Front HE Back ME ? but YOU with HE あの女が、いまこの船に乗っている 仲間にしなさいといって乗り込んだ女 ルフィは当たり前のようにそれを承諾した 信用ならないあの女 他の誰が丸め込まれようと、おれはいつでもあの女の不審な行動に対応できるように警戒はとかねェ まるでウィスキーピークのときみてェだな あのときも、たしかこんな満月の夜だったな ゾロは見張り台の上から下を見下ろした。 ロビンが甲板にいた。 そしてこちらを見上げている。 ゾロが眉間にしわをよせて睨みつけると、逆に彼女は微笑んだ。 そうしてしなやかに歩きだし、メインマストの下までやってきた。 「いい夜ね」 ロビンの髪を夜風がざわめかせた。 ゾロは底知れない彼女の瞳を真正面から受け止めた。 「なんか用か」 飾ることなど一つもしないまっすぐな声音の言葉に、ロビンは苦笑する。 「・・・少し、話をしない?」 ゾロは仕方なく甲板に下りた。 そして彼女から少し離れたところで、船べりにもたれかかる。 「そうして貴方はいつまで警戒しているのかしら」 「・・・ほっとけ」 「変な男」 「悪かったな。残念だが、あいつらほどおれは単純じゃねェからな」 そっぽを向いて不機嫌に吐きすてるこの男は、多分この船で船長の次にいろいろな意味で単純ではないかと思うのだけど、とロビンは断定しているがあえて口には出さない。 「そうね。でも船長はあっさりと了解してくれたわ」 「あいつは・・・・ああいう奴だ」 不機嫌にため息を上乗せして、ゾロは答えた。 ものごとの本質を見抜くくせに、深く考えることをしない船長。 それが長所であり、同時に短所でもある。 危なっかしいことこの上ないのだが、あの無鉄砲さが悲しいことに嫌いではなかったりするので、少なくとも最悪の事態だけは避けられるように自分が気を配っているのだ。 前だけを見据えるあの瞳の魅力が色あせることのないように。 「・・・テメェはなんでこの船にいるんだ?」 「さぁ、どうしてかしら」 「・・・よからぬことを考えてるんなら、覚悟はしておけよ。 ことを起こす前に始末してやる」 「物騒ね。でも、安心なさい。別に船長をどうこうしようとは考えてないわ」 ロビンは顔にかかる髪をすくいあげ、耳にかけた。 そして少しだけ寂しそうに遠くの海を見つめる。 「彼は、私には・・・眩しすぎるわ」 ゾロが怪訝な顔で、初めてロビンのほうを向いた。 「私は、歴史を・・・過去を見ているだけ。彼のように、前だけを・・・未来だけを見据えることなどできない」 夜が彼女の声を吸い取っていく。微かにだけゾロの耳に届いた。 「なぜ彼はあんなにも前だけを見つめていられるのかしら」 ゾロはふぅと一息つく。 「テメェの目的がなんなのか、知ったこっちゃねェがな」 がしがしと頭を掻いて面倒くさそうに言った。 「誰だって前を見て歩いてるもんじゃねェのか?じゃねェと進めねェだろうがよ」 「ふ・・・ふふ・・・あはははは・・・!!」 なんてことだこの男。 あの船長ならいざしらず、まさかこの男にこんなことを言われるとは。 ロビンは素直に可笑しく思った。 そうして笑った。 「・・・なんだよ」 面白くなさそうに、ゾロが睨みつけてくる。 なぜだか先ほどまでの迫力は欠けていた。 「ふふふ、さすがはあの船長の傍らに立って前に進んでいる男なだけあるわね」 「・・・どういう意味だよそりゃ」 「言葉通りの意味よ。どこか間違っているかしら」 「るせェよ」 ゾロは小さくぼやくと、また見張り台に上がっていった。 「・・・・そうね。きっと私も前を見て歩いていられるのね」 一人残された彼女の呟きは、今度こそ完全に夜に吸い込まれていった。 そういやウィスキーピークの満月の夜に、ビビが仲間になった こんな夜には新しい仲間ができるもんなのか 信用できないあの女 それでもルフィが認めたあの女 それなら・・・・ 「・・・やれやれ」 多分大丈夫なのだろうか・・・ あっさり信用できるほど、俺はできた人間じゃねェがな。 |