王子様と魔女・後編 その異変に気がついたのは安心のあまりに思わず剣士に抱きついた王子でした。 「ゾロ、なんともなくてよかったー!」 いつものように剣士は小さな王子を優しく受け止めます。 「・・・あれ?」 しかしその胸板の感触がいつもと違っているような気がするのです。 厳しい訓練で鍛えられている剣士の体は、大臣や隊長には負けますが、なかなかたくましい筋肉がついているはずなのですが・・・・ 「ゾロ・・・なんか、やわい」 このとき、パーティ会場の空気が素敵に固まったといいます。 凍りついた空間をぱりんと破って、剣士の悲鳴がこだましました。 「どわぁぁぁぁっ!なんだこりゃあぁーー!」 魔女の魔法の恐るべき効果とは・・・・・・・ 「ぎゃあぁ!ゾロが女になったーー!」 まったく筆舌につくしがたいものでした。 とりあえずゾロを除いてパーティはつつがなく進められ、王子の7歳の誕生日は過ぎたのですが、やはりこのゾロをそのまま放置するわけにはいかないですから、王たちは対策会議をはじめました。 「いや、おれとしちゃぁ面白いんだが」 面白いこと好き(ましてや他人事)の王が笑いを堪えながらそんなことを言い出します。 「・・・王」 それをとなりから大臣が静かにたしなめます。 「しっかしアルビダもとんでもない魔法をかけてったよなぁ。一歩間違ってたらルフィが『姫』になっちまうところだったなー」 ・・・・・むしろそっち希望で! 密かに全会一致の意見でしたが、あえてそれを口に出すものはいませんでした。 ちなみに当の剣士はというと、王の向かいに王子と一緒に座っています。 服装はいつものとおりだし、一見かわったところはないのですが、 ・・・詳しい描写は避けますが・・・・・・・・・・・・・たぶん生物学的に女です。 「やはり、アルビダを捜して魔法をといてもらうのが一番じゃねェのか?」 やっと騎士隊長が建設的な意見を述べました。 ゾロは心の中で騎士隊長へ最上級の尊敬の眼差しをおくりました。 頼りになりますヤソップ隊長! やはりそれが一番妥当な解決法でしょう。 王国一の切れ者と評される大臣も、『そうだな、じゃあさっそくアルビダを捜そう』といいかけたところで、とんでもないことが言い出されました。 「えーー、ゾロもとにもどしちまうのかー? おれ、ゾロとけっこんしたいから、このままでいいぞー!」 この瞬間、剣士はゴンとテーブルに頭をぶつけて割り、王は飲んでいた紅茶を噴きだして虹をつくり、騎士隊長は思わずアリの眉間にビー玉をぶつけ、大臣はタバコを取り落として自分の靴を火事にしました。 そんな爆弾発言をしたのは、そうです我らが王子でした。 「・・・る、るふぃ・・・あのな・・・・」 「だってそうだろ?やっぱくにをつぐんならこどもがうめたほうがいいんだろー? でもおれ、ゾロがいいし。 このまんまなら、ゾロはこどもうめるしいっせきにちょーだな!ししし」 さすがは一国の王子。 単なるお子様ではありません。 きちんと世継ぎのことも考えているようです。 ・・・どこかでずれているような気もしますが。 「いや、ルフィ・・・。ちょっとまて。なんかお前いろいろ間違ってるぞ」 虹を消した王が、顔をふきながら口をはさみました。 「なんでだよ」 「あのな、ゾロが好きなのはわかるが、別に結婚しなくたって・・・」 「えーやだ」 「嫌とかそういうことじゃなくてよ・・・」 「あ、んじゃあ、シャンクス!おれことしのたんじょうびプレゼントはゾロがいい! このまんまで!」 ・・・・半分魂が抜けかかりながら王と王子の会話を聞いていたゾロにとって、この言葉はまさしく死の宣告、死神の大がまのような威力を持っていました。 王は説得を試みる言葉をぴたりと止めました。 そして『あー』といいながら上を見上げて、そしてそのままゾロまで視線をさまよわせます。 「なぁーシャンクスー、ほかのプレゼントいらねぇからー」 王子は膝のあたりで可愛らしく王を見つめています。 王の視線が大臣のところで一度止まりました。 矛先をむけられた大臣は、めずらしく顔を引きつらせ、言葉につまります。 そして、10秒ほど思案した結果、静かに瞼を伏せて小さく頷きました。 ・・・・・・・・王が、王子のプレゼントのお願いを断るわけはないのです。 「ゾロ。わりぃ。これから女として生きてくれ」 肩にぽむっと手をおかれて、かるーく言われた言葉に、剣士(女)は怒るよりもまず先に脱力し砕け散ったそうです。 15歳の剣士は、8年後王子と結婚しともに麦わら王国を背負って立つ立場になるようです。 「やったー!ありがとなシャンクスー!」 こうして王子は大喜びで7歳になった次の日を迎えたそうです。 めでたしめでたし 「・・・・・・はっ!! めでたくねェ!おい待て!冗談じゃねェー! おれは男に戻るからな!!」 |