相変わらず毒にも薬にもならないしょうもない戦いを繰り広げる三人。
しかも今回は戦い方もしょうもない。
ちなみに私はフルーツ牛乳が好きです。
残念ながらコーヒー牛乳に対する熱いロマンはありません。
リクしてくださった秋サマに捧げます。
こ、こんなアホくさい話でよければ・・・(汗)
男たちは露天風呂にいた。
風呂は楽しいものだ。
入ってる最中はもちろん、あがったあとも。
■戦い、再び
体に湯気をまとい、風呂から上がった三人の前には昔なつかし緩やかなカーブを描くビンが、三本並んでいた。
それはビン牛乳だった。
シンプルなただの白い牛乳がひとつ。
各種フルーツが加えられなんとも言えない甘さをたたえたフルーツ牛乳がひとつ。
そして白い中に琥珀色を落とし込んだコーヒー牛乳がひとつ・・・。
順当で平和的な流れならば、
一番子どもなルフィがフルーツ牛乳。
ゾロがコーヒー牛乳。
スモーカーが白い牛乳といったところだろうか。
しかし三人の男たちは獣だ。
彼らの間には決して穏便な解決などありえない。
常に何かひとつを争い、そして勝ち得ようとするのだ。
彼らは自分以外の二人を盗み見る。
そして計ったように同時に・・・
『風呂上りはコーヒー牛乳だろっ!!』
ただの牛乳じゃ物足りない。
フルーツの香料と砂糖は甘ったるすぎる。
しかしコーヒー牛乳。
あれだって甘いじゃないかという奴は、それこそまだまだ甘ちゃんだ。
白い牛乳と琥珀色のコーヒー。
その二つを砂糖をクッションにして絶妙なバランスに混ぜ合わせた乳褐色の液体。
コクと苦味と甘さがまろやかにおりなすハーモニーはまさしく大宇宙。
一口飲めば広がるなつかしい味。
そうなのだ。
風呂上りのコーヒー牛乳。
これぞまさしく男のロマン!!
男たちの瞳がぎらりと光る。
一方、女湯にて。
「・・・なんか、男湯のほうが騒がしくありませんか?」
もたもたと着替えながらたしぎが言った。
「ええ、うるさいわね」
すでに着替え終わり、髪をドライヤーで乾かしているヒナ大佐が応じる。
「スモーカーさんの声が聞こえますね」
「そうね。・・・なにしてるのかしら。ヒナ興味」
静かにそういうと、ヒナはドライヤーのスイッチを切った。
男湯は船上、もとい洗浄、もとい戦場だった。
タオルが飛び、携帯用の小さなシャンプーのボトルが飛び、そして脱衣場だというのになぜか『ケロリン』と書かれた黄色い風呂桶までもがすこんすこんと飛び交っている。
棚の陰に隠れながらゾロがぼやく。
「よほどコーヒー牛乳がお気に入りと見える」
「貴様もな!」
耳ざとく聞きつけたスモーカーが合いの手とともに石鹸を投げつけた。
もちろんゾロはなんなくかわす。
ちなみにこの時点でルフィは、普通の牛乳とフルーツ牛乳を両方飲んでもいいという条件で戦線離脱している。
ゆえに、男のロマンにこだわる二人の一騎打ちにもつれ込んでいる。
『ぜってぇゆずらねェ!』
『渡さん!』
三すくみ状態よりはやりやすいと、この二人が結託してルフィを説得しこの状態に持ち込んだのだが、二人にとっては実はあまり状況は好転していない。
・・・そのことにゾロとスモーカーは気付いていないが。
他の客はすたこら逃げ出した脱衣場で、にこにこと二つの味を飲み比べているルフィを背景に、二人の男はにらみ合い、時々思い出したように牽制攻撃を仕掛けている。
そんな男湯の戸が、大胆にも女性の手によってがらりと開けられた。
ヒナ大佐だ。
彼女は散らかり放題の脱衣場と三人の男たちを順番に見た。
「・・・あなたたちはなにをやってるの?まったく、ヒナ呆然」
「ヒ、ヒナさん!!そんな大胆に男湯に・・・って、一体なんですかこれは?!めちゃくちゃじゃないですか!!」
ヒナの後ろから手で目隠しして立っているたしぎを見て、ゾロが『げっ・・・』とうめいた。
スモーカーも顔を引きつらせている。
ちなみにルフィはきょとんとしているだけだったが。
「・・・こんなもの一つでこんな騒ぎを起こすなんて・・・。ヒナ愕然」
残されたコーヒー牛乳を左右に振って弄びながらヒナは冷たい視線を投げかける。
『・・・女にはロマンがわからんのだ』
スモーカーは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
ここでそんなことをいったものなら状況はさらに悪化することは火を見るよりも明らかである。
かわりにため息が漏れる。
あの場ですぐさまルフィを引っつかみすたこら逃げ出したゾロの奴が恨めしい。
たしぎが追いかけていったが、きっといつものように掴まらず逃げおおせることだろう。
『・・・あの野郎・・・。うまくやりやがって・・・!』
ぷりぷりと嫌味たっぷりのヒナのお説教を浴びながら、スモーカーはきりりと奥歯を噛み締めた。
ちなみに例のコーヒー牛乳は、ゾロとルフィを追いかけて捕まえられずに帰ってきたたしぎが、一汗かいたあとの一服としておいしく飲み干したことを付け加えておこう。