空の青と海の碧
ふう、とあたしは一息つく。
大事なみかん畑の手入れも一段落。
んー、とあたしは体を伸ばす。
今日もいい天気。
自然とみんなの顔もなごやかに見える。
ウソップはまた新しい道具の開発。
ビビはカルーのブラッシング。
サンジくんはきっとキッチンでなんか作ってるんだろう。
チョッパーは医療道具の手入れ。
そして、ルフィは例の特等席。
何度いっても聞かないので、最近はほっといてる。
それに、あたしがなにもいわなくてもちゃんと見張りがいるしね。
過保護な保護者のゾロがいつもの場所で昼寝。ぐっすり寝てるようにみえても、なにかあったらすぐに動けるように気を配っているのだと思う。
まったく、甘いんだから・・・。
なんてことを考えてると、ふとルフィが船首から飛び降り、階段をおりてメインマストのそばにいるビビとカルーのところにいった。
「ルフィさん?・・・あ、ほらカルー、じっとして」
楽しそうにカルーの羽をととのえるビビをじっ・・・とみつめて、
・・・あいつ何やってんのかしら
「ビビの髪って空みたいだな」
「え?」
いきなりルフィがいったのはそんなことだった。
「そうだ、ビビの髪の色は空の色だ」
一人で納得して、うんうんとうなずくルフィ。
またあいつは変なこといって・・・。
「ルフィ、じゃああたしは?」
下のデッキを見下ろして、あたしは二人に声をかけた。
ルフィは、んーーー、と考え込み、おおっ、とひとつ手を打った。
「ナミはやっぱみかんだろ。」
「そうね、おいしそうな色ね。なら、サンジさんは?グレープフルーツとか?」
くすくすと笑いを漏らしながらビビもたずねる。
やっぱりルフィはしばらく考え込み、思いついたように『太陽かな・・・陽の光ってあんなふうに見えるだろ』といった。
なかなかうまいたとえにビビが頷く。
「私たちのご飯をつくってくれる人だものね」
「あ、ウソップはコンブな!」
「なんだそりゃ!!」
話を聞いていたウソップがびしっとつっこむ。
そんなやりとりをみてチョッパーもビビも吹きだした。
そのとき風がかすかに走り、ビビの青い髪がふわりとゆれる。
「ねぇルフィ。どうしてビビの髪は空の色なの?海の色でもいいんじゃない?」
そう海。
ルフィにとって夢のすべてがつまってて、誰よりも大きな野望を持って身を投じた世界。
そんな彼にとって『あお』という色は、空よりも海のほうが馴染み深いものだろう。
なぜ。
「いや、空の色だ。」
答えはすぐに返ってきた。
勢いよく首を振り、なにやらまじめな顔で言うことは。
「海の色はビビじゃなくて、ゾロだ。海は『青』じゃない。『碧』なんだ。
だから海の色はゾロの色」
「ゾロが海の色?あいつこそ海じゃなくてコケとか芝生とかマリモとか、そういう色じゃないの?」
あたしの言葉にルフィは首を傾げて反論する。
「・・・んー・・・。・・・いや、シックリこねェ。やっぱゾロは海。」
「へぇー。」
たしかになんとなくわからないでもないけれど。
海がいろいろなものを受け入れるように、あいつも意外にふところが広いところがあるし。
・・・それにしたってあの緑髪をこうまではっきり『海』といいきるとは・・・。
「なんかゾロってでっけェだろ?海もすげェところだから、なんか合う気がするんだ。
うん。ゾロは絶対海。」
あのお日様みたいな笑顔で楽しそうに話すルフィ。
わかってるのかわかってないのか・・・・。
これは単なるあたしの推測だけど、
やっぱりルフィにとってゾロは海なのだと思う。
ルフィは悪魔の実の能力者だから海に落ちないようにしないといけないんだけど、それでも彼は海が好きなのだ。
まったく嫌いになる理由がない。
『カナヅチ』で、海に落ちたら死んでしまうというのに、きっとそれすらも海が好きな理由になる。
もし海に落ちて死にかけても、必ずあいつが助けにいくから。
絶対にそういう気持ちを言葉では言わないあいつが、唯一素直に気持ちを行動で表現する。
それは言葉なんて問題にならないほどの告白。
・・・もちろんそのあと本気でおこられて、ガツンと殴られたりはしてるけど。
ルフィの望むものはいつでも海にあるのだろう。
そう、きっと・・・
「すごい殺し文句ね・・・。」
思わずあたしはつぶやいた。
「ナミさーん!ビビちゃーん!・・・あとほか。昼飯ができましたー!」
軽快なサンジくんの声。
「おおっ!めしかっ!」
ルフィはあたしのつぶやきなんてきにもとめず、真っ先にキッチンへ走っていく。
「あとほかってなんだっ!」と、ウソップ。
ゾロもむくりと起き上がる。
チョッパーもビビも手を止めて、そしてみんなそれぞれキッチンにむかう。
あたしはふとおもいたって、あくびをしながら歩くゾロに声をかけた。
「ねえ、・・・聞こえた?」
「・・・・・・・・・・あァ?」
不機嫌そうに聞き返す。
それでもあたしは見逃さなかった。いつものしかめっ面がかすかに赤くなっているのを。
「・・・ふーん?」
「おーい、ゾロ!はやくこないとお前の分も食っちまうぞー!」
ルフィの声が聞こえてくる。
あたしがにやりとながめていると、ゾロはじろりとこちらをにらみ、何もいわずに彼の待つキッチンに入っていった。
・・・まったく、平和な二人よね。
まあ、でも、
空は快晴、航海は順調、なによりうちの船長が幸せそうなのでよしとするか。
それにしても、ルフィったらいつもはただの馬鹿のくせに、よく『碧』なんて言葉を知ってたわね。
ま、そんなこと言ったら『シツレイだぞ!!』って怒るから、言わないけど。