鬼畜魔王ランス伝
第117話 「聖刀継承」 「がははは、今戻ったぞ…うおっ!!」 美樹を腕に抱いて次元の穴を抜けてきたランスは、己の所属している世界に足を踏み入れた途端、激烈な苦痛に顔をしかめた。 「ぬ! ぐ! おっ! どっせぇぇぇぇぇいっ!」 次元の穴を開いたままにしておく為に、ついさっきまで魔王としての自らの力を全開にしていたツケをまとめて払わされているのだ。 もっと具体的に言えば、魔王の血に秘められた凶暴性・残虐性・残酷性がランスを支配しようとして敢然と牙を剥き、普段は封じてあるはずの破壊神の意志がそれに呼応するカタチで顕在化し始めていた。 「く、くそ……俺様が……俺様が……むぁけてたまるかぁ!!」 今にも弾けそうに、自分を侵蝕しようとする二つの意識…魔王と破壊神…を、己の意志と腰に手挟んだ魔剣と腕に抱いた少女の重みと温かみを頼りに再度厳重な封印を施す。 負ければランスという個人はどこにもいなくなる。 “力”に魂を侵蝕され、自我の根幹までもが変質したならば、それはもはやランスではない別人と言って良いのだから……。 吐血する。 血の涙を流す。 膝が笑い、全身を痙攣させる。 腕の力が抜け、美樹を取り落としそうになる。 咽喉の奥の奥から絶叫を絞り出し、声にならない悲鳴が静電気の如く大気に満ちる。 「……ランス様。」 自分の奴隷。今は自分の愛剣である魔剣の声が、ともすれば力に飲まれ翻弄されて消えそうになるランスの自我をしっかりと繋ぎ止めてくれる。 「……旦那様。」 何処から聞こえるか分からないが確かに聞こえてくる声が、ランスの自我をしっかりと支えてくれる。 「ランス様っ!」 「ランス王っ!」 「おう…さ…ま……」 鼓膜を震わす自分の女達の声が、ランスに力を与えてくれる。 だから、 「がはははは、俺様は負けんっ!! 俺様は無敵だっ!!」 精一杯の強がりを叫びつつ、ランスは何とか今回も難局を乗り切ったのだった……。 力の狂奔が去った後、美樹を抱いたまま立ち尽くすランスは、 「日光さん、美樹ちゃんを頼む。」 力の入らない腕で、それでも何とか無事に美樹の身体を手渡すと、 ゆっくりと床に崩れ落ちた。 「ランス様っ!」 慌てて駆け寄ったホーネットがランスを支えようとするが、もろともに床に転がってしまう。 「ホ…ホーネット……ヒラミレモンを頼……む。」 それだけを何とか言うと、気力を使い果たしたランスは意識の手綱を手放した。 勝利をもぎ取った満足の笑みを浮かべて。 魔王病臥。 その報は、比較的冷静に受け止められた。 何せ、既に前例があり、その対処手段も当の魔王本人から指示が出されている。 ランスが倒れたスキに何がしかの悪巧みをしでかす連中の心当たりは無く、それが可能なほどの実力と自由を兼ね備えたものなどそうそういるものでもない。 ……まあ、魔人や使徒、魔物や人間の将軍達をどうにかするだけでも半端な実力では覚束無いのだから、最低でも魔王に迫るぐらいの実力が無ければお話にもならないのだ。 しかも、メガラスが急いで取って来たヒラミレモンを食べたランスがあっさり政務と軍務に復帰した事で、僅かに見られた動揺も一気に終息した。 「がははははは。俺様がこれしきでどうにかなるはずなかろうが。」 「で、でも……お、王様に何かあったら私……」 玉座に座すランスの膝にしがみつくアールコートの頭をグリグリ撫でてやりながら、ランスはいつもの豪快で不敵な笑いを謁見の間いっぱいに響き渡らせた。 「がはははは。で、今日は何日だ?」 「いえ、魔王様が異世界にお出かけになった当日でございますが……。」 ホーネットが、何を言われたのか分からないと言った風情で、それでも質問にはちゃんと答える。 「むむむ……とすると……。おい、俺様はどのぐらいの時間向こうに行ってた?」 「5分ぐらい、でしょうか。」 そこで、列席していた美樹と日光がハッとした顔になる。 無論、質問したランスも気付いた。 「向こうとこっちでは時間の流れが違うのか……(それでヤツを蹴り込んでから俺様達が行くまで日数が経ってたし、向こうに数時間は居たはずなのに5分ぽっちしか経ってないんだな。)。」 今回の異世界行きで感じた疑問の一つが解消されたランスは、もう一つの疑問は口にしなかった。 何故、健太郎が美樹の両親を殺したかを……だ。 確かにこちらの世界で経験したことを思い出すのを防ぐ処置は途中で妨害されたこともあって完全ではなかったが、それでもしつこくトラウマを抉るような真似をされなければ大丈夫なはずだった。 しかし、現に殺人……いや、街が廃墟になっていたのを勘案すると、健太郎が大量虐殺を起こしたと見るのが一番妥当であろう。 とすると、健太郎に施した処置に何かの手抜かりがあったのだろうが、今更追求しても仕方が無い。 追及したとて美樹の両親が生き返る訳では無いのだから。 だから、ランスはそれを口にしなかった。 代わりに口にしたのは、こんな台詞だった。 「美樹ちゃん、日光さん。今後の事で話がある。後で俺様の部屋に来てくれ。」 と。 「あ、あの……お茶……を、どうぞ……。」 おどおどビクビクしてはいるが、それでもちゃんと給仕をしてる女の子は、メルシィ・アーチャ。 どうやら、約束の期日に魔王城で働くべくやって来ていたらしい。 可哀想なぐらい怯えてはいるが、それでも最初にランスの前に連れて来られた時、そして二度目に会った時から見ると幾らかは打ち解けてきているのがランスにも分かった。 「がはははは。で、両親の様子はどうだった?」 「は、はい。おかげさまで……。」 どうやら手術は上手くいったらしく、メルシィの顔は目に見えて明るくなった。 だが、ランスが近くに寄ると身を固くして縮こまる。 「そう固くなるな。別に取って食ったりはしないから。」 今の所はな……と、心の中で付け加えつつ、コチコチになったメルシィの身体を両腕で柔らかく抱き締める。 内心嫌そうではあるが、とはいえ恩人である男に逆らう勇気も出せず、ただ身を固くしてるだけのメルシィの耳元でランスが囁く。 「しばらくこうしてて良いか? 嫌なら止めるが。」 元々、自分をランスに金で買ってもらったも同然の現状である。 無理矢理身体を奪われてもおかしくない状況だったし、そうならないで済む理由も見当たらない彼女は、てっきりランスに襲われるものだと思い込んでいた。 周囲は、そういうのを期待する連中でいっぱいなだけに尚更。 「……い……いえ……いいです。」 しかし、意外と暖かい胸、逞しい腕に抱かれていると恐怖が段々と安心感に塗りかえられてゆく気がするメルシィであった。 『俺様にベタ惚れの食べ頃になったら美味しくいただいてしまおう。がはははは。』 と、相手の男が考えているとは露ほども知らずに。 その頃、ゴーラクの街では…… 「なんで、あのチンチクリンのメルシィが優勝者に準じる待遇なんかで特別先行採用されたのよ! 冗談じゃないわ!」 とてつもなく気位の高そうな、姿形の美しさを除けば他にはあまり取り柄が無さそうな美女が父親の部下の報告を聞いて髪の毛を逆立てていた。 「こうなったら私は優勝してやらなきゃ気が済まないわ! 見てらっしゃい!」 こうして、食うに困っていないにも関らず、一人の美女がランス主催の魔王城勤務人員募集のオーディションに参加するべく立ち上がったのだ。 事情を良く知る人ならば「飛んで火に入る夏の虫」というだろうほど、のこのこと。 その美女の名は、アナセル・カスポーラと言う。 メルシィを帰したランスは、日光や美樹と会うと約束した時間が来る前に仕事を終わらせておこうって事で、ウィリスとミカンに預けていた未整理の魂の欠片と霊力を全部引き出した。 そして、その内どうしても経験値に変換できそうもない分や変換すると多大な欠損が出てもったいない分なんかを、フェリスに出させた色取り取りの宝石6個に、6種類の属性に分割して封印した。 魂の欠片を預けっぱなしにしてると、ウィリスやミカンにランスの経験値の整理を手伝わせるという当初の目的に支障が出るし、かと言って自分が持っていたままでもたいしては活用できなさそうだったからだ。 しかし…… 「これだけの魔力なんだから、使わなきゃもったいないよなぁ。」 多大な数の異世界の天使から抽出した霊質と霊力の結晶とも言える代物になった6個の魔宝石を見て、ランスは少々考えた。 これを使えば、あのカラーのクリスタルから作られるクリスタルソードのように強力な魔法の武具を作り出す事ができるのではないかと。 抽出した残りの、ゆっくり時間をかければたいした欠損も無く経験値にできる魂の欠片を身体に馴染ませながら、ランスはホーネットやフリークのジジイにでも相談してみようかと思いついたのだった……。 「ランス王、お召しにより参上仕りました。」 「ねえ、王様。何の用なの?」 キリリとした美貌の女侍日光と魔人になっても可愛らしさは相変わらずの美樹が、ランスの私室に入って来る。 私室……まあ、ランスの場合、それは寝室とほぼ同義であった。 「これからの日光さんの身の振り方についてなんだが……」 聞いた日光の身が僅かに固くなる。 最適というか最高のパートナーとも言えるであろう魔剣を持つランスに、自分が聖刀として役立てるとは思えない。 だから、何を言い出されるか見当がつかないのだ。 「もし二人が良ければ、日光さんには美樹ちゃんの“刀”になって欲しいんだが。」 「ラ、ランス王。それは無理というものです。」 「あ、はい。私は良いですけど……」 同時に発せられた答えは、まるで反対の意味を持っていた。 「日光さん。それは“儀式”のせいか? それを抜きにしたらどうだ?」 日光が無理という理由に心当たりがあるランスは、敢えて重ねて質問をする。 「はい。儀式のことが無ければ美樹殿が私を持つのは承知できるのですが……。」 但し付きながらも色好い言質を取ったランスは、 「なら俺様に任せろ。秘策がある。」 美樹がこっちに残る場合にヤろうとしていた計画を発動するのだった。 「お、王様……これ、本当に儀式なの?」 生まれたままの姿になって日光とベッドで抱き合ってる美樹が疑問の声を上げるが、 「がははははは、そうだ。」 ランスは自信をもって断言し、日光も異を唱えない。 「さて、まずは美樹ちゃんの準備をするぞ。」 首筋に噛みつき処女の血潮を吸い上げると、美樹はうっとりと目蓋を閉じる。 吸血鬼の持つ特性で、未だ開発されてない処女である美樹を濡らして準備万端にしてしまおうというのだ。 「ラ、ランス王。何をなさるつもりで?」 「いいから、日光さんは儀式に集中しててくれ。あの時のようにな。」 「……はい。」 疑問は山ほどあるだろうが、そこはひとまず置いておく日光。 そんな彼女の上にうつ伏せに乗せた美樹の泉を舌と手で手早く潤し、ランスはハイパー兵器で美樹の初めての壁を突き破った。 しかし、たまらず上がる絶叫は、既に施された感覚を歪め誤認させる処置によって、苦痛ではなく愉悦を訴えるものと化していた。 「じゃあ、行くぞ日光さん。」 「はい(何をどうするのでしょう、いったい)。」 しかし、半分予想通り、ランスのハイパー兵器は日光の中に突き刺され、次いで引き抜かれた。 そして、また突き刺される。 美樹と日光。上下に合わさった貝を交互に貫くハイパー兵器。 そんな中、日光の唱える耳慣れない呪文が響く。 生まれて初めて感じる肉の愉悦に何度も何度も軽く達せられる美樹だが、次々襲いかかる快感が彼女を休ませてくれない。 そして、染み入るように響く日光の呪文が美樹を軽い催眠状態に導いてゆく。 「(さて、そろそろだな。)いくぞ!」 一度どころか二度も経験済みのランスが儀式の最後に向けてスパートをかけると、美樹の身体もそれに応えて下の口からだらだらよだれを垂らしてランスのハイパー兵器に絡める。その潤滑油をランスは己のハイパー兵器をピストン代わりにして、日光の胎内に押し込めていく。 これが、ランスの秘策であった。 「「あああっ!!!」」 破瓜の血液、そして気持ち良さで噴出した潮と共に吐き出したランスの白濁液は、見事に日光の継承儀式を締め括ったのであった。 赤い染みのできたシーツの上に果てている美樹の上にランスは被さり、優しく抱き締めてやる。 そうしながらベッドの傍らを見ると、妙に精力に溢れた聖なる刀が険のある念波を飛ばしてきた。 「これが秘策ですか、ランス王。」 果物に小一時間も話しかければシャーベットになるんじゃないかと馬鹿な事を思いつくぐらい冷たい声に、ランスは平然と答えた。 「がはははは、そうだ。上手くいったかどうかは美樹ちゃんが起きるまで分からんだろうが……。って、日光さんの身体がおかしな事になったとかないだろうな?」 血相が変わったランスの表情に、日光は妙に嬉しい暖かさを感じつつ、自己診断を始める。体調はOK。聖刀の機能にも問題無し……え? 日光は、ランスの秘策の意味を、そしてその結果の一端を知った。 「主となる方のDNA登録機能に異常……いえ、これは、まさか……」 自己分析の結果が自分で信じ切れない日光に、ランスが止めを刺した。 「んなの、美樹ちゃんが起きたら確かめて貰えば良いだろ。果たして本当に美樹ちゃんが日光さんを持てるかどうかをよ。」 数時間後、真っ赤になりつつも満更では無い顔でいそいそ起き出した美樹は、さっそく自分が聖刀日光の使い手として登録された事を証明した。 日光を鞘から抜く事ができた事によって。 それが、聖刀日光1500年の歴史でも類を見ない二重登録である事は、まだこの時には明らかになっていなかった……。 余談ではあるが、この作戦がエッチな事が嫌いな美樹にエッチな事をやって病みつきにさせる為の言い訳であって、実際の運用効果を第一に考えて提案したことではないということは、美樹も日光も遂には気付かなかった。 何故なら、彼女らは後に魔王軍でも最強格のコンビとして名を馳せる事になる程の実力と相性の良さを兼ね備えていたのだから。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ とうとう魔王軍最強とも言える魔人が誕生してしまいました。 ゲームデータ的に言うと、美樹ちゃんの上位互換というかパワーアップ版というとんでもない強さ(というか、しぶとさ)を誇ります。 普段の状態のランスと比べると日光さんを装備した美樹ちゃんの方が強いであろうってのは極秘事項です(笑)。 今回の見直し協力は、【ラグナロック】さんと闇乃棄黒夜さんでした。お二人とも、どうもありがとうございました。 |
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