王子様と魔女・前編












その日の準備は一ヶ月前から、いいえ一ヶ月どころか半年前から密やかにおこなわれていました。
それらの仕掛けがすべて盛大に花開くその日は、麦わら王国中がお祭り騒ぎに包まれるのです。

「王子、お誕生日おめでとうございます!!」

お祝いのクラッカー代わりに大砲の花火が城からあがり上空ではじけ飛ぶ頃には、それ以上の歓声が国中からあがりました。

そうです。
今日は麦わら王国第二王子・モンキー・D・ムギワラ・ルフィの7回目の誕生日なのです。


「にしししししっ!みんなありがとぉーーー!!」

王宮の中庭にセットされたパーティ会場にて。
いつも豪勢なのですが、それの当社比2.8倍は量も見た目も豪華な食事がぱんぱかぱーんと並ぶロングテーブルの前で、王子は最高にきらきらした笑顔を閃かせます。
いつも殺人級に可愛らしい王子の笑顔ですが、今日は当社比20.3倍の悩殺スマイルです。
輝き方の格が違います。
イッツデンジャラスです。
もう君の虜です。
メロリンラブです。
幸運にもそのキュートビームの餌食になってしまった人々は、ふらふらと魂が抜けてとろけてしまいそうなほどです。
普段から側にいるので免疫ができているはずの、お付きの剣士でさえ、その余波をあびてしまったために後ろをむいて首の後ろをとんとんと叩いています。
首の後ろを叩いても鼻血は止まらないんですが、そんなことを考えている余裕はもちろんありません。
まさかこのおめでたい席でぼたぼた鼻血たらしてるわけにはいかないと、必死なのです。
しかし、一部をのぞきほとんどの者が昇天中なので、そんなことを気にする人はいないのですが。




とにかくこの日一日中は国中が飲めや歌えやのええい無礼講だぁ酒もってこーいどんがらがっしゃーん楽しいなぁあははははーんな雰囲気に包まれるのです。

つまり、超絶無防備。


いま攻め込まれたら大ピンチ!!というほどに国の守りは手薄なのです。
まぁしかし、いままでの6年間、そのようなことはありません。
なぜなら、たとえそんな状態であろうともこの国に攻め込もうなどと思う命知らずな国はないのですから。
もしのこのこと攻め入ってきたとしても、我らが王と大臣、そして宮廷騎兵隊の力があれば、まさしく飛んで火にいる夏の虫となり返り討ちにあうのがオチなのです。







「まぁまぁベンももっと飲め!!今日はルフィのたんじょーびなんだぞーーーー!!」
すでにばっちり出来上がった王が、大臣にがばがばと酒を勧めます。
その赤い髪と同じように顔を赤くした王の勢いに押されながらも、大臣は酒をたしなみます。
「だーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!楽しいなぁオイ!!おうゾロ!!てめェ飲んでるかーー?!」
ついに王は未成年であるゾロにまで酒を注ぎだしました。
大丈夫か、この王で。この国の未来が心配です。
いえいえおちゃらけているように見えても、この王は歴代でもっとも聡明な王として名高いのです。民のことを考え、揺るがぬ信念を持ち、そして常に高いところを見据えている素晴らしい名君なのです。
しかし、こうなりゃただの酔っ払いオヤジです。
どうしようもありません。
酔いが醒めるのを待つしかありません。
王子の隣で『あーん』してあげていたゾロは、仕方なく手渡されたタルそのままの酒を軽く一気飲みしました。
「おおおーーーー!やるじゃねェか、ゾロ!!」
思わず王が手を叩いて喜びました。
しかしこの剣士。15歳のくせにタル酒一気のみとは、男前です。
そしてまさしくザル。
顔色一つかえません。
「ゾロー!こんどあの肉ーーー!!」
「おう」
再びかいがいしく王子の口にエサ、もといお食事を運んでいました。



さて、このように城内でパーティが開かれているのですが、これには各国から多くのお客様をご招待しています。
アラバスタからはもちろんコブラ王をはじめビビ王女や護衛隊の面々。
王の旧友であるさすらいの暇をもてあましている剣士ミホークやアーロンパークご一行様。
コック集団バラティエの戦うコックさん、ゾロの剣術の先生、・・・などなどとにかく世界各地からいろいろなお方がルフィ王子の誕生祝いにお呼ばれしたのです。
招待状を送ったのはもちろん王なのですが、途中であまりの量だったために王がさじをなげて大臣や騎士たちに手伝ってくれるようお願いし、こうして無事多くの方々をお迎えすることができたのですが・・・・。
何せ数がハンパではありません。

「・・・招待もれがなけりゃあいいが・・・」

王以上に繊細なところまで気配りのできる大臣が、この大宴会のさなかも一人心配事を胸に秘めていました。
「おい、ベン。なーに暗ェ顔してんだ?また神経性胃炎がでるぞ。ほら、楽しくやろうぜ」
そう言って大臣の方をたたいたのは騎兵隊隊長のヤソップでした。
「ああ、そうだな」
大臣は小さく苦笑を浮かべて応じました。
取り越し苦労におわってくれりゃあいいな、と願いつつ宴の雰囲気に身をゆだねました。


しかし、大臣の予感は残念ながら的中してしまうのです。







続く

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