王子様と魔女・中編 大騒ぎの麦わら王国からひと山離れた湖のほとり。 一人の女性が佇んでいました。 絶世の美女です。 しかし今その表情を見ると、美しさよりも恐ろしさで釘漬けになります。 「・・・こっ・・・このあたしを・・・よばないなんて・・・・・・・・」 水面に魔法で映し出されている王子の誕生日パーティの様子を凝視して、彼女はわなわなと小刻みに震えていました。 その振動にあわせて周りの木々や花たちがびりびりとしています。 「シャンクスのやつ・・・・・!!」 キィィーーーと金切り声を上げて、ついに彼女の怒りが爆発しました。 「見てらっしゃい!!」 ばさりと黒い上着をはおり、はいていたサンダルを脱ぎ捨てると、彼女は颯爽と麦わら王国のほうに滑りだしていきました。 彼女が去ったその場所には、緑溢れる湖の風景ではなく、茶色い土が剥き出しになって、ちょっと濡れているクレーターが残されているだけでありました。 環境破壊はいけません。 宴もたけなわ。 王子が体形を崩すほど飲み食いしさらに遊びつかれてちょっとゾロによりかかってうとうとしてて、王宮でのパーティがこんなにおっさんくさくていいのかと思わせるほどに大人達がすっかり出来上がった、そんな頃でした。 「シャーーーンクス!!」 突然の来訪者が、いきなり大声を上げて現れたのです。 その顔、声は怒りを示しているのですが、それ以前に土台がとんでもなく素晴らしいために、その場にいた人々は目をハートにして魅入られました。 そして彼女のために王まで続く道をつくりあげます。 つっかつっかと彼女は進みました。 そして王を上斜め45度を保って見下ろしました。 「おう、アルビダ。どうしたんだ?」 王は見知った魔女に、愛想の良い笑顔を向けました。 「よくまぁそんなことがいえるねぇ。このあたしをのけものにするなんて、一体どういう了見だい?」 ひくつくこめかみを抑えながら、静かにいった言葉の音が老若男女を問わず人々を虜にします。 さきほどの王子スマイル並みの威力です。 しかし長年の付き合いの王はさすがにハート目にはならなかったようです。 逆に、言葉の意味をつかみかねて首をかしげてしまいました。 「は・・・?なにいってんだお前?」 魔女のこぶしがぷるぷると震えています。 慌てた大臣が、ハート目の人波をかきわけて王の隣にやってきました。 「・・・やっぱりあったか。しかもよりにもよってアルビダとはな・・・」 苦々しげに呟く大臣です。 王の視線が『どういうことだ』とたずねます。 「招待漏れだ。・・・こんなことになる予感はしてたがな」 「そうかぁ。というわけだ、アルビダ、悪りィ。招待状送ったつもりでいた」 「・・・・ふ、まぁいいわ・・・・」 たっぷり10秒ほど顔のレイアウトを崩して固まってから、やっと立て直してばさりと髪をかきあげながら呟いたのがこの台詞でした。 「ただし!嫌がらせはさせてもらうよ!」 王が『何っ?!』の”な”すら言えないほど、すばやく魔女は杖(金棒)を取り出すと、王子に向けて魔法の煙を発射したのです。 しかし、王子の隣には若い剣士がいました。 魔女の熟練の色香よりも、王子の笑顔に骨髄まで惚れている剣士ですから、他の人々のようにハート目でめろめろにはなっていなかったのです。 彼は全身のバネを最大活用して、煙の軌道に飛び出しました。 「おや」 「ゾロっ!!」 石鹸の泡のような煙がゾロの全身を包み込みました。 「ゾロっ!ゾロゾロっ!」 王子が慌てて駆け寄ります。 ゾロについた煙が消えた頃には、魔女もどこかに消え去っていました。 しかし、王子にとってはそんなことどうでもよかったのです。 「ゾロっ!大丈夫か?!死んだらだめだ!!」 大好きな剣士のことが心配で、さっきまでの笑顔は悲しさの雨で塗りつぶされてしまっています。 片膝をついた剣士の両肩をつかみぐいぐいと揺さぶりました。 「・・・王・・・子・・・・」 剣士はうっすらと目をあけ、ぼやける焦点を迷うことなく王子の心配げな顔に合わせます。 「・・・なんて顔してんだよ・・・」 そして、平気だよという意味をこめて、かすかに苦笑をもらしました。 「ゾロ・・・」 命に別状はなかったのですが、実はこの魔法はとんでもないものだったのです。 彼らがその効果に気がついたときは、 『ゾロじゃなくて王子が魔法にかかればよかったのに・・・!!』 と密かに思わずにはいられなかったそうです。 そしたら万事オーケイ。 むしろありがとう魔女様!です。 ええもう、当のゾロですらそう思ったそうですから。 その恐るべき効果とは・・・・ 続く |