・・・なんともはや。
王よりも大臣や騎士のほうが無条件でかっちょええかもしれない(汗)
ドンマイ!!王もかっちょいいということにしてください!!
いやー王子、がきんちょだから弱くていいわー。あれが子供じゃなかったら自分で熊ぶっ飛ばして終わりだろうから、みもふたもなくなります。
それに剣士も。しょせん19歳じゃないから完璧には守れないんですよ。
そこで王の出番と!!(笑)



王子様と私・後編







麦わら王国と隣国アラバスタの境にある大きな森の中。
一応迷っているはずの王子は、みずみずしい葉っぱをこんもりと茂らせたブナの木の下でぐっすりとお眠りになっていました。

「なんでこんなとこに来たのかわかんねェし、帰り道もしらねェし、ちょっと眠いし、寝る!」

首をかしげて一生懸命考えた結論がそれだったようです。
全くのんきというかどうしようもないというか・・・とにかく大物であることはまちがいありませんが、根本的な解決にはまったくたどりついてはいません。
しかし、6歳の王子はそんなこと気にもせずにくーすかぴーひょろ眠り続けていました。
そよそよと穏やかな風が吹いています。






「・・・まったくあいつときたら・・・」
頭をがしがしとかきむしりながらシャンクス王は、動物園の檻の中のオランウータンのように落ち着きなく部屋の中をうろうろしていました。
ちなみに大臣は動じることもなく優雅にコーヒーをいただいています。
「うー・・・コブラ王をほっぽりだして捜しに行くわけにもいかねぇし・・・あーどうしよーー!!」
もう少しきりきりまいする王を眺めていようかとも思いましたが、いいかげん頃合だろうと、大臣が口を開きました。
「・・・やれやれ。わかったよ」
大体、この王国の王族の引き起こす厄介事の尻拭いは、この聡明な大臣に回ってくるのです。
いつもお勤めご苦労様です。





ルフィのにおいをたどれるトナカイのチョッパーがついてきてくれたのは幸運でした。
「ゾロ!こっちのほうからルフィの匂いがする!」
「よし!いくぞ!!」
「・・あああっ!ゾロっ!そっちじゃないってばっ!!」
・・・ゾロは、さらにいえばルフィも、極度の方向音痴だったからです。
仮に運良く二人が合流できたとしても、それから城に帰れる保障は限りなくゼロに近かったでしょう。
いや、まぁ二人の強運があればなんとか帰れたかもしれませんが。
「もう、しっかりしてくれよな!」
「・・・おぅ」





ぎゅくるるるー

王子は自分のおなかの虫の声で目が覚めました。
「んー・・・はらへったなー・・・」
しょんぼりとそう呟くと、何かが目の前を掠めていきました。
「あ!!」
リスでした。しかし王子にとってはそんなことよりも、そのリスが抱えている野いちごしか目に入りませんでした。
「いちごーーー!!」
寝ぼけていることと空腹が、王子を盲目にしたといえるでしょう。
もしここに大臣がいたら『普段とかわらねェよ。単に食い意地がはってるんだ』と渋くつっこんでくれたでしょうが、あいにく大臣はアラバスタにいます。残念です。
とにかく、王子はリスを、もといリスのかかえている野いちごを追いかけました。
当然リスは恐れおののき、跳びはねるように逃げ出しました。






「あ、ゾロ!あれ見て!!ルフィだ!!」
チョッパーの声に答える代わりにゾロは駆け出しました。
ブナの木の下で眠りについている遠目にもあの可愛らしい姿。
まちがいありません。
「ル・・・!!」
ところが、名前を呼ぼうとしたとき、いきなり王子が飛び起きて一目散に走り出したのです。
一体どうしたことでしょう。二人はさっぱりわけがわかりません。
いえ、タネを明かせば王子は野いちごを追っかけて走り出しただけなのですが、二人がそんなことを知る由もありません。
びっくりしたので足がとまってしまいました。
「と、とにかく、追いかけるぞ!」
「う、うん!」
二人は再び走り出します。






「いちごーいちごーーー!!」
王子は赤いいちごしか目に入っていませんでした。
リスが慌てて走ります。王子はそれを追いかけます。
リスが木に登ったら、王子も負けじとサル顔負けのすばやさで木に登りました。
しかし、
リスがぴょいんと跳びはねました。
王子もぴょいんと跳びはねて追いすがります。
リスは木の枝に掴まりました。
ここでいちごを落っことしたのです。
当然ながらいちご目的の王子は、リスのように木の枝には掴まりませんでした。
「つっかまえたーー!!」
嬉しそうな王子は、自分がいまどんな状況にあるかまったくわかっていません。

そこはちょっとした崖でした。

ぱくりといちごをほおばって、すこし冷静になったルフィは驚きました。
自分が空に包まれていたからです。
そしてリスのように、木の枝に掴まるには少し気付くのが遅すぎました。


「うわぁぁぁー!!落っこちるーーー!!」

「ルフィ!!!!」

やっと追いついたゾロが声を張り上げ、自由落下しようとしている王子に飛びつきました。







「ルフィーー!!ゾローーー!!大丈夫かーー!!?!」
上のほうからチョッパーの声が聞こえます。
崖から落っこちたというのに、どこも痛いところはありませんでした。
王子は固く閉じていた目を恐る恐る開きます。
大好きな剣士の腕が自分を包んでくれていました。
「・・・ゾロ!!」
彼は目を閉じ、ぐったりとしていました。
あちこちから血を流しています。小さな切り傷から、酷い擦り傷まで沢山の怪我をしているのです。
もしかしたら骨が折れているところさえあるかもしれません。
王子はとんでもないことをしてしまったと青ざめました。
「ゾロっ!ゾロっ!目ェ覚ませよっ!」
半分泣きじゃくりながらゾロにしがみつきます。
しかしゾロは倒れたままでした。
「チョッパー、どうしよーー!!ゾロが動かねェよーー!!」
大慌てで叫びます。

そのとき、ルフィの背後から、獰猛な唸り声が響き渡りました。

「?!」
なんと、体長2メートルはあろうかという大きな熊が立っていたのです。
しかも普段はそれほど凶暴ではないはずの熊なのですが、ゾロが全身流血しているため、その血を見て気が立っていました。
今にも二人に飛びかからんばかりの勢いです。
大ピンチです。

王子はぎゅ・・・とゾロの腕を握り締めました。

ゾロはおれを守ってくれたんだ。
今度はおれがゾロを守らねェと!!

手の甲でぐいっと涙をぬぐって、きっと熊を睨み返してやりました。
熊は牙をむき唸り声をあげたまま、王子を睨んでいます。

王子はあまりの恐怖で、今にも逃げ出したくなるほどでした。
だんだんと真っ黒のどんぐりの瞳に涙がたまっていきます。
しかしここで逃げるわけにはいかないと、涙でかすむ目で一生懸命睨み返しました。

・・・怖いよ。助けて、シャンクス!!

こらえきれずにぽたりと涙が零れ落ちました。

「あ・・・」

ぎりぎりのラインで保たれていたものがバランスを崩します。
王子の表情から、強いものが剥がれ落ち、恐怖が見え隠れします。
それを熊が見逃すはずはありませんでした。

ひときわ高い咆哮をあげ、一気に鋭い爪のついた頑丈な腕を振り下ろしてきたのです!


「うわぁぁぁぁぁっ!!!」


王子はゾロにしがみつきました。
それでもなんとかゾロはかばおうと、盾になるようにしがみついているあたりに心意気が感じられます。




ところが、いつまでたっても爪は王子の体をえぐることはありませんでした。

さっき崖から落っこちたとき以上に恐る恐る目を開くと、

「・・・シャンクス!!」

赤い髪の青年が、熊の手首を片手でがっしりと掴み止めていました。
そしてなおも襲いかかってこようとする熊に一言・・・。

「失せろ」

底冷えするような迫力のある声と眼差しを投げつけたのです。
熊はすぐさま反応し、身をひるがえして森の奥に消えていきました。

「・・・じゃんぐす・・・」
王子は涙と鼻水でずるずるになった顔を上げました。
王は『きったねー顔!』とけらけらと笑いました。
それから、
「大丈夫だったか、ルフィ?」
と優しく王子を抱きしめました。
王子は大声を上げてなきじゃくりました。
王はよしよしと王子の頭をなでながら、満身創痍で横たわる剣士に誇らしげな視線を送ります。
「・・・ご苦労、ゾロ」









麦わら王国王宮にて。
王子、ウソップ、それから王が正座させられていました。
三人とも頭に見事なたんこぶが膨らんでいます。
「・・・なぁ、ベン。なんでおれまで・・・」
王が小さくぼやきました。
くわえタバコで三人の前に座っている大臣は、手にした杖でもう一度王の頭を叩いて二個めのたんこぶを作りました。
「相手がコブラ王だからよかったようなものの、会談の途中で退室するなど、相手によっては戦争になるぞ」
静かな物言いだったため、なんともいえない凄みがあります。
この国のトップであるはずの王も、なにもいえずにひきさがらざるを得ません。
なにせこの敏腕の大臣には迷惑をかけどおしな上、自分の配慮の行き渡らない隅々までのサポートを任せているのですから、頭が上がるはずはないのです。
「・・・すまん」

それから三人は延々5時間、大臣とヤソップのお説教をきかされたのでした。


ちなみにゾロは傷の治療をうけ、チョッパーにつきそわれて自室で眠っています。
治療にあたったくれは医師によると、
「全身大小の切り傷擦り傷、それから打撲があるが骨は折れてないみたいだし脳や内臓にも異常はないみたいだから大丈夫だろうさ、イーッヒッヒ!」
とのことです。
それを聞いて
「よかった!」
と跳びはねた王子が、もう一度大臣にガッツリやられたのはご愛嬌です。





後日、やり直された麦わら王国とアラバスタの会談の最中、アラバスタ宮殿の中でルフィ王子とアラバスタのビビ王女が鬼ごっこをしている姿がみかけられたそうです。






めでたしめでたし



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