鬼畜魔王ランス伝


   第124話 「抗う者達の哀歌」

 ルーベランとヒューバートが中心となり元ヘルマン軍人が集まって作った総勢120人余りのレジスタンスは、その本拠地を旧帝都ラング・バウ地下から未だに廃墟のまま放置されているスードリ17へと移していた。
 何故かと言うと……
「くそっ、スキがねぇ。魔王なら魔王らしく圧政でも布いてくれてれば活動しようもあるんだが、今のままじゃこっちが悪者にされちまう。」
 度重なる戦乱に倦んだヘルマンの民衆は、魔人マリスの公平で的確な施政と魔王軍の武威を背景にした治安の良さにすっかり懐柔されて、日々真面目に働いていた。
「おっしゃる通りです、ヒューバート将軍。」
 いや、数々の紆余曲折を経て、やっと真面目に働けば問題無く食える平穏な生活が送れる社会基盤がヘルマン全土で整備されつつあった。
「鍛える時間が減るのは正直痛いが……食ってけなきゃ仕方ないしな。」
 それをひっくり返そうとする活動を支援してくれるほどの物好きは少なく、彼らは自力調達でもしなければ日々の糧にも事欠く有様にまで落ちぶれていた。
「はい。……反乱軍の討伐部隊1万が出発した以外に、現在ラング・バウに大きな動きはありません。何か指示を出しますか?」
 そこでヒューバートが選んだのは、ラング・バウに必要最低限のメンバーを残して情報収集を続け、残りのメンバーは半農半武の屯田兵となる事である。
 野盗をやると言う案も出るには出たが、わざわざ魔王軍に自分達を成敗する口実を献上するのも馬鹿らしいと言う理由で即刻却下された。
「いや、今回はおとなしくしてよう。あいつらに加担したと見られたら後々損だ。」
 ヘルマン解放軍がやらかした悪行の一端は、魔王軍側の広報活動の甲斐あって一般民衆に広く知られていた。おかげで、下手な動きをすれば匪賊の味方や同類と見られかねないとあって、殊更神経質にならざるを得なかった。
 もっとも、そうでなくても本格的な軍事活動を行なうには、物資も人員も大義名分も旗印も…何もかもが不足しまくっている現状なのだが。
「はっ。では、失礼します。」
 一礼したルーベランが当面の食料確保の為に森へと野草集めに立ち去った後、愛刀の代わりに鍬を担いだヒューバートは、溜息を吐きつつ肩をすくめて開墾を始めたばかりの畑へと向かったのだった。



 大地の聖女モンスターであるハウセスナースの力を借りて砂漠を楽々と渡って来たカオルは、砂漠方面に対しては余り厳しくない警戒網を易々と通り抜けてサバサバの街から少し離れた街道沿いの小さな村へと向かった。
 大きな街よりも警戒が厳しくなく、街道沿いなので情報もそこそこ集まるからだ。
 小さな村落特有の排他性も、街道沿いと言う立地を考えれば客に徹している限りは心配するほどの事も無い。
 唯一心配だったのが自分の手配書が大々的に回っている事だったのだが、どうやら取り越し苦労だったらしく、捕まえに来る者も通報に走る者も見当たらない。
『わずか一ヶ月足らずでは、大勢はさほど変わってないみたいですね。』
 魔力偏重一辺倒の以前よりも剣腕も評価されるようになった現状の方が良いのは確かであるが、大多数の魔法を使えない下層階級…2級市民は相変わらず貧しいまま。
 ゼス最大の反政府武装組織ペンタゴンの主力がゼス政府に恭順したニュースには驚いたが、それとてカオルが魔王の下に赴いた時の国内情勢から考えると、起こっても不思議でも何でも無い出来事である。
『もう少し詳しく調べた方が良いようですね。』
 ガンジーに仕えていた時の権限や人脈のほとんどは使えないだろうが、金次第でどうにかなる情報屋も何人かは知っている。ここは極秘で彼らに接触するのが適当であろう。
 カオルは2級市民向けの安宿の片隅で、手持ちの路銀と相談して誰に繋ぎを取るべきかを検討し始めたのだった。



 ヘルマン解放軍に属する1600名余りの屈強な兵士達は、600体のバーサーカーと呼ばれる化け物に護衛されてカラーの森を南下し、ゼス王国の北西の端へと現れた。
「オールハウンド将軍、どうしましょう?」
 その彼らの接近を察知して派遣されたとおぼしいゼス軍を発見して、ヘルマン解放軍の残存兵達を束ねるサミスカン将軍は、バーサーカーを率いて一同をここまで先導して来たオールハウンドに今後のお伺いを立てる。
「ヒャヒャヒャヒャ。降伏するに決まってるだろう。幾らワシのバーサーカーどもが強くても、そろそろ全部イカれる頃じゃしな。……それとも、お前らがワシの薬を飲むか?」
 2体のバーサーカーの肩に担がせた籠の中から偉そうな声がすると、厳つい顔で体格の良い戦士揃いの彼らの間に戦慄が走る。
 オールハウンドがラボリの街の住人達に飲ませた薬が人間を化け物に変身させてしまう光景を……そして、その彼らの身体が薬効の時間切れで無惨に壊れてゆく光景を。
 それが自分たちの身にふりかかった場合のことが、実例を見せられた今ではさほど努力せずとも鮮明に思い浮かべることができる。
 いや、考えずにいる事の方が困難だった。
 嫌な沈黙に満ちた均衡は、ナニか湿った糸が次々切れる音とむせ返る臭気が崩した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
 誰が最初に動いたのかは解らない。
 カラーの集落跡で薬を飲まされてバーサーカーにされた“子供達”の身体が次々と弾けて血塗れの肉の残骸と化してゆく中で、彼らを酷使し死に追いやった薬の作り主もまた血餅と化していた。
 薬の副作用などではなく、無慈悲な鋼によって。
「……バカどもめ。」
 己から噴き出した鮮血に塗れ地べたに転がるオールハウンドの口から微かに漏れた呪詛の呟きに、深々と刃に抉られて虫の息のネコタマから返事がする。
「……神様の…罰が当たったんですよ。無理…に……」
 如何なる運命のイタズラか、最後の最後で聞こえた愛する妻の声にオールハウンドの目から涙がこぼれ落ちる。
「オッ…オオッ……ばーさんか。ごほっ……」
 しかし、言葉は再び返らず、途切れた言葉の先を知る事無く老人は息絶えた。
 天使と悪魔の群れが人知れず魂の奪い合いをしている、その足下で。

 自分達がここまで逃げ延びるのに大きく貢献した恩人をなます切りにしてしまったのに気付いて武器を放り出して虚脱してしまったヘルマン解放軍の面々がゼス軍に投降したのは、この3時間後の事だった。



 ゼス王国の東方国境を守る要害、アダムの砦に無事到着した戦士と魔法使いの2人連れは、思いもかけないほどすんなりと国境を越えられた事に寧ろ拍子抜けしていた。
 本気になって国境を警備されていたら楽には帰国できない……いや、そもそも任務を果たせたかどうかすら怪しかったからだ。
 禁制品を持ち歩くような真似はしていなかったが、光のオーブやゼス軍の指揮官用魔法衣など身元がバレバレな装備品を持ち歩いていたので、荷物を調べられては一発で捕まりかねないのだとアレックスも探索行のおかげでようやく理解できるようになっていた。
 だからこその拍子抜けなのだが、それは彼に一段高い戦略的視点の萌芽をもたらした。
『向こうが物流も人の行き来も制限していないのは、魔王軍の油断なのか、それとも僕には分からない大局で優位に立とうとしているのか……』
 パラパラ砦を預かる主将は、かつては単身ゼス軍の侵攻を阻んだ伝説の騎士だった魔人リック、副将は女性ながら剣の腕はリーザスで2番目と謳われた元親衛隊長にして使徒レイラ……共に、馬鹿とはほど遠い有能な将帥として知られている人物だったからだ。
『鉄や武器なんかの戦略物資にも輸出制限を加えていないなんて……そんな事をして魔王軍側にどんな得があると言うのだろう? ……こっちの油断を誘うつもりかな?』
 だが、彼があくまで軍略の面から事態を見ている限り、決して理解できないだろう。
 ゼス王国が軍備を順調に整えるのと引き換えに、決して少なくない資産を魔王軍側…いや、魔王軍で政治を司っている魔人マリスの手に引き渡してしまっている事を。



 魔王城の主が眠る寝室。
 本日も抜き打ちの視察に出掛けていた魔王が惰眠を貪る場所。
あ…魔王様……駄目です…あっ……そこはっ……
 コホン。また、眠る以外にも様々な“夜の公務”が取り仕切られる部屋。
 その衛兵一人立たぬ扉に、夜闇に白く映える人影がよろけながら近付いた。
 コンコン
「ん、誰だ?」
 遠慮がちなノック音を耳聡く聞きつけた部屋の主の誰何が廊下にまで響き渡る。
 もっとも、彼が衛兵達を前菜代わりと称して美味しく戴いていなければ、そもそも彼が直接応対しなきゃならない事にはなっていないだろうが。
「ランス王様……」
 入室許可を貰いもせずドアをおずおずと開いたのは、如何にも深窓の姫君と全身で主張している外見に不似合いな妖艶さを漂わせている金髪の少女だった。
「何だ、シーラちゃんか。どうしたんだ、こんな時間に。」
 瞳に宿る尋常でない色香に事情を察しながら、ランスは敢えて焦らす様に質問する。
「ね…ねえ……欲しいの…シーラ、ランス王様のが……ふふっ…」
 比較的症状の軽い時なら正気に戻る切っ掛けになるそんな意地悪も身体がより火照りを増す刺激と転じたらしく、シーラは無邪気な微笑みを浮かべてやらしくおねだりする。
「まあ、いい。次やってやるからこっち来い。」
「すぐして……ね?」
 手招きされた子犬みたいに尻尾を振らんばかりの勢いでベッドに駆けて来たシーラが先客でメイド長の加藤すずめを押し退けてでもと身体を擦り付けて媚態を示すが、
「ワガママ言うとハイパー兵器を入れてやらんぞ。」
 ランスは素気無くシーラの身体を押し戻して、腰を自分の好きに動かせるようにする。
「あ……ごめんなさい、ランス王様…でも、これ好き……あんっ…」
 衛兵“だった”『おてて』と『リトルデルモンテ』が枕を並べてぐったりとベッドに倒れ伏している近くまで押しやられたシーラは、ランスが体位を変えようとしてすずめの中からハイパー兵器を引き抜いたのを目敏く見つけて“それ”にしゃぶりついてきた。
「すまんな、すずめちゃん。」
 理性では抑え切れぬほどの発情ぶりに苦笑を口元に浮かべながら、ランスはあんまりすまなそうに聞こえない声ですずめに謝罪する。
「いえ……仕方ありませんから。」
 その返事は溜息をバケツ1杯飲み込んでも更に余り有る憂愁に満ちていたが、次の刹那に驚愕の余りすずめの胸の鼓動はしばし止まった。
「今度埋め合わせを……そうだ、1日デートするってのはどうだ?」
「デ、デート…ですか?」
 ……恐らく止まったように感じただけなのだろうが、すずめが声を出せるようになるまでには最短でも数分はかかっただろう。
「嫌か?」
「い、いえ。でも仕事が…」
 言い訳めいた断りの台詞も本心とは裏腹な場所から吐き出された戯言でしかない。
「そんなの、たまには他人に任せりゃ良いんだ。良し、決まりだ。」
 女心に疎いランスにですら解るそんな事を口走るすずめを、ランスはデートに連れ出す事に強引に決定してしまう。
「はい……あっ。」
 こういう席でデートに誘う行為はマナー違反も甚だしいながらも、誘われて嬉しいすずめの頬にほんのり朱が差す。
「どうした?」
 いや、それだけではない。
「身体が…変……熱くて……」
 今まで何をされても肉体的には気持ち良く感じていなかったすずめの背筋に、微かな強さながらも電気が足元から脳天まで駆け上がる。
「お、ついに不感症が治ったか? がははは、俺様のおかげだな」
 横倒しに寝かせたすずめの右足を脇に抱えて大きく広げ、ランスは自然と開いた秘唇へとハイパー兵器を捻じ込む。
「わ、わからな…あっ……」
「がはははは、グチャグチャのネチョネチョでグッドだ。」
「シーラも…シーラも手伝う……」
「がははは、良し。シーラちゃんは胸を頼む。」
 腰を激しくピストンしだしたランスと共同戦線を張ったシーラは、すずめを背後から抱き締めて胸の膨らみを包み込むように優しくこねくり回す。
「あっ……シーラ様……はぁっ…」
 ランスに中を抉られ、シーラに弱い所を突かれたすずめが甘い悲鳴を上げ、
「ふふっ……あっ…素敵……あ…んっ……」
 シーラもすずめと密着しているが故に、ランスが腰をピストンさせる度に走る甘い刺激で嬌声を漏らす。
「すずめちゃんもシーラちゃんも、みんな俺様のモンだ。」
 ランスの所有宣言、それは肉体の限界近くまで昂ぶっていた2人を精神の心地好さのみが到達できる極みへと押しやって全身をピンと張り詰めさせる。
「「あっ! あ…ああああっ!!!!」」
 弓弦から解き放たれた矢の如く絶叫する2人のうち、まずはすずめの中へとランスはハイパー兵器から白い弾丸を撃ち込んで己が気持ち良さを追求する。
「ふう…えがった……良し、次はシーラちゃんだ!」
 そして放った後も硬さを保っているハイパー兵器を、既にたっぷりと蜜で濡れそぼっているシーラの花園へと突き刺す。
「ああっ! これっ! これなのぉ!」
 軽くイッた後にも関らず貪欲に咥え込むシーラにハイパー兵器を御馳走しながら、ランスは右手を伸ばしてすずめの太股を優しく撫で、ゆったりとした刺激を与える。
「はぁ……ランス…王様ぁ……」
 ハイパー兵器から発射した皇帝液を中にぶちまける事だけでなく、女の子の気持ち良さそうな顔や快楽に喘ぐ声をもたっぷり堪能して楽しむ為に。
『シーラちゃんを何とかせんと今日みたいにまたお楽しみの最中に乱入されかねんな。どうにか治す方法を考えた方が良いかな?』
 時折ランスのハイパー兵器を欲しがって発情する元ヘルマン女王の可愛くやらしい肢体に肉のクサビを打ち込みながら考えるランスであったが、
『いや、これはこれで可愛いから放っとくか。……しばらくしたら落ち着くかもだし。』
 良く考えて見ればシーラの肉体を好き放題貪るには寧ろ好都合な状態なので、ランスは結局このまま放置して静観する事に決めた。
 果たしてランスのこの判断が吉と出るか凶と出るか、それは巨大な白いクジラの姿をした創造神ですらも預かり知る所では無かったのであった……。


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 もうしばらくは派手なイベントが起き難い話が続きそうです(汗)。とは言え、作中での時間はたいして経過してませんけどね。

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