雨の日の麦わら王国のお城。
こりずにまたこの設定をつかってしまいました。
『王子様と私』とおなじ設定。
えー、王子6歳。剣士15歳です。
・・・・・剣士、犯罪者?(爆)
いえいえ、かれは王子に忠誠を誓った騎士なのです。
ちょっと溺愛してますが(笑)



□雨と王子様







麦わら王国を包む空は今にも泣き出しそうに真っ暗でした。
おかげで王子はお外に遊びに行くのを王に止められて、つまらなさそうにごろごろしています。
「うー、暇だーー!」
窓の外の空に文句をたれても、かえってくるのは遠くで響くかみなりのくすぶるゴロゴロという音だけです。
退屈をもてあました王子は、大好きな剣士に遊んでもらうことにしました。
すうぅ・・・とむねいっぱいおなかいっぱいに息を吸い込みます。
そして城をゆるがすような大音響で、めいいっぱいに名前を呼びました。

「ゾローーーーーーー!!」

王子の声の余韻がかすんで消えてからきっかり7秒後。
慌てた靴音をリズムよくかきならして、緑頭の剣士が王子の部屋にすっとんできました。
「ルフィ、どうした?!」
ぜいぜいと肩で息をして、なにかあったのかと心配げな顔をあげる剣士に、満面の笑顔で王子は飛びつきます。
「ぞーろっ!遊んでーー!」
剣の手入れ途中だったというのに大声で呼ばれた理由がそれかい、と呆れたゾロでしたが、王子があまりにも機嫌よくじゃれついてくるので優しく頭を撫でてやりました。
まったく相変わらず王子に甘い剣士です。
しかしこんな我侭は子供の特権ですし、なにより日常茶飯事。
そして剣士はいつも海よりも深く山よりも高い愛情で王子をあしらうのです。
おかげで15という歳にもかかわらず、子供を2,3人育てぬいた父親のような風格があります。
むしろ一見シャンクス王よりも父親らしいほどです。


「へっくしょん!」
「どうした、風邪か?」
「いや、ただのくしゃみだ。それよりも、なぁ〜ベン〜、この書類めんどくせぇんだけど〜」
「・・・王。つべこべいわずに早く目を通せ。明日までに書簡で返事を出さないといけないんだ」
「ベン、やってくれよ〜」
「・・・まったく、あんたって人は・・・」




何回か稲光が瞬いた後に、大粒の水玉が空から舞い落ち始めました。
すぐにお外は雨粒が地面にぶつかる音でいっぱいになります。
「降ってきたな」
王子を肩車して城の中を散歩中のゾロは、東の塔から南の塔への渡り廊下の途中で足を止めました。
左右が大きなガラス張りの渡り廊下は、ガラスをつたって勢いよく下に流れ落ちる雨水のおかげで、まるで滝の中にいるような気分にしてくれます。
王子は無邪気に『おっもしれ〜!』と喜びました。
「この様子だと夕立で終わりそうにない雨だな」
ゾロがやれやれといった感じで呟きました。
「どうゆーことだ?」
「一晩中雨が降りっぱなしだろうな、ってことだ」
「ふーん。じゃあ、明日は晴れるかな?」
「たぶんな。これだけ降れば明日は晴れるだろうよ」
「よし、明日は外に遊びにいこうな!」
「はいはい」

そのあと南の塔の階段をおりて、城の南棟にある厨房でシェフに怒られつつつまみぐいをしたり、王の執務室にいって王と遊ぼうとして大臣につまみ出されたり・・・と、ぱたぱたと元気に遊びまわった王子でした。
もちろんゾロをひきつれて。




その晩は、ゾロの言った通りバケツをさかさまにしたような雨が降り続きました。
水の音と時々響く雷の音が王子の耳に届きます。
雷の光が瞼を閉じていても部屋を照らし出すのがわかります。
いつも元気な王子ですが、まだまだ子供なのです。
お日様の光の届かない夜はやっぱりおばけが怖いし、こんな大雨の日はまっくらな闇をうっすらと照らしてくれるお月様すら隠れてしまって恐怖は倍増なのです。

・・・寝れねェ!

びくびくと頭の上までかぶっていた布団をがばっとどけると、王子はきりっと心を決めて、愛用の枕を引っ張って部屋を出ました。
目指すはゾロの部屋です。



「ゾロっ!」
「・・・ぐぇっ!!」
ぐーすかといつものように眠りこけていたゾロは、いきなりおなかに衝撃を受けて目を覚ましました。
みると枕を抱えた王子が上にのっかっているではありませんか。
普通なら怒るところですが、そこは王子に激甘な剣士殿。
ましてや、不安げな顔をしている王子にむかって怒ることなどありえるはずもないのです。
ゾロは王子の頬に優しく手をあてました。
「一緒に寝るか?」
「うん!!」
ぎゅうっと王子はゾロの首に抱きつきました。

「おやすみ、ルフィ」
どんな怖い夜でもゾロといっしょに寝れば平気なのです。
ゾロの枕のとなりに自分の枕を並べて、あったかいゾロの腕に包まれて、王子はすやすやと心地よい眠りにつきました。
不思議と雨の音も雷の光も全然気になりませんでした。






翌日は雲ひとつない良い天気になりました。
ところどころに小さな池をつくっている地面だけが、昨日の雨の忘れ物でした。
「ゾロー!外に遊びいこーー!!」
王子は今日も元気に、剣士といっしょに楽しい一日を過ごすのでした。





ところで、王はというと。
昨夜は王子の安眠を妨害した雨音をBGMに一生懸命書類を片付けて、明け方、雨のやむ頃に眠りに着いたそうです。
「おつかれさん」
王子が元気いっぱいに城を飛び出した頃、王が蹴っ飛ばしておとした布団を、かいがいしくかけなおす大臣の姿があったそうです。
寝ないで付き合って、王が眠った後も書簡の作成でお仕事をしていた大臣こそまったくお疲れ様です。
「よし、俺も寝るかな」
こき、と首を鳴らして立ち上がった大臣は、なにげなく窓の外に目をやりました。
「お・・・」
思わず大臣に笑みがこぼれます。



「あっ!虹だっ!!」

雨が上がってしばらくたっているはずなのに、空にはうっすらと七色の光が流れていたのです。
アーチを描くちゃんとした虹ではありませんでしたが、それはとてもきれいな光のカーテンのようでした。
「すごいな!!」
王子はくるりと後ろを振り返り、ゾロを見上げました。
するとゾロはとても優しい笑顔で答えてくれました。



天気の良い日が大好きなのですが、雨もなかなかいいなと思ったりする王子なのでした。


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