無意識に此処まで来てしまっていた。
今日は八月十日、忘れもしないあの人の誕生日。
・・・なんて、馬鹿だなあたし。逢えるはずもないのに。







ロマネスク







テレビを付ければそこには見知った顔。
「『過激派攘夷浪士 高杉晋助』この顔にピンときたら通報を!」
なんてまたくだらない特番がやっている。
ピンとくるも何もこの過激派テロ犯こと高杉晋助はあたしの彼氏…だったはずだ。
そう、、はっきり言い切れないのはあたし自身も
今だに自分が晋助の女なのかという問いに自信を持って答える事が出来ないからだ。
もう大分晋助の顔を見ていない気がする。
風の便りでは晋助は今、京都に居るらしい。
彼は手紙を寄越すようなマメな性格じゃないし、晋助の近況を彼自身から聞いた事はない。
怪我をしていないだろうか?また危ない事をやっていないだろうか?…そう心配しだせばキリがない。
嫌味にもニュースや瓦版で晋助の記事から最近の彼の事を知ることが多い。
そういった記事を見ると、『まだ晋助は生きている』という安心感と
さっきの心配事のひとつが当たってしまったという気持ちとが混ぜ合わさって形容出来ない気分になる。







一年前の今日。
まだ貴方はあたしの側に居て、あたしは何時も貴方の側にそれはもう金魚のフンかってくらい傍にいたっけ。
その日は珍しく外に出かけて。
―指名手配犯だってのに二人してまるで普通のカップルみたいに観覧車に乗ったりして。



「ねぇ、晋助」

「んだよ…」

「また来年もこうやって二人で居れたらいいね。で、こうやって江戸の町を一望してさ…。」

「クッ…ンなことかよ」

「何かこうやって見てるとまるで江戸が私達のモノになったみたいじゃない?」

「…ハッ、モノみてェじゃなく俺のモノにしてやるよ」

「それでこそ晋助だよ」



なんてお互い笑い合って。
お決まりみたくてっぺんでキスなんかしてみちゃったりしてさ。
その帰りは二人で手まで繋いで帰ったっけ。
晋助は相変わらず照れてそっぽ向いてたけど。
そんな姿すら愛しく思えて、まさかこんな日が来るなんて思わなかった。
貴方が『江戸を出る』って言った日、ちゃんとあたし笑えてたかな?
自分では精一杯の笑顔で『いってらっしゃい』って言ったつもりだけど、
泣きそうになる気持ちを必死に隠して。
『行かないで』なんて事、あたしには言えなかった。
ましてや『連れてって』なんて…。


今でも晋助のこと忘れるなんて出来ないのに…。


現に今日も、あの観覧車に向かってしまっている。
あんなの、あたしが一方的にした約束じゃない。
・・・寧ろあんなの約束だなんて晋助は思ってないかもしれない。
それなのにあたしはノコノコこんな処まで来ちゃって、変な期待までしちゃってる。
それでも本当に晋助が来なかった時に悲しくならない様に、
自分に一生懸命『晋助は来ない』なんて暗示してる、なんて矛盾。
日も暮れてきた・・・。










観覧車の近くのベンチに座って、手前に見える交差点を唯々眺める。
近くに見える時計台も八時を廻っているからか、周りには数名のカップル。
『やっぱり来ないか』なんて思ったら段々目の前が霞んできた。
駄目だあたし、、、晋助が居なくなってから涙脆くなったみたい。
そう思いながら視線を交差点に戻した時、あたしの目に飛び込んできたのは
忘れもしない貴方のその闇に紛れてしまうのではないかというくらい真っ黒な髪と
人目につく派手な着物、片目を覆うように巻かれた白い包帯に
その反対の瞳は鋭いくらいの眼差し。





「ッ―、、晋助!」


気付いた時には貴方に向かって走り出していた。
「よォ」なんて煙管を吹かしながらやって来る貴方に人目も気にせず抱き付いた。



「な・・・何で、、此処に?」

「バーカ、オメェーが言ったンだろーが。”来年も”ってよォ」

「でも、だって…!まさか本当に来てくれるなんて思ってなかったから…!」

「ンだよ…俺に逢いたくなんざなかったつーのかよ、は」

「ち・違くて!あたしも嬉しいよ、晋助とまた此処で今年も逢えて」

「・・・ならいいンだよ。オイ、乗ンだろ?コレ」


そう言って片手を出し先を行く貴方に頷き、『早くしろ』と急かす晋助のその手を取って観覧車へ。



逢えなかった間のお互いの話や、思い出話に花を咲かせる。
あたしの近状報告といったら仕事の話や、偶に会う桂さんや銀さんの話になっちゃうけど
そんな話でも晋助はちゃんと聞いてくれる(まぁ、桂さんや銀さんの話はアレだけど)



、こっち来いよ」

そう手招きをする晋助に従って、向かい合わせの席から晋助の隣りに移動する。

「ん、どうしたの?晋す、、」

『晋助』と言い終わらないうちに頭に手を回されて、唇に晋助の薄いソレが合わせられていた。
彼の性格を物語るように激しい口付けで、驚きながらも、舌を絡めとる晋助にあたしも舌を絡めて。
たっぷりお互いを感じ合って、そうそれは逢えなかった分を埋めるかの如く。


「はぁ、、、晋助ッ」

離れていく貴方を潤んだ目で見上げれば、晋助はいつもの如く『ククッ』と笑っていて。
十分に息を整えた後、仕返しとばかりに言ってやった。





「誕生日おめでとう」





其処には何時もより少し紅くなった晋助が居たとか・・・。







君を探して 抱きしめよう

すぐに すぐに 追いかけて

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