Bagou
ここ最近、なにやら弟が考え事をしているようだ。
遊ぶ、食う、寝る以外にほとんど体力を使わないあの弟が、だ。
今日も今日で、なにやら困ったような難しい顔で夕飯を食べている。
もちろん食べる量や速さはかわらないが。
エースは気にはなっていたが、自分からたずねようとはしなかった。
頑固者の弟は、言いたくないことは絶対になにがあっても言わない、そのことをしっているからだ。
ほっとくのが一番なんだよな、こういうときは。
しかし今日はいつもと違った。
「なあ、エース」
エース自慢のきのこのパスタをあぐあぐと食べながら、ルフィが話し始める。
「おれさーいますげェこまってんだけどさー」
「おう、なんだ?」
めずらしく自分で解決できないことらしい。
口に物をいれてしゃべるなよ、とちゃんと注意もしながらエースはルフィの話に耳を傾けた。
ちゅるちゅるこくんっとパスタを飲み込むと、ルフィは一生懸命話し出す。
「あのなっ、おれ、いますげェ好きなやつがいるんだけどさー」
「ふーん。で?」
いきなりそんなはなしかよ、とエースはびびる。
この天真爛漫なおこちゃまが恋愛とは、おれも歳をとるはずだぜ…。
そんなことが彼の頭をよぎった。
「んーとなー、そいつ、おれのこと相手にしてくんねェんだよ。おれ、もーすっげェスキなのにさー…どうしたらわかってもらえんだろ?」
ふーむ。
エースは考え込んだ。
難しい質問だ。ヘタに答えて失敗しようもんならせっかく芽生えたルフィの気持ちがむだになってしまう。
ここは兄としてびしっとみちびいてやらねば!
「うーーーーん……どうしたらかーーーー…そうだなァ…」
「エースだったらどうする?」
「おれっ?」
エースはルフィに期待のまなざしで見つめられてさらに考え込んだ。
「うーーーん…おれならやっぱ力ずくでムリヤリ押し倒して…って、違うか。」
いかんいかん!こんなのは大失敗だ。
「そうだなー、やっぱり押して押して、あとちょっと引いて、誘って誘って誘いまくる……かな?きらわれない程度に」
無難(?)なところで答えるエース。
ルフィは少し考えて、
「あんまししつこいのはきらわれんじゃねェの?」
「そりゃそうだが、ヒトに好かれて悪い気するやつがいるか?そいつ何歳だよ?」
「んー高3だから18かな。」
「年上かよ…」
いわゆる姉さん女房ってやつか、こいつにゃそういうしっかりした女のほうがいいのかも知れないが…。
「まあいいか。18なら思春期まっさかりじゃねェか。問題ないな」
「そうかー?」
「ああ。おれだってそれであのヤローを落としたんだ。あの朴念仁のオヤジだっていけたんだ、絶対イケル。自信を持てよ」
なんだかよくわからないが説得力のある兄の言葉に、ルフィはひとつうなずいた。
「よし、わかった。やってみる」
「おお。…あ、そういやルフィ、ひとつきくけどよ、その好きなやつとおれ、どっちが好きだ?」
「はあ?うーーーん…わかんねェよ。エースは兄ちゃんで、すっげェ大好きだけどアイツとは違ェよ。たぶん、別の『好き』」
「そうか」
……本気ってことだな。
これは兄としての確認だった。
弟がほんとにレンアイに目覚めたのか、それともガキの『好き』のままなのかを。
「まあ、がんばってこい」
「おお!」
ルフィはすっかりいつものおひさまのような天使の笑顔に戻った。
…いや、あの笑顔は犯罪だろ。あんな顔みせられたら惚れないやつはいねェって。
そんなことを考えながらエースは食事の後片付けをしていた。
まあ、兄として多少寂しいものもあるが、それ以上に弟の成長を喜ばしく思う。
まだまだ、ガキにゃ違いねェが、ガキはガキなりにってことだろうな。
くくく…と笑いを漏らす。
ふと、きになったことといえば、
「…………あれ?その好きなやつって、…女…だよな?」
…まあいいか、とエースはガリガリと頭をかいた。
実際のところ、………ここはポイントであるのだが、うん、まあ、エース自体もコイビトは男なわけで。
「ゾロっ!おはよっ!」
「ゾロっ!これ教えてくれ」
「ゾロー!メシ食おー!」
「なあなあーぞろぉ〜」
「今日一緒に帰ろうな?部活終わるころにおれも仕事終わるから」
「ゾロそろそろ部活終わったかなー」
「ゾロお疲れー!」
にこにことゾロにまとわりつくルフィに、見た目うんざりと、そして内心かなり照れまくっているゾロを、サンジとナミは遠巻きに眺めながら顔を見合わせた。
「なんか…いつにもましてルフィ…すごくない?」
「ええ…あのクソ緑、よく我慢が続くものですね…おれなら自分の好きなやつにあそこまで好意を示されたら、ソッコーで押し倒しますけど…」
「それができないゾロには、あれは拷問に近いわよ…」
「いいかげん素直になりゃあいいのに…あのクソ石頭」
しみじみと話す二人など、ゾロの目にははいっていない。
今までだってかなり自分の欲求を抑えていたというのに、これほどまで側にべたべたまとわりつかれたら……。
…………やばい。
「なあぞろぉ〜」
さあ、どこまで耐えられるか、ロロノア・ゾロ!
はっきりいってこの極限の拷問(誘惑)はエースのせいだ!
恨む(感謝する)ならやつを恨むがいいさ!
「サンジくん、ゾロがどれだけ耐えられるか、賭けましょうか?」
「そうですねェ…一週間ももつかどうか…」
「案外明日とかには……ゾロってばっ!ケダモノッ!」
実際どれだけ耐えられたかは…………あの二人の秘密ってことで。
追記
「ま、私はしってるけどっ」
「ナミっ!てめえっ!!!!!!!」