浮遊大陸の上にあったカサドの街から脱出してきた者達が築いた街へと……。


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 私がランス4やってた時にかなりムカついたキャラを血祭りにする話でした。ヨウナシ様擁護派の方、ごめんなさいです。
 今回は【ラグナロック】さんに見直し協力をしていただきました。どうもありがとうございました。
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読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


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