毎年季節が一巡すれば必ず一度訪れるその日なのだが、
今年のその日はおれにとってもあいつにとっても、多分いや絶対一生忘れることのない日になった。









                   Cherry And Talaria











「贈り物ですね」

上品な物腰の店員から、綺麗にそして丁重に包まれたそれを受け取る。
まったく重いものではないのに、おれはなぜだか重みを感じた。
ただし、それはとても心地よいものだったが。








ゴールデンウィークの真っ只中だというのに、おれは今日まで仕事があり、どこにも行くことができなかった。
それになによりネコを飼ってるので、もともと何日も家をあけるわけにはいかないのだが。


「ただいま」
入りなれた自分の家の戸をくぐる。
前はただ空間だけがそこにあっただけだったのに、今ではそのなかに暖かさがある。
まずは鈴の音が迎えてくれた。
「おう、ユキ。ただいま」
だいぶ大きくなったというのに、このネコのあまえっぷりは犬並みだ。
こうして毎日帰るととびついてきて、ふわふわと体を摺り寄せる。
「おかえりー!ゾロ!!」
そしてもう一匹。もとい一人。
ユキと同じように出迎えてくれる。
「ただいま」
「おう。明日と明後日は休みなんだよな!おれ、我慢してたんだからな?どっかつれてってくれよー!!」
連休は泊りがけで遊びにきているルフィが、にぃっといたずらをたくらむ子供みたいな顔で笑って言った。
相変わらず・・・可愛いと思う。
「ああ。悪かった。さっそくだけど、ちょっと出かけねェか?」
「いまから?おういいぞ!!」
「うし、いくか」








車をはしらせること2時間ちょっと。
明るい街の中を抜けて目的地に着いたときには、もう夜の11時半を回っていた。
そこはあまり有名ではないが、頂上にとても美しい桜の木がある小高い丘だった。
ふもとに車をとめ、おれたちは手をつないで、簡単に整理された小道を登る。
葉のそよぐ音のほかは、肩にのせたユキの鈴の音くらいしかしない静けさだった。
おれたちは他愛のないことを話しながら進む。

「そういや、この前サンジに会ったぞ。あ、この前の白い犬のこと覚えてるか?」
「白い犬?ん、ああユキと一緒にいたやつか」
「おう。あれな、ナミが飼ってるんだってよ!」
「へぇーアイツが犬ねぇ」
「なんか迷子らしいんだ。んでな、すげェ頭いい犬らしいんだけど、あんましナミの言うこときかねェみてェで、ナミが『絶対なつかせてみせるわっ!』とかって犬にかまってばっかりいるから、悲しいって、サンジが言ってた」
「ははっ、相変わらずだなあいつらも」
「それ、おんなじこといわれたぞ」
「あ?」
「お前らは相変わらずだなって」
「・・・あのヤロ」
おれの脳裏に金髪が浮かぶ。
女に目がない果てしなきアホが。
「あと、ナミが今度、ソラ・・・ってあの白い犬の名前な。ソラをつれて遊びにくるってさ」
「うわ、来るな!」
「あはは、そーゆーと思った。いいじゃねェかよー、ユキだってソラに会いたいよなーー?」
ルフィの言葉にユキが無責任にルフィと同じ猫なで声をあげた。
「おいおい。お前もかよ・・・」
あの白衣の魔女のおかげで顔をしかめるおれの横で、ルフィは無邪気に笑っていた。

・・・おれの横で・・・




いつからだろう、こいつにずっとおれの隣で歩いて欲しいと思い始めたのは。
何をやらかすかわからない無鉄砲さとそして理屈ぬきで人をひきつけるその輝きのせいで、いつだって目が離せなかった。
常に自分に正直で、しなやかで強い心を持っていて、大メシ食らいで、救いようがないほどバカで・・・・。
いいところも悪いところも全部コイツの魅力で、・・・・ああそうか・・・
・・・多分それこそ理由なんてねェんだな。
初めて会ったときから、これからの一生はコイツと生きていくって腹は決まってたんだ。





「うおぉーすっげェーーー」
ルフィが歓声をあげていた。
もうすぐ頂上というあたりで、その桜が見えてきたのだ。
樹齢100年を数える見事な風構えは、見るものを感動させる。
昼の桜はもちろん美しいのだが、夜桜はさらに格別だ。
月明かりだけに照らされた薄桃色の花が、深い闇の中で薄紫色に映し出される。
かすかな風でもひらひらと舞う花びらが、昼よりもなお儚げでそして化粧をほどこしたかのように艶やかだ。
静寂の中、そこだけに色と音があるかのような存在感がある。
おれが桜に見ほれていると、隣では同じように上を見上げながらルフィが言った。
「キレェだなぁーゾロー」
その顔が心の底から嬉しそうで、そして幸せそうで。
なにより、桜以上におれの意識を捕らえて離さないほどのもので。

・・・・まいったな・・・。そうとうやられてるらしい

「あぁ、綺麗だな」
おれは苦笑をもらしてから、ルフィの頭をくしゃくしゃに撫でてやった。
「うわ!なにすんだ!」
ルフィはおれを睨みつけてから、桜の下へ逃げていく。
それを追いかけて、ユキが肩から飛び降りていった。




「なぁ、ゾロ。この桜、ちょっと折って持って帰ったら駄目かなー?」
おれもっと見てたいしナミやエースやみんなにもみせてやりてぇという言葉に、おれは首を振って答えた。
「桜は折られたところから雑菌が入って死んじまうからな。だからどんなにちょっとでも、絶対折ったら駄目なんだ。」
「そっかー」
残念そうにルフィはもう一度桜を見上げなおしていた。

ふと時計を見ると、丁度12時だった。
「ルフィ」
「んー?」
「18歳、おめでとう」
羽根を掴むほどの力で、やさしく抱き寄せた。
「・・・ん、そっか。・・・さんきゅー」
こつりと額をあわせて、おれはルフィに笑いかける。

「・・・あと、それに。
お前の誕生日には毎年この桜を見せに連れてきてやるから。
持って帰る必要なんかねェよ」

そしてルフィの手をとり、小さな包みを手のひらの上にのせた。
大きな黒い目がおれを映す。
「開けてみろよ」
いわれるままにルフィはリボンをほどき、箱を開けた。
中には銀色の卵形のケースが入っていて、その殻をおそるおそる開く。
そしてそれを見た後、視線をおれの顔に合わせた。

その顔は、先ほど桜を見ていたときのものよりも・・・いや、これまで見てきたどれよりも、極上のものだった。

そしてルフィはこう言った。

「死ぬまで、絶対誕生日にはこの桜を見せろよ?」

だからおれはこう言い返した。

「あァ。死んだって見せてやるよ」





小さな金の翼で飾られた、桜と同じピンクシルバーの指輪で。
小さな同居人と桜に見守られて、おれ達はこうして『誓い』を交わした。




































・・・すいません。甘いです。むしろ自ら書きながら甘い甘いと錯乱してました。
いや・・・まいった。
あ、『未来天使』のまわしものじゃないですよ(笑)
ここの天使の卵コレクションが好きなだけです。思わず使わせていただきました。
いやほんと可愛いんですよ。銀の卵に金の翼がついてるシリーズなんですが、いやー欲しい・・・(オイ)
あと、桜はゴールデンウィークが見ごろなんです。(笑)
・・・まぁこうして別の話をして、文が甘いのをごまかそうとしてるわけですがね・・・。
無理ですね(苦笑)
別の犬猫話で『猫を縛りつけるのは・・・』とかどうとかこうとかいってたゾロですが、
『要は縛らなきゃいいんだな!』と気がついたらしいです。
・・・いや・・・ほんと甘い。久々に高レベルだ(汗)
ま、なんていうか、ルフィ、誕生日おめでとう。




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