兄の過ごしたその日
「出来の悪い弟を持つと・・・・兄貴は心配なんだ」
・・・ケッ・・・。てめェこそ、心配できるほど立派な兄貴かよ・・・。
悩ましげな形のふたを持つ黒電電虫で、会話を聞いていた大佐は、思わず素敵な突っ込みをした。
この前エースに会った時に、彼の帽子のにこちゃんマークのほうに盗聴器を仕掛けておいたのである。
そこから発信される電波は、大佐御用達の黒電電虫の『黒煙くん』だけが受信できるように、波長をあわせてあった。
「次に会う時は、海賊の高みだ」
・・・その前におれが、快楽の高みに連れてってやるぜ・・・フフフフ・・・(大佐・・・変態おやぢ化)
思わず想像を膨らませてしまったので、そのあとの兄弟の会話は聞いていなかった。
不機嫌なむっつり顔が、薄笑いを浮かべているのを、たしぎは遠巻きに眺めていた。
・・・あああ・・・スモーカーさんが悦楽と恍惚の海に思いを馳せている・・・
彼女はなぜだか、電柱の陰から父にしごかれ野球に打ち込む弟をそっと見守る姉のような気分に浸る。
あ、デジカメの充電しとかなきゃ・・・
そうしてひそかにそんなことを考えるのだった。
それが一ヶ月ほど前の話・・・。
「よお、スモーカー。元気か?」
アラバスタの近くの海域で停泊していた大佐のところに、エースがひょっこりと姿を見せた。
・・・もちろん、彼の帽子のむっつりマークのほうにしかけた発信機で、大佐は彼がこちらに近づいてきていることを知っていたので、他の海兵たちには暇をだし、船から追っ払ってある。
久々に会う彼は、なぜだかすこしぼろぼろだった。
理由を聞くと、『ん、まぁ、ちょっとな・・・』と曖昧な答えが返ってきた。
「そんなことより、あんた、なんでこんなとこにいるんだ?」
「お前こそ、なぜまたこのアラバスタに来たんだ?」
質問返し。
・・・さすがは三十路(失礼)・・・自分に不都合なことをうまく切り抜ける技をみせる・・・。
・・・まさか、発信機で居場所を探知して先回りしたなど、背負う『正義』かけて、言えん・・・・!!
こっそりとコブシをにぎりしめる大佐には気がつかずに、エースはひょい、とポケットからちいさな布の袋を取り出した。
「ああ、おれはコレをルフィに届に行くところなんだ」
にっ・・・と、弟に似た笑顔を見せる。
「中身はなんだ?」
少し気になって大佐は尋ねた。
とたんにエースの笑顔がいじわるなものになる。
「しりたぁ〜〜いぃ〜〜〜?」
「・・・・・・ああ?!」
「そんなに教えて欲しい?」
大佐はここでのったら負けだ、と思い、『いや、別に・・・』とそっけなく答えた。
「ふーーーん」
エースはつまらなさそうにデッキチェアに腰掛けた。
そして、みせびらかすように話を始めた。
「コレ、すっげェんだぜ?おれも初めて見たから、多分あんたなら絶対知らないね。うん、全財産賭けてもいい」
「・・・エース・・・・」
「びっくりしたよ、コレ見たとき。」
そういって袋を少し開いて中を覗きこむ。
「すっげェ苦労したんだぜェーコレ手に入れんの!もう、なに?死ぬかと思ったってヤツ?」
「・・・エース・・・・」
「うん?なに?」
「・・・・・いいから、見せろ」
大佐は、実はすごく中身が気になっていた。
エースは余裕のポーズで、ニヤリと笑うと、
「・・・違うだろ、大佐?『見せてください』だろ?」
スモーカーは黙りこくった。
見たい。気になる。いや、しかし・・・!!
そんな心の葛藤が繰り広げられていた。
先に折れたのはエースだった。
「まったく大佐は頑固だよな。わかったよ。じゃあ、『ご奉仕』してくれたら見せてやるよ」
・・・・・・『ご奉仕』となっ!!(フォント最大な勢い)
しかし、思わず大佐が目をぎらつかせかけたとき、その言葉に反応した人物はもう一人いたのだ!
「きゃあああああああああああああああっ!!」
「あ?」
「は?」
呆然とする二人の目の前に、デジカメ片手のたしぎがひるひるぼてん・・・と落っこちてきた。
「あ・・・・」
たしぎはきまずそうに二人を眺めた。
実は彼女、大佐のたくらみに気付き、船をおりて出かけた振りをして、見張り台に潜んでいたのだった。
そして今か今かと待ち望み(なにを・・・)、待望の『ご奉仕』という言葉を聞きつけて、身を乗り出してデジカメをびしりっ!!と構えたところ、いつものように身を乗り出しすぎて落っこちてきたのだった。
かさかさとあわててマストの後ろに隠れようとした。
『眼鏡っ子、死んでもドジが治らない』
そんな格言が作れそうなくらいに見事な大技を彼女はやってのける・・・。
「はわわ・・・!!」
まず、急なダッシュのため、床の小さな隙間に足をひっかける。
そこでよろけたために眼鏡をとりおとす。
「あああ・・・眼鏡、眼鏡っ・・・!!」
近眼ぶりを素敵に発揮して、探し物を求めて腕をばたつかせる。
たまたまその腕が、ボーっとしているスモーカーにヒットする。
大佐がほんのすこしよろめく。
バランスをとろうと大佐の動かした腕が、エースがつまんでいる袋にナイスにヒットする。
「あ・・・」
きれいな弧を描いて袋が弾き飛ばされる。
そのとき、たしかに『ぼちゃん』という水音が聞こえた。
「あーーーーー!!」
急いでエースは船べりに行く。
それに続いてスモーカーも。
海面に目をこらすが、波紋すらも波にまぎれて消えていた。
「あわわわわっ!どーしよっ!」
海の中にとりにいこうにも、カナヅチ二人。
こうしてわたわたしている間にも、きっと袋は海の中を沈んでいることだろう。
「どうしてくれるんだよっ!」
「っ・・・・しらんっ!ちゃんともってないてめェが悪いんじゃねェか!」
「あんだとっ?!くそっ!スモーカー!おれを愛してるなら海に飛び込んで取って来い!」
「そんなことできるかっ!だいたいみせびらかすからだ!大事なものならしまっておけっ!」
「ちくしょう!なんだよおれを愛してねェのかっ?!」
「そういう問題かっ!このアホ男!!」
「かーーーーーっ!いわせておけばっ!」
「新しいのを用意すりゃァいいじゃねェかっ!」
「馬鹿野郎っ!そんな簡単に手に入れられるならこんなに取り乱しはしねェよっ!
あれはな、おれが鬼婆の出刃包丁と格闘して手に入れた戦利品なんだぞ!」
「知るかっ!」
男二人の不毛な口論の間も、たしぎは慌てて眼鏡をさがしていて、そして、
「あった!眼鏡っ!」
嬉しそうに眼鏡を装着した。
声をあげたのが、まずかった・・・。
二人の怒りの矛先が、のんきに眼鏡をかけているたしぎに移る!
『お前が原因だっ!!責任もって取って来いっ!!』
「きゃああああああああああああああああっ!」
両側から蹴り飛ばされ、たしぎは袋と同じ曲線を描いて海に沈められた。
結局、袋は見つからなかった・・・・。
というか、見つかっても、中身は『ピンク色の灰』・・・・。
無事である可能性は、はっきり言わなくても・・・・低かった・・・・・。
「・・・許せ・・・弟よ・・・。出来の悪い兄貴でごめん。
・・・・全部、ケムリンとあの間抜け部下が悪いんだ・・・・・・・・・・」
・・・ファンの人、ごめんなさい(素直)フィクションです。本気で。
いえ、自分もケムとか好きッス!本気ッス!・・・誰か信じて。